イタリア写真草子 ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

第7号「イタリア式朝食、ラウラ・パウジーニの歌 『Fidati di me 』」

1. イタリア式朝食(colazione all’italiana)、食べ物の語彙を学ぶ

 さて、先月帰国した際、イタリア人の夫と共に京都や周辺の町を訪ねてまわったのですが、ホテルで朝ごはんを食べたのは初日だけで、あとは自分たちで近所のコンビニやスーパーで調達していました。なぜでしょう?

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ラッツィオ州ヴィテルボのB&Bの朝食 2011/2/15


 一般に、イタリア人の朝食(colazione)は、日本のホテルで出される洋食の朝食とは違うのです。colazione dolce「甘い朝食」に慣れている夫には、毎日colazione salata「塩分を含んだ朝食」を食べることに違和感があったようです。私がお義母さんに「今朝は、ごはんと味噌汁、卵焼きを食べました。」と言うと、“Hai fatto pranzo!”「昼ごはんを食べたのね」という答えが返ってくるのも、同じく「朝食は甘いもの」という認識が根づいているからでしょう。では、イタリア人は具体的にどんな朝食をとっているのでしょうか。朝食を抜かさないように訴えているオンライン記事から引用してみます。

引用元記事へのリンクは、以下のとおりです。
Di Lei - Se tenete a linea e salute, non saltate la colazione!

Il 93% di chi fa colazione la consuma nella cucina di casa e sceglie prevalentemente una bevanda calda, un prodotto da forno e qualche volta un frutto. Da Nord a Sud i gusti sono simili: si mangiano biscotti, torte, brioche e marmellata.

まず、最初に大意を読み取る努力をしてください。その後で、イタリア人が朝食として飲むもの、食べるものにあたる言葉を書き写してみてください。

最初の文は、イタリア人の朝食の取り方の概要を述べています。訳してみますと、

「朝食をとる人の93%が自宅の台所で朝食を取っており、もっぱら温かい飲み物とオーブンで焼いた製品を(朝食に)選ぶが、時には果物も選んでいる。」

cucinaが「料理」の意味だとご存じの方は多いと思います。例えば、cucina italianaはイタリア料理で、cucina giapponeseは日本料理ですが、この単語には「料理をする場所」の意味もありますので、家の「台所」やレストランの「厨房」も、イタリア語ではcucinaです。この文では動詞としてconsumareを使っていますが、ふだん「消費する」とか「使い切る」という意味で使われるこの言葉には(例えば「消費者」はconsumatore)、mangiare o bere(食べる、または、飲む)という意味もあり(伊伊辞典、『Lo Zingarelli』https://amzn.to/2NRNXn8 )、ここではこの意味で用いられています。ちなみにla consumaとあるのは、consumaという動詞の目的語であるcolazioneが直前にあるため、もう一度同じ単語を繰り返すのを避けて、代名詞laで置き換えているからです。fornoもよく使われる単語で、オーブン、かまど、パン屋など、さまざまな意味があります。scegliereには「選ぶ」の外に「好む」の意味もあり、この文では後者の意味で使われていると考えることもできます。

では、実際に何を食べているのが具体的に見てみましょう。和訳を続けます。

「北から南まで、好みは似通っている。人々は、(朝食として)ビスケットやケーキ、ブリオシュやジャムを口にしている。」

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アブルッツォ州カラマーニコ・テルメのホテルの朝食 2015/6/16

朝食に登場する単語を整理してみましょう。biscottoはビスケット、tortaはケーキ、briocheはクロワッサンで、中にジャムやクリームが入っているものを好む人もいます。briocheはフランス語から来た外来語ですが、イタリア語では、動物の角(corno)に形が似ているため、cornettoとも言います。家庭では、朝食にパン(pane)を食べる人も多く、そのときパンにつけるのは、burro(バター)、marmellata(ジャム)などです。うちの夫はcrema di cacao(チョコレート・クリーム)が大好きです。イタリアで有名で子供たちにも大人気なのはNutellaですが、夫はカカオの割合の多く、良質の油を用い、食品添加物が少ないものを選んであちこちで買ってきては、食べ比べしています。この記事にはありませんが、cereali(シリアル)を食べる人もかなりいます。健康のためなど理由はさまざまでしょうが、スーパーに行くと、これでもかというくらい、たくさんの種類のシリアルが売られています。ヨーグルト(yogurt)を食べる人も多いようで、イタリアでホテルやagriturismoに泊まると、朝食としてパンと一緒に食卓に並べてある場合がほとんどです。

 記事に興味のある方は、ぜひ全文を読んでみてください。
・Di Lei - Se tenete a linea e salute, non saltate la colazione!

