2010年 06月 11日
第46号「ひなげしとガチョウの恋の歌、『Papaveri e Papere』(Nilla Pizzi)」
今回ご紹介する歌は、ヒナゲシとうら若いガチョウのほほえましくも悲しい恋物語です。題名では共に複数形となっていますが、歌の中では、ヒロインの若い雌ガチョウ(papera)は1羽だけですし、恋の相手となるヒナゲシ(papavero)も1輪です。
まずは、次のリンク先から、歌を聞いてみてください。古い歌ですが、歌声が美しく、心地よい調べの歌です。
上記の映像は、子供用に歌の内容をアニメ化したものです。映像の助けなしに、またアニメのための効果音抜きで歌を純粋に楽しみたいという方は、こちらをお聴きください。
次のリンク先に、歌詞があります。
- Canzoncine.it - Papaveri e papere - Nilla Pizzi | Testo della canzone e video
では、恋物語を追いながら、少しずつ歌の内容を見てみましょう。まずは冒頭から。
Su un campo di grano che dirvi non so
un dì Paperina col babbo passò
e vide degli alti papaveri al sole brillar...
e lì s'incantò.
granoは「小麦」、campoは「畑」ですから、campo di granoは「麦畑」です。
Paperinaは、この歌のヒロイン。若い雌ガチョウを意味するpapera という単語に、さらに縮小接尾辞の-inaがついていますので、この雌ガチョウの若さ、あどけなさが強調されています。
babboは「パパ、お父さん」。父親を呼ぶ際の表現で、母親を呼ぶmamma「ママ、お母さん」の対義語になります。ちなみに、母親のmammaはイタリア全国共通のようですが、父親の呼称の方は、地域や家庭によって、babboだったり、papàだったりします。ちなみに、ペルージャにある我が家や地域の友人の家族では、ほとんどの場合、自分の父親をbabboと呼んでいて、papàと呼ぶ家庭は、ごく少数です。
イタリア語では、「サンタ・クロース」をBabbo Nataleと呼ぶことを覚えていらっしゃる方もいらっしゃることでしょう。
では、訳してみます。
「どことは知れぬ麦畑を
ある日うら若い雌ガチョウが父親と通っていて、
背の高いヒナゲシたちが日なたに一際美しく咲くのを見て、
心を奪われた。」(「 」内は、石井訳。以下も同様。)
こうして恋に落ちた雌ガチョウは、父親に、どうすればヒナゲシをとりこにできるかと尋ねますが、父親は、「無理な話だ。人生そんなものだよ。(così è la vita)」と答えます。この部分の最初の3行を見てみましょう。
La papera al papero disse:
"Papà, pappare i papaveri come si fa?"
"Non puoi tu pappare i papaveri" disse Papà.
(実際はこう歌っているのですが、先にリンクを紹介した歌詞では言葉が一部異なっています。)
歌詞の地の文(第1節の2行目)では、父親をbabboという言葉で書き表していますが、ヒロインの雌ガチョウ自身は、父親をpapàと呼んでいます。pappareは、本来「平らげる」とか「(不当な利益を)着服する」という意味ですが、ここでは、「とりこにする」とか「心を射止める」ととらえたほうがいいでしょう。あえて、この単語を使ったのは、pap-やpapp-という頭韻を繰り返して、リズムを出し、言葉の響きが楽しい歌にするためだと思います。
そうして、この歌のリフレインとして繰り返される、次の4行が続きます。
"Lo sai che i papaveri son alti, alti, alti,
e tu sei piccolina, e tu sei piccolina,
lo sai che i papaveri son alti, alti, alti,
sei nata paperina, che cosa ci vuoi far..."
sai は、動詞sapere「~を知っている」の直説法現在で、主語がtu(二人称親称、単数)のときの活用形です。ここで、「知っている」内容は、接続詞che (英語のthatに相当)に導かれています。
1行目のsonは、sono(動詞essere、主語が三人称複数)の語尾-oが、語呂をよくするために省略されています。
では、訳してみますね。
「ヒナゲシは、背がとても高いってことは、おまえも知っているだろう。
それにひきかえ、おまえはとても小さい。とても小さい。
ヒナゲシは、背がとても高いってことは、知っているだろう。
おまえは小さい雌ガチョウとして生まれたんだ。どうしようにも仕方がない。」
一方、ヒナゲシもこの雌ガチョウに恋をし、母親に相談しますが、まともに取り合ってもらえません。
けれど、二人の恋はやがて結ばれることになります。次の4行を見てください。
E un giorno di maggio che dirvi non so,
avvenne poi quello che ognuno pensò
Papavero attese la Papera al chiaro lunar...
e poi la sposò.
「いつとは知れぬ、5月のある日、
だれもが思ったとおりのことが実現した。
ヒナゲシがこの雌ガチョウを月明かりのもとで待ち受け、
そして、彼女と結婚した。」
ところが、この幸せは、長くは続きません。
Ma questo romanzo ben poco durò:
poi venne la falce che il grano taglio,
e un colpo di vento i papaveri in alto portò.
