イタリア写真草子 ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

イタリア語学習メルマガ 第14号 「バーチチョコ誕生秘話、交通機関のストライキ」 

1. バーチチョコレート誕生秘話

 今、私の手元には長方形の四角い紙片がたくさんあって、どの紙片にも、愛情や友情に関する短い名句やことわざが記されています。今回はその一つをご紹介します。紙片には5か国語で表記されていますが、最初の2か国語(イタリア語と英語)で書かれたものだけ引用します。

  Il bacio è un dolce trovarsi dopo essersi a lungo cercati.
  A kiss is the sweet prize, long sought for.
  [...]
  n. 30 (Anonimo)


 イタリア語だけでは難しくても、英語の助けを借りると意味が分かりやすいのではないかと思います。bacioはイタリア語で「キス、口づけ」という意味です。trovarsiは通常は「出会う」という意味の再帰動詞ですが、ここではun dolce trovarsiと、形容詞dolce(甘い)に修飾され、不定冠詞unまでついているので名詞として扱われています。dopoは「~あとで」という時を表す接続詞で、a lungoは副詞句で「長い間」という意味です。訳してみると、

  「口づけは(男女が)長い間互いを探し求めたあとの甘い出会いである」

となるでしょうか。英語のほうは「口づけは長い間求め続けて得られる甘い報酬である」ですから、2言語で意味が少し違ってきます。

 かっこ内のanonimoは「無名作者」という意味です。『古今集』の歌であれば「詠み人知らず」、誰が言った言葉か分からないけれども、言葉だけが伝え残されているわけです。

 さて、私の目前に今あるこの何枚かの紙片が何だかお分かりになりますか。イタリア旅行のお土産として、小さいチョコレートがたくさん入ったバーチ(Baci)の箱を受け取った方もいらっしゃることと思います。チョコレート菓子のバーチは、一つ一つのチョコレートが、小さな青い星印がたくさんついた銀色の紙に包まれています。包み紙を開くと、チョコレートと共に愛情に関する言葉を記した小さな紙も1枚入っているのですが、これが先に述べた紙片の正体です。

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ペルジーナのチョコレート工場内に併設されているチョコレート博物館、ペルージャ   2017/1/4

 Baci(この名前は先のbacioの複数形です)を製造しているのは、ペルジーナ(Perugina)という企業です。Peruginaという言葉は、形がPerugia「ペルージャ」の町名に似ているのですが、それもそのはず、peruginaは「ペルージャの」という意味の形容詞の女性・単数形です。企業・工場がペルージャで創設されために、この名を持っていて、工場は今でもペルージャ郊外にありますが、現在は日本でも知られているスイスの多国籍企業Nestléの傘下になっています。

 イタリア土産として空港にもよく置いてあるので、私もイタリアに観光客として来ていた頃から知ってはいたのですが、つい最近になって、初めてバーチの誕生譚を知りました。意外でなかなかおもしろいので、皆さんにもお知らせしたいと思います。以下は、商品バーチを説明するサイトのページから何箇所かを引用したもので、かぎかっこ内には私が試みた訳があります。

(*2019年4月追記: 現在では、かつてのリンク先のページが見当たらず、サイト中のバーチ誕生のいきさつも、かつてとは異なる文章で説明されているため、ここにあったリンクは削除しました。)

  In principio fu un cazzotto ... poi Bacio e poesia

  Nel 1922 Luisa Spagnoli, una delle fondatrici della Perugina, decise di utilizzare la granella di nocciola derivata dalla lavorazione degli altri prodotti.


