イタリア写真草子 ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

イタリア語学習メルマガ 第17号 「イタリア語の歌(3) ヴァスコ・ロッシ3曲『Albachiara』外」

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 外国語をうまくものにできる人というのは、さまざまな学習方法を知っていて、それをうまく組み合わせて実践している人だ、ということが、研究結果で明らかになっています。単に学習書を読んで、文法や単語を暗記しようとするのではなく、その外国語に接する機会・その外国語を使える機会を積極的に作っていく力がある人だ、というのですが、その一つにイタリア語の歌を聞くというものもあります。

 歌は自分が好きであれば、飽きずに何度でも繰り返し聞くことができます。発音や文のイントネーション、単語や言い回しも自然と身についてきます。というわけで、イタリアで行われる外国人向けのイタリア語の授業でも、歌を生徒に聞かせることがあります。もちろん教師の側は、生徒の興味を引き、その時点の語学力に応じた歌を探すわけですが、人間ですからやはり「自分が好きな歌」を使用する機会が多くなるのだと推察します。

 今回は私が生徒として、あるいは教育実習生として参加した授業の中で最もよく使われていた歌手の歌を取り上げてみたいと思います。歌手はヴァスコ・ロッシ(Vasco Rossi)、今回は彼の作品の中から、恋の歌をいくつか取り上げます。



1 ヴァスコ・ロッシ 『Albachiara』

 まずは、『Albachiara』を聴いてみましょう。




 albaは「夜明け、暁」、 chiaroは形容詞で「明るい、輝きに満ちた」という意味です。なぜこういう題かというのは歌がどう始まっているかを見れば分かります。

“Respiri piano per non far rumore,
ti addormenti di sera e ti risvegli col sole;
sei chiara come un’alba,
sei fresca come l’aria.”

「音を立てないように静かに呼吸し、
夜眠りに落ち、日の訪れとともに再び目覚める。
君は夜明けのように輝きに満ち、
外気のようにさわやかだ。」(石井訳。以下、歌詞に続く「 」内も同様。)

 pianoはここでは「静かに」という意味の副詞として使われています。6歳ともうすぐ8歳の姪っ子たちは来るたびに、あちこち走り回って、私たちや祖父母(私の義父母)を振り回しているのですが、時どき息を切らせた義父が「Piano!」(慌てずに、ゆっくり!)と叫んでいます。暑い日が続いているため、義父母は朝早くから起き出して、涼しいうちに畑仕事や家事を終え、昼食後すこし昼寝(sonnellino, pisolino)をするのですが、義母が床で休んでいるのに、姪っ子たちがけんかして大声を上げることもあり、そういうときは、皆で 「Piano!」(静かにしなさい!)と叱ります。私や夫が危なっかしい手つきで何か作業をしているときも、義父は「Piano!」(気をつけて慎重に!)と注意をしてくれます。

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サンティアーゴへの巡礼中に見た夜明け 2014/9/27

 歌に出てくる動詞の不定形はそれぞれrespirare, addormentarsi, risvegliarsi, essereです。動詞の活用形はどれも主語がtu(2人称親称)のときのもので、形容詞の語尾がchiara、frescaと女性形 -aになっていますから、歌のこの部分では、主語がtuで、語り手が愛しく思っている女性であることが分かります。

 comeはここでは、「~のように」という意味で、人・物を他のものにたとえる直喩表現を表す副詞です。伊伊辞典 『Lo Zingarelli』には、以下の用例があります。

- “coraggioso come un leone” 「ライオンのように勇敢な」
- “cammina come un ubriaco” 「(彼は)酔っ払いのように歩く」

 ヴァスコ・ロッシ本人が書いたこの言葉も甘く美しいのですが、歌の音楽(作曲A. Taylor)も優しいメロディーで始まっていて、「さわやかで美しい」彼女の「静かな」呼吸や眠りを思わせます。私もこの歌は大好きです。

 うちの夫が一度「君は満ちていく月」(luna crescente)のようだ」と言ったことがあります。残念ながら浪漫ただよう賛辞ではなくて、「だんだん太って顔が丸くなっていくね」と言って、私をからかっていただけです。日本人が、おいしいからと言って、また断るのが失礼に思えて、イタリアのレストランや招かれた先で出されたものをすべて食べていると、体にも負担がかかる上に、体重が増えていく一方になりますので皆さんも気をつけましょう。

 さて、歌の続きを見ていきましょう。

“Diventi rossa se qualcuno ti guarda
e sei fantastica quando sei assorta
nei tuoi problemi, nei tuoi pensieri. ”

「誰かが君を見つめると、赤くなる。
そして、自分の問題や考えに没頭しているとき
(君は)本当にすてきだ。」

 この後に続く歌詞からも、語り手が女性をいつも温かい目で見守っていることがわかります。興味のある方は、こちらの映像で、歌詞を目で追いながら、歌を聴いてみてください。

 『Albachiara』の歌詞全文は、こちらのページに記載されています。



2 ヴァスコ・ロッシ 『Una canzone per te』

 次の『Una canzone per te』という歌は、作詞・作曲とも、ヴァスコ・ロッシです。この歌も、イタリア語の授業中に聞いて知りました。



 ささやくように歌っているため、言葉が聞き取りにくいため、このページの映像の下に書かれた歌詞全文を読みながら聴くことをおすすめします。

“Una canzone per te?!?
Non te l’aspettavi eh?
e invece eccola qua”