 ただし、この記事ではcolazione dolceに軍配を上げていますが、私自身は、日本の伝統的な朝食の方かずっと健康的だと考えています。イタリアに長い間留学をされる方は、要注意。毎朝、バールでクリーム入りのブリオシュ(cornetto con la crema)を食べて、 砂糖(zucchero) をたっぷり入れたcappuccinoを飲んだりしていたら、脂肪や糖分を取りすぎて、気づかないうちに体重がどんどん増えてしまいます。

 逆に、お勧めなのは果物や野菜のフレッシュ・ジュースで、記事でもその効用が述べられています。興味のある上級者の方は、以下のリンクからどうぞ。タイトルは“Belle con la frutta”‐果物を摂取して美しく(なろう)です。
(*2019年3月: 現在はリンク先に記事が見つからないため、リンクは削除しましたが、文はそのまま残してあります。)



2. ラウラ・パウジーニの歌、『Fidati di me 』

 職場でも家族でも、人間関係で行き詰まったり、何かがうまく行かなくて夢をあきらめそうになったり、自分が嫌になったりという経験は、多くの方がお持ちのことと思います。私の場合、そういう時は、幸いなことに、助言や励ましをくれる温かい友人や同僚、家族に恵まれ、また仏教やキリスト教、哲学などの本から示唆を得ることが多いのですが、永井真理子などの人生への応援歌のような歌を何度も聴いて、自分を自分で勇気づけたりもしています。

 次にご紹介するラウラ・パウジーニ(Laura Pausini)の歌、『Fidati di me』の歌詞は、ラウラ自身によって書かれたものです。「他人に何と言われようと、くじけないで。自分のやり方や自分の在り方に自信を持って」という聴き手への熱い思いが、歌詞からも力強いメロディーや歌いぶりからも伝わってきます。この歌は、次のYou tubeのサイトで視聴できます。


 さて、映像の前半で何と歌われているのか、歌詞を見てみましょう。

"Quando ti diranno che tutto fa schifo
e che una via d'uscita non c'e
che di questa vita non puoi fare il tifo
quando smetterai di chiederti perché"

 まず最初は、何もかもうまく行かないとき、どんな精神的状況に陥るかを具体的に歌い上げています。fare schifoは、自分にとって何か嫌で仕方がないことやものがあるときに、その物事を主語にして使う表現です。私たちの姪っ子が時々嫌いな食べ物があるときに “Fa schifo!”と言っては両親にお目玉を食らっていますが、これは、この表現が品のよくないものである上に、食事を準備した祖母に対して失礼だからです。さて、この部分の訳は次のようになります。

「(人々が)あなたに、何もかも嫌になることばかりだ、
 逃げ道(解決策)などない、
 この人生に熱狂的声援など送れないと言うとき、
 あなたが、なぜだろうと自問するのをやめてしまいそうになるとき、」

 イタリアに労働者としてやってきた移民がイタリアに住んで働きながらイタリア語を学んでいく場合に、真っ先に使い始める接続詞がこの歌詞の中に二つあります。整理しておきましょう。quandoは「~とき」という意味で、時を表す従属節を導き、英語のwhenにあたります。perchéは「なぜなら~」という意味で、理由を表す従属節を導きます。3度登場するcheは発話の内容を引用するとき(つまり間接話法において)引用する発言の前に来る表現で、日本語で「…と言った」というときの「と」にあたります。puoi(不定詞はpotere)やsmetterai(不定詞はsmettere)という表現から、聴き手に対して、Leiではなくtuを用いて呼びかけていること、つまり自分にとって近い、親しい存在として語りかけていることが分かります。「私にもそういう時があった。私もあなたの仲間」というわけです。

 主節の動詞にはdiranno, smetteraiという直説法の未来形が使われているのは、もし「こういう状況になったら」という陥る可能性の高い状況を想定しているからでしょう。では、「こういう状況になったら、どうせよ」と歌っているのでしょうか。

"non credere che non ci sia
un'altra strada in fondo a questa bugia
non credere che non verrà
una canzone a dirti la verità"

 tuで呼びかける相手に対して「~しないで」と禁止の命令をするときには、ここにあるようにnon+不定詞の形を取ります。Non credereですから、「信じてはいけない。信じちゃだめ。」と歌っているわけですが、信じてはいけない内容は、cheのあとに説明されています。訳を試みてみますと、

