イタリア写真草子 ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

第100号(1)「望めばかなう、便利な補助動詞 potere 入門・初級編 & 中級・上級編」

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 イタリア語学習メルマガ第100号「望めばかなう、便利な補助動詞potere、日焼け~日本語、イタリア語」  (2015年8月31日発行)を、エキサイトブログ 記事の字数制限があるため、分割して掲載しています。


はじめに 「心から望めばかなう ~Volere è potere」


 皆さん、こんにちは。いかがお過ごしですか。猛暑・雷雨と波乱含みだったイタリアの夏も、少しずつ終わりに近づいて、もうあちこちで、秋咲きの自生のシクラメン(ciclamino selvatico)が咲き始めました。

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 うちの庭に今咲いている花は、ブログの記事、「秋の足音」に、花のイタリア語名を添えて載せています。興味があれば、ご覧ください。リンクはこちらです。 

 今回は記念すべき第100号、そうして、夏休みも終わって一区切りつき、「学習の秋」、「実りの秋」に向けて、イタリア語をしっかり勉強しようと改めて感じられている方も多いことと思い、「やればできる」、「できる」に焦点をあて、英語の助動詞canにあたるイタリア語の補助動詞、POTERE(意味は「…できる」)を見て行きましょう。

  本題に入る前に、今回は「やればできる」を主題に、わたしも愛用していて、入門から上級まで使える小学館の『伊和中辞典』 から、自らに何度も言い聞かせたいことわざを、いくつかご紹介します。

Volere è potere. 意志は力なり。
・ A chi vuole nulla è impossibile. 本気でやる気のある者には不可能なことは何もない。
Chi vuole, ottiene. 一念岩をも通す。
・ Chi la dura la vince. 辛抱するものが結局は勝つ(石の上にも三年) 

 volereはご存じの方が多いことでしょう。volere+名詞で「…がほしい」、volere+動詞の不定形で「…したい」という意味を表します。二つ目、三つ目には、いずれもchi vuoleという表現があります。vuoleは、volereの直説法現在で、主語が三人称単数の場合の活用形です。chiは関係代名詞で、「…する(ところの)人が/人を)」という意味ですから、chi vuoleは「(心から、本気で)望む人」という意味になります。同じ用法のchiは、四つ目のことわざにも登場します。

 一つ目と三つ目のことわざについては、辞書の訳が意訳になっていますが、直訳はそれぞれ、「本当に望むことは、できることにつながる。」(心から望めば、実現する)、「望む人は、手に入れる」です。本当に心から望み願うのであれば、行動が伴うはずで、熱心に目標に向かって進めば、必ずできるようになるということでしょう。

 日本語で江戸時代の武士が言ったという「為せば成る、為さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり」に相通ずるものがあります。「やればできるのであって、できないのは、人が努力をしないからだ」、というのはつまり、「努力へと動いていくだけの意志、やる気に欠けるからだ」ということでしょう。

 夏休みをふり返り、フランス語を怠けていると反省しているわたしです。皆さん、以上のことわざを心に刻みつつ、お互いに、イタリア語、フランス語などの学習に励みましょう。



1. 旅行でもお役立ち 補助動詞 potere 入門・初級編 & 中級・上級編


 potereは、イタリアの日常生活でも旅行でも、よく使えるとても便利な補助動詞です。今回は、入門・初級の方向けには、「…してもいいですか」と許可を尋ねる用法を中心にお話します。中級・上級の方には、よりていねいに頼む方法や、可能性を表す表現(…かもしれない)と、どういう場ではどういう法や時制を用いるのが適切か、そして、法や時制によって、ニュアンスや可能性の度合いがどう違ってくるのかをご説明します。


《入門・初級編》

*Posso/Possiamo ...? ~してもいいですか。

 「~できる」を表す補助動詞には、イタリア語ではほかにsapereもあって、この二つの使い分けも大切なのですが、この使い分けと、potereの活用の詳細は、後で説明するとして、まずは入門者の皆さんにもすぐに使える表現から、ご紹介します。

 1. Posso entrare?
 2. Posso provare queste scarpe?
 3. Posso assaggiare?
 4. Posso pagare con la carta di credito?
 5. Possiamo entrare?

 意味はお分かりですか。それぞれ、

1.と5.は「入ってもいいですか。」、2.「この靴を試着してもいいですか。」、3.「試食(試飲)してもいいですか。」、4.「クレジットカードで支払えますか?」という意味です。 

 入門者の方、possoは、補助動詞potere直説法現在の、主語がio、わたしのときの活用形です。ですから、Posso... で、「わたしは…できます。…してもいい。」という意味になります。英語と違って、イタリア語ではpossoという活用形は、主語がioのときしか使いません。ですから、よっぽど「わたしが」ということを強調したい場合を除いては、主語のioはわざわざ使わないのが普通です。

