イタリア写真草子 ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

迷信と科学とインフルエンザ、日本の一般常識対イタリア

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 朝起きるのは義父母の方が早いので、わたしがまだ顔を洗う前、やや乱れた髪のままでうちのよろい戸を開けると、その外をお義父さんが歩いていることがあります。そういうとき、義父は、朝は顔を洗ってから窓を開けるようにしないと、健康に悪いよと、必ず言います。ただ、義父はそう言うのですが、夫はそうは思っていないので、夫自身も朝起きると、たいていはすぐに、顔を洗う前によろい戸を開けるため、心配してくれる義父には悪いと思いつつ、二人とも従っていません。

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Tramonto al Lago Trasimeno, San Feliciano, Magione (PG) 18/4/2018

 一方、立てかけた柱の下を歩いたり、家の中で傘を広げたりしたら不運が舞い込むという迷信は、わたしも日本でイタリア語を勉強していた頃に知ったほどで、イタリアでも一般的な迷信なのでしょう。義家族みなが、意識して避けています。かつてのホームステイ先では、浴槽で傘を広げても嫌な顔をされたのですが、義家族の場合は、浴室やトイレは、傘を広げてはいけない屋内とはみなしていないようで、ありがたいです。逆にうちの中で、義家族は意識していないのに、夫だけ気にしている迷信もあります。庭がある家庭では、食事のあとテーブルクロスに残ったパンくずを、庭で払って、野鳥たちが食べられるようにすることが、イタリアでは少なくないのではないかと思います。夫は、ペルージャのかなり北方に住んでいる友人夫婦から、夜にパンくずを払うと不運を招くと聞き、以来、夕食後のパンくずは、我が家ではテーブルクロスの中に残り、翌日の昼食前まで持ち越すこととなりました。

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 こういう夫の慣習や考えを、わたしはすべてとは言わないまでも一応尊重しているのですが、ずいぶん前から意見が合わずに、必ずケンカになることがありました。日本では、花粉症や風邪やインフルエンザでのマスクの使用率が高く、風邪やインフルエンザは、すでにかかった人の唾液に含まれるウィルスが、空中に飛び、他の人に感染するのだということは、多くの人に知られていると思います。けれども、うちの夫だけか、それともイタリアの全般的な傾向を夫が反映しているのか、インフルエンザや風邪にかかったときに、夫ときたら、咳やくしゃみを、口に手を当てずに、ところ構わずにするのです。もちろんマスクなどつけたりしません。イタリアで風邪や花粉症でマスクをつけたら、怪しい人だと思われそうなほど、外をただ普通に歩いたり仕事に行くために急いだりしている人が、マスクをつけているということは、まずありません。

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 わたしはそんなふうに咳をまき散らしたら、ウィルスでわたしに感染しやすくなるでしょうと、さんざん夫に言ってきたのですが、これまでもう長い間、夫とつきあい始めてからかれこれ15年ですから、十数年の間、いくら言っても、わたしの迷信だと思って、聞く耳を持ちませんでした。わたしも、夫は具合の悪いときは、ただでさえ機嫌も悪くなりがちなので、咳をまき散らすからと言って、わざわざもめごとの種をまいてもと考えつつ、時々、論争はしていました。けれども、結局は、夫が機嫌を損ね、わたしも気分を害するだけで、わたしの主張を単なる思い込みだと思う夫が、好きなように咳をし続けるという状況が続きました。

 ところが昨日、夫ときたら、昼食のしたく中に、ナイフやフォークが入っている引き出しを開けたとたん、その中にウィルスが入りかねない方向を向いて、咳をするではありませんか。それでは、後からお客さんが来たときに、お客さんにまで移る可能性があるから、咳は別の方向を向いてするようにと言ったのですが、聞きません。妙に神経質なことを言ってと一向に聞くふうがないので、夫は腹を立てていましたが、わたしは引き出し内のスプーンやフォーク類をすべて流し台の上に置いて、洗い上げ、最後には引き出しの中の仕切りも、洗剤をつけて洗いました。

