イタリア写真草子 ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

イタリア語学習メルマガ 第13号 「映画『Ex』(3)、イタリアへの旅行・留学をお考えの方へ」 

1.映画『Ex』(3)

 第12号には、教会や結婚式に関わる言葉がたくさん登場しました。そこで、そうした語彙の定着をはかるためにも、第5号第6号でご紹介していた映画『Ex』の予告編を再度見ていきましょう。予告編のリンクはこちらです。


 冒頭の場面では、第6号でも詳しくご紹介したとおり、神父のドン・ロレンツォ(Don Lorenzo) が教会で、結婚を控えた婚約者たちに、結婚について語っています。

  “Ricordatevi di una cosa: ogni divorzio inizia sempre con un matrimonio.”
  「よく覚えておくように。どんな離婚も必ず結婚で始まるものなのです。」 (「    」内は石井訳、以下同様)


 ricordareは「覚えている、覚えておく、思い出す」という意味の動詞で、他動詞として使われている場合は、覚えている対象が直説目的語になります。たとえば、私の手持ちの伊伊辞典、『Lo Zingarelli』には、次のような例文があります。

- Ricordo i giorni passati con voi.   「私はあなたたちと過ごした日々を覚えています。」
- Ricordate la promessa.       「約束を思い出してください。」

 他にも再帰動詞としてricordarsi di ~という形で、「~を覚えている、思い出す」の意味で使う場合があります。上記の映画のセリフ、“Ricordatevi di una cosa”のricordateviは、この用法です。主語がvoi(2人称複数形、あなたたち。ここでは、教会で講座に通う婚約者たち)で、動詞が命令形であるため、Ricordateviとviが動詞のあとに直接くっついた形になっています。辞書の他の用例も挙げておきます。

- Mi ricordo confusamente dei vostri amici. 「僕は君たちの友人たちをぼんやりと覚えている。」
- Mi sono ricordato del suo cognome.   「私は彼/彼女の名字を思い出した。」


 この予告編では、カトリック教会での結婚準備講座から、離婚にあたって子供の親権をめぐる裁判、自宅で娘が若者と床を共にしているのを見てうろたえる父親の姿など、現代イタリアのさまざまな問題を垣間見ることができるのですが、次は予告編の25秒目(0:25)から始まる女性二人の会話を聞いてみてください。あるカップルが教会で結婚式を挙げる予定なのですが、式を控えた女性の友人が、その教会の神父、ドン・ロレンツォが、女性のかつての恋人(ex)であることを発見して、女性に告げる場面です。まずは何と言っているのか、聞き取ろうとしてみてください。

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親戚の結婚式披露宴会場となった趣ある館。記事はこちら。 8/9/2018


  “E ti dico di sì. Il prete è Lorenzo, il tuo ex.”
  “Ed io non mi posso far sposare da lui.”

  「そうだって明言できる。神父はロレンツォ、あんたの昔の恋人よ。」
  「だったら、わたし、彼に結婚式を任せることはできないわ。」

 友人のセリフにあるlui「彼」は、自分のかつての恋人(ex)であり、今は自分が結婚式を挙げるはずの教会の神父(prete)であるドン・ロレンツォを指しています。2文目は直訳すると、「彼に私を結婚させることはできない」です。

 さて、カトリック教会では今のところ、神父が結婚することを認めていません。先日、元神父の神学者(teologo)がテレビの対談の中で、「今でも神父の職に戻れたらと思うが、妻に出会って恋に落ち、結婚することを選んだ。何世紀も前に神父の貞潔(castità)を決めることになった公会議には、妻や妾、子供のいる司教(vescovo)が何人も列席していた。」と述べ、神父でも結婚ができるように運動を続けたいと熱く語っていました。

 神父、ドン・ロレンツォは、かつての恋人と数年ぶりに再会して、ひどく動揺します。そこで、神父に未練が残っていることに気づいたアントーニオが、神に仕えるよりも自分の気持ちを大切にして、恋に身を委ねるように勧めるのですが、そのときのドン・ロレンツォの返事が、30秒後(0:30)からの映像の内容です。まずは聞き取ろうと試みてください。

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“Anto, io ho avuto la chiamata.”
“E può darsi che hanno sbagliato il numero.”

