2009年 08月 28日
第19号(2)「ベニーニ被災地訪問 後編、カプリ 青の洞窟の汚染疑惑解消」
学習教材として引用している記事は以下のとおりです。
Benigni tra i terremotati di Onna
Le promesse vengano mantenute (Corriere della sera, 17 agosto 2009)
http://www.corriere.it/cronache/09_agosto_16/benigni_onna_04cfb91e-8a7b-11de-b377-00144f02aabc.shtml
1.ベニーニの被災地訪問 後編
ベニーニは、アブルッツォ訪問をコッピト(Coppito)でのショーで締めくくりました。舞台に登場したときの様子を読んでみましょう。ここでも過去を語るのに現在形を使う歴史的現在(presente storico)が使われています。
“Accolto da più di mille persone, mentre altre ottocento lo seguono su un maxischermo nella palestra adiacente, l'attore entra in sala saltellando sulle poltrone della prima fila e lanciando fiori al pubblico: ≪Mi verrebbe voglia di saltarvi addosso - esordisce -, di prendere il primo che capita e baciarlo sulla bocca. Anche le pietre di questa città bacerei≫. ”
「千人以上の人々に迎えられ、さらに800人が隣接する体育館の巨大スクリーンで見守る中、俳優は最前列の正面特別席の上を跳びはねながら、そして、聴衆に花を投げながら、ホールに入場し、『皆さんのごく間近であいさつをし、最初に行き当たった人を選んで、その口に口づけをしたい気分です。この町の石にだって口づけできます。』と口を開いた。」
さて、いよいよ十八番の、ベルルスコーニの風刺が始まります。 この部分はリンク先の記事上にあるニュース映像でも聞くことができます。 (*追記: 2020年4月では記事から消えている映像へのリンクは、見つかり次第添える予定でいます。)
“≪Berlusconi è come l'Italia: giusto o no che sia, è il mio Paese. Sbagliato o sbagliato che sia, è il mio presidente. Ma non vi preoccupate, perché manterrà le promesse: io e Bertolaso siamo andati a trovarlo, vestiti di nero e con poco trucco, come piace a lui, e glielo abbiamo raccomandato≫.”
「『ベルルスコーニはイタリアと同じです。正しかろうと正しくなかろうと、(イタリアは)私の国です。間違っていようと間違っていようと、(ベルルスコーニは)私の首相です。でも、心配しないでください、ベルルスコーニは約束を守るでしょうから。私はベルトラーゾと一緒に、ベルルスコーニが好きなように、黒い服に身を包み、化粧をあまりしないで、ベルルスコーニに会いに行きました。そうして、彼に約束を守るように十分に言っておきましたから。』」
ニュース映像では、ベニーニが“ Sbagliato o sbagliato che sia”(間違っていようと間違っていようと)と言った途端、聴衆が大笑いする様子を見ることができます。“ Non vi preoccupate! ”は「心配しないでください。」と、複数の人に呼びかけるときの言い方です。相手が一人で親しい相手(tuで呼ぶ間柄の人)なら“ Non ti preoccupare! ” (あるいは“ Non preoccuparti! ”)、よく知らない人や目上の方(Lei)の場合は“ Non si preoccupi. ”と言います。上記の三つ(四つ)の表現は、代名動詞 preoccuparsi「心配する」の否定命令文(imperativo negativo) です。皆さんがイタリアを旅行中に、誰かからこう言って励まされることがあるかもしれません。
“vestiti di nero e con poco trucco, come piace a lui, ” (ベルルスコーニが好きなように、黒い服に身を包み、化粧をあまりしないで、)とあるのは、最近、首相が複数の若い女性と私邸で関係を持ったという疑いを受け、そのニュース報道の中で、「黒服と薄化粧が首相の好みだ」という発言をする人がいたからです。
「私は~が好きです」というのをイタリア語では“Mi piace/Mi piacciono ... ”と言います。この表現では、「好きなもの自体」が主語になりますので、気をつけてください。動詞の形は「好きなもの」が単数であればpiace、複数であればpiaccionoとなります。たとえば、イタリアを旅行中に、(1)「私はアイスクリームが好きです。」、(2)「私はスパゲッティが好きです。」と言うのにも使うことができます。それぞれ何と言えばいいか考えてみてください。
答えは、「(1) Mi piace il gelato. (2) Mi piacciono gli spaghetti.」です。動詞を使って、“Mi piace studiare l’italiano.”(私はイタリア語を勉強するのが好きです。)と言うこともできます。皆さんが好きなものやことをイタリア語で書き出してみてください。いつか旅行先やメールの中で、役に立つ日が来ることと思います。
ニュース映像をよく聞かれるとお分かりになると思うのですが、記事に引用されているベニーニの言葉には、実際に彼が言った言葉を省略したり要約したりしているものもあります。
記事の最終部を読んでみましょう。
“Per chiudere, Benigni ha recitato il monologo di Ulisse, citando il XXXIV canto della Divina Commedia: ≪Spero di tornare quando la ricostruzione sarà avvenuta, per gioire con voi e andare tutti insieme a riveder le stelle≫.”