  (https://www.baciperugina.comから引用、以下同様)

  「最初はげんこつだった…そして、バーチョと詩(が生まれた)

 1922年にペルジーナの創立者の一人であったルイーザ・スパニョーリは、他の製品を加工する際に生ずるヘーゼルナッツの小さな粒を利用することにした。」

 ルイーザ・スパニョーリ(Luisa Spagnoli)は、女性服飾業界で歴史ある企業を創立したことで有名な人で、この企業自体が創立者である彼女の名を持っています。昔も今も本社はペルージャにあり、女性向けの高級衣類をデザイン・製造・販売しています。彼女は、最初はpasticceria、「ケーキやお菓子など甘いものを作るところや、それを販売する店」の経営者でしたが、人生の伴侶と出会って、菓子を大量生産する企業を創立することとなり、ある日、他の製品を作ったときに余ったヘーゼルナッツをチョコレートの中に入れて、商品とすることを思いつきました。

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  I nuovi cioccolatini, non ancora sagomati, sono così irregolari da far venire in mente un pugno chiuso. Vengono esposti in corso Vannucci a Perugia, sede storica della Perugina, con il nome de "I cazzotti della Perugina".

  「まだ型に入れて作られていなかった新しいチョコレートはあまりにも変わった形をしていたために、(見る者に)閉じたこぶしを思い起こさせた。新しいチョコレートはペルージャのヴァンヌッチ通り、ペルジーナ社の歴史ある所在地に、『ペルジーナ社のげんこつ』という名前で展示された。」

 ここでは過去の話をしているのに現在形が用いられています。こういった直説法現在の用法をil presente storico「歴史的現在」と言い、歴史的事実を叙述するときには、このように過去形を現在形で置き換えることもできます。歴史的現在はまた、過去に起こった出来事をまるで現在起こっているかのような臨場感を表すためにも使われます。(参考文献:Mazzetti A., Manili P., Bagianti M. R., 『Qui Italia. Corso di lingua italiana per stranieri. Livello medio』, Le Monnier, 1997: p.18. 坂本鉄男著、『現代イタリア文法』、白水社、1979年:p.217)

  Vedere dei cazzotti in vetrina non deve aver convinto molto Giovanni Buitoni, altro fondatore storico della Perugina, che penso bene di addolcirli cambiandogli nome e dando il via alla dinastia delle coccole. Un nome breve, un gesto quotidiano, un modo per "dire affetto" oppure "parlare d'amore": Bacio. E bacio fu. Questo, tra realtà e leggenda, e il debutto del Bacio nelle vicende italiane.

  「ショーウィンドーの中にげんこつを見て、もう一人のペルジーナの歴史的創立者であるジョヴァンニ・ブイトーニはあまり納得しなかったに違いない。彼は、げんこつという名前を変え、やさしく愛情を持って触れる行為を象徴する世界を築き上げる(直訳すると「王朝を興す」)ことによって、より甘い雰囲気の漂うものにしようという名案を思いついた。短い名前、毎日のしぐさ、『愛情を表現し』、『愛を語る』ための手段―Bacio(口づけ)。そうして、商品名はBacioと決まった。これが、現実と伝説が入り混じってはいるものの、商品Bacioがイタリアの歴史に登場した経緯である。」


 今では世界的に名を知られるバーチ・ペルジーナ(Baci perugina)は、実は、工場で他のお菓子を作った際に余ったものを利用しようとして考え出されたものであったわけです。

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 どうしてそういう事実を知ることになったのかと言うと、7月13日・14日に、ある日本企業の社長がイタリアの企業を訪問する際の通訳を務めたのですが、その社長が訪れた企業の中に前述のルイーザ・スパニョーリ社があり、同社の歴史博物館の中で、バーチ・ペルジーナがどんなふうに考案されたかについても説明があったからです。

 この通訳の仕事については新しい発見や有意義な出会いもいろいろあって興味深かったのですが、その詳しい内容については、いつか別の機会にお話したいと思います。

*追記(2019年4月)
 2010年7月のブログの記事、「バーチとアンゴラの意外な関係」(リンクはこちら)で、上記の「新しい発見」について説明し、また、バーチ・チョコレートの愛の名言をいくつかご紹介しています。イタリア語版の名言に和訳を添えていますので、イタリア語の勉強にもなります。ぜひお読みください。