 疑問符や感嘆符の使い方からも想像がつくように、かなりくだけだ会話口調で書かれています。

「君のための歌?
思ってもみなかったんだろう?
ところが、ほらここに、君のための歌だよ。」

 3行目のeccolaのlaは女性名詞を指す代名詞ですが、ここで指しているのはもちろん1行目の「君のための歌」です。eccoは話し言葉でよく使われる表現です。何かを差し出したり、指し示したりすときに用いる言葉で、「ほら、これですよ/ここにありますよ」とでも訳せるでしょうか。伊伊辞典、『Lo Zingarelli』の用例を見てみましょう。

- “Ecco la casa dei nostri amici.” 「ほら、これが私たちの友人の家です。」
- “Ecco qui il tuo libro.”    「(ほら、)君の本はここだよ。」

 「ここに」という意味の副詞が歌ではqua、上の用例ではquiとなっていますが、この二語は同義語です。



3 ヴァスコ・ロッシ 『Non l’hai mica capito』

 最後にやはりヴァスコ・ロッシ作詞・作曲で、私が好きな歌をご紹介します。これもかなりくだけた会話口調で書かれています。



題は『Non l’hai mica capito』で、これは歌のリフレーンが次のようになっているからです。

“Ti voglio bene non l’hai mica capito,
ti voglio bene lascia stare il vestito,
ti voglio bene non cambiare discorso,
dai non scherzare! ”

「君が好きだよ。でも、君はてんで分かっていない。
好きだよ。服装なんて(気にせず)そのまま(がいいんだから)放っておけってば。
好きだよ。話を変えるなよ。
もう、ふざけるのはやめてくれよ!」

 「non l’hai mica capito」の部分を文法的に説明すると、hai capitoは動詞で、capire「分かる、理解する」の近過去です。non ... micaは「まったく~ない」という意味で、同じく全否定を表すnon ... affattoと同意ですが、non ... affattoに比べるとかなりくだけた表現になります。

 hai capitoの目的語はloで、ここでは前文の内容、つまりti voglio bene(君が好きだよ)を受けています。

 「Dai!」について、daiは動詞dare(与える)のtuに対する命令形で、会話では、誰かに何かをするように、あるいはしないように呼びかけるときの間投詞としてよく使われます。いつもの伊伊辞典から用例を見てみましょう。

- “Dai, smettila!” 「おい、やめろよ。/もう、やめにしてよ。」

 誰かが、いつまでたっても「やめろ」と言うことをやめないとき、あるいは「してほしい、しなさい」と言っていることをしないとき、いずれの場合にも同様に「Dai!」と言って、何かを「するように」、あるいは「しないように」訴えることができます。ですから文脈によって、「いい加減にやめてよ」となるか、「さっさとなさいよ」となるか、訳し方が変わってきます。

 この歌の歌詞つきの映像へのリンクはこちら、歌詞全文が掲載されたページへのリンクは、こちらです。

 『Albachiara』と『Non l’hai mica capito』の2曲は次のCDにあります。曲数が多いので、ヴァスコ・ロッシの歌が気に入った方は、アルバムを購入するとお得だと思います。張ってあるリンク先のページで試聴をして、曲がいいなと思われたら、購入して繰り返し聞いてみてください。

・ヴァスコ・ロッシ 『Vasco Rossi』



 最後に、他にも自分が持っていてお勧めのCDをいくつかご紹介します。歌の内容や歌手についてはおいおい詳しく取り上げていくつもりです。


・アンドレーア・ボチェッリ(Andrea Bocelli,) 『Romanza』


日本でも “Con te partiro”(君と旅立つ)などの歌で知られているようですが、甘く力強い歌声は聞き飽きません。大人の愛の歌、生き方を模索する歌など、奥の深い歌がたくさんあります。

・ラウラ・パウジーニ(Laura Pausini) 『Laura』  『Le cose che vivi』

  

 第7号でも、ラウラ・パウジーニの他のアルバムをご紹介しましたが、この二つはまだ私が日本にいた頃に、イタリアの友人から勧められて購入し、大好きで何度も何度も繰り返して聞いていたものです。

・イレーネ・グランディ(Irene Grandi) 『In vacanza da una vita』 『Irene Gransi』

   

 イレーネ・グランディも歌唱力抜群で、とにかく元気のいい歌いっぷりに励まされます。歌詞には妙にユニークなものが多いのですが、彼女にしても、ラウラ・パウジーニ、アンドレーア・ボチェッリにしても、一語一語をはっきり発音し、しっかり歌っている場合が多いので、聞き取りや発音練習もしやすいと思います。その点、今回ご紹介したヴァスコ・ロッシは、歌によってはささやくように歌っているものもあり、入門者の方には聞き取りが難しい部分があるかもしれません。

 他にもジョルジア、ルーチョ・ダッラと、おすすめの歌手や歌は尽きませんが、これから少しずつご紹介していくつもりでいます。

 では、また。皆さんがイタリア語を勉強し、イタリア文化を知るのに、少しでもお役に立てたらと考えています。何かご質問やご希望があれば、コメントでお伝えください。コメントを書くにあたって、非公開をご希望の際は、チェックを入れれば、他の方には読めない鍵コメントにすることも可能です。

 このメルマガの著作権は石井に帰属します。引用・転載を希望される方はご連絡ください。

*追記(2019年5月20日)
 ヤフージオシティーズのサービス終了のため、現在、このイタリア語学習メルマガのバックナンバーを、ブログに移行中です。すでにブログに収録済みのメルマガ一覧は、タグ、「イタリア語学習メルマガ バックナンバー」(リンクはこちら)からご覧になれます。

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Articolo scritto da Naoko Ishii

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by milletti_naoko | 2009-08-07 12:00 | Lingua Italiana | Comments(0)