2010年 04月 12日
第42号「伝統のカフェ VS ジョージ・クルーニー」
ジョージ・クルーニーは皆さんご存じのアメリカの俳優です。わたしが彼を知ったのは、英語のヒアリング力を鍛えるために『ER』を見ていたときです。正義感の強い硬派だけれど女性には弱い、優秀な小児科医ダグを演じていました。
イタリア女性の間で絶大な人気を誇り、現在のところ彼を独占しているのがイタリア人女性ということもあって、イタリアでは、テレビニュースでも時々登場しています。また、イタリアのお笑い芸人には、この二人の恋人関係をネタにする人もかなりいます。
一方、「ビアレッティ」はご存じでしょうか。最近では商品が日本でも販売されているようですが、実際の浸透がどの程度か分かりませんので、簡単に写真を使ってご紹介します。
ビアレッティ社は、イタリアを拠点として、エスプレッソ・コーヒー沸かし器を製造・販売しています。写真の右上に見えるのが、ビアレッティ社の元祖Moka Express。画期的な直火式コーヒー沸かし器で、このMokaのおかげで、一般家庭でも手軽にエスプレッソが入れられるようになりました。今でこそ、電気式エスプレッソ・メーカーやカプセルコーヒーが普及し始めてきましたが、つい数年前までは、イタリアの家庭で入れるコーヒーには、このMokaが使われていました。
写真左手に見える缶には、「MOKA - CAFFÈ MACINATO」と書かれています。MOKAと書いてあるのは、上記のコーヒー沸かし器、Moka Express用のコーヒーということです。イタリアのスーパーなどのコーヒーコーナーには、他にも「電気式エスプレッソ・メーカー用コーヒー」が置かれており、こちらの袋・缶には「ESPRESSO」と書かれています。
「caffè macinato」について。caffèは、飲み物の「コーヒー」だけではなく、植物としての「コーヒーの木」や、その実である「コーヒー豆」も表します。 macinatoは動詞 macinare「挽く、粉にする」の過去分詞ですから、結局、「caffè macinato」は、「挽かれたコーヒー豆」、つまり「コーヒー(の)粉、コーヒーパウダー」を意味します。このコーヒーパウダーとMoka Expressがあれば、水と火さえあれば、どこででもおいしいエスプレッソ(espresso)を楽しむことができます。
写真には、ごく小さいコーヒーカップに入ったコーヒーが見えます。Mokaで沸かしたコーヒーは、沸騰する蒸気の圧力を利用した濃縮した味の深いエスプレッソなので、一人分はこの小さなカップで十分なのです。
写真に見えるMoka Expressの上半分の中央あたりを注意してご覧ください。口ひげを生やした小さな紳士が右手を高々と掲げています。この小紳士こそビアレッティ社のシンボルで、商品の使用説明書を読むと、「同社の製品にはすべて、必ずこの紳士の絵が入っています。入っていない商品はまがいものです。注意しましょう。」と書いてあります。
さあ、これで、キーワード、「George Clooney」と「Bialetti」については理解できたことと思います。いよいよ新聞記事を読んでいきましょう。
次の記事は、4月10日付の新聞紙『Corriere della Sera』のものです。見出し及び本文最初の5行を引用してみますので、中級以上の方は、内容を大まかにでも把握するべく、何度か読み返してみてください。初級の方は、一通り読まれたあと、次に進んでください。
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La fabbrica di Crusinallo dove nacque "l'omino coi baffi"
Bialetti chiude in Italia, le caffettiere si faranno in Romania
MILANO - George Clooney mette nei guai l'Omino con i baffi. La Bialetti chiuderà lo storico stabilimento di Crusinallo, vicino a Omegna, dove il fondatore Alfonso Bialetti nel 1933 progettò la prima caffettiera, la celebre Moka Express, che ha rivoluzionato il modo di preparare il caffè in casa.
