2018年 06月 24日
地震2年後のカステッルッチョと高原の花
とりわけ、例年6月末頃には、レンズ豆の黄色い花や、真っ赤なヒナゲシ、青いヤグルマギクなどの野の花が彩って美しいカステッルッチョの高原を、ウンブリアやローマなど、イタリア各地から、多くの観光客が訪れます、2016年の夏と秋に起こったイタリア中部地震で、この美しい村は壊滅的な被害を受け、住宅や教会、店などの建物の大半が倒壊し、村には立ち入ることさえできなくなり、ノルチャからカステッルッチョへの車道も、長い間復旧工事が続き、通行ができない状況でした。
かつてよく、花が彩る高原を愛でに、あるいは山歩きに訪ねていたそのカステッルッチョの高原を、地震1年後の昨年夏に訪ねた際も、地震の爪痕が大きく、村の復旧は皆無であるように見えたのですが、上の写真を拡大されれば見えるように、崩れ落ちた建築物は今もそのままです。外から見れば地震に耐えられたように見える建物も、内部は、2016年の最初の地震の時点でさえ、崩れ落ちて、居住不可能となったものが多いと聞いています。
冒頭の写真は、この写真と同様に、カステッルッチョの高原へと向かう道路の脇に車を停め、遠くから、光学ズームを使って撮影した写真の一部を切り取ったものです。
わたしたちが到着しようとしていたときは、高原やカステッルッチョの上には青空が広がっていたのですが、シビッリーニ山脈(Monti Sibillini)の高峰は、頂が雲に覆われていました。ヒナゲシが赤く高原を彩る様子を楽しみにして訪ねたのですが、遠方に見えるのは、レンズ豆の花が咲くレモン色の畑ばかりで、赤い色が見当たりません。
車道を通って、山の高みから高原へと下り、カステッルッチョへと向かう長い一本道の路傍に、色とりどりの野の花が咲いてきれいなので、車から降りて花を愛で、撮影しました。
インスタグラムで、今年のカステッルッチョでヒナゲシやヤグルマギクの花を撮影した写真を見ていたので、遠くからは見えなくても、村に近づけばヒナゲシの花が咲いているはずなので、村も高原も雲に覆われていない、今このときにそこまで行って写真を撮影したいと、わたしは思っていたのですが、夫は、今年はまだ、この高原ではヒナゲシは咲いていないといいます。
村が建つ丘のふもと近くには、駐車されている車やバイク、人が多く、夫は人が多いところは好まないため、一枚上の写真を撮影した辺りに車を置いたまま、この写真に見える「オレンジ色の花が咲いているところを通って、向こうの山まで歩くつもりだ。」と言って、草原の中をずんずん歩き始めました。
先月のマダニ騒ぎからようやく3週間経過し、幸い何事もなく済んだと安心していたところなので、牛の糞も見えることだし、道のない草原のただ中など歩きたくないと言ったのですが、頑固さは夫の方が上で、トレッキングコースはどれもこれもすべて歩いたことがあるし、標高の高いカステッルッチョの高原は、まだマダニが発生するには寒いと言って聞きません。そこで、仕方なく、ズボンの裾をトレッキング用の靴下の中に入れるなど、できるマダニ対策を取って、夫について歩きました。
高原のこの辺りは、例年、農作物は栽培されず、草原に牛などの動物が放牧されているばかりです。その草原を歩いて行くと、ところどころにナデシコ(garofanino)など、色とりどりの野の花が咲いています。
オレンジ色に見えたところまで、ようやくたどり着きました。一面に咲く黄色い花が小さいために、遠くからは茎の緑や下の地面と色が混ざって、オレンジ色に見えたのだと思います。
問題は、最近、雨がたくさん降ったためか、この辺りは地面が水に覆われていたことです。防水機能のある登山靴のおかげで何とか足を濡らさずに歩くことはできたものの、気をつけていないと水の深いところもあるので、注意しながら歩かなければならず、大変でした。
浅いとは言え、水に覆われた草原を、かなり長いこと歩き、ようやく乾いた地面までたどり着くと、前方に水がたまっています。雨水や雪解けの水は、この溝、Fosso del Merganiを通り、流れた先にある吸いこみ穴(Inghiottitoio)から、地下深くへと入り込んでいくのです。溝は、長さ約15km、深さはなんと20mもあるとのことです。(詳しくはこちら)
カエルがたくさんいるようで、にぎやかな鳴き声が、そこかしこから聞こえてきます。
この辺りは地面が乾いていて、ちょうど時間も午後1時半を過ぎたところだったので、敷物を広げ、昼食のパニーノを食べることにしました。パニーノは、高原に来る途中、ノルチャの城壁にある店で、購入したものです。
この辺りも、色とりどりの花が咲いていて、きれいだったのですが、北風が強く吹いていたので、撮影するのが難しかったです。
咲いた花は白いのに、濃い桃色のつぼみを持つ、手前の花がきれいです。
この頃になると、左手の空もカステッルッチョの上空も、灰色の雲に覆われてしまっていました。ペルージャの我が家を出発する前に、天気予報を確認すると、雲一つない晴天ということだったので、雨具は、敷物代わりに使っているレインコートしか持ってきていません。天気も悪く、溝に遮られて、夫が行こうと考えていた山までは行くすべがないため、昼食後は、車道に駐車した車まで、引き返すことにしました。わたしは何とか足を濡らさずに、車まで戻ることができたのですが、夫の登山靴の中には、水が入ってしまったようです。
