2019年 11月 30日
母と娘 写真 アントネッラ・マルツァーノ 俳句・伊訳 石井直子〜イタリア 女性写真展から
アントネッラ・マルツァーノが、この作品、「母と娘」を通して語っているのは、女性同士の親子関係という特別でかけがえのない絆、女性の世界ならではの絆における経験です。モデルは皆、プロではありませんが、本当の母と娘です。作者は、幼少期から老年期まで、年を経て変わりゆく母と娘の関係を描き、写真を通して、愛情や理解、安心感や信頼、親密さといった思いを、見る人に伝えようとしています。

in braccio la bambola,
manca la mamma nel meriggio d’estate

quanto felice con la mamma al lago,
anche il salice non piange ma balla

cresce il verde, cresce la figlia,
e anche la siepe che la separa dalla madre

riflessi sull’acqua i sorrisi
di me e mia figlia ora cresciuta

nostalgia e ricordi ora ci accomunano
nell’autunno della nostra vita
歳を経て変わりゆく母と娘の関係を、それぞれの段階において端的に表現するための1枚を、表情や二人の位置、視線の向く方向、背景となるトラジメーノ湖などを考慮して決め、流れを持たせ、色や被写体との距離などにも変化を与えて、巧みに母と娘二人の人生を、それぞれの感情や絆の在り方と共に、語っているのではないかと思います。

わたしの参考になるようにと、作者が一枚一枚の写真に添えていた言葉を踏まえて、俳句を作りました。「お母さんごっこをして遊ぶ幼年期、無邪気に過ごす少女時代、隔たりが生じる思春期、友達のような関係の成年期、共に思い出をふり返る熟年期。」起承転結の転に当たるのが思春期であることからも、幼年期と少女時代の俳句については「娘」、成年期と熟年期については「母」を語り手とし、思春期については、第三者からの視点で詠むことにしました。
アントネッラ・マルツァーノの写真についてはまた、洋服やトラジメーノ湖の風景に季節感があることもあり、季節が明らかではない句も含めて、すべて季語のある俳句とすることにしました。少女時代の写真の俳句で、柳は春の季語なのでどうしようと迷ったことについては、以前の記事ですでに言及しています。思春期の写真の俳句は、「緑茂る母と娘を分かつ垣根も」ですが、イタリア語訳は直訳すると、「緑が育ち、娘が育ち、娘を母から隔てる垣根も育つ」となります。リズム感を出すために、「育つ」(crescere、cresceは主語が直説法現在の三人称単数のときの活用形)という動詞を、「緑」と「娘」の両方を主語として繰り返しています。

写真展でわたしが俳句を担当した二人のアントネッラが、モデルなど、展覧会のために協力した人を招いての夕食会が今夜あり、わたしも夫と共に参加しました。わたしの右に写っているのが、この記事でご紹介した「母と娘」を撮影した写真家、アントネッラ・マルツァーノで、わたしの左に、「女性が神であったとき」のアントネッラ・ピゼッリがいます。今夜の夕食会について詳しくは、またの機会にご紹介できればと考えています。

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Ecco qui nell'articolo "Madri e Figlie", le opere di Antonella Marzano, tutte le cinque fotografie e i miei haiku composti per esse per la mostra, Donna vede Donna.
MADRI E FIGLIE
Fotografie di Antonella Marzano Haiku e traduzione Naoko Ishii
"Antonella Marzano con Madri e Figlie sviluppa, attraverso cinque scatti, il proprio racconto fotografico sull'esperienza filiale femminile durante questo speciale e unico rapporto che appartiene profondamente al mondo delle donne.
Le modelle non sono delle professioniste ma vere figlie e madri che hanno donato la propria immagine a questo progetto, credendoci.
Affetto, comprensione, complicità, sicurezza, attenzione, protezione, fierezza, intuizione, supporto, confidenza, ... sono caratteristiche e stati d'animo che Antonella vuol trasmettere con sentimento a chi osserva le sue foto.
Modelle:
Matilde Bacuccoli, Iris Gianangeli e Sonia Governatori, Viola Vallone ed Elisabetta Bricca, Giulia De Filippi e Silvia Cardinali, Brunella Marioli e Dina Bonelli
Luoghi:
Mercatello (Marsciano) e Lago Trasimeno (Torricella, San Vito, Passignano s/T, Tuoro s/T)"
↑ citato dal pannello illustrativo della mostra
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- イタリア 女性による女性の写真展、参加するわたしの俳句もご紹介 / Donna vede Donna. L'articolo ampliato con le fotografie anche di altre quattro fotografe e i miei haiku (20/11/2019)
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いいですね!!
季語が生かされて、余韻があって・・・
素晴らしいです。
「季語」と「余韻」が俳句の命です。
散文にすれば原稿用紙一枚は使えそうな情景を
世界最小の17音の誌です。
仲間の皆さんにも喜ばれた事でしょう。
さすがに日本語の先生文法もきちんと押さえて鬼金棒ですね。
私の泣き所は文法です。
ことに、文語の文法はお手上げ状態です。
写真家の作品も、こころあたたまるものばかりで、良い感じです(*^_^*)
日本では、国語の先生だったなおこさんらしい、知性あふれる翻訳も素晴らしいです(^_-)-☆

素敵な写真、そして美しい俳句に惚れ惚れと見入ってしまいました。
俳句、、、今娘が一生懸命勉強しておりますが、本当に日本らしい素敵な産物ですよね。
イタリア語訳も素敵です。
あまりの感動についついコメントをさせて頂きました。
突然で不躾となりましたらお許しくださいませ。
どのお写真も 奥深い感じがして いいですね。
高齢の母娘さんのお写真が 一番印象に残りました。自分と母の姿を重ねているのかもしれません。
母も写真を眺めるのが大好きで よく二人で 昔の写真や
最近のを一緒に眺めて楽しんでいます。
写真と俳句のコラボも いいですね。
写真と相補い合い、写真が伝えようとする心をできるだけ表現できればと考えました。写真家の二人、俳句とイタリア語訳にもですが、ブログやハフポスト日本版の記事での紹介もとても喜んでくれて、わたしの方こそ、写真を紹介する許可を快く与えてもらえて、ありがたいなあと思っています。
文語の文法も、やはり俳句では大切になってくるんですね。楽しく学べる文語文法のような記事もいつか少しずつ書けたらと思うだけは思っているのですが、さていつになることやら。もし金太郎さんが特に苦手とされている助動詞や係り結びなどの文法事項があったら、いつか機会があったときに教えてくださいませ。受験生諸君の助けにもなる記事が、ひょっとしたら書けるかもしれません。古典がとても好きだった上、教え始めた頃に熱心に教えてくださる先輩の先生方に恵まれて、文法のためではなく、作品の心情や情景をより理解して、鑑賞して楽しめるための文法として教えることを学ぶことができましたので、それは外国語としての日本語やイタリア語を教えるときにも応用しているのですが、忘れてしまわないうちに、形にしておくとお役に立つ機会もあるかなと感じています。
Tsugumiさんとnonさんのコメントを拝読して、アントネッラの作品は、心を深いところで揺さぶる力を持っているのだなと、改めて感じました。母と娘の関係にある普遍性のようなものをとらえているので、皆さんご自身の今のお嬢さんやお母さまとの関係を、写真を見ながら、つい重ねさせる、そういう力があるように思います。
本当に、少しでも俳句に興味を持つ方が増えてくれるといいのですが。