イタリア写真草子 ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

第29号「Tu scendi dalle stelle イタリア語のクリスマス・ソング」

 まだクリスマスまでは日があるのですが、イタリアでは、早くもクリスマス用の飾りつけをした店やクリスマス・プレゼントの売り出しを始める店がでてきました。

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Natale a Perugia 29/12/2018

 日本では元旦が最も主要な祝日で、家族で共に祝い、友人や親戚・知人と年賀状を交換しますが、日本の元旦にあたる重要な祝日が、イタリアではクリスマス(Natale)ではないかと思います。家族皆で食事を共にし、家族や友人・知人と贈り物やカードを交換します。日本の年賀状でよく使われるあいさつが「明けましておめでとう(ございます)」や「迎春」、「謹賀新年」であるのに対し、イタリアでクリスマスに贈られるカードで、最もよく使われるあいさつは

 Buon Natale e Felice Anno Nuovo

です。直訳すると、「よいクリスマスと幸せな新年(を送られますよう、お祈りしています)」で、Buon Nataleは、クリスマスのあいさつの決まり文句で、英語で言うとMerry Chiristmasにあたる表現です。

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 Buon Nataleは、クリスマスのお祝いを口で言うときにも使いますが、一方、Felice Anno Nuovoはもっぱらカードに書くのに使われる言葉で、新年のあいさつを口で言うときには、Buon anno「よいお年を」、 Auguri「おめでとう」という言葉が使われます。

 イタリアで歌われるクリスマスの歌で、最も親しまれているものの一つに、『Tu scendi dalle Stelle』という歌があり、イタリアの教会のミサではクリスマスに欠かせない1曲です。

 次のリンク先で、美しい映像や歌詞を見ながら、歌を聞くことができます。イタリア語の歌詞の下には、英訳も添えられています。


 では、歌詞を見てみましょう。まずは歌詞を見ながら2度歌を聴き、そのあとでじっくり歌詞に目を通して、内容を理解しようと努めてみてください。ちなみに( )内に書かれている2 v.は、due volte「2回、2度」を略したもので、該当する行が2度繰り返されることを言ったものです。


1. Tu scendi dalle stelle, o Re del cielo,
 e vieni in una grotta al freddo e al gelo. (2 v.)
 O Bambino mio divino,
 io ti vedo qui a tremar;
 o Dio beato !
 Ah, quanto ti costo l'avermi amato ! (2 v.)


2. A te, che sei del mondo il Creatore,
 mancano panni e fuoco, o mio Signore. (2 v.)
 Caro eletto pargoletto,
 quanto questa povertà
 più m'innamora,
 giacché ti fece amor povero ancora. (2 v.)


 外国語の単語は、文脈や場面の中に位置づけて覚えたり、関連する言葉をいっしょに覚えたりするようにすると、記憶しやすい上に、記憶が長持ちし、思い出しやすくなります。というわけで、関連する言葉をまとめてご紹介します。

・天体に関する言葉
stelle  女性名詞・複数形 (詩的用法、複数形で)「空、天、天国」(単数形はstella、女性名詞で「星」を意味します)
cielo  男性名詞 「空、天、天国」
mondo 男性名詞 「世界、世間、万物、宇宙、天体、地球」

・寒さに関する言葉
freddo  男性名詞 「寒さ」
gelo   男性名詞 「零度あるいはそれ以下の温度、凍りつくような寒さ、氷、凍結」
tremare 自動詞 「(寒さ、恐怖などのために)震える」

 名詞geloから派生した動詞gelareは他動詞で「凍らせる」を意味します。この他動詞の過去分詞gelatoは「凍った」という意味で、そこから、このgelatoという言葉は、「アイスクリーム」を意味する名詞としても使われるようになりました。

