2017年 09月 12日
漢字学習に役立つオンライン無料プリント、日本語能力試験対策にも使える小学生向け教材
そうして、それは日本語能力試験対策のサイトではなく、小学生用の学習応援サイトが提供する学習教材なのです。2010年に新しい日本語能力試験に改定されて以来、各レベルの語彙や漢字、文法項目が記された出題基準が、非公開となりました。言語知識の暗記にとどまらず、日本語のコミュニケーション能力を図ることが目的なので、出題基準の公開は必ずしも適切ではないと判断したというその心は分からないではありません。そうは言っても、出題基準が分からなければ、試験対策をしようにも、荒海に羅針盤も地図もなしに放り込まれたようなものなので、かつての出題基準の古本が恐ろしい高額になってしまった昨今では、実施された試験問題や、各出版社が以前の出題基準や過去の試験問題をもとに制作しているであろう問題集や参考書を、利用することになります。
日本語能力試験の旧出題基準において、各級で目安とされていた漢字については、一覧表をまとめたものがインターネット上に存在します。ただ、その表は各級ごとに、音読み・訓読みを添えた漢字一字だけをずらりと並べた一覧であって、しかも1字に1行使っているため、各級の習得漢字を把握するために印刷するにも、授業に活用するにも、ひどく不便です。また、N2の問題集は、読解にせよ、文法にせよ、N3に比べて内容が一気に難しくなっているために、あえて難しめの問題集を選びはしたのですが、生徒さんもひどく苦労しながら勉強しています。
N3では、「日常的な場面で使われる日本語をある程度理解することができ」ればよかったのですが、N2では、「日常的な場面で使われる日本語の理解に加え、より幅広い場面で使われる日本語をある程度理解することができる」ことが要求され、日常的な場面の日本語についての理解を深めるばかりではなく、「幅広い話題について書かれた新聞や雑誌の記事・解説、平易な評論など、論旨が明快な文章を読んで、文章の内容を理解することができ」、「一般的な話題に関する読み物を読んで、話の流れや表現意図を理解することができ」なければならないのですから、確かに、学ぶべき語彙や漢字、文法項目の数が膨大になり、さらに難しくなるのは、ある意味仕方がありません。
けれども、第二外国語学習・教育の先駆者であるクラッシェンが提唱したように、学習や教育の効率がいいのは、学習者がすでに習得したことよりも、わずかに難しいことを学ぶ場合であって、学習内容は難しすぎても簡単すぎても、学習効率がひどく悪くなってしまいます。
さらに、日本語能力試験が、すべて選択肢から選んで答える試験であるがために、文法の試験対策問題集は、実際にそういう文法項目が文の中に出てきた際に、読解や聴解ができるかどうかを問うのではなく、たとえば「ぐらい・くらい」、「など・なんか・なんて」などの類義語、あるいは互いに用法が似た言葉の、微妙な違いを突くような非常にいやらしい練習問題や、そういう重箱の隅をつつくような問題への対応力を養う厄介な文法説明に、学習者が苦しむようなつくりになっていがちです。本来は、「に限らず」、「のみならず」、「ばかりか」といった、くだけた場では使わないために、これまで学習者が触れたことのなかった表現は、そういう言葉がよく使われる、まとまりのあるある程度長い文章をいくつも読み慣れることで、少しずつ学んでいくのが望ましいのですが、こういう文法用の試験対策問題集では、残念ながら、それぞれの語を使った短い例文が列挙されるという形を取りがちです。
そのため、もっと段階を追って、語彙や漢字、文法の力をつけ、さらに短文ではなく、まとまりのある論理的な文章の中で、こうしたことが学べるような教材があればと、常々思っていたのですが、ひょんなことから、まさにそれにうってつけの教材を、思いもかけぬところで発見しました。
