イタリア写真草子 ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

日本大使館への暴言口コミと商業捕鯨再開、イタリア

 先日、参院選の在外投票にローマに行こうという記事(リンクはこちら)を書いたときに、ローマ日本大使館のサイトにも、すでに該当情報が掲示されいるのではないかと思い、インターネットで調べていて、グーグルマップのローマにある日本大使館の口コミが、2.0とあまりにも低いので、まずはひどく驚きました。

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Dalla pagina web, Google Maps - Ambasciata del Giappone

 パスポート更新や在外投票、イタリア運転免許への書き換えのための翻訳証明の申請(詳しくはこちら)などのために、イタリアに暮らし始めた2002年から今までの間に、ローマ日本大使館は何度か訪ねていますが、いつ訪ねても、大使館の方たちは、門衛のイタリア人の方をはじめ、館内に勤める日本人の方たちも、皆親切で、かつ必要な情報を適切に教えてくださるという印象を持っていたからです。

 そこで、書かれた口コミの内容を見て、驚きました。

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Dalla pagina web, Google Maps - Ambasciata del Giappone

 高い評価をした人々は、親切で時間をきちんと守るなど、実際に日本大使館を利用しての口コミを書いているのに対し、1という最悪の評価をした人の口コミは、ローマ日本大使館ではなく、捕鯨反対の意を表明するための低評価、あるいは自らが「蛮行」とみなす捕鯨を行う日本という国や国民に対する非難だったからです。また、最近になって日本が商業捕鯨を再開する以前にも、捕鯨反対を表明する口コミはありましたが、最近になって、捕鯨反対と共に反日ヘイトスピーチとさえ取れる口コミが増え、さらにその口コミに「いいね」と反応する人が、残念ながらいるのです。

 本来日本大使館自体のサービスについて口コミを書くべきところで、自らの政治的信条や意見を述べることが、そもそも間違っているものの、上に書かれた二つのコメントは、そうは言っても、憎悪こもった暴言ではなく、捕鯨という行為自体そのものを糾弾しています。

 ざっと日本語に訳してみると、一つ目は、「鯨の惨殺はもうやめろ!! 人類すべての遺産なんだ!! 恥を知れ」、二つ目は、「環境問題がたくさんあると言うのに、捕鯨という残虐行為を続けるとは。もう終わりにしなければ!!!!!! クジラはすばらしい生物なのだから!」となります。

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Dalla pagina web, Google Maps - Ambasciata del Giappone

 残念なことに、続く口コミには、単なる反捕鯨の意表明だけではなく、日本という国や国民への暴言が並んでいます。

 一つ目から順に、「言葉もない。捕鯨をやめなさい。なんと傲慢な。」、「極悪人!! 捕鯨をやめなさい」、「捕鯨はやめろ、悪党ども。地球では救えるものが何一つない。人間は地上に存在する最悪の残忍な捕食者だ。こういう凶暴な生物を罰するために神が存在しないのが残念だ」と、訳せるでしょうか。

 政治的信条などを表明する口コミや特定の団体への憎悪に満ちた口コミは、グーグルマップによって適当でないとみなされるために、どこか上のレベルでの動きがないのであれば、わたしの方から、こうした口コミは不適当であると報告をするつもりではいます。日本政府の商業捕鯨再開という決定に対して反対であるとしても、だからと言って、第一義として「殺人犯」、そこからひどく道義に外れたことをする悪人を指す「assassini」(単数形はassassino)という言葉を、友好関係にある国の大使館の評価として書き込むべきことは決して許されず、また、「捕鯨をする国だから、国民皆が極悪人」という、自らの思考と感情の枠で理解できないものは悪と決めつける発想は、極めて短絡でかつ偏見・差別に満ちていると思います。

 現政権がイタリアで政治を行うようになってから、以前にも増して、どこかの国や国民、移民や亡命者をひとくくりに偏見に満ちた目で見て、差別ある対応をする人々が、増えてきていることを、わたし自身がイタリアに長く暮らす中でひしひしと感じていて、そうして、同じような風潮が日本にもあることを、主にツイッターを通じて知り、危機感を覚えています。ツイートに限らず、日本人でなくとも、日本語が理解できる外国の方は、わたしが教えるイタリア人の生徒のみならず、イタリアに多いだけでなく、たとえば日本で学ぶ中国や韓国の方や、南米など、世界中にいて、また、その多くが日本に暮らしていることを思わずとも、書かれた国の方が読んだら、ひどく悲しい思いをするであろう、いろいろな国や国民に対する侮蔑、日本ばかりが優れているのだという論調の文章を読むたびに、残念に思っています。確かに日本の国には、日本の文化には、すばらしい点も多いけれども、そればかりを理想の姿とみなして、その点では日本に及ばないことが多いからと、十把ひとからげに、他国や他国で働く人々を悪く言うのはいかがなものかと思うのです。日本がすばらしいと思い、そう言ってくれるイタリアの人に出会うことの方が、今はありがたいことにまだ多いのですが、わたしはそういうときに、だから日本はすばらしいと思うよりも、自国とは違う他国のよさを素直に認めて評価し、すばらしいと思うことができるイタリアの人がすばらしいなと思うのです。