 イタリア語学習の入門者には、動詞の活用に自信がないこともあって、動詞の活用から主語が明らかに自分(io)だと分かるので、イタリア語ではふつう主語を明示しない文でも、やたらにIoで始めてしまう傾向があるそうで、その傾向は特に、英語やフランス語など、文が必ず主語を必要とする言語の母語話者に多いそうです。皆さんも、あえて「わたしが、わたしは」と強調する必要のないときに、むやみに"Io..."と言ってしまっていないか、気をつけてみてください。

 そうして、イタリア語では、"Posso entrare."「わたしは入ることができる。入ることを許可されている。」という文を疑問文にするには、単に文末に疑問符をつけて、イントネーションを変え、語尾を高めに発音するだけでいいのです。

 ですから、「Posso+動詞の不定形…?」で、「(わたしは)…してもいいですか。」という許可を求める表現になり、posso以下の動詞表現さえ変えれば、生活・旅行のさまざまな場面で、使うことができます。

 ちなみに5.は、自分ひとりだけではなく、他にも連れがいるときに、「わたしたち、入ってもいいですか?」と尋ねるときの表現です。というのも、possiamoは、potereの直説法現在で、主語が一人称複数、NOI「わたしたち」の場合の活用形だからです。

 いずれも、店(negozio)や、家(casa)、市場(mercato)など、生活や旅行のさまざまな場面で使える便利な表現です。「いいですよ」とOKしてくれる場合には、相手は、"Sì, prego."「ええ、どうぞ。」などと答えてくれるはずです。

 ちなみに、potereおよび1. の"Posso entrare? "については、ブログでもたびたび紹介している、仏ラルース社のオンライン伊英辞典の次のページで、発音を聴いて、練習することができます。単語や文の左手にある音声スピーカマークをクリックするだけです。potereは辞書の項ですから1行目、Posso entrare?は、語義2.の一つ目の例文となっています。リンクは次のとおりです。

- LAROUSSE - DICTIONNAIRE ITALIEN-ANGLAIS - POTERE

 もちろん、この辞書で、発音が気になる単語がある場合は、その語を入れて検索すると、発音を聴いて、練習することができます。

 ラルースのオンライン辞書サイトは、ほかにも仏仏辞典やさまざまな欧州主要言語間の2か国語辞典など、多くの辞書が無料で利用できる上、発音も聴くことができます。フランスの歴史ある百科事典やその他多くの辞書を出版している会社なので、情報も確かです。この便利なオンライン辞書について興味のある方は、次のブログ記事に詳細がありますので、ご覧ください。

仏伊・多言語辞書サイト   

*記事が参考になりましたら、記事末の二つのブログランキングへの応援クリックをいただけると、うれしいです。

 さあ、ここで、補助動詞potereの直説法現在の活用形を押さえておきましょう。

 三つ列があるうち、左端が直説現在(indicativo presente)の活用です。後の二つの時制については、後で用法を説明します。

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 これまでは、主語が一人称(io / noi)の場合を見てきましたが、今度は、主語が二人称(tu / Lei / voi)で、「~してもいいですよ。」と許可を表す用法を見て行きましょう。

 6. Può entrare.
 7. Può assaggiare.
 8. Potete entrare.
 9. Potete assaggiare.

 6.と7.では主語である二人称敬称のLeiが省略されています。6.と8.は「入ってもいいですよ。」、7.と9.は、「試食(試飲)をしてもいいですよ。」という意味です。ただし、8と9は活用からお分かりのように、相手が複数の場合に使う表現です。

 たとえば、開店前にレストラン(ristorante)に着いて、店の前で待っているとき、大学の先生や職場の上司の部屋のドアをノックしたときに、中の人が、6・7のように言ってくれたら、入ってもいいということです。そうして、市場やお祭り、デパートの食品売り場で、店の人が、7や9のように言ってくれたら、「味見をしてもいいですよ」と勧めてくれているのです。


《中級・上級編》

*「できる」~sapereとpotereの違い

 イタリア語で「~できる」という意味をを表す補助動詞にはsaperepotereの二つがあります。同じように、「わたしは泳ぐことができる。」と言うのでも、状況によって、使う補助動詞が違ってきます。

 sapere+動詞の不定形が、習得によって、「…する能力がある」という意味を表すのに対して、potere+動詞の不定形は、その時どきの状況や体調のために、「条件が整っているので、…できる」、あるいは non+potere+動詞の不定形で、「条件が整っていないので、何らかの事情があって、…できない」という場合に使うからです。

 例として、次の文を見てみましょう。

10. Non so nuotare. 11. Oggi non posso nuotare, perché non mi sento tanto bene.

 10.は、「わたしは泳ぐことができません。」と、泳ぐ能力がないことを説明しています。一方、11.では、「今日はあまり気分が優れないので、泳げません。」で、「泳ぐ能力はあるけれども、今日に限っては、体調が悪いので泳げない。」ということです。こんなふうに、sapereの方は「能力」を、potereの方は、「さまざまな状況からそのときにできるか否か」を表すのに使われるのです。

 このsapereとpotereの使い分けについては、解答もついたとてもよくできたオンラインの練習問題を見つけました。次のリンク先の一番下にある「Sai nuotare o puoi nuotare? (.pdf)」と書かれた部分をクリックすると、2ページ分の練習問題と3ページ目の解答が現れます。ぜひ挑戦してみてください。絵もあるので、言葉や使い分けを覚えやすく、学習効果が高いはずです。

- Loescher Editore - Italiano per Stranieri - Sai nuotare o puoi nuotare?
 

