イタリア写真草子 ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

第9号「新聞記事を読む〜猛暑の予報と熱中症対策」 

1. 新聞記事を読む〜猛暑の予報と熱中症対策

 今週になって、いきなり気温が30度以上に上がり、この数日間、ペルージャやローマは最も暑くなる町として警報が出ていました。5月21日のイタリア有力紙、la Repubblicaの記事を見てみましょう。

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Dal sito la Repubblica.it

 
見出しは、

“Caldo record previsto per venerdì
Allarme rosso a Roma e Perugia”

「金曜日に暑さの最高記録に達するとの予測 (直訳は「金曜日に予測される暑さの最高記録」)
 ローマとペルージャに緊急警報」

 caldoは、ここでは「暑さ」という意味の名詞ですが、形容詞でもあります。たとえば、cioccolata caldaはホット・チョコレートで、冬に体を温めてくれるおいしい飲み物ですし、acqua caldaはお湯のことです。ちなみに、イタリア人の学生たちは、私が「日本では、温度が高くなるとacquaを水とは言わず、名前が変わって『湯』になります。」と言うと、びっくりします。イタリア語では水がたとえ沸騰してもacqua calda(直訳は「熱い水」)と言って、常にacquaという言葉を使うからです。逆に、私がイタリアで驚いたのは、イタリア語では「お米」も「稲」も「ごはん」も「ライス」も、すべてrisoの一語で表現されてしまうということです。考えてみると、同じ穀物が形や状態・用途を変えただけの話であって、こんなところで、日本文化にとっての「米」の重要さをつくづく感じたりもします。

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わたしの日本語の授業の板書  2017/11/23 (ブログの関連記事はこちら

record(記録、最高記録)は英語からの外来語です。イタリア語でも、日本語と同様、さまざまな英語からの借用語が使われています。allarmeは「警報」、日本でも英語から来た「アラーム」(alarm)という外来語を同じ意味で使いますよね。previstoは動詞prevedereの過去分詞で名詞 ‘caldo record’を修飾しています。prevedere は、動詞のvedere(見る)に接頭辞のpre-(前の、前に)がついてできた動詞ですから、「前もって見る」つまり「予想する、予測する」の意味になります。pre-という接頭辞は、英語でも同じ意味で多用されています。たとえばprejudice(偏見)という単語は、語源的には「実際によく知る前に、下してしまう評価や判断、または判断を下してしまうこと」という意味です。「偏見」はイタリア語でもpregiudizioでpre-を使う上に、イタリア語ではgiudizio自体が「判断、評価」という意味で使われるれっきとした単語なので、語源がより明らかです。

 鋭い方は、この見出しの2行が、どちらも述語としての動詞を持たない、名詞を骨格とした構造であることに気づかれたかと思います。このような「名詞構文」や「受動態」を使用するのは、イタリア語の新聞や雑誌の見出し文の特徴の一つです。

 記事の続きを見てみましょう。

"E’ sempre più allerta caldo in Italia, soprattutto in regioni e città del Centro. In particolare venerdì a Roma e Perugia le temperature potrebbero superare i 33 gradi."

 最も暑くなりそうなのがイタリアのどの地方か、また気温がどのくらいまで上がりそうか、お分かりになりましたか。訳してみますと、

「イタリアで、特に中部の県や町で、暑さに対する警戒がより一層強まっている。特に金曜日にはローマやペルージャで気温が33度を超える恐れがある。(直訳は「超えるかもしれない」)」

 sempre piùは「ますます、よりいっそう」、soprattuttoと in particolareは両方とも「特に、とりわけ」という意味です。soprattuttoは単語をよく見てみるとsopra + tutto(すべての上に、すべての中で特に)という語源が分かります。英語のabove allと同じ構造、同じ意味です。

 さて、イタリアの政府関係の各機関では、この季節はずれの猛暑によって健康を害する人が出てくることを危惧しています。特に心配されているのは猛暑の危害を最も被りやすい高齢者(anziani)と子供(bambini)ですが、急激な気温の変化で体調を崩す可能性があるのは若者や中年層も同じこと。この新聞記事には、特に高齢者と子供を対象とした、酷暑から身を守るための黄金律が十箇条掲げられています。その中から、日本の皆さんがイタリアに夏の暑い時期に旅行あるいは留学される際にも、注意して実行されるのが望ましいと思われるものをいくつか抜粋してみます。

“Le dieci regole d'oro. [...]: evitare l'esposizione all'aria aperta nelle ore piu calde (12-18); [...] ; bere almeno due litri di acqua al giorno e mangiare molta frutta fresca che contiene fino al 90 per cento di acqua.”