「アント、ぼくは神(天)から(神父の職につくようにと)召命を受けたんです。」
「でも、もしかして、番号を間違ったかもしれないでしょう。」

 può darsiは、単独でも「たぶん、もしかしたら」という意味で副詞的に使える便利な表現です。Lo Zingarelliにも次のような例があります。

- “Verrai?”      「(あなたも)来るでしょう?」
Può darsi!”  「たぶん。/来るかもしれない。」

 può darsi のあとに接続詞のcheに導かれる関係詞節がある場合には、文法的に正確であるためにはその節の述語の動詞は接続法(congiuntivo)を用いなければなりません。ただし、現代のくだけた会話などでは、動詞の接続法を用いるべきところで、直説法(indicativo)が用いられることがあります。

“E può darsi che hanno sbagliato il numero.”

 例えば、先のこの言葉では、関係詞節内の述語動詞が、hanno sbagliatoと直説法近過去(indicativo passato prossimo)となっていますが、文法的には厳密には、接続法過去(congiuntivo passato)を用いて、abbia sbagliatoと言うべきところです。

 こういう正規とされる標準イタリア語(italiano standard)の規則からは外れる面のある、けれども特に若者の間で急速に普及しつつあるイタリア語のことをitaliano neostandard(「新しい標準イタリア語」とでも訳せるのでしょうか)と言います。

 閑話休題。chiamataは、動詞chiamare「呼ぶ、電話する」から派生した名詞で、「呼ぶこと、電話の呼び出し」などの意味があります。ここでは、まずドン・ロレンツォが、chiamataを「神が神職につくようにと呼ぶこと」という意味で使い、アントーニオは「電話での呼び出し」とかけて解釈して、「呼んだときに、番号を間違えた可能性がありますよ(本当は別の人を呼ぼうとしていたのではないでしょうか)」と言っているのです。

 最後に1分23秒目(1:23)から始まるセリフが何と言っているか、聞き取ろうとしてみてください。離婚調停の判事が、「離婚をやめて、再び一緒に暮らすことにしました」と報告しに来た夫婦に向かって、叫んでいます。

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  "Il matrimonio, carissimi signori, è il più grande errore che un essere umano può fare sulla faccia della terra! "

  「お二人ともよく聞いておくように。結婚は人間が地上で犯しうる最大の過ちなんです!」

 判事が、自分が妻と険悪な関係に陥ってしまったために、心底感情を込めて言っているのが、表情からも言い方からも、そして大げさな身ぶりからもよく分かります。 この文でも、文法的には正しくは、先行詞に最上級が用いられているため、従属節内の述語には直説法のpuòではなく、接続法のpossaを用いるべきところですが、話し言葉ではこんなふうに直説法が使われることがあります。

 抜粋した会話だけ見ていると、とんでもない映画みたいですが、とてもいい映画ですので、機会があれば、ぜひご覧ください。

LINK
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2.イタリアへの旅行・留学をお考えの方へ

 夏が近づいてきましたので、イタリアへの旅行や留学をお考えの方も多いと思います。この夏に限らず、「いつか」と夢見ていらっしゃる方もいらっしゃることでしょう。今回から少しずつ旅行や留学の際に知っておくと便利だけれども意外と知られていない(と私のほうで推察する)ことをご紹介していきたいと思います。

 今回の主題は、「サラダの味つけは自分の手で」です。

 個人旅行や留学の場合に、地元の人あるいはイタリア人が主に訪れるようなレストラン(ristorante)や食堂(trattoria)を訪れると、おいしいものを割安の値段で楽しむことができます。健康のためにもぜひ野菜をたくさん食べることを忘れないようにしたいものですが、つけ合わせ(contorno)としてどこのレストランにもたいていあるのが野菜のサラダ(insalata)です。レストランやピザ屋(pizzeria)によっては、工夫を凝らした独特のサラダに風変わりな名前をつけているところもありますが、よく見かけるサラダのメニューは、insalata verdeとinsalata mistaです。それぞれどんなサラダか想像がつきますか。