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 そのあと、まだ熱のある夫が眠って休んでいる間に、イタリア語で分かりやすく、インフルエンザや風邪は罹患した人の咳やくしゃみで飛散する唾液を媒介して他の人に移るのであって、物を介しても、他の人に移る恐れがあることを書いたオンライン記事がないかどうかを調べました。そうしたら、すぐにいい記事が見つかりました。わたしが夫に言いたいことが、端的にまとめてあります。しかも、イタリアの健康に関する権威である公的機関のサイトに書かれた記事です。

 記事へのリンクはこちらです。

 読んだら、また何か言ってくるだろうなと思いつつ、そのままわたしは夕食準備を始める時間帯まで寝室で休んでいました。

 すると、どうしたことでしょう。夫は、何も言わないのですが、あれほど口に手をせずに咳をしていたのが、この記事を読んでからは、咳をする際に、つばがどこかに飛ばないように細心の注意を払うようになりました。君の言うとおりだった、ぼくが間違っていたとは一言も言わないのですが、二人の今後の健康のための大きな前進ということで、よしとしましょう。

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 つい感情的に言い合ってしまって、よく考えてみたら、根拠を示すということを、わたしは自分が口で何度も言っただけで、していませんでした。証拠を示さないと信じてくれないというのも困るのですが、長年の一つのケンカの元、かつインフルエンザや風邪の感染の原因の一つが、ようやく解決したようでほっとしています。

 咳をまき散らすと、周囲の人に風邪やインフルエンザを移す可能性が高くなるということを、うちの夫同様に、信じないイタリアの人が、他にもいるかもしれない。そうして、その人の近くで、わたしのように困り果てている日本の方がいるかもしれない。ひょっとしたら、そういう方のお役に立つかもしれないと、今日は覚え書きも兼ねて、こんな記事を書いてみました。

 健康を乱すインフルエンザがどう「移る」かという話ですので、漢字は違いますが、雲の多い空が湖面に「映る」様子に、けれども独特の美しさがあるトラジメーノ湖の夕焼けの写真を添えてみました。昨年4月18日に撮影したものですが、昨年4・5月の記事に使っていないので、結局まだブログに利用しないままだった写真だと思います。空が荒れ模様で、黒雲があるときにこそ、かえって不思議と美しい夕焼けが見られる、そういう湖の夕景をお楽しみいただけたらと思います。

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A volte il tramonto è bello
,
proprio grazie alle nuvole nere che quasi lo nascondono.
San Feliciano, Magione (PG) 18/4/2018 (Le foto sono dell'anno scorso)
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Articolo scritto da Naoko Ishii

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Commented by otenbasenior at 2019-04-13 14:20
我が家の夫と似ているところがありますね。
頑固で、でもあることでコロッと意見が変わる事もあります。
なおこさんの作戦勝ちでしたね。

トラジメーノ湖の優しいパステルカラー、また違う表情を見せてくれましたね。
Commented by ムームー at 2019-04-13 18:17 x
なおこさん
こんにちは
美しい眺めですね、いつまでも見ていたいです
どちらのご家庭でもこういう話がありますね
男の人は頑固で言うことを聞きませんね
手をあてられるようになられて一安心ですねぇ~
いつもありがとうございます
Commented by coimbra2017 at 2019-04-13 21:18
なおこさん、こんばんは。
マスクと言えば、最近は色々なマスクをする人が増えました。真っ黒な色ですとか、柄がはいったものとか。。マスクと言えば白!というのも変わりつつあります。まだちょっと違和感を感じますが。。私の息子はいつもマスクを常備していて、例えば電車の中で香水の強い女性の近くに居るようになってしまった場合とか、タバコの匂いがきつい人が隣に座った時とか、何気なくマスクをしてかわすのだそうです。
私は家族に喫煙者がいないため、タバコの匂いが苦手です。
時々電車でそのようなことがあり、マスクを持ってくれば。。と思う時もありますが席を移ってしまいます。
そのようなケースもありますが、一年中何かのアレルギーに反応してしまう人も多いのでマスク姿は最近は通年だと思います。外国の人からしたら、ちょっと不思議な光景かもしれませんね。。
それにしても、マリート様が納得してくださってよかったです。次回からはきっと気をつけてくださるでしょうね。
今日は久しぶりに青空の天気となりましたが、まだ寒く感じました。湖の美しい景色に癒されます。。。
Commented by thinkyourlanguage at 2019-04-14 07:29
こんにちは。