「黄金律10箇条 (中略)、最も暑い時間帯(12時から18時)に外気に当たるのを避けること、(中略)、1日に少なくとも2リットルの水を飲み、最高90パーセントまで水分を含む新鮮な果物をたくさん食べること。」

 12時から18時まで外気に触れるなというのは少々大げさに聞こえますが、これは高齢者や子供を対象にしているからです。でも、この二者に該当されない方にも、12時から16時までは外出を控えるか、もし外出されるとしても、木がたくさん植わっていたりして日陰の多いところを散歩されることをおすすめします。イタリアの日ざしは強く、真夏には気温が40度以上まで上がることもあります。旅行がうれしくて、調子に乗ってこんな時間帯に無理をしてあちこち歩き回っていると、あとで体調を崩しかねません。イタリアでは今でも商店街の店や銀行が、昼食の時間帯に閉まっている場合がほとんどですし、経験として、ホテルやB&Bのチェックインは昼の12時以降の場合が多いような気がします。ですから、この時間帯は、ホテルの部屋で休む(あるいは、その後の旅行の計画を練る)とか美術館や大型店舗で、orario continuato「昼休みなしの」ものを見つけて、その中で過ごされることをおすすめします。また、第8号の記事、「天気のイタリア語、イタリアの天気予報サイト」(リンクはこちら)でご紹介した天気予報サイトで、まめに毎日の気温の変化をチェックするようにしてください。

 その他にも、一度の食事にたくさん食べ過ぎないことなど、食事に関する注意、また衣服や日焼け対策に関する注意なども書かれています。興味がおありの方は、次のリンクから、お読みください。

la Repubblica.it - Cronaca - Caldo emergenza (2009/5/20)

*2019年3月追記: このオンライン記事中の猛暑を乗り切る黄金律十箇条をすべて日本語に訳して、次のブログ記事でご紹介しています。イタリア旅行やイタリア留学の際に、日本の夏とは異なる点も多いイタリアの夏を乗り切るために、参考にしていただければ幸いですし、イタリア語の読解ができているかどうかの確認のためにも、ご参照ください。

猛暑を乗り切る黄金律十箇条 (2015/7/20)



2. 都会と自然、日本とイタリア

 私は、父の転勤のため、小さい頃から引越を繰り返しました。15歳まで比較的都会といえる地域で育ち(横浜・札幌・東京)、その後、父の故郷である愛媛県に長い間暮らすことになりました。

 小さい頃からモンゴメリの『赤毛のアン』シリーズが好きで、何度も何度も読み返していたのですが、自然や景色の描写が長くて多いのに少々閉口していました。大学では教育学部で国語を専攻していたのですが、国語学の先生に、アンシリーズだか他の小説だかの自然描写の多さと長さが鼻につきますと言ったところ、「ああ、それは、たぶん都会で育たれたからでしょう。」と言われました。

 これはもう何年も前の話ですが、今になってその先生の言葉の意味がよく分かるような気がします。木や花の名前や川や野原の描写を読んでも、自分の中にその言葉から情景を想像できるだけの自然との十分な接触や知識がなかったために、そういう情景描写を言葉の表面だけなぞることしかできなかったのだと思います。とは言え、小さい頃の横浜の家の近くには田んぼもあってザリガニをとるのにつきあったことがあり、東京でも郊外に住んでいたので、私が中学生の頃はまだ駅前に盆踊りができる大きな広場があり、毎年夏には兵庫県の田舎に住む母方の祖父母を訪れて毎日山登りをしたりはしたのですが、やはりそれだけでは自然の中に生まれ育った人の書いた文章を読んで、自然の描写を堪能できるほどの感性を培えていなかったのだと思います。

 その後、愛媛県の中では比較的「都会」といえる松山市で高校・大学を終え、県立高校の教員となりました。「若い新規採用の教員だから」ということもあってか、最初の3年は今治市の郊外にある海の近くの高校に勤めました。そして、次の4年は愛媛県唯一の「畜産科」のある野村高校に勤務することになり、山に囲まれ、牛の鳴き声で目の覚めることもある野村町で、その後、5年間は、これも夏は田んぼの中で鳴きしきる蛙の声の絶えない内子町で教鞭を取ることになり、学校が変わるたび、私も学校の近くに居を構えて、地域の中で暮らしました。

 私が赴任した当時の野村町の商店街は夕方の6時か6時半ごろには店がすべて閉まり、日曜日は休業でした。当時は不便で困ったのですが、今は「生活する人」のリズムを壊さない人間的なシステムなのだと思います。高校の教員住宅は古く、ナメクジやムカデにお目にかかることも稀ではなく、時々見かける蜘蛛に悲鳴をあげたりしていましたが、これもそういう存在に出くわした経験が少なく、慣れていなかったからでしょう。虫嫌いと虫への恐怖は今でも克服できていません。家の中でいろんな虫に出くわすことは、自然の中で育った私の夫やお義母さんには「驚くことは何もない、ごく当たり前のこと」です。住んでいるのがイタリアなので、虫(insetto)も蜘蛛(ragno)に加えて、スズメバチ(vespa)だったり、さそり(scorpione)だったりするのですが、やっぱり育った環境が違うと、いろんな面で生活習慣やら物事の感じ方・捉え方に違いが出てくるのだと実感します。