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 この歌の中でもそうですが、現在イタリアのカトリック教会で使われる祈りの言葉の中では、神(Dio)イエス・キリスト(Gesù Cristo)に呼びかけるのに、2人称の代名詞として親称のtuを用いています。これが日本の教会だと「天にまします我らが父よ」といった具合に、かなり大仰な敬語を使って呼びかけていますので、文化・言語による違いに興味深いものがあります。夫に言わせると、以前は神にvoiを使って呼びかけていて、今でもそう呼びかける人もいるということですが、とにかく敬称のLeiは使われていません。神が自分たちの「父」にあたる身近な存在だととらえているからでしょうか。

 まず、1番の歌詞から見ていきましょう。

1. Tu scendi dalle stelle, o Re del cielo,
 e vieni in una grotta al freddo e al gelo. (2 v.)
 O Bambino mio divino,
 io ti vedo qui a tremar;
 o Dio beato !
 Ah, quanto ti costò l'avermi amato ! (2 v.)

「あなたは空から(地上に)降りて来る、おお、天主よ
 そして、凍りつくような寒さの岩屋の中へとやって来る(繰り返し)
 おお、我が神の御子よ、
 私にはあなたがここで(寒さに)震えるのが見える
 おお、至福の神よ!
 ああ、私を愛したために、どんなに大きな代償を払われたことか!(繰り返し)」
                                                                         (石井訳。以下の「 」内も同様。)

 grottaは、水の浸食作用などによって岩に形成される洞窟で、小学館の『伊和中辞典』には「洞窟、ほら穴、岩屋」という定義があります。カプリ島の「青の洞窟」は、イタリア語ではgrotta azzurraと言います。

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 では、2番の歌詞を見てみましょう。

2. A te, che sei del mondo il Creatore,
  mancano panni e fuoco, o mio Signore. (2 v.)
  Caro eletto pargoletto,
  quanto questa povertà
  più m'innamora,
  giacché ti fece amor povero ancora. (2 v.)

「万物の創造主であるあなたに
(体を温める)衣服と火が不足している、おお、我が主よ(繰り返し)
 親愛なる、選ばれた御子よ、
 どんなにこの貧しさが
 私の抱く愛をますます大きなものにすることか
 あなたが愛のために自らを一層貧しいものとしたから(繰り返し)」

 1行目は本当は「A te, che sei il Creatore del mondo」と言うべきところを語順が転倒していますが、これは1行目と2行目で-oreと脚韻を踏ませるためだと思われます。1番の歌詞でも、1行目と2行目の最後の言葉がcieloと geloで、-eloという音が繰り返され、脚韻がありますから。

 giacchéは「~から、~ので」という意味の理由を説明する接続詞なのですが、古い小説や妙に難しい文章や話の中に出てくるくらいで、ふだんはあまり使われません。

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 歌詞をすべて知りたいという方は、こちらのページをご覧ください。歌はかなり長いのですが、よく聞いたり歌ったりするのは2番までです。

 この歌を作ったのはAlfonso Maria de' Liguori (1696-1787)です。カトリック教の司教(vescovo)、作曲家(compositore)で、1839年にカトリック教会から聖人と認められました。

 イタリアでクリスマス・ソングのアルバムを買うと、日本でもよく知られる英語の歌といっしょに必ず入っている定番の歌です。時間があれば、意味を確認しながら何度も聴いて、自分でも歌えるようにしてみてください。

 私たち夫婦がよく見るテレビ番組の一つに、RAI3のChe tempo che faがあります。司会者Fabio Fazioが各分野で有名な人物を招いてインタビュー(intervista)をするのですが、先週はAndrea Bocelliもゲストとして招かれていました。Andrea Bocelliは、最新のアルバム、『My Chiristmas』の録音に関わるエピソードを語り、中から何曲か披露したあとで、「自分が一番好きなクリスマスの歌は、『Tu scendi dalle Stelle』です。」と言っていました。