* ~してくれませんか。~していただけませんか。

 人に何かをしてくださいと頼むときには、命令法(modo imperativo)よりも、この補助動詞potereを使った表現が好まれます。たとえば、「窓を開けてくれませんか。」というときには、命令法を使って、

12. Apri/Apra/Aprite la finestra, per favore.

 と頼むこともできますが、それよりも、補助動詞のpotereを使って、

13. Puoi/Può/Potete aprire la finestra, per favore?

と質問形の形でお願いする方が、相手に対する敬意がこもった、ていねいな表現になります。それに、イタリア語では命令法の動詞の人称変化が、直説法現在と微妙に異なっていてひどく難しいですよね。補助動詞のpotereを使えば、上の表にあるこのpotereの活用さえ覚えれば、動詞は不定形、辞書の見出しの形のままで済みます。

 たとえば、動詞のmangiare「食べる」は、直説法現在ではTu mangi. Lei mangia.「君が食べる。あなたが食べる。」ですが、命令法「食べなさい/食べてください」では、tuに対する命令法がMangia!、二人称敬称Leiに対する命令法がMangi!で、直説法とは人称変化が逆になります。"Mangia! Mangia!"は、イタリアに留学し始めた頃、ホームステイ先のうちでもよく言われましたし、今も大家族での食卓で、義父母から時々言われます。イタリアの人と比べると小食なので、遠慮していると思われるからでしょうか。


*依頼をさらにていねいに

 そうして、イタリア語で人にものを頼むときの表現は、このpotere+動詞の不定詞..., per favore?で使われているpotereの時制を、直説法現在から直説法未来にすると、さらにていねいな表現になり、条件法現在を使えば、相手の意志や敬意を慮った、この上なくていねいな頼み方になります。potereの直説法未来と条件法現在の人称変化については、上記の直説法現在の活用法の右手にありますので、参考にしてください。たとえば、tuで呼ぶ相手に、テーブルで「わたしに塩を回してください。」と言うときは、

14. Passami il sale, per favore. (命令法)
15. Puoi passarmi il sale, per favore? (potere直説法現在)
16. Potrai passarmi il sale, per favore? (potere直説法未来)
17. Potresti passarmi il sale, per favore? (potere条件法現在)

のように、いろんな言い方ができますが、下に行けばいくほど、ていねいな表現になります。

  家族間で、テーブルに置かれた塩を頼むのであれば、14や15が適当で、一方、16や17は、tuを使いはしても、相手が上司やめったに会わない年配の親戚など、敬ったり遠慮をしたりする必要があったりする場合、あるいは、相手が配偶者や親しい友人であっても、相手が集中して、ほかの人と話したり食べたりしているのに、それを遮って、自分のために動いてもらわないといけない場合などに使います。17.で使われている条件法現在は、イタリア語の仮定文(periodo ipotetico)の帰結文で使われる時制なので、「もしよろしければ、さしつかえなければ」と、相手の事情や意志を慮る気持ちを表すからです。

 また、話し言葉と書き言葉の違いもあります。同じ手紙でも、親しい友人や家族の間のメールや手紙であれば、話し言葉的色合いが濃いので、上の14から16のような表現が使えます。けれども、まだ会ったことのない人への仕事関係の文書を書く際、何かをお願いしなければいけないのであれば、まずは、二人称としては敬称のLeiを用いる必要があります。そうして、仕事関係の手紙であり、特に、前約束や合意があるわけではなく、いきなり何かを頼む場合には、条件法現在(condizionale presente)を使って、

18. Potrebbe rispondermi al più presto, per favore?
 「できるだけ早くお返事をいただけませんか。」

あるいは、さらに相手の都合を慮り、仮定文(periodo ipotetico)を使って、

19. Le sarei grato/grata se potesse rispondermi al più presto.
 「できるだけ早くお返事をいただけると、ありがたいです。/助かります。」

と書く必要があります。

 イタリア語にもTPOがあって、話し相手や状況に応じて、動詞の時制や使う言葉の選択を変えていく必要があるのです。この点に興味がある方は、次のブログ記事を参考にしてください。

イタリア語のTPO   

 補助動詞potereにはさらに、「…かもしれない」という意味があり、この用法で使う時制も、可能性の高さ・低さや、書き言葉か話し言葉かなどによって、変わってきます。今回は長くなりましたので、この点については、また次の機会にお話することにします。

 この記事の続きへのリンクは、以下のとおりです。

第100号(2)「ペストのレシピ、ムッソリーニ脱出劇、日焼けとイタリア語、 原点を振り返る」


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Articolo scritto da Naoko Ishii

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by milletti_naoko | 2015-08-31 12:00 | Lingua Italiana | Comments(0)