再び車に乗り込み、カステッルッチョへと進むと、村の近くに、例年に比べて面積がかなり狭くはありますが、真っ赤なヒナゲシと青いヤグルマギクなどが、一面に咲いている場所がありました。ただ、人やバイク、車が多い上に、その頃には花の上にも、カステッルッチョの村の上にも暗い雲が広がり、いい写真は撮れそうにもありません。そのため、そのまま車で通り過ぎ、観光客でごった返している村の広場も通り過ぎて、さらに村の向こうへと進みました。
すると、村から丘を下ってしばらくしたところに、面積はごくわずかですが、ヒナゲシ(papavero)とヤグルマギク(fiordaliso)が咲いているところがあります。花の上が雲でどんよりとしてはいましたが、せっかくだからと、雲に覆われたシビッリーニ山脈を背景に撮影しました。
ここからさらに先にずっと進んだところに、給水場を起点としたトレッキングコースがあり、その給水場の近くに、数年前の今頃、自生と思われるヒナゲシなどの野の花が、それはきれいに咲いていたのを、覚えていたので、わたしはそこまで行ってみたかったのです。けれども、そのかなり手前に、高原のウンブリア州とマルケ州の州境があって、そこに進入禁止の標識があり、その州境を越えて、マルケ州側に行くことは禁じられていました。わたしは歩いてでも行ってみたいと思ったのですが、夫が歩くには遠いし、疲れたと言うので、あきらめて、そこからは元来た道を引き返すことにしました。
再び車でカステッルッチョの中心街と、ヒナゲシが咲き、人が大勢いる場所を通り過ぎてから、そのまま一本道をまっすぐ進んで、ノルチャへと山を下る前に、左折して、高原の中を通る別の道を、しばらく進んでみることにしました。
けれども、かつてはヒナゲシやヤグルマギクが咲いていた場所に、今年は花がほとんど見当たりません。高原を一度通り過ぎてから、車で引き返すその車内から、レモン色の花が咲くレンズ豆の畑(campo di lenticchie)を撮影しました。
時々、ヒナゲシやヤグルマギクが、わずかながら咲いている場所もあり、カステッルッチョの村を背景に、レンズ豆のレモン色の花が一面に広がる様子が美しいところもあったのですが、人も多く、暗雲のために、いい写真が撮れるとも思えず、撮影はしませんでした。大切な作物であるレンズ豆の畑にずかずかと中央まで入り、レンズ豆を踏みつけたり、その上に寝転がったりしている観光客も、特に北欧からと思われる外国人観光客に多く、唖然としました。例年に比べて、今年はそういう観光客が、イタリア人、外国人に限らず、ことに多いような気がして、残念です。
そこで、そのまま車で帰途につき、途中でミジャーナに寄って、聖ヨハネの水を用意するための花を摘むことにしました。
観光客の存在は、カステッルッチョやノルチャの復興に不可欠で、大切なのではありますが、地震で大きな打撃を受けながらも、村の人々が懸命に育てているレンズ豆を、花や風景を撮影したいからと言って、踏みにじることは、そのために以前よりもかけている大きな苦労や思いも、踏みにじるようなもので、あってはならないことです。カステッルッチョの風景や村を愛するのであれば、そこに暮らす人の生活や仕事、栽培する作物も大切にすることを忘れないでほしいものです。
*追記(2018年7月)
今年7月14日に再度訪ねると、カステッルッチョの高原を花が彩る様子は、かつて見たことがないほどみごとでした。記事末に、花が美しい高原を訪ねた際の記事へのリンクがあります。
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Castelluccio di Norcia, Norcia (PG) 24/6/2018
Il colore limone del campo di lenticchie,
il segno di impegno costante da parte della
popolazione gravemente colpita dai terremoti del 2016
e anche il segno di speranza.
Non si può entrare ancora nel centro di Castelluccio,
dove rimangono tuttora le macerie di case ed edifici crollati.
Sono arrivati molti turisti ad ammirare la fioritura,
ma si trovano molto meno fiori rispetto agli anni passati.
Ci siamo rattristati vedendo alcuni turisti
che camminando o stendendosi nel campo
calpestavano preziose piante delle lenticchie.
