イタリア写真草子 Fotoblog da Perugia ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

ああ羊 ひつぎと読むはイタリア少年

 12歳の少年への日本語の授業は、ひらがなの学習と並行して、あいさつやちょっとした自己紹介、会話で使える表現なども教えつつ、今日が10時間目の授業となりました。話せてうれしいという喜びと、こういうことも言えるようになったという達成感も感じながら学んでほしいと思うからでもありますが、少年のやる気や中学校の授業との両立、家庭の意向や都合などの問題から、いつ急に授業が中断するか、また、長い間休みとなるか分からないという事情があるからでもあります。

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 先週は濁音・半濁音を学習し、今週は拗音の勉強を始めました。今までに、まるごとの教科書や、ひらがな練習帳で出てきた語彙をできるだけ取り込みつつ、学習プリントを用意したのですが、「にゃ」の例はどうしたものかと、悩んだ挙句、例は「にゃあにゃあ」にして、イタリア語ではmiao(ミャーオ)だけれども、日本語では「にゃあ」と表現するんですよと言ったら、少年も母君も、興味深そうに聞いてくれました。

 先週の授業で、プリントにあった「ひつじ」を、少年が「ひつぎ」と呼んでしまいました。

 日本語のローマ字では、giは「ギ」の音を表すのに対し、イタリア語の音節、giの発音は「ジ」に近い音で、ただし唇を丸め、前に突き出して発音する音です。一方、イタリア語で「ギ」と発音する音節は、ghiと、間に-h-を入れて書きます。

 ラテン語では、子音のgは常に発音が/g/であったのに、ラテン語からイタリア語に発展・変容する過程で、gに続く母音がiやeである場合には、gの発音が日本語の「ジ」の子音に近い音に変わり、giの発音が「ギ」から「ジ」、geの発音が「ゲ」から「ジェ」に変わってしまいました。そのため、イタリア語では原則として、gi は「ジ」、geは「ジェ」と発音し、一方、「ギ」、「ゲ」という音は、gと母音の間に-h-を入れて、ghi、gheという表記で表すようになりました。イタリア語で「ジェラート」をgelato、ジェノバ(ジェーノヴァ)の地名をGenovaと書くのは、そのためです。ペルージャ外国人大学で、日本語と日本文学の授業を担当していた頃は、授業で『源氏物語』(Il Genji monogatari、Storia di Genji)も教えていたのですが、試験のときに、「ジェンジ物語」と言ってしまう学生がたまにいたのも、同じ理由からです。

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 先週の授業では、こんなプリントを用意していたのですが、「ぎ」を勉強したときに、giと書いてあるけれども発音は「ジ」じゃなくて「ギ」だから、間違わないようにしなければと、きっと少年は必死で覚えたのでしょう。その結果、頭の中で、「ぎ」と「じ」を混同してしまって、「じ」を「ぎ」と間違って読む癖がついてしまったのでしょう。先週も「ひつじ」を「ひつぎ」と読んでしまっていたので、「ひつぎは、亡くなった人の体を納めるところなので、発音を間違えないように注意しましょう。」と言っていました。それで、今日のプリントにも、確認のために「ひつじ」を入れておいたら、やはり間違えてしまいました。こういうふうに、間違えやすいところを意識しすぎて、不必要に注意しすぎて間違えてしまうことを、イタリア語でipercorrettismoと言います。辞書の語義には、「(発音などの)過剰訂正による過ち、ハイパーコレクション」とあります。

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 動物と言えば、今月初めの授業では、「犬が好きですか」と、まずは口頭で質問したのですが、そのときに、「ペットとしてですか、食べ物としてですか」という質問が返ってきました。わたしは、「日本では、犬は食べませんから、ペットなど生きた動物としての質問ですよ」と答えたのですが、確かに食べる動物は、世界各国で違ってきます。ウンブリアでは、ウサギやハトの肉を食べるのですが、ウサギの肉はかろうじて食べられるようになったわたしも、ハトだけは、今も抵抗があって食べることができません。

 少年と付き添いの母君からは、もちろん虫についても、同様の質問がありました。外国語学校でドイツ語を教える同僚である母君からは、興味深い質問が時々あります。困るのは、わたしが少年自身に考えて答えてほしいと思って、質問を投げかけたり、ヒントを出したりしているのに、彼女の方が先に答えが分かって、言ってしまうことが少なくないことです。それだけ真剣に授業を聞いていてくれているのだとは思うのですが、学習効果を考えると、やはり少年自身が答えに至るまで、待ってほしいところです。少年が、お母さんへの対抗意識から、さらに勉強に励んでくれる、そういう効果が望める可能性もありはするのですけれども。

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Basilica di Sant'Apollinare in Classe, Ravenna 28/4/2013

 記事冒頭のプリントに添えた写真は、ラベンナのサンタポッリナーレ・イン・クラッセ聖堂美しいモザイクと

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彫刻が施された石棺(sarcofago)です。

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In giapponese la parola ひつじ(hitsuji)significa 'pecora',
mentre ひつぎ(hitsugi)vuol dire 'bara, cassa da morto'.

In questi giorni il mio allievo di 12 anni confonde spesso una con l'altra,
perché l'ultima lettera di ひつじ, じ ha pronuncia simile a 'gi' di 'Parigi',
ma nei roma-ji, nel sistema di traslitterazione del giapponese in caratteri latini
'gi' indica la sillaba ぎ che ha pronuncia simile a 'ghi' di 'ghiaccio'.
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Articolo scritto da Naoko Ishii

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Commented by ayayay0003 at 2019-03-20 14:48
なおこさん、確かに、ひつじとひつぎ、日本人なら間違えようがないことでも、外国人にとってはとても難しい発音ですね!
学習意欲満々のお子様、きっと将来は笑い話になるのでしょうけど・・・
子供さんだから、お母様が付き添いというのは仕方ないにしても、お母様ももしかしたら、興味深々なのでしょうね~
なんだか微笑ましく感じた今日の記事でした♡
ラヴェンナの壁画、覚えてるので、懐かしさが込み上げてきて嬉しかったです~♡
なおこさん、綺麗にお写真撮られてますね(*^_^*)
Commented by milletti_naoko at 2019-03-20 18:51
アリスさん、同じつづりでも、ローマ字とイタリア語で発音が
違うので、混同しやすいのだと思います。ローマ字でありながら、
ローマの発音・表記とは微妙にずれているのも、おもしろいです。
お母さん、必死で聞いてくれるのはうれしいし、わたしも彼女がいると
思うと、授業の準備にさらに熱が入るのですが、気持ち的には、「語学教師」、
「母」としてではなく「生徒」として聞いているので、ついつい息子より先に
答えてしまうのでしょうね。

アリスさんもこの壁画をご覧になったんですね! 昨晩は夜の文化教養番組で
ラベンナのモザイクの美しい数々の教会も取り上げていて、興味深く見ました。
ありがとうございます。山歩き中に出会った羊の写真を載せたいと、昔の写真を
探したのですが、これという写真が見つからなかったので、羊も棺も写真がある
この聖堂の写真を使うことにしました。
by milletti_naoko | 2019-03-19 23:58 | Insegnare Giapponese | Trackback | Comments(2)