 この記事に添えている写真は、2017年1月に、友人とペルージャ郊外にあるペルジーナ工場(詳しくはこちら)を訪ねた時に撮影したものです。



2.留学・旅行に役立つ知識2(交通機関のストライキ)

 日本だと、私が覚えているのは10年以上前の東京都郊外や愛媛県の例なのですが、交通機関のストライキは、年に1度春先に行われるくらいで、しかもバスであれば何日も前からすべての停留所に「いつストライキが行われるか」が掲示されていたかと思います。一方、イタリアではバス(autobus、pullman)電車(treno)飛行機(aereo)など、各種交通機関(mezzo di trasporto)ストライキ(sciopero)が頻繁に行われます。基本的には何日も前から公の機関に届け出た上でのストライキのようなのですが、利用者に案内があるのは前日か早くても前々日で、それもバスの場合、停留所には全く何も書かれていないことが多く、よくてもバスの中にA4版のあまり目立たない白黒で印刷された紙に翌日のストライキの予定が書いてある程度です。

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エトルリア門、ペルージャ外国人大学の学舎、ガッレンガ宮殿とバス、ペルージャ  2015/4/30

 ですから、利用者はたいていの場合、テレビや新聞のニュースで翌日のストライキの規模や場所、時間帯を知ることになります。ペルージャ外国人大学で学生としてバスを利用していた頃、住んでいたアパートにテレビがなく、大学の授業も毎日あるわけではなかったため、ストライキを知らずに、いつまでも来ないバスを待ち続けた覚えがあります。今でも、時々ストライキだと知らずに、大学前のバス停でバスを待っている学生さんや観光客の人を見て、「今日はバスがストライキをしていますよ」と教えてあげることがあります。ストライキでも、1日中全くバスや電車・飛行機が利用できないわけではなく、通学や通勤の足などを確保するために、早朝や昼すぎの時間帯には、ストライキ中でも交通機関がサービスを提供することが義務づけられています。ニュースでストライキの案内があるときは、飛行機やTrenitaliaのストである場合には、何時から何時までの便が利用可能かという時間帯も明示してあります。声で読み上げるだけではなく、画面にも大きく時間帯が記されていますのでご安心ください。バスや電車の地方の路線に関しては、地域や企業によって、ストライキ中でも交通機関を利用できる時間帯が違ってきます。テレビニュースではたいていミラノやローマなどの大都市のバスの利用可能時間帯だけを目安として視聴者に伝えています。

 たとえば、ペルージャ市内や近郊を走っているバス路線はApm (Azienda perugina della mobilita)という企業によって運営されていますが、このApmが発行している現行の時刻表を見ると、次のように書いてあります。(*2019年4月: 現在は違う会社によって運営されています。)

  SCIOPERI
  [...] Si informa che, [...], in caso di sciopero tutti i servizi saranno, comunque, garantiti nelle seguenti fasce orarie: 6.00-9.00 e 12.00-15.00.
Gli impianti delle scale mobili e ascensori verranno garantiti con il normale orario.


  「ストライキ
  (前略)ストライキの場合にも、6時から9時まで、及び12時から15時までの時間帯には、すべての交通機関の運行が保証されている旨を通告します。
エスカレーターとエレベーターの設備は(ストライキ中であっても)通常の時間帯の利用が保証されます。」(石井訳)

 省略した部分は、ストライキに際して交通機関が果たすべき義務を定めた法律に言及しています。数字で時間を表す場合に、時間と分の間にくる点の数が日本とは違っていることに注意してください。seguenteは「次の、以下の」という意味の形容詞ですが、イタリア語を直訳して「以下の時間帯には」として、最後に運行する時間帯をつけ足すと日本語としておかしな文になるため、上のように訳してみました。caso は「偶然、場合、事件」などいろいろな意味で使われる言葉ですが、ここではin caso di ...で「~の場合には」を意味しています。comunqueは「とにかく、いずれにせよ」。上記の訳では、「ストライキの場合には、とにかく」と直訳せず、イタリア語で言わんとしている主旨の方を重視していますので、ご了承ください。