Invece, noi abbiamo camminato tra le erbe e i fiori
intorno all'Inghiottitoio, verso il fosso.
Nel Fosso dei Mergani cantano le rane.
Dopo l'inverno la natura si risveglia.
Spero che sia così anche per tutte le zone terremotate.
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- 花見のつもりが山登り、カステッルッチョ / Fiorita & cavalli, verso l'alto del monte
- 花咲く山から花満つる野へ、カステッルッチョ / Sul monte tra fiori spontanei verso l'altopiano
- 絵のように美しい花の高原を行く、カステッルッチョ / Come camminare nel dipinto impressionista
参照リンク / Riferimento web
- SibilliniWeb.it - Castelluccio di Norcia > Il suo altopiano e la fioritura
ほんとに景色が最高ですね~
お花もですが、遠くのお山がホントに美しい場所です♪
イタリアをこの時期旅していると、私もさまざまなお花にバスからの景色で出会いました(*^_^*)
赤いヒナゲシの咲いてるところを通るのですが、遠くで、車窓なので綺麗に撮影は出来ず、悔しい思いを何度もしました(笑)
ヤグルマギクや、紫のお花もたくさん咲いてる場所も有りました☆
なおこさんが撮影された一面の黄色いお花(レンズ豆?)、かなりの面積で美しいですね~♫
観光客の方でそんな残念な方達がいるとは残念です^^;
やはり、お花などは踏み荒らすことなく遠くから撮影して欲しいし、自分もそうあるべきだと思っています!
赤いひなげし、少し残念でしたが、またの機会があれば、撮影トライしてみてくださいませね~(^-^)
丘の上の街並みの風景はきっととても趣のある街だったのだろうと思われますが
煉瓦造りの建物が多い街での地震の被害はよりダメージが大きそうですね(*ノω<*)!
湿地の中を歩きながらの撮影はさぞや大変だったと思いますが、
ピンクのナデシコ、一面に咲く黄色い花の中に佇むご主人、美味しそうなパニーノ、
ヒナゲシとヤグルマギクの赤と紫のコラボ、レンズ豆の畑、と
次々に展開されるお写真を楽しく拝見させてもらいました♪
観光旅行は娯楽としてついつい浮かれがちになりやすいものなのでしょうが
それでも訪れるその土地や人々の生活を謹しんで旅を楽しんで欲しいですよネ!(。・o・。)ノ ぁぃ
イタリアも地震国ですものね。ニュースを見るたび胸を痛めてきました。
もっとも、イタリアのニュースは数年前から放映されなくなり、近隣諸国のニュースを通じてですが…
奈良は先週は久々に震度4の揺れで、比較的小さかったものの微震が続き、軽い船酔い気分です。
阪神大震災以来、大地震の夢をときどき見るんです。地震国ならではかもしれません。
花畑の美しいこと!ヨハネの水はこういう風景から生まれるのですね!
ヨーロッパの子供たちが野の花を摘んで母親に贈る、というのに憧れていた母に、
旅先のドイツで花を摘んであげましたっけ…
あの時もヒナゲシはあまりなくて、ちょうど初めの方のお写真のようでした。なつかしいです。
曇り空の下のおとなしいヒナゲシと冴えた青のヤグルマギク、野の花の素顔のようで、こちらも素敵です。
そして憧れのレンズマメ!黄色い小さい花が咲くんですね~!
寝そべればインスタ映えするでしょうが、大切な作物を荒らすのは困りますね。
わたしも5月は、ヒナゲシの写真を車を降りて撮れたらという風景を、
何度も車内から、残念に思いつつ見送りました。
次回はもっと朝早く出かけて、夫が苦手な人だかりができる前に、
ヒナゲシの近くに行けたらと考えています。
写真を楽しんでくださったようで、何よりです。
1997年の地震で崩れた建物の再建が、ようやく数年前に終わった
ウンブリアの町も多く、今はまだ特にシビッリーニ山脈の北方で
余震が続き、道路も片側通行が何箇所もあるため、時間がかかるとは思いますが、
できるだけ早く人々が安全に暮らせるよう復旧が行われることを願ってやみません。
奈良でも揺れが続いているんですね。これ以上、大きな地震で
被害や犠牲者がさらに出ることがありませんように。
イタリア中部でも、弱くなる傾向にありつつも、余震がまだ続いています。
聖ヨハネの草と呼ばれるセントジョンズワート、セイヨウオトギリの花も
ちょうど夏至の頃が花盛りで、最近はあちこちの山や道路沿いに見かけます。
お母さま、そういう憧れを持たれていたんですね。
snowdrop-momoさんが摘んで贈られた花を、喜ばれたことでしょう。
レンズ豆は車内からしか今回は撮影できていないので、花が見えないのですが、
花も草も本当に小さいんですよ。