イタリア写真草子 ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

イタリア語学習メルマガ 第8号(3) 「イタリア語学習におすすめの教材(入門者編)2」

2. イタリア語学習におすすめの教材(入門者編)2 (おすすめの教材(入門者編)1の続きです。)

 私には「外国を旅行するときは、少しでもその国の言葉が話せるようにしたい」という信条のようなものがあって、そのため、ポルトガルやギリシャを旅行したときにも直前の1、2か月ほど、ポルトガル語とギリシャ語を学習しました。その際に、各課がまとまった会話を中心として構成されていて、CDがついており、文法の説明も深入りしすぎない程度だけれど一通りあり、若干の練習問題もあるものを選びました。本は1冊だけ、けれどそれだけをしっかり勉強し、(ギリシャ語についてはLonely Planetのイタリア語版の、ギリシャ旅行会話の本も買いました。)CD1枚を、教科書を見て確認しながら、料理しながら、そしてアイロンをかけながらと夫にあきれられるくらい毎日何度も何度も繰り返して聞きました。

イタリア語学習メルマガ 第8号(3) 「イタリア語学習におすすめの教材(入門者編)2」_f0234936_6233040.jpg
サントリーニ島から見えた美しい夕景、ギリシャ  2008/10/1

 それだけでも、たとえば料理を注文したり、ホテルで「部屋を予約したのですが」と告げたりすることが、ギリシャ語やポルトガル語でできました。ただし、「聞くだけで話せるようになる」という教材には注意してください。何度も繰り返し聞いた言葉をそのまま口にすることを「話す」というのなら、「話せるようになる」のはそう難しくありません。ただし、会話をすすめるには、相手の言うことを理解することが大切です。たどたどとでも自国語を話そうとする外国人には、優しくじっくり話を聞いてくれる人がポルトガルでもギリシャでも多く、こちらに分かるように言葉を変えたり、ゆっくり話したりしてくれるのですが、基本的な文の構造やある程度の単語の知識、それから会話の流れや会話で使われる慣用表現を知らないと、相手の言っていることが分からないために会話になりません。そうすると、せっかく外国語を勉強しても自分の世界を広げることや人々と交流することができません。

 私は、高校の国語の教師であったために比較的母語の力もあり、英語やイタリア語で話したり理解したりするのにあまり苦労しません。ですから、ごく普通の日本人の方よりも短時間で効率よく外国語を身につけることができるのではないかと思います。それでも1~2か月の間合計100時間ほど学習書を読み、文法を学び、練習問題を解いて、その上に毎日2~3時間、繰り返しCDを何度も何度も聞いたあと、外国に出かけて、最初のうちはごく簡単なことも言うことや聞き取ることができずにとても苦労しました。ポルトガル語はイタリア語と同じく俗ラテン語が発展・変容してできた言葉であるため、文法や語彙に共通点も多く、10日くらい経ったころからバスで隣の席に座った人と会話をしたりもできるようになりました。ポルトガルでは魚の料理がおいしいのに、付けあわせとしてフライドポテトが出てくることが多く多少閉口していたのですが、旅の中ごろからは「フライドポテトの代わりにライスをいただけませんか」とポルトガル語で頼めるようになりました。ギリシャの場合は、ホテルやレストランの従業員の中に、観光客ずれしていて「時間がないから、ギリシャ語がきちんと分からず話せないなら、英語の方が手っ取り早い」という態度を取る人もたまにいましたが、基本的には、じっくりこちらのことを聞いて、こちらに分かるように話してくれる人が多かったです。ただし、ギリシャ語は単語や文法もイタリア語・英語と異なる部分が多く、少し相手の言うことが分かるまでかなりかかりましたし、内容のある話ができるまでにはいたりませんでした。