 閑話休題。わたし自身としては、個人的には、趣味として狩猟を行う人々が大勢いて、生き延びるために必要でもないのに、野生動物を恐怖に陥れて追い回した挙句に殺すことを楽しむ人々の方が残虐ではないか、また、ウンブリアでは、ハトやウサギを食べるのがどうかと感じる一方、イタリア及び、欧米のマスメディアの日本の捕鯨に対する過去の一連の偏見に満ちた差別を煽りがちな報道を知っているために、難しかったかもしれないのですが、もう少し国際理解を得る努力をしてから、商業捕鯨再開に踏み切ることができなかっただろうかと思うのです。

 シエナ外国人大学大学院課程の卒業論文で、日本にとってのイタリアとイタリア語についても書いたときに、いろいろな研究論文に目を通していたら、マスコミの国際報道は、同じことをしていても、自国が行なったことに関しては寛容で、他国の行いについては、差別・偏見が混じる傾向があると、実際に具体例や数字と共に述べた論文がありました。また、日本人にとって、印象の悪い国というのは、ニュースで利害関係がある国として報道されがちで、そういうニュースを通してもっぱら知る国であり、逆に、文化面でしか話題にならない、直接の利害関係が少ない遠い国については、印象がよい傾向があるという研究論文もあり、その論文は、日伊関係には直接は触れていないのですが、日本にとってのイタリアも、またイタリアにとっての日本も、主として後者であることが、両国の国民が互いの文化に魅かれやすい一因でもあるのではないかと、その記事に記された各国の情報が日本の様々なテレビ番組に占める割合を見て思いました。

 残念ながら、そういう地盤がある中だからこそ、頑なに商業捕鯨再開を禁じる欧米諸国相手に説明をするのは難しかったであろうものの、たとえば、日本ではクジラの肉まで余さず利用するのであって、燃料や装飾品に必要な一部だけ取ったらあとは廃棄していた過去の欧米諸国とは、漁の目的や利用法が異なるということや、捕獲の対象となっているクジラが絶滅の危機に瀕している種ではない(そうであることを願っています)ことなどを、欧米諸国をはじめとする世界各国やその国民に、もっと周知徹底してから行えなかったものか、数は急にではなく、もう少し徐々に増やしていけないものかと思うのです。

 商業捕鯨を再開したからと言って、このように短絡的に、すぐに日本はこういう国だと決めつける人の方が、幸いイタリアでは少数派ではあると思うものの、「日本が大好きで、日本語をしっかり勉強して、いつか日本で働きたい」と、12歳で日本語の勉強を始めたわたしの教え子の、ドイツ国籍も持つイタリア人の少年も、商業捕鯨再開については、日本に幻滅しているようでした。文化摩擦や文化衝突というものは、文化や歴史の異なる多くの国が共存する中では、避けて通れないものですが、上述の口コミに見られるような反日とも取れる暴言が、イタリアのごく一部の人のものであることと思い、また願いつつも、日本人のわたしたちもまた、他国の文化や政策、他国の人々について、何か一つのことで悪印象を持ち、偏見を抱いたり、差別的行動に出たりすることなく、敬意を忘れずに、理解しようと努めることが大切ではないかと感じています。人道的に決して許されないこともあります。けれども、人も世の中も、互いに異なっているからこそ、より豊かになるのだと、自らの文化やその習慣、考え方とは違う他文化を、誤った矯正するべきものではなく、学び合って、互いに豊かにし合っていけるものと、皆が思うような、そういう社会になっていくことを願っています。

Articolo scritto da Naoko Ishii

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Commented by PochiPochi-2-s at 2019-07-06 09:54
>人も世の中も、互いに異なっているからこそ、より豊かになるのだと、
>自らの文化やその習慣、考え方とは違う他文化を、誤った矯正する
>べきものではなく、学び合って、互いに豊かにし合っていけるものと、
>皆が思うような、そういう社会になっていくことを願っています。
全く同感です。