ことの始めは、生徒さんが日本語能力試験の漢字対策として、小学校5年生が学習する漢字、185字を、ジャポニカ学習帳に、小学校学習指導要領の学年別漢字配当表に書かれた順、五十音順に、「圧」から始めて、それぞれの漢字だけを20回も30回も書いて練習していたのを目にしたことです。生徒さんが参考にしていた表には、音読みと訓読みだけが添えられた配当漢字がずらりと並んでいるだけです。確かに生徒さんは、漫画などでふりがなつきの漢字を目にする機会は多いのですが、それにしてもこれでは、それぞれの漢字を使った言葉、たとえば「圧力」や「血圧」などの熟語の読みや意味も学べず、漢字を書くだけで終わってしまいますので、ちょうど英単語表だけを見て、つづりや意味を丸覚えしようとするのと同じで、せっかく努力しても記憶に長くとどまることが期待できません。以前からイタリア語学習などの外国語学習についての記事で何度か述べていますが、人間の脳というのは、文脈や状況から切り離されたことを覚えるのは苦手で、何か意味やまとまりのある文脈や状況があってはじめて、しっかりと記憶にとどめることが可能になるようにできているからです。「うぐいす鳴くよ平安京」といった言葉が、年号を覚えるのに役に立つのは、歴史的できごとの叙述にうまく起こった年(794)を読み込んだ文のおかげで、単なる数字がそうした文の意味や状況の助けを得て、ずっと記憶しやすくなるからです。
それはさておき、現在、N2の合格を目指す生徒さんが、小学校5年生の漢字を学習するには、もっともな根拠があります。以下に、新しい日本語能力試験の認定の目安、新旧対照表(リンクはこちら)や、小学校・中学校・高等学校で学習する漢字についての学習指導要領の記載(こちらを参照のこと)をもとに、わたしが作った表をご紹介します。
各学年・学校修了までに習得するべき漢字の数と、日本語能力試験で各レベルごとに習得が目安とされる漢字の数を、対応が分かりやすいように、並べて記しています。
N2で習得の目安とされる漢字は約1000字、小学校の6年生までに 習得するべき漢字が1006字となっています。子供が、生活と学校の中で学ぶべきとされる母国語の漢字と、社会人も含む外国人の日本語学習者が学ぶとよいとされる漢字では、学ぶ漢字や学ぶべき順序が微妙に違っている可能性は大いにあります。けれども、小学校の漢字も易しいものから難しいものへと登場していると思われるため、N3に受かった生徒さんが、小5・小6の漢字の勉強を順にしていこうと考えるのも、もっともで、確かに理にかなっています。ただ、問題は、「圧圧圧圧圧…」、「移移移移移…」という不毛な漢字練習です。そう指摘すると、「日本の小学生用の漢字問題集で、何かいいものがありませんか。」と生徒さんから尋ねられ、アマゾン日本のサイトで調べてみたのですが、実際に使った人の評価が分かっても、それぞれの問題集で、漢字がどんなふうに紹介され、どんなふうな、そして、どのくらいの数の練習問題があるのかは、まったく分かりません。大学などで、基礎から学んだ若者と違って、もともと独学から入ったこの生徒さんは、知っている語彙は多く、読解力や聴解力もあり、読める漢字も多いのですが、書ける漢字は少なく、また、書ける漢字も書き順や字体がどうもいいかげんなのです。それを確認するためにも、作文をするように何度か言って、実際書きはしたのですが、日本語能力試験では、書く力が問われず、試験の日程が迫っているために、つい作文の勉強は怠りがちです。閑話休題。小学校1・2年生くらいまでの教材であれば、文字も大きく書かれ、書き順もしっかり学べるように配慮がされているはずです。わたしの生徒さんには、上記のような事情で、小学校5・6年生の漢字の勉強に当たっても、細かい部分をどう書くかが分かるように大きな字で、さらに、書き順も記した教材が望ましいのですが、果たしてアマゾン日本に見られる問題集は、そういう要望に答えているのかどうかが、サイトからでは分かりません。
そこで、ふと思いついて、ひょっとしたら日本語の入門者の生徒さん用に、ひらがなとカタカナに便利でうってつけな教材を、外国人児童用の教材を提供するサイトで見つけたように、生徒さんにうってつけの漢字学習教材が、インターネット上に見つかるかもしれないと、探して見ました。すると、ありました。リンクは、こちらです。人児童
- ちびむすドリル 小学生 - 小学5年生の漢字練習・テスト・プリント 無料ダウンロード・印刷
「小学5年生の漢字 練習プリント」では、一つひとつの漢字が大きく書かれ、書き順も分かりやすく記され、書き順に従い、上からなぞって、何度も練習できるように工夫されています。わたしは、一つの漢字のあとに、その漢字の音読みや訓読みの言葉を含む文があって、書いたり読んだりしする練習があれば理想的だと考えていたのですが、残念ながら、このサイトの上記の漢字の練習プリントには、そういう練習問題はありません。ただし、上のリンク先のページの下方には「小学5年生の漢字テスト」をダウンロードできるリンクがあり、漢字テストでは、上述の「漢字練習プリント」と同じ五十音順に漢字が取り上げられ、それぞれの漢字を使った言葉を書く練習ができるようになっています。書きだけではなく、読みもあれば理想なのですが、それはまた補充できる教材を別に見つけたいと思っています。一つずつ漢字を紹介したあと、すぐにその漢字を用いた文が並び、読みや書きを練習するという体裁を取った練習プリントも、他のサイトにはあったのですが、小学校高学年向けであるためでしょう、書き順が書かれていなかったり、上からなぞっての練習ができなかったり、プリントの字が小さすぎたりしたために、わたしが見た中では、ここでご紹介したプリントが、わたしの生徒さんの学習教材としては、最も適していると判断したのです。