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25/8/2015

 まずは、insalata verdeについて、verdeはイタリア語で「緑、緑色の」を意味します。ですから、insalata verdeを頼むと、たいていは薄緑色のサラダ菜1種類を食べやすいように小さく切り分けたものが食卓に運ばれてきます。サラダ菜はレタス(lattuga)であることが多いのですが、サニーレタス(insalata canasta)の場合もあります。insalata canastaはレタスに比べて葉っぱが大きくて長く、緑色が鮮やかで先端がやや赤ないしは赤紫色になっています。

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13/7/2016

 日本語では「サラダ」というと料理の名前ですが、イタリア語ではinsalataが、料理のサラダを指すと同時に、サラダに使われる上記のような薄緑色の野菜、サラダ菜も意味しますので注意してください。たとえば私の義父が「菜園(orto)にサラダ菜を植えなければいけない。」とか、「雨が降るかもしれないから、今のうちに菜園にサラダ菜を取りに行きなさい」などと言うときも、使うのはinsalataという単語です。

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6/10/2012

 insalata mistaはミックスサラダです。mistoは「いろいろなものが混ざった」という意味の形容詞です。レストランによって、どんな野菜が入っているのかが違いますが、たいていのレストランで入れてあるのがレタス(lattuga)トマト(pomodoro)で、他にラディッキオ(radicchio)ニンジン(carota)、トウモロコシ(mais)の粒などが入っていることもあります。夏にはキュウリ(cetriolo)にお目にかかることもあります。

 問題は、insalata verdeやinsalata mistaが、どんなふうにテーブルに運ばれてくるかです。ツアーに参加して、外国の旅行客が多いようなレストランで食べる機会が多いとき、あるいは、団体で食べる機会が多いときには、最初から味つけがしてある場合が多いので、あまり問題がないと思うのですが、主にイタリア人が行くようなレストランだと、サラダにまったく味つけしていない場合がほとんどです。

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12/12/2018

 たいていの場合、生野菜を切って盛りつけた皿と一緒に、ウェイター(cameriere)やウェイトレス(cameriera)が、調味料を運んできます。あるいはテーブルの上に最初から調味料が置いてあります。サラダに味つけするのに使う調味料は、オリーブオイル(olio d’oliva)酢(aceto)塩(sale)ですが、テーブルに置いてありますので、好きな人はコショウ(pepe)も使ってください。オリーブオイルとしては、エクストラバージン・オリーブオイル(olio extravergine di oliva)が出される場合がほとんどです。イタリアでは、酢は日本と違ってワインを使ってできたヴィネガーを用いることが多く、米酢に比べて酸味がきついのですが、店によってはバルサミコ酢(aceto balsamico)を置いている場合もあります。

 では、どうやってサラダに味つけをしたらよいのでしょうか。人によって好みがあると思いますが、塩加減は、炒め野菜に入れる程度の塩の量を目安にしてください。塩が足りなければ後からも調整できますので、最初は少なめに入れておくといいと思います。それから酢を入れます。イタリア人でも好みはそれぞれで、たくさん入れる人も入れば、まったく入れない人もいます。酢の物が好きな人は少し多めに、そうでない人は気持ち程度にほんの少し入れてください。私は家で一人だけで食べるときには酢は入れない場合がほとんどです。それから、最後にオリーブオイルをたっぷりと、ふだんかけるドレッシングの量よりちょっと少なめを目安に、かけてください。そのあと、フォーク(forchetta)とナイフ(coltello)を使って、調味料が十分に混ざり合い、行きわたるように、よくサラダをかき混ぜます。なお、自宅で味つけするときには、フォークとスプーン(cucchiaio)を使うと混ぜやすく、そうする人が多いようです。また、レストランで働いている友人は、最初は塩と酢だけを入れてかき混ぜ、その後にオリーブオイルを入れてもう1度混ぜた方がいいと言っていましたが、食事の準備をするときは何かと慌ただしくもあるため、義理の母も他の友人もたいていの場合は、調味料をすべて入れたあとでかき混ぜています。その後、味見をして、お好みで塩やコショウなど、量が足りないと思われる調味料をさらに加えて、もう1度よくかき混ぜてください。