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畑で採れたレタスを洗っていたらスズメバチが 2017/7/11 (ブログの関連記事はこちら
 

 イタリアでは、といっても仕事や地域によっても違うでしょうが、時間の流れ方が、日本よりも人に優しいような気がします。日本で言えば県庁にあたる役所に勤めている夫も、朝7時過ぎに出勤して、週に2回は午後も6時まで働きますが、他の日は午後2時に仕事を終えて、家に帰ってきます。イタリア人の給料はヨーロッパで最低という最近のニュースもありましたが、生活のリズムは、日本に比べてより人間らしいものだと思います。ただし、どこでもいいところと悪いところがあって、人が働く時間が少なく、サービスを向上させようという意識と時間も少ないためか、役場や銀行でちょっとした用事を済ませようとすると、「どこに並んでいいのか分からないがとにかく長い列に並ばなければいけない」、「係り員が尋ねた件について知らない」あるいは「人によって言うことが違う」、「サービスが悪い」などということが日常茶飯事です。二世帯住宅の我が家では時々、どこかで水道工事が必要になったり、電気の配線の工事が必要になったりすることがあります。水道屋(idraulico)が、お義父さんが電話するたびに、「(明日は、来週は)来る」と言いながら、何度も何度も電話させておいて全く顔を見せないまま2,3か月たったかと思えば、電気技師(elettricista)がきちんと仕事を1日中すれば数日で終わるところを、我が家に来て1、2時間働いては他の家に仕事をしに行き、何日か後にふいと戻ってきたりして簡単な作業が何か月経っても終わらなかったりします。バスや電車も「定期的に」遅れてくる便があり、中・長距離のバスだと決まって50分とか1時間とか遅れてくる路線もあったりして、「だったら、どうして時刻表(orario)の時間を変更しないのだろう」と不思議になります。

 日本人のきちょうめんさ・サービス精神とイタリアの生活のゆとりの、この中間をとったくらいが理想的なのではないかという気がします。もちろん、イタリア人や上記の仕事に携わる人の中にも、誠実に仕事をし、サービス精神に富む人もいます。傾向としては、イタリアではそういう傾向が強いように思われるということです。

 先の話に戻りますが、今は郊外(periferia)に住みながらも、自然に接する機会が多いこともあって、上述したような自然描写を興味深く読めるようになり、また自分で文章を書くときも、自然描写が多くなっていることに気づきました。自然(natura)を愛し、動物や植物の好きな夫といると、毎日の生活の中で、あるいは山で一緒に散歩をしながら、いろいろな花(fiore)や動物(animale)の名前やその習性を学ぶことが多いです。イタリアの家庭では、食事のあとに、テーブルクロス(tovaglia)に残ったパンくず(briciole)を庭に払い落として、鳥のえさにしてやることが多いようですが、我が家の庭でもそういうパンくずを食べに来るさまざまな鳥が美しい鳴き声を聞かせてくれます。我が家でよく見かける鳥は、ツグミ(merlo)とキジバト(tortora)です。庭にはオリーブの木が何本もあり、菜園では主にお義父さんが、家で食べる分だけのサラダ菜(insalata)、トマト(pomodoro)、ナス(melanzana)、キャベツ(cavolo)などの様々な野菜を育ています。今は、トマトやズッキーニ(zucchina、複数形はzucchine)、ナスには時期がまだ早く、菜園にある野菜はサラダ菜や青菜のbietola(フダンソウ)、carciofo(チョウセンアザミ)などです。何か野菜がほしいときはナイフ(coltello)を持って、菜園に取りにいくという毎日を過ごしています。

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畑で採ってきたばかりの新鮮な野菜たち 2012/8/31

 今、呼び鈴(campanello)が鳴ったので1階に降りたら、お義父さんがお皿に一杯の摘みたてのさくらんぼ(ciliegia、複数形は ciliegieまたは ciliege)をくれました。昨日(5月19日)サラダ菜を取りに行ったとき、桜の木(ciliegio)の下の方のサクランボはまだ黄色くて熟していないのを見たのですが、お義母さんによると、「木の上の方から実が熟していくので、木に梯子をかけててっぺんあたりの熟れたさくらんぼを収穫した」ということです。ちなみに、呼び鈴が鳴ったときに窓から外に目をやると、ツグミがサクランボの実をつついて食べていました。ツグミがさサクランボや洋ナシ(pera)が熟す前から食べ始めるため、気をつけていないと果実が大半ツグミにやられてしまうということも稀ではありません。

 では、また。次号でお会いしましょう。
当日の3時間おきの天気予報も知ることができます。この3時間ごとの天気予報には、予想気温や私たちが体で感じる気温がどのくらいか(temperatura percepita)や風(vento)の強さまで表示されているので、洗濯物を干すか干さないか、夜間の外出に傘やコートが必要かどうかなどの目安になってとても便利です。


Articolo scritto da Naoko Ishii

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by milletti_naoko | 2009-05-22 12:00 | Lingua Italiana | Comments(0)