(執筆は、Giuliana Ferrara)
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お分かりになりましたか? まずは見出しから見ていきましょう。
'La fabbrica di Crusinallo dove nacque "l'omino coi baffi"
Bialetti chiude in Italia, le caffettiere si faranno in Romania'
fabbricaは「工場」。doveは「どこへ/に~か?」という意味の疑問詞として使われることが多いのですが、ここでは関係副詞。場所を表す名詞を先行詞として、関係節を導いています。
chiudereは基本重要語句で「閉める、閉まる」。初級の方は、対義語のaprire「開ける、開く」と共に覚えておきましょう。caffettieraは「コーヒー沸かし器」です。
それでは、見出しの2行を訳してみましょう。
「『口ひげの小紳士』が誕生したクルシナッロの工場
ビアレッティ社(の工場)、イタリアで閉鎖。コーヒー沸かし器はルーマニアで製造か」(「 」内は石井訳。以下も同様。)
実は直訳は「ビアレッティがイタリアで閉鎖し、コーヒー沸かし器はルーマニアで製造されるだろう。」なのですが、これでは見出しらしくないので、和訳では、文を体言止めにし、省略語を補いました。
さて、続いて、記事の本文を読んでみましょう。
"George Clooney mette nei guai l'Omino con i baffi. La Bialetti chiuderà lo storico stabilimento di Crusinallo, vicino a Omegna, dove il fondatore Alfonso Bialetti nel 1933 progettò la prima caffettiera, la celebre Moka Express, che ha rivoluzionato il modo di preparare il caffè in casa."
2文目が非常に長く複雑な構文になっています。doveとcheがいずれも関係節を導いています。
では、訳してみます。関係節をいちいち後ろから訳し上げていると、文の意味が分かりにくくなりますので、文を適宜区切りながら訳していきます。
「ミラノ ― ジョージ・クルーニーが、口ひげの小紳士を苦境に陥れている。ビアレッティ社は、オメンニャ近郊、クルジナッロの歴史ある工場を閉鎖することとなるだろう。1933年に創立者アルフォンソ・ビアレッティが、初のエスプレッソ・コーヒー沸かし器、あの有名なモカエクスプレスを設計したのは、この工場においてであった。そう、自宅でコーヒーを入れる方法に一大革命を起こした、あのモカエクスプレスの誕生の地なのである。」
この最初の数行が、記事全文をほぼ要約していて、主要な情報がぎっしりつまった内容となっています。経済危機で多くの企業が破綻、あるいは生産工場の海外への移転を迫られ、失業する人も増えていっている中でのこのニュース。
「深刻な経済問題」である上に、「イタリアの伝統的な製品の製造拠点が海外に移転」するという文化的にも重い内容なのに、本文を、ユーモアのある切り口で語り始めているのが、この記事のおもしろいところです。
「クルーニーのせいでビアレッティが苦境に陥っている」という描写は、次のコマーシャルを踏まえてのものです。音声は英語で、イタリア語字幕となっています。
(*2020年4月追記: 当時リンクを張っていた映像が見つからないため、それに代わる映像を探して掲載しました。)
新聞記事本文の続きを見ていくと、ビアレッティ苦境の原因の一つは、カプセルコーヒーの成功だと書いてあります。そして、そのカプセルコーヒーの中でも特に売り上げを誇る商品を宣伝しているのがジョージ・クルーニーであると続けています。ビアレッティの代名詞が「口ひげの小紳士」、ネスプレッソ宣伝を引き受けたのがクルーニーなので、「ネスレなどのカプセルコーヒーの成功が、ビアレッティの直火式コーヒー沸かし器の生産を苦境に陥れた」と言う代わりに、それぞれを代表する人物を使って、「ジョージ・クルーニーが口ひげの小紳士を苦境に陥れている。」と言っているわけです。
「口ひげの小紳士(l'Omino con i baffi)VS ジョージ・クルーニー」という発想は、口ひげの小紳士自身が、かつて数十年前にコマーシャルの登場人物として出場し、イタリアの家庭に笑いをもたらすとともに、Moka Expressの購買意欲をかき立て、このエスプレッソ・コーヒー沸かし器がイタリア中の家庭に普及するための立役者となっていたからだと思われます。