 それに引き換え、私がイタリア語をどのように勉強したかと言いますと、実は7冊近くのイタリア語の学習書を、各文法項目について、たとえば「名詞」を学ぶ際には、どの教科書も「名詞」に関する章を読んで練習問題を解いてから、次の項目に進むという形で学習し、すべての教科書の学習を終えました。ただし、高校教師の仕事にも追われていたため、自分ひとりで学習しようと思っていてもつい学習を後回しにしてしまっていたため、学習に有効期限を設けるために、ある通信教育のイタリア語の初級・中級・上級のコースを並行して受講しました。日本でイタリア語を学校で学ばなかったのは、当時愛媛県にはイタリア語を学習できる学校がなかったからです。このイタリア語の通信教育の講座については、文法について質問があればこと細かく答えてくださり、学習のペースを作っていただけたという点で感謝していますが、もし昔に立ち直ってもう1度一からイタリア語を勉強しなければいけないとしたら、上記の『ニューエクスプレス イタリア語』の学習書1冊(でも1999年に私が勉強し始めた頃にはまだ刊行されていませんでした)ともう1冊文法の参考になるCD付きの学習書を買って、一通り「イタリア語での会話がどう行われるか」と「イタリア語のしくみ(文法)」を勉強して語彙力をつけ、CDを繰り返し聞いて、耳・口・頭をイタリア語に慣らしたあとで、映画・歌・インターネット上の素材を通して、生のイタリア語にたくさん触れ、メールの交換や旅行を通してイタリアの人と言葉を交わし、簡単なものから難しいものへと、少しずつイタリア語の小説や新聞を読んでいくという形を取りたいと思います。

 ちなみに、イタリア人の友人とのメールのやりとりやイタリアの映画・歌・小説の活用は、文法の学習と並行して、実際に私がイタリア語学習のために行ったことで、イタリア語の学習のためにもイタリアという国の人や文化を知るためにも大いに役立ちましたので、もう1度学び直さなければならないとしても、再びしてみたいことです。ですから、皆さんにもぜひおすすめしたい方法です。これは、もともと、私が英語を勉強するのに大いに役立ち気に入った方法で、ですから、イタリア語の学習にも導入しました。ですから、イタリア語のみならず、あらゆる外国語の学習におすすめです。このメルマガでも、時間を見つけて、いろいろな映画をご紹介していきたいと考えています。

 さて、文法をしっかり説明した学習書も持っておきたいという方には、次の本がおすすめです。


『イタリア語のABC改訂版』《CD付》
(白水社、長神悟)

 『ニューエクスプレス』の本では答えてくれない文法についての質問に対する答えを見つけることができると思います。(ただし、「イタリア語で会話をしたい」ことを優先されるなら、文法の少々の疑問は横において、とにかく『ニューエクスプレス』の本を1冊終わらせるというのも一つの手です。実際、文法は大切ですが、日本ではまだ文法にこだわりすぎる傾向があります。

イタリア語学習メルマガ 第8号(3) 「イタリア語学習におすすめの教材(入門者編)2」_f0234936_6242733.jpg
ペルージャ外国人大学 イタリア語 A2クラスの授業参観時に取ったメモ 2008/8/11

 たとえばペルージャ外国人大学の初級クラスの授業を、教育実習のために参観したときのこと。「日本の大学でイタリア語を1年間勉強して、文法事項は近過去(passato prossimo)まで勉強して知っている」という学生さんが、この初級クラスの授業に参加して、イタリア人の先生の言うことが分からず、途方に暮れていました。これは「よく使う表現から学んでいく」という学習書の章立て・授業の進め方が日本と違うこと、日本の学生さんが、まとまりのあるイタリア語の発話を聞いた経験に乏しく、日常生活でよく使われる慣用表現や単語を知らなかったことが原因です。