 さて、このAndrea Bocelliのアルバム、『My Christmas』に収録された歌の多くは、私たちもよく知っている英語のクリスマス・ソングです。Natalie Coleやセサミ・ストリートの人形たちなど、豪華な(?)メンバーと競演している曲もたくさんあります。残念ながら、イタリア語の歌は、版によって数が違いますが、4曲あるいは5曲しかなく、他にラテン語の歌などもあります。ただし、7番目のラテン語の歌、Adeste Fidelisはイタリアの教会でもよく歌われます。そして、クリスマスが近くなると日本の街中やテレビの中で英語のクリスマス・ソングが流れるように、White ChristamsやJingle Bellsといった代表的な英語のクリスマス・ソングはイタリアでもあちこちで耳にします。

 Bocelliの歌声がすばらしく、私たちも知っている曲が多いので、自分やイタリア語・英語を学習している友人への、すてきなクリスマスの贈り物になると思います。クリスマスの精神というのは、キリストの誕生を祝いながら、皆が互いを温かく思いやりあうことだと思うのですが、なだらかな調べに乗った美しい歌声を聴いていると、自然と落ち着いた優しい気持ちになり、自分にも他人にもより寛大になれる、そんな「心境」に近づける気がします。

 今回説明した『Tu scendi dalle Stelle』の歌が収録されているのは次のアルバムで、発売予定は12月7日ですが、今から予約が可能です。(追記: 2019年の現在では、もちろんすでに販売されています。)

Andrea Bocelli、『My Christmas』

 同じアメリカからの輸入版で、日本ですでに購入可能なものもありますが、そちらには『Tu scendi dalle Stelle』が含まれていませんから、ご注意ください。(追記: 残念ながら、2019年現在では、この歌が含まれない『My Christmas』は新品が売られているのに、含んでいるCDは中古しか見つからないようです。)ちなみに、アマゾンイタリアのサイトでは、『Tu scendi dalle Stelle』の歌がない版のすべての歌を試聴することもできます。(他の曲はほとんど共通ですから、参考にしてください。)試聴するためには、曲名あるいはその前にある数字をクリックしてください。聞いてみると分かるのですが、2・8番の歌は題が英語やドイツ語であるのに、歌はイタリア語に訳したものが(ですから、当然イタリア語で)歌われています。

Amazon.it - Andrea Bocelli - “My Christmas”

 Che tempo che faのインタビューでは、Bocelliが、「暑い時期にアルバムの作成を始めたのだけれども、部屋の温度を低温に保ち、あちこちにクリスマスの飾りつけを施して、クリスマスの気分を味わえる中で録音作業を続けた」と語っていました。

 夫に言わせると、イタリアでは、子供にとって最大の楽しみが「誕生日」ではなく「クリスマス」で、だから一番豪華なプレゼントはクリスマスに贈るものだということです。イタリアで子供たちがプレゼントを受け取れる日としては、他にも復活祭(Pasqua)があり、おまけのおもちゃ入りの卵形のチョコレートを楽しみにしているのですが、誕生日に加えて、「お年玉」、「子供の日」、「クリスマス」に期待できる日本の子供に比べると、楽しみにできる日がイタリアでは限られているようです。姪っ子たちも、去年は、クリスマスのプレゼントを受け取って包装紙を開いた瞬間から、「次のクリスマスが早く来たらいいのに」なんて言っていました。

 では、また。日本の皆さんは年賀状の作成に取りかかられた頃でしょうか。私たちも様々な人へのクリスマス・プレゼントを選ぶために、いろいろな店を訪ねてみようと考えています。間際になって慌てずにすむように、前もって少しずつ計画的に取り組まなければ、と思うのですが、「思う」だけでなく「実行に移さ」なければ。


Articolo scritto da Naoko Ishii

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ブログテーマ:見てるだけで幸せ。お気に入りのイルミネーションショット!
by milletti_naoko | 2009-11-29 02:13 | Film, Libri & Musica | Comments(0)