以前イタリアに住んでいたことがあり、
イタリアを懐かしく思いながら、
いつも楽しくブログを読ませて頂いております。

マスクのお話で思い出したので、
コメントさせて頂きました。

以前イタリアで日本語 中級レベルを教えていた時、
SNSを使って日本人・イタリア人に
あるテーマでアンケート調査をして
その内容を発表するという課題を学生に
出したことがあります。
ある学生が選んだテーマが
「マスクに対するイメージ」というテーマでした。

アンケート結果は、イタリア人は
マスクをしている人を見ると、
その場所が危険地域ではないかと
疑うという悪いイメージが圧倒的なのに対し、
日本人は、他の人に病気が移らないようにしていて
良いイメージだったのが印象的でした。

マスクだけではないですが、
イタリアと日本ではかなり考え方が異なることも
あり、日本語を学ぶ学生たちは、時々
日本文化が理解できないと言っていたことを
思い出しました。
ブログに書かれているように
日本人が説明したり、日本語で書かれている物には
あまり納得しない学生がいましたが、
彼らは、イタリア語で同じことが書かれてあると
すんなり納得していたということがあり、
母語というのはやはり影響力があるなと
感心してしまったことも思い出しました。

いつも素敵なイタリアのお話を読んで
イタリアに住んでいた頃を思い出しています。
素敵なお話ありがとうございました。
Commented by milletti_naoko at 2019-04-14 17:33
お転婆シニアさん、お宅のだんなさまにも、そういうところがあるんですね!
今回は、びっくりするほど急に、意識して咳をするようになったので、
ほっとしました。

この日の夕焼けは、ことさらにきれいだなと、久しぶりに写真を見て思いました。
共感していただけたようで、うれしいです。
Commented by milletti_naoko at 2019-04-14 17:37
ムームーさん、こんにちは。夕焼けがこの日は殊にきれいでした。
これからは、インフルエンザや風邪をもらう確率が低くなりそうで、
ほっとしています。こういうもめごと、生まれ育った文化や国が違わずとも、
いろんな家庭であるのですね。
こちらこそ、いつもありがとうございます♪
Commented by milletti_naoko at 2019-04-14 17:45
coimbra2017さん、こんばんは。
たくさんの人がマスクをするからか、使い方や柄、色もいろいろになってきているんですね。興味深いです。電車はあまりにも混んでいることがあるので、タバコや香水のきつい人が近くに座ると、確かに長い間つらい思いをすることになりますよね。イタリアでは幸い屋内は禁煙なのですが、それでも店の外など、通らざるを得ないところでタバコをする人がいて、髪などにタバコの匂いがついて取れず、困ることがあります。日本でもいろいろとマスクにまつわるドラマがあるんですね。興味深いです。
夫がようやく分かってくれたので、ほっとしました。日本でもイタリアでも春らしい天気と気温が来そうで来ない日が続いているよですね。
Commented by milletti_naoko at 2019-04-14 17:57
thinkyouralanguageさん、こんにちは。
マスクに対するイメージをテーマに選んだ生徒さん、着眼点がおもしろいですね。
確かに今はSNSをうまく使えば、イタリアでも日本でも気軽にアンケート調査が
できるようになりましたね。若干対象が知人や自分のつながりのある人なので、
多少偏りがちになる可能性はあるかもしれませんが。

確かにマスクを使う場面を考えると、日本では一般の人が花粉症対策や風邪などで
利用していますが、イタリアでは空気が悪かったり、汚染されたりしている場所、あるいは
病院などで感染などを防ぐために使うという特殊な状況ばかり思い浮かびますので、
イタリアの人のそのアンケートの結果が理解できそうな気がします。
逆にどうして日本にそこまでマスク文化が普及したのかを考えると、
誰かマスク会社にうまい広告手段や普及方法を思いついた人がいたのかという気さえしてきました。

イタリアではマスメディアが、残念ながら相変わらず、偏見の入ったニュース報道を、
日本についてすることが時々あり、それは日本についてばかりではなく、日本でも逆に
他国の文化をそういうふうに報道することがあるのでしょうが、どうかなと思うことがあります。
こちらこそ興味深いお話と温かいコメントをありがとうございます。
by milletti_naoko | 2019-04-12 19:22 | Umbria | Comments(8)