「締めくくりにあたって、ベニーニは、ユリシーズの独白を暗誦し、『神曲』の第34章を引用した。『復興が実現したときに、皆さんと喜びを分かち会い、皆でいっしょに星を再び見に行くために、(ラクイラに)戻りたいと思っています。』」
最後に、Benigniという姓の発音について。ニュース映像のアナウンサーの発音を注意して聞かれると、イタリア語の発音は「ベニーニ」より、むしろ「ベニンニ」に近いものであることがお分かりかと思います。このgniのgnにあたる子音は舌を口蓋にべったりつけて発音する子音で(この子音の発音記号は、文字化けするためメルマガには書けません)、舌先を歯茎にあてて発音する子音のnとは異なる音です。
*2020年4月追記:ブログへの掲載にあたって、ペルージャ外国人大学に通っていた頃のFonetica e fonologia della lingua italiana(イタリア語音声学・音韻論)の授業のわたしのノートの写真を添えました。右手にオレンジ色のまるで囲んであるのが、gnの発音を表す発音記号で、イタリア語のgnとgli(写真中、発音記号をオレンジ色の四角で囲んであります)は、いずれも、オレンジの大きなまるで囲んだ図に見えるように、下の中央を盛り上げ、口蓋(口の天井)にべったりとくっつけて発音する子音です。ただし、gnは息を鼻から出して発音する鼻音(nasale)であるのに対し、gliは息を舌の両脇から出して発音する側音(laterale)です。(追記はここまで)
標準イタリア語では、このgnの子音は、母音に挟まれると長さが二重になります。bagno(トイレ、風呂、入浴)、insegnante(教師)などの単語に含まれる gnもこれと同じです。ただし、イタリア北部では二重子音を単独の子音として発音する(たとえば[ss]を[s]、[tt]を[t]と発音する)傾向があり、Benigniのgnの子音も単音で発音しがちであり、そうするとgn直前のiはアクセントが置かれている母音である上に単子音の前にあるため倍の長さに発音され、カタカナ表記の「ベニーニ」に近い発音となります。日本語で「ベニーニ」と表記するのが、アカデミー賞を受けてから日本で知られるようになったためアメリカでの発音を取り入れたからか、それともイタリア北部の発音を取り入れたからかは分かりません。
イタリア北部は、ミラノやトリノなど経済・産業にとって重要な都市が多く、南部に比べて経済的に豊かであるため、同じ郷土色のある発音や表現でも、北部のものの方が南部のものよりもよりよいものとしてイタリア人全般に受け入れられやすいという傾向があります。たとえば疑問文で「何を/何が」と聞くのに、本来の標準イタリア語で正しいとされてきたのはche cosaという表現です。“Che cosa c'è?”(「何があるの?」、「どうしたんだい。」)と使うこのche cosaの代わりに、話し言葉では従来北部ではcosaを(たとえば、“Cosa c'è?”)、南部ではcheを(たとえば“Che c’è?”)使っていました。テレビの普及やイタリア南部から中部・北部への移民、イタリア人の国内旅行などを通して、近年では、イタリア各地の話し言葉で‘che cosa’, ‘cosa’, 'che’の三つが使い分けられるようになったのですが、意識調査をすると「‘che’を使うよりも‘cosa’を使う方が好ましい」という回答が北部出身者だけでなく、南部出身者からも返ってくるという結果が出ています。
イタリアでは、ベニーニ・ベルルスコーニに限らず、歌手や政治家など様々な人々が被災地を訪れたり、またアブルッツォ復興の支援金を集めたりしています。逆境に負けぬ被災地の方も、また自分にできる形で支援をしようとする人々もすばらしいと思うのですが、復興に際してマフィアや政治家などが利権を求めて介入し、町の再建が滞ることのないよう、また、今度こそ地震に耐え得る住宅や施設が建築されるよう祈るばかりです。
2.カプリ、青の洞窟の汚染疑惑解消
私はテレビのニュースはRAI2の8時半からのものを見ることが多いです。(RAI3のニュースの方が好きなのですが、夕方の放送が7時からで、夕食を準備する時間帯と重なっているので見られません。)
カプリの青の洞窟は日本からも訪れる方の多い観光名所ですが、25日の晩のニュースで「夕方、洞窟付近の海面に異臭があり、気分が悪くなった客もいたため、協議の結果、水質検査の結果が出るまで、青の洞窟を閉鎖することになった」と言っていたのでびっくりしました。昨晩、27日になって、ようやく「検査結果で水質に問題がないことが分かったため、青の洞窟の観光が再開された」と言っていました。今のところ、この青の洞窟の汚染に、マフィアなどの犯罪組織は関与していないらしいのですが、また新しい情報が入ったらお知らせしたいと思います。
La Repubblicaの関連記事へのリンクを張っておきますので、興味のある方はお読みください。
Capri, i sindaci gridano al complotto.
Grotta Azzurra, la pista degli scarichi di cloro. Lembo: sabotaggio (25 agosto 2009)
http://napoli.repubblica.it/dettaglio/capri-i-sindaci-gridano-al-complotto/1703883
Riapre la Grotta azzurra.
Le analisi: l’acqua è pulita (27 agosto 2009)
http://www.repubblica.it/2009/08/sezioni/ambiente/grotta-azzurra-chiusa/grotta-azzurra-aperta/grotta-azzurra-aperta.html
長くなりましたので、「ダンテとイタリア語」については、次の機会に触れたいと思います。
では、また。イタリア語の学習、頑張ってくださいね。