の商業捕鯨に関しては難しい問題で何とも言えないですが、
私個人としては何も今更捕鯨を再開しなくてもとも思います。
捕鯨に反対するのなら、沖縄の新基地建設の埋め立てで
生息が危ぶまれているジュゴンを保護するために基地反対を
唱え批判してくれないのだろうかと思いますが。
そういうことは都合が悪いのだろうかと。
Commented by haikutarou at 2019-07-06 10:10
こんにちは
私には未知の国、イタリア事情を実際に歩き、読み、聞きされた事丁寧に記事にされて
更新を楽しみにしている一人です。
今回の「捕鯨再開」には正直言って、私自身も「え、時期尚早では」と思いましたが
他方で、鯨は日本の文化であり再開を強く望んでいる人達も多く居ます。
なおこさまには捕鯨反対の急先鋒(?)である国で片身の狭い思いをされて居るであろうことに申し訳なく思っています。

今は、わが国の捕鯨状態を注意深く見守り、ルール無視の乱獲は絶対許さないという姿勢だと理解していただき
しばらくはわが国の捕鯨再開を一緒に見守りいただくようお願いします。
(なにも私がお願いする事でもない気もしますが)
Commented by 3841arischan at 2019-07-06 12:08
なおこさん、今日の記事を読んで、ショックというよりは、やっぱり~(>_<)
と思う私は、日本のネット記事でも、捕鯨に関するものは、海外からの批判の記事が多く取り上げられてるからだと思います!
文化が違うということ=食べ物に対する感覚も違う
これは、当然の事だと思うのですが、どこの国にも過激な方はいて・・・モチロン、日本にもです!
お互いの良さを認め合いながら、違いにも理解しあえるそんな世の中が来たら良いのに・・・と思います(^^♪
Commented by minoru2703 at 2019-07-06 21:30
食文化に対する非難や批判は全く許せないですね
インドでは牛は神聖な動物だそうですが他国の人たちを責めたりしません
中国や韓国の犬食も欧米人から非難されていますが自分たちこそ肉食やスポーツハンティングやってるくせに・・・
って非難に非難で反論するのはダメでしょうけど
捕鯨や犬食を批判できるのは本当のベジタリアンだけだと思います

話はちょっとずれますけどアメリカでは五大湖周辺でコブハクチョウが増えすぎてアメリカコハクチョウの生態を守るためとのことで何千羽ものコブハクチョウが処分されています
元々愛玩のために輸入してきたのに、人間(特に欧米人)て自分勝手ですなあ
Commented by フィレンツェのユキ at 2019-07-06 22:58 x
日本人の私たちが、どうして鯨を食す文化があるのか、その歴史的な背景を未だに掴めずにいます。
まだ私が小学生だった頃、今からいうと40年ほど前にさかのぼりますが、給食には、牛肉が出てくることは殆どなく、その分クジラ肉というのは、牛肉に比べて安価で、私たちが得ることのできる重要なタンパク源であることを教えてもらった記憶があります。今みたいな霜降りの肉が日常ではなかった頃の事です。さほど好みでもなかったクジラ肉を、給食の中で栄養源としてメニューに組み込んでいた背景には、戦後の貧しさからくるものもあるのかもしれない…なんていうのは、私の勝手な推測ですが、でも、それをひとつの文化として、外の国の人に主張するのには、あまりにも無知な自分たちのことを思います。
また、別の話で、命の尊さを言うのであれば、クジラだけではなく、牛や豚や鳥ですら、同じことではないだろうか?と問いかけをしてみましたが、残念ながら、マスコミに影響された頭では、話にもなりませんでした。
いずれにしても、自分たちの国のこと、その文化を、自分たちがきちんと説明できない以上は、欧米のマスコミによるこういった報道は、ずっと続くのであろうと思ったりします。
Commented by milletti_naoko at 2019-07-07 22:58
PochiPochi-2-sさん、コメントをありがとうございます。

沖縄の基地についても、環境や人権の観点からも、しっかり報道をしてほしいものですね。勝者に都合よく書かれる歴史ではありませんが、国際的ニュースや世論も、つい経済力・政治力のある国や文化圏の意見に傾きがちであることを、今回の件を通して、改めて感じています。
Commented by milletti_naoko at 2019-07-07 23:24
金太郎さん、こんにちは。コメント、温かいコメントをありがとうございます。

やはり、同じ日本の中でも、ニュースを聞いての感想は、みなさん様々なんですね。時期尚早ではないかと、わたしもまずはそう感じました。種の保存を図るための乱獲がないようにというルールがあるのだと知って、ほっとしました。国際ニュースを配信する企業は、欧米諸国の企業が多く、どうしてもその思考や文化のフィルターを通して、欧州のみならず世界にニュースが配信されてしまうことは、単に日本の商業捕鯨再開だけではなく、他のニュースについても言えるので、世界的に反対と言っても、実際には欧米諸国以外の他の国ではどうだろうとも気になり始めたわたしです。
Commented by milletti_naoko at 2019-07-07 23:42
アリスさん、欧米諸国も自らの価値観や文化を押しつけるだけではなく、多文化の慣習や伝統に対する理解を示す姿勢も、時には持つ必要があるのではないかと、今回の件では特に感じています。