このちびむすドリルの漢字練習・テスト プリントは、小学校低学年用の漢字、日本語学習者で言えば、入門者・初級者が学ぶ漢字については、さらにカラーのイラストがついて、学習や記憶を助けるように工夫されています。日本・海外で学ぶお子さんにも、日本語学習者にも役立つと思いますので、こうしたプリントがダウンロードできるリンクが並ぶページを、ここにご紹介します。
- ちびむすドリル 小学生 - 小学1年生〜6年生までの漢字
この漢字練習・テストのプリントについては、最初のページは授業でいっしょに見たものの、以後は生徒さんが自宅での学習に活用しています。
さらに、今、授業で主に使っていて、漢字や語彙・文法の力がついて、これはいいと思っているのは、次のページからダウンロードした教材です。
- ちびむすドリル 小学生 - 小学5・6年生 国語文法- 中学受験対策 【浅見先生の論理の力を鍛えるドリル・接続語編 第1部】
- ちびむすドリル 小学生 - 小学5・6年生 国語文法- 中学受験対策 【浅見先生の論理の力を鍛えるドリル・接続語編 第2部】
N2の問題集で学ぶ文法項目や語彙には、生徒さんがN3対策までではほとんど出会わなかった論理的な文章や改まった場で使われる表現が多くあります。中学受験対策と言っても、高校生に国語を教えたわたしから見ても、文の構成や展開がはっきりした、読みごたえもあるいい文章ばかりです。試験対策問題集や漢字練習では、文脈なく登場する一文の中でしか出会えない語彙や漢字、文法事項が、まとまりと筋のある、読んでいておもしろい文章の中に出てくるのもいいし、同じ語彙や漢字が繰り返し登場するため、そういう語彙や漢字を、少しずつ覚えていくにも役立ちます。何より、生徒さんが試験に合格したN3のレベルよりもやや高いレベルの文章であり、けれども学ぶことが多い文章なので、このプリントの文章を読んでいくことで、生徒さんが日本語を読む力や語彙力・漢字・文法の知識を高め、対策問題集のレベルが高くで難しい読解問題にも、余裕を持って取り組めるだけの力が、徐々につけられるのではないかと期待しています。日本人のお子さんには、接続詞を選ぶこのプリントと共に、同サイトの記述式で答える読解プリントもお勧めします。記述式も含む問題の方が、より国語の力、読む力・書く力がつくからです。ただ、わたしの生徒さんの場合は、まずはあまり触れたことのなかった論理的文章を数多く読むことを通して、文脈の中で出会う語彙・漢字・文法事項のインプットを増やし、学んでいくことが大切なのです。それぞれの文章に数個ある空欄に当てはまる適切な接続詞を選ぶという目的を持って読むため、読みも真剣になりますし、また、問題を解きながら、それまで知らなかった接続詞の使い方を学ぶこともできます。「しかしながら」や「ところが」など、一見簡単そうに見える接続詞も、硬い文章に慣れぬ生徒さんは、知らずにとまどっていました。接続詞が正しく入れられるかどうかで、文章の内容を理解できているかどうか、どこが理解できていないのか、わたしにも分かりやすく、そういう意味で、この教材はとても役に立っています。
話す力と違って、書く力や読む力は、教育がなければ、自然には身につきません。ただ、そうした力がつくように導いていくためには、目の前にいる教え子の現在の力と到達目標をしっかり把握した上で、適切な教材をうまく活用していくことが不可欠です。
小学校5・6年生を対象としているために、小学校で学ぶ漢字にはひらがながふられていないおかげで、生徒さんが音読する際に、生徒さんにもわたしにも、どの漢字を使ったどういう言葉が難しいのかが分かり、今後の学習や授業の組み立ての参考にもなります。いつか書こうと思っていた記事を、今日ようやく書ききることができました。長くなってしまいましたが、どなたかのお役に立てましたら、幸いです。
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