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ミニメトロ ピンチェット駅からペルージャ中心街へのエスカレーター 2014/12/10

 最後にあるエスカレーターとエレベーターに関する表記について。ペルージャの町の中心は高い丘の上にあり、ふもとから歩いて登るとと大変なため、駐車場やバスセンターのある広場などから、エスカレーターやエレベーターを使って、中心街まで楽にたどり着けるように工夫されています。こういった設備も市内バスと同様にApm社によって運営されているため、「バスがストライキの場合でも、エスカレーターとエレベーターは通常通り使えます」と書き添えてあるわけです。

 単数形ではエスカレーターはscala mobileなのですが、scalaが「階段」という意味ですから、scala mobileは直訳すると「動く階段」で、エスカレーターの形状と機能をぴたりと言い当てた表現になっています。

さて、航空会社アリタリア(Alitalia)もストライキをする回数が多いのですが、まれに届出をせずにいきなり無謀なストライキを決行する場合を除いては、事前にストライキの日程や規模が決まっている場合がほとんどです。ですから、アリタリアの便を予約しようと考えている方は一度自分が飛行機で移動される年月日をイタリア語に直し(たとえば2008年9月17日なら、17 settembre 2008)、sciopero・Alitalia・volo(フライト・アリタリア・飛行機の便)といった言葉と共に入力して、イタリア語のサイトで検索してごらんになるといいかと思います。その検索の結果、その日にアリタリアがストライキを予定していることを記載したページがあった場合には、さらに利用したい便の出発時刻がストライキの行われる時間帯かどうかを確認して、もし希望の便がストライキで出発しない恐れがあるようであれば、出発の日程をずらすことができます。

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パリからローマに戻る飛行機の窓からの眺め 2012/6/16

 実際、私が去年ギリシャに旅行した際には、希望していた上述の9月17日にアリタリアがストライキを予定していることが判明したため、それよりも数日後にイタリアを発つことに、旅程を変更しました。飛行機や電車のストライキも、バスのストライキ同様、前日になってからテレビや新聞のニュースで取り上げられることがほとんどです。個人旅行をされて、翌日に飛行機や電車の長距離の移動を控えている場合には、テレビニュースなどでストライキの有無を確認してください。イタリアの各放送局でさまざまな時間帯に30分ほどの枠でニュースを放送していて、翌日交通機関のストライキがある場合には、どのニュースでもその案内があります。たとえば国営放送のRAI1(1チャンネル)は朝8時、昼1時半、夜8時から約30分のニュース放送を行っています。夕食の時間帯と重ならない夕方の全国ニュースにはRAI3(3チャンネル)の夕方7時からの放送がありますので、ご参考までに。

 「毎週金曜日発行」と張り切っていたのに発行が遅れたのは、突然インターネットに接続できなくなったからです。むなしく回復を待った後、昨日になって業者に説明を求めたところ、インターネット使用料を払うのに用いていたクレジット・カードが更新されたのに業者に連絡しなかったので、6月分の支払いが滞りインターネットの使用が差し止められたとのことでした。以後は気をつけますので、よろしくお願いします。

 このメルマガの著作権は石井に帰属します。引用・転載を希望される方はご連絡ください。

*2019年4月追記: ヤフージオシティーズのサイト作成サービス終了のため、現在、メルマガのバックナンバーを、このブログに少しずつ移動しているところです。移動済みのバックナンバー一覧は、タグ、イタリア語学習メルマガ バックナンバー(リンクはこちら)から見ることが可能です。


 Articolo scritto da Naoko Ishii

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by milletti_naoko | 2009-07-17 12:00 | Lingua Italiana | Comments(0)