 レストランでは「皿からはみ出さないように野菜をかき混ぜるのが至難の業」であるような皿に野菜を盛って出してくる場合があり、また、人前で何度も調味料をつけ足してかき混ぜるのは気おくれもするでしょうから、最初のうちは、思うように味つけをするのが難しいかと思います。家にオリーブオイルがある方は、個人旅行に出発する数日前から、自宅でサラダに味つけをする練習をしてみるといいかもしれません。留学される方は、イタリアに行かれてから、自宅で何度もサラダに味つけをしているうちに、だんだん自分が好きなように味つけができるようになってくると思います。

 ちなみに小学館の『伊和中辞典』は、insalataの項に次のことわざを記しています。以下、辞書から、そのことわざを和訳・解説と共に引用します。

《A condir l’insalata devono concorrere un sapiente, un avaro, un prodigo e un matto.
 上手なサラダの味付けには、賢者とけちと浪費家とばかの4人がいる。
(サラダ作りには適量の塩、少量の酢、多めのオリーブオイル、それに十分な攪拌が必要だ)」》

 condireは「~に味つけする」という意味の他動詞です。また、devonoは助動詞dovere「~しなければならない」の直説法現在で主語が三人称複数のときの形、concorrereは自動詞で「協力する」の意味です。上記のことわざは直訳すると「サラダを味つけするには、賢者とけちと浪費家と狂人が協力しなければならない」となります。このことわざでは主語が述語の後に置かれているていることに注意してください。

 さて、 一口に「イタリア」と言っても、地域によってさまざまな違いがあります。ローマ・フィレンツェなど有名な観光地を回るのもいいのですが、たとえば中世の町並みや美術に興味のある方、独特の美しい風景や高い山でのトレッキングが好きな方、様々なイタリア料理を堪能したい方、音楽を愛好する方など、それぞれの方の好みによって、訪れたらよさそうな場所や旅の在り方も変わってきます。たとえツアーでの旅行であっても、「旅行業者がよく宣伝しているから」、「皆が行くから」という理由で旅行先を選ぶのではなく、まずは1冊旅行ガイドを買って、イタリアでどんなことができるのか、どんな地域や町が自分の訪れてみたいところかをじっくり検討してみてください。ローマ・フィレンツェ間は比較的近いのですが、それにベネチア、ミラノなどが加わってくると、旅行の日数にもよりますが、移動だけにかなり時間や費用がかかり、疲労感の多い旅行になってしまいます。イタリアの中部、北西部、あるいは南部など、自分が訪れたい地域を絞り込んで、じっくり訪れたほうが、私個人としては、ゆっくりと楽しめて実りの多い旅行になりそうな気がします。また、留学を考えている方にしても、イタリアのどんな地域にはどんな文化、どんな見所があるのかを知っておくことは大切だと思います。

 旅行にせよ、留学にせよ、日本のテレビや雑誌で紹介されがちなイタリア文化の「すばらしい面」だけを思い描いてイタリアを訪れると、かえって嫌な思いをして、極端に失望してしまう恐れがあります。そういうわけで、旅行・留学をされる前に、ぜひイタリアという国の問題点や旅行・留学に関わるトラブルについても知っておいた方がいいと思います。私の方も、おりおりメルマガでお伝えしていくつもりですが、近いうちに旅行や留学を予定されている方で、今のところ、仲介業者やインターネット、友人・知人を通じてしか情報収集をしていないという方には、ぜひ、図書館なり書店なりで、旅行や留学についての情報が満遍なく載っている本を手にとってみることをお勧めします。以下のページで、現代イタリアの問題点や有益な情報が満載してある旅行や留学の案内書を紹介していますので、興味のある方はご覧ください。

- イタリアでの留学・旅行をお考えの方へ1
- イタリアでの留学・旅行をお考えの方へ2

 では、また。大学が夏休みに入り、時間に余裕がありますので、夏の間はメルマガを毎週発行するつもりでいます。今回はまぐまぐさんのメルマガの発行システムがまだ機能していなかったため間に合いませんでしたが、原則として金曜日(イタリア時間)に発行していきますので、これからもよろしくお願いします。

*2019年4月追記: 今年3月末にヤフージオシティーズのサイト作成サービスが終了してしまったため、現在、このブログにバックナンバーを少しずつ移動中です。詳しくは第119号の二つ目の記事をご覧ください。


Articolo scritto da Naoko Ishii

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by milletti_naoko | 2009-07-07 12:00 | Lingua Italiana | Comments(0)