コメントをありがとうございます。日本もイタリアも、違いを豊かさだととらえられる社会に近づいていきますようにと、反対の道へと進みそうな時世だからこそ、切に願う今日この頃です。
Commented by milletti_naoko at 2019-07-07 23:51
みのるさん、おっしゃるように世界中が、世界がと言うのは、結局は欧米諸国の道徳観や庶民感情を反映しているのだなと、コメントを拝読して思いました。イタリアではまた、時々ある捕鯨のニュース報道の在り方も、見たのはずいぶん昔ですが、差別・偏見に満ちていて、「野蛮な」という形容詞が使われていたように覚えています。ただ、イタリア自体はまたフランスやイギリスの国際ニュースを配信する企業から情報を得ているはずで、その時点で情報が脚色され、歪んでいる気もします。

人道的な見地で考えると、もっと恐ろしいひどいことが、戦争にせよ移民の見殺しにせよあるのですが、そういう自国や自分かの問題から目を逸らさせようという意図も、一つにはあるかもしれませんね。アメリカの白鳥の処分の話、そら恐ろしいです。そこまで行き着く前に考えて対策を立てることができなかったものでしょうか。
Commented by milletti_naoko at 2019-07-08 00:05
フィレンツェのユキさん、給食にも鯨の肉が使われていた時代と地域があったんですね。わたしも、このニュースをきっかけに、いろいろな方が書かれた記事やニュースを読んで、自分自身が知らないことがたくさんあるなと思いました。同時に、国際ニュースや国際世論は、欧米諸国の考えや風習を反映しやすいのだなということを、改めて感じました。ただその価値観もマスコミや為政者に左右される傾向があるわけで、もっと文化摩擦を避けるために、日本ももっと理解を図る必要がなかったかと思う一方で、欧米諸国の側も、自分たちの考えや文化だけが正しいという考え方を、改めていく時期になっていると感じています。
Commented by tawrajyennu at 2019-07-10 15:23
私も小学校の給食で鯨の肉を食べた世代です。
生姜煮とか、竜田揚げなどが出てきましたね。
いつの間にか豚肉や牛肉、鳥肉に取って代わられましたが・・・
日本人が、くじらを食べるようになったのは、その昔、獣の肉は穢れを嫌う日本人は口にしなかったからとか・・・
海にくらす鯨は、魚という認識で食べられるようになったと聞いたことがあります。
世界には、色々な食文化がありますよね?
犬を食す国もあれば、鳩やうさぎを食す国もありますが、
今の鯨の問題のように国際的に非難されたりというのは、ないように思います。
私たちは、鳩は平和の象徴として・・・そして、犬やうさぎは愛玩動物としてしか見ませんから、
私たちから見れば、それらを食すということのほうが驚きでもあります。
でも、きっと鳩やうさぎを食すようになった背景があるのだと思います。
でも、そのことを国を越えて、鯨の問題のように
非難するということはありませんよね?
捕鯨をするにしても、シロナガスクジラのように、
絶滅の危機に瀕しているものについては、積極的に保護に努めているそうです。
今回の商業捕鯨においても、ミンククジラ、ニタリクジラ、イワシクジラなど資源量が豊富なものを捕獲しているようですね。
乱獲することによって、資源が枯渇してしまうようでは困りますが、
ある民族や国民が自らの特定の動物に対する価値観を他の民族や国民に押しつける行為は許されるべきではないのではないかと思います。
インドでは、牛は神聖なものとして扱われていますが、それだからといって、他の国にも同じようにしなければならないとは、言ってませんよね。
それと同じだと思うのです。
Commented by milletti_naoko at 2019-07-11 15:49
タワラジェンヌさん、欧米諸国は、と言うよりも、政治的・経済的勝者は、歴史的にも自らの価値観や在り方を他者に押しつけてきて、それを当然たと考えて、考慮しない傾向が、残念ながらあるように思います。文化的に遠い国、日本ということで、偏見がさらに入り、また、絶滅の危機にある種ではなく、豊富にある種が捕鯨の対象だという情報も、残念ながらこちらの報道では言及がないのではないかと思います。最近は日本の捕鯨報道についてのテレビニュースを見る機会がなかったのですけれども。
by milletti_naoko | 2019-07-05 23:49 | Giappone - Italia | Comments(12)