Così Papaverino se n'è andato,
lasciando Paperina impaperata...
「けれども、この恋物語は、ごくわずかな期間しか続かなかった。
麦畑に鎌が現れて、麦を刈り取り、
突風が(鎌に刈られた)ヒナゲシを空高く吹き上げた。
こうして、ヒナゲシは天に召されてしまった。
啞然とする雌ガチョウを後に残して...」
結びは悲しいのですが、サビにあたるリフレインの部分が楽しく、リズムも軽やかで口になじみやすい歌です。何年か前に、イタリアのコマーシャルで、サビの部分が歌われていたので、こちらにお住まいの方の中には、聞き覚えのある方がおいでかもしれません。
1952年のサンレモ音楽祭で2位となった古い歌で、昔の歌らしく、言葉がはっきりとのびやかに発音されているので、イタリア語の学習にも役立ちます。
ぜひ、文字を追いながら何度も歌を聴いたり、いっしょに声を出して、歌ったりしてみてください。イタリア語の語彙だけでなく、リズム感やイントネーションを、楽しみながら身につけることができるはずです。
(*2020年4月追記: この歌のいいカラオケ映像が見つかったので、ご紹介します。ヒナゲシの花など映像も美しいので、歌詞と画像を見ながら、いっしょに歌ってみましょう。)
かつてサンレモ音楽祭で心に残る美しい歌を国民に贈り続けたニッラ・ピッツィ(Nilla Pizzi)の歌声が気に入ったという方には、次のCDをおすすめします。収録された歌や値段を見ると、名歌がそろっていてお買い得なのがこちらです。
・Amazon.co.jp - I Successi di Nilla Pizzi (訳すと、「ニッラ・ピッツィのヒット曲」、16曲収録)
このアマゾンのページでは、収録された16曲すべてについて、一部を試聴することが可能です。
歌のメロディーや歌声が美しい上に、歌詞が分かりやすく、聞き取りやすいので、イタリア語の学習にも、特に初心者の方にはとても役立ちます。もちろん、中・上級者の方にもおすすめです。
おわりに
ヒナゲシ、野生のアスパラガスなど、初夏のイタリアで見られる自然の植物については、ブログの次の記事に、写真や随想と共に書いてありますので、興味のある方はぜひご覧ください。
・「初夏の恵みを味わう散歩 ~ヒナゲシとアスパラガス」
・「雨の日の散歩 ~ ミジャーナからサン・ピエートロまで」
ここペルージャでは、最近太陽の照りつける暑い毎日が続いているのですが、日本では梅雨の時期に入って、雨のために家で過ごす方が多いかもしれません。「晴耕雨読」で、雨の日には何か読もうという方は、次の最近のブログ記事の中で、興味のあるものがあれば、ぜひご覧ください。メルマガと違って写真もたくさんありますので、眺めて楽しむこともできるかと思います。
《特選記事・第二弾》 ~ ブログ、『ペルージャ発 なおこの絵日記』から
《時事問題》
・「食の安全と酪農の危機」
(この問題を扱ったテレビ番組、『ANNOZERO』の映像へのリンクがあり、番組の内容を説明していますので、中・上級者の方には、リスニングの教材にもなります。)
《観光情報》
・「ミニメトロでペルージャ満喫」
・「ピザ屋、Il Vecchio Mulino(トゥウォーロ)
・「春のエルバ島 1日目(ペルージャからエルバ島へ)」
《日々の出来事》
・「大学はきらいです」?
・「コルチャーノ合唱祭 ~名画と名唱を楽しむ夕べ」
・「和伊折衷の誕生祝い」
最近は、暑い日が続いて、畑のソラマメも生で食べるには固くなってしまったため、インターネットや料理の本で見つけたレシピを使って、いろんなソラマメ料理を作っています。エルバ島のある店で食べたソラマメを使ったパスタがおいしかったので、今日の昼食には、自分なりに工夫して、その味を再現しようとしたら、思いがけずとてもおいしくできて、夫もそれは喜んでくれました。仕上がりの予測もできず、写真も撮らなかったのですが、今度もし機会があれば、写真に撮って、レシピをブログに載せるつもりでいます。
とは言え、もうソラマメ(fava、複数形はfave)の季節は終わってしまったのかもしれません。
ご愛読ありがとうございます。では、また再来週、お会いしましょう。
*追記(2020年4月17日)
ヤフージオシティーズのサービス終了のため、現在、イタリア語学習メルマガのバックナンバーを、このブログに移行中です。すでにブログに収録済みのメルマガ一覧は、タグ、「イタリア語学習メルマガ バックナンバー」(リンクはこちら)からご覧になれます。
イタリアらしい風景を拝見し、ガチョウの楽しい歌を聴いて明るい気分になりました。