イタリア写真草子 ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

リハビリ外国語、伝わればいいからどう伝えるかへ

 今日も英語の授業をしに遠出しました。小学校で文法らしきものを教わらず、話すことや書くことを覚えた中学生の少女は、聴解力や読解力はある上、言わんとすることも分かるものの、There is two pen.などという文が口から出てしまうように、数に応じて、名詞の語形が変わり、動詞の活用形も変わるという、ごくごく初歩的な文法事項に、自分では気づけず、間違いを繰り返しつつも、それがなぜだか分からずにいたのです。

 数によって名詞の語形や動詞の活用形が変わるのは、イタリア語も同じで、

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たとえば皆さんご存じのカップッチーノも、1杯ならun cappuccinoですが、2杯であれば複数形を用いるため、due cappucciniになり、たとえばバールで二人連れの両方がカップッチーノを注文すると、店の人が「つまり、お二人合計でカップッチーノ2杯ということですね。」という意味で、"Due cappuccini?"と確認してくることが、たまにあります。ピザも1枚なら単数形のpizzaを用いますが、2枚以上あれば複数形になるため、たとえば3枚のピザは、tre pizzeとなります。

 母語であるイタリア語にも、名詞に単数形・複数形があるおかげで、少しずつ決まりを説明し、そのたびごとに該当文法事項について練習をさせていくと、新しい教え子は、授業が終わる1時間半後には、間違えずに言ったり書けたりするようになっていました。

 数年前、サンティアーゴ巡礼直前に、にわか勉強したわたしの「なんちゃってスペイン語」は、言わんとすることはレストランの人に伝わっても、語彙の選択や文法がおかしかったらしく、友人たちがはたでにやにや笑っておもしろがっていました。日本語の生徒のうち、独学で学んだあと、わたしが個人授業で教えることになり、今は中級の力がある大学生は、アニメや漫画、日本の友人との会話やメール交換など、大量のインプットやコミュニケーションが学習の基盤にあって、並行して日本語の文法を、主に独学で本で勉強していたために、聴解力・読解力に優れ、かなり難しいことでも言わんとすることを伝えることができるのですが、彼の作文や話し言葉を文法的な観点から見ると、大学や学校で初級日本語を教えた学生・生徒でも間違えないような初歩的な間違いが、今でもまだあります。

 第二言語学習・教育研究でよく言われるように、文法の知識なしに第二外国語(lingua seconda、L2)の世界にぽんと放り込まれると、最初は言わんとすることを伝えよう、主旨を理解しようと、些末な文法的事項には注意を払う余裕がなく、内容・意味・コミュニケーションによって目的を果たしたり問題を解決したりすることに重点が置かれ、そうして、その言語で生き延びられるだけの力がついてはじめて、きちんと文法などに注意を払い、形も重視して意思疎通を図ろうとするようになるからです。

 衣食足りて礼節を知ると言いますが、言語も、その言語が使われるのではない土地で、学校や独学で学ぶ言語、外国語(lingua straniera)と違って、その言語が話される土地で暮らしながら、学校などに長期間通うこともなく身につける場合、第二外国語として学ぶ場合には、最初は形にこだわる余裕がなく、まずは実を取り、言うことが分かる、相手に思いが伝わることに全力を注ぐ傾向があるからです。中学生の少女の場合は、英語をイタリア語で第二外国語として勉強してはいても、文法をまともに教わらぬまま、話すこと、書くこと、会話することを余儀なくされたために、なんちゃって英語が身についてしまったのではないかと思います。

 問題は、学習者がそうやって必死でサバイバル外国語を身につけるべき努力し、ようやくそこまでは到達したとき、そのpragmatic modeからsyntactic modeに、つまり内容だけではなく、きちんとした表現で伝えられるよう文法にも留意して伝えていこうという姿勢に、切り替えていけるかということです。間違いだらけでも相手に伝わりさえすれば、相手の言うことが分かりさえすればよいと、そこで安住してしまうと外国語の化石化(fossilizzazione)が起こり(過去記事、「イタリア語の化石化」参照)、以後はどんなにその言語の中で暮らし、聞いたり読んだり話したりしても、外国語力の向上にはいっさいつながらなくなってしまうからです。中学生の教え子は、中学校で文法をしっかり押さえる先生に教わるようになったことをきっかけに、日本語の生徒さんは、わたしが宿題に出した作文の添削を通して、自らの間違いや弱点に気づくことを通して、このままではいけないと、いろいろ勉強方法を工夫し、syntactic modeに移行していっています。わたしは、スペイン語は今のところは「なんちゃって」でもいいけれども、フランス語については、せっかく勉強したのにこのままさぼっていては、フランス語力が「なんちゃって」以下になりかねないので、語学検定を受ける、問題集や参考書に取り組むなど、具体的な目標を早く設定して、頑張らなければと考えています。

*追記(1月18日16:56)
 以下の記事は、昨晩寝る前に懸命に書き上げたのに、最後になって画面が凍結し、2時間以上いろいろ試みても凍結したままだったので、投稿をあきらめたものです。夜遅いので、記憶に頼りつつ、その内容を要約して投稿したのが、今回のこの記事です。ところが、この記事を投稿後、ふと気づくと、書き込み不能だった記事が、いつのまにか再び書き込みができるようになっていました。今さらなので、この記事も残したまま、もともと最初に書いた記事もご紹介します。前記事の内容に興味を持たれて、より詳しい情報を得たいという方は、以下の記事もぜひご覧ください。

- リハビリ外国語、伝わればからどう伝えるかへ(初校・詳細版)

Articolo scritto da Naoko Ishii

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by milletti_naoko | 2017-01-17 23:59 | ImparareL2 | Comments(0)