 勉強のすすめかたとしては、基本的に『ニューエクスプレス イタリア語』を第1課から順に学習していき、文法の説明を読んだ後で、この『イタリア語のABC』イタリア語のABC』の該当部分の説明を読み、練習問題を解くのがいいと思います。この本にもCDが付いていますので、耳にするイタリア語の幅を広げるためにも、このCDも何度も聞いてみてください。というのはこの2冊の学習書のCDでは、吹き込んでいるイタリア人の出身地・性別・年齢などが違うため、イタリア語の多様な発音・イントネーションに触れることができるからです。

 『ニューエクスプレス イタリア語』のCDは、初めのうちは「こんなにゆっくりでいいんだろうか」と思うほど、ゆっくりとした速度で吹き込まれていますが、だんだん速度がはやくなり、最後にはふだんイタリア人が話をするのと同じくらいのスピードになっていきます。初級のうちに「イタリア人の先生」に教わるために高いお金を払うのにあまり意味がないのは、何も分からない日本人の生徒が相手では、どんなに優秀な先生もまずはゆっくりと簡単なことしか話せず説明できないからです。あるいは、もしイタリア人の先生が流暢にいろいろ話をしてきても、学習者のレベルに比べて高すぎるため、身につくものが少ないからです。ですから、日本人の入門者の方にとっては、さまざまな音声が吹き込まれていて学習書と並行して勉強でき、繰り返し聞けるCDの方が、よっぽど学習効果が高いと思います。

 最後に、言葉をものにしようと考えたら、「いい辞書を持つこと」は不可欠です。入門者の段階では、また中・上級の方でも、私個人としては、法外な授業料を払ってイタリア人講師のいる講座に通うよりも、信頼のできる伊和辞典を一つ、できれば和伊辞典と合わせて購入する方が、一生使えて重宝する宝物を手に入れられる上に、辞書を引くたびに、あるいは何となくページをめくるだけでもいい勉強になると考えますので、次の辞典をお勧めします。



『伊和中辞典 第2版』(小学館)

 小辞典は持ち運びには便利ですが、日頃特に独学で勉強される場合には物足りない点が多いと思います。動詞であれば前置詞に何を使えばいいか分からないとき、あるいは文章を書くときの参考にしたいときなどに、辞書を頼りにするわけですが、小辞典では中辞典に比べて、用例や慣用表現の数がひどく少なくなります。逆に、中辞典は、自分が疑問に思う言葉や表現があったり、自分が言いたいことをイタリア語でどう言っていいか分からないというときに、頼りになる「先生」になってくれます。紙の辞書は、辞書を引いたときに、ついでに近くにある単語の説明も一緒に読んでみたり、「植物 (pianta)」など関連する言葉がまとめて図示されたものを一覧したりすることができるので、電子辞書に比べて、学習効果も高いと思います。電子辞書の方が早く引けて便利と思われるかもしれませんが、たとえば紙の辞書で、1度調べた単語やその語義には赤線で印をつけるようにしておくと、2度目に同じ単語やその近くにある言葉を調べたときに、「ああ、この言葉は前に出てきたな」と分かるので、頭にも一層入りやすいはずです。それに、物事は手間をかけたほうが自分のものになりやすいのです。だから、すぐに語義が分かる電子辞書よりも、少し苦労して引く紙の辞書の方が、調べた言葉が頭に残りやすいはずです。

 では、また。楽しくイタリア語を勉強してくださいね。

(記事が長いために、エキサイトブログでは第8号をすべて一度に投稿することができないため、分割して投稿します。)

*2019年5月追記: ヤフージオシティーズのサービス終了のため、現在、このブログにバックナンバーを少しずつ移動中です。詳しくは第119号の二つ目の記事をご覧ください。


Articolo scritto da Naoko Ishii

↓ 記事がいいなと思ったら、ランキング応援のクリックをいただけると、うれしいです。
↓ Cliccate sulle icone dei 2 Blog Ranking, grazie :-)
にほんブログ村 海外生活ブログ イタリア情報へ  

by milletti_naoko | 2009-05-13 14:00 | Insegnare Giapponese | Comments(0)