「こういう嘘(で一杯の世の中)の奥に、
 ほかの道など存在しないなんて信じないで。
 あなたに真実を語る歌が現れることなどない
 なんて信じないで。」

 このあと、応援の口調は一気に力強くなります。歌のリズムも歌詞、歌いぶりもまたしかり。

"fidati di me
ho sbagliato anch'io
quando per paura non ho fatto a modo mio
fidati di me
non buttarti via
anche se il regalo di un miracolo non c’e
almeno fidati di me"

「私(の言葉)を信じて。
 私も間違えたことがあるの、
 自信がなくて自分のやり方を貫かなかったとき。
 私(の言葉)を信じて。
 たいした価値のないことや人のために
 あなたの能力や熱意を無駄にしないで。
 たとえ、奇跡が贈られることがなくても
 せめて私(の言葉)を信じて。」

 per pauraは直訳すると「恐れ・不安のために」ですが、ここでは後続の文を考えて、「(自分のやり方で試みて)失敗することを恐れて」と解釈したのでこう訳しました。fidatiはverbo ‘fidarsi’(信用する)のtuに対する命令形です。

 この歌はラウラ・パウジーニのアルバム、『Tra te e il mare』に収録されています。アルバムには外にもいい歌がたくさんあります。上記の歌でも分かるように、一言一言はっきり発音して歌い上げているので、彼女の歌を繰り返し聞き、アルバムについている歌詞を読んで勉強し、一緒に歌ってみれば、聞き取り・発音・語彙などすべての点において非常によい勉強になります。実力のある歌手として、イタリアのみならず海外でも人気の高い歌手です。興味のある方はぜひ購入してみてください。イタリア語の発音をモノにするには、ラウラ・パウジーニの歌一曲を、歌詞を目で確認しながら何度も何度も聞く方が、カタカナ表記を頼りにイタリア語の発音のきまりを覚えるよりもよっぽど有益で、何より(ことわざの逆をいって)百利あって一害なしです。


ラウラ・パウジーニ 『Tra te e il mare』 (アマゾン日本)
Laura Pausini “Tra te e il mare” (アマゾンイタリア)
(上記いずれのページでも、アルバムの全曲の視聴が可能です。)




3. 学生の質問

 ペルージャ外国人大学で日本語・日本文学を教えていると、イタリアや世界の様々な国から来た学生たちから、思いもかけない質問を受けることがよくあります。

 先週の授業中に、『古今集』の和歌を説明し、秋の「虫の声」から話が脱線して、犬・猫などの鳴き声を日本語でなんというか披露していたら、東京で働いた経験のあるイタリア人学生から質問がありました。

 「東京のあちこちで、猫(gatto)のマスコットや絵を見かけることが多かったんです。猫は東京のマスコットなんですよね?」

 それから、同じく先週の授業で平安時代の女流日記を扱っていたときに、「どんな女性が平安時代に美人とみなされていたか」を話していたときに、女学生たちから集団でされた質問ですが、

 「日本人男性って、金髪の女性が好きだって聞いたんですが、本当ですか?」

 私が日本に暮らしていた2002年までの間にはそういう傾向はなかったように思いますし、最初の質問にしても、ひょっとすると東京都全体ではなく都内のどこかの区か市が猫をマスコットに使っている可能性があるとは思うのですが。どなか読者の方で、上記の質問に対して確信を持って答えられる方がいらっしゃれば、教えていただけると幸いです。

 では、また。イタリアでは復活祭(Pasqua)の休暇が終わって間もないのですが、日本ではゴールデンウィークの直前ですよね。よい休暇をお過ごしください。

*2019年5月追記: ヤフージオシティーズのサービス終了のため、現在、このブログにバックナンバーを少しずつ移動中です。詳しくは第119号の二つ目の記事をご覧ください。

Articolo scritto da Naoko Ishii

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Commented by accaesse at 2019-03-09 12:29 x
ラウラ・パウジーニ!!
イタリア語を熱心に勉強していた頃によく聴きました。
元気をくれる歌が好きでしたが、辛い時に聴いていたのは「Anna dimmi si」です。
まるで私に言ってくれているようで、とても慰められました。
懐かしい名前!書いてくださって嬉しかったです
Commented by milletti_naoko at 2019-03-10 05:52
accaesseさん、以前によく歌を聞かれたんですね!
わたしは、ラウラ・パウジーニのアルバムは、日本で『Laura』、
イタリアで『Tra te e il mare』を買って、何度も何度も聞いたのですが、
おっしゃる歌は存じませんでした。ぜひ今度聞いてみますね。
どういたしまして。イタリアでは数か月前にテレビ出演して
歌っていたのを見たばかりですが、わたしもあのとき、
久しぶりに歌を聞きました。
by milletti_naoko | 2009-04-27 12:00 | Lingua Italiana | Comments(2)