このコマーシャルは初登場が1959年。長年にわたって何度も繰り返し放映され、夫の幼年時代の思い出の一つにもなっています。以下のリンクから、ぜひこのコマーシャルを視聴してください。この2分30分にわたるコマーシャルは、視聴者の笑いを誘う前置きの部分が非常に長く、本題であるコーヒー沸かし器の宣伝が始まるのは、開始から1分50秒後。つまり、うち40秒のみが正味のMokaの宣伝となっているだけです。
https://www.youtube.com/watch?v=Yrz0KVLKh8o
題名の『Sembra facile』は、「簡単そうだ、簡単に見える。」という意味です。sembraは、動詞sembrare「~のように見える、思われる」の直説法現在で、主語が三人称単数のときの活用形です。この題名文の主語は、コマーシャルを見れば分かる上に、コマーシャルの枕と本題にあたる部分で主語が異なっているために省略されています。
後半40秒の部分を繰り返し視聴して、イタリア語のヒアリングテスト、ヒアリング練習をしてみましょう。
「おいしいコーヒーを入れるのも、簡単そうに見える」けれど、実は簡単ではない - と言ってから、口ひげの小紳士は、では、「本当においしいコーヒーを入れるのに絶対欠かせないものが何か」を語り始めます。
それが一体何か分かるまで繰り返し聴いてみましょう。
絵や単語が画面に現れるので、聞き取りや理解が易しいはずです。
*2020年4月追記: 本物のビアレッティのMoka Expressかどうか見分けるのは、「今日からは簡単です。」(Da oggi è facile、映像34秒目あたり)、本物にはわたし(io)の絵があるからです。」と、発明者と生産工場にも言及するコマーシャルも、今回のブログへの移行にあたって、新たに添えておきます。
(以上、追記およびコマーシャル映像の追加了
この「ビアレッティ社工場、海外へ移転」については、ブログに関連記事があります。Moka発明以前に使われていた「ナポリ式コーヒー沸かし器」の写真と説明があり、Mokaとイタリア映画、Moka初使用の感動譚などにも触れていますので、興味のある方はぜひお読みください。
問題の新聞記事についても、ブログの方では「イタリア語の本文や解説」がない分、より多くの内容を紹介しています。
・家庭のカフェ、伝統の味のゆくえ ~老舗工場、東欧へ移転か~
そして、今回興味を持って、ご自宅でも「イタリア風エスプレッソ」を味わいたいと思われた方は、ぜひMokaを購入して、香りの高いコーヒーを楽しんでください。
いろいろな大きさがありますが、おすすめは「ご自宅で必ずコーヒーを飲む最低限の人数」分のものをまず一つ購入してみることです。一人暮らしであれば、一人用を買って、お客が一人来たときには2度沸かせばいいだけの話です。また、このMokaでできるエスプレッソは味わいが濃厚ですから、一人用コーヒー沸かし器で沸かしたコーヒーを、二人で分けて飲んでもいいくらいです。我が家では、夫もわたしもカフェインに弱いため、通常は一人用のコーヒーを、二人で半分ずつそれぞれコーヒーカップに注いで飲んでいます。(上の写真も、一人分のコーヒーを二つのカップに分けて入れたものです。)ただし、眠気に襲われているときや、夜更かしする必要があるときは、きちんと一人分のコーヒーをすべて飲み干したりもします。
参照リンク
- amazon.co.jp - ビアレッティ 直火式 モカエキスプレス 2カップ用
おわりに
今回は、ブログに書いた記事と連動した「イタリア語学習に役立つ記事」として執筆しました。そういうわけで、号外的な要素も強く、すでに少々長くなりましたので、『Carletto』の歌の説明・紹介については、また次号ということにさせていただきます。また、第40号(1)「トスカーナ小村の椿まつり」でお約束した「ルッカの椿まつり」の続きについても、現在、続編を引き続きメルマガに書くか、それともブログの方に書くかを検討中です。というのは、ブログの方が大きい写真を容量を気にせずにたくさん載せられるからです。
楽しみにしていた方には申し訳ありません。近いうちに、何らかの形で必ず書くつもりでいますので、今しばらくお待ちください。
いつもご愛読ありがとうございます。何かご希望、ご感想、ご質問がおありでしたら、メールのお返事やブログのコメントでお伝えくださいね。皆さんからのメッセージ、お待ちしています。
では、また。このところ、復活祭休暇や卒業試験のために、大学の授業はお休みです。ちょうど体調を崩しているので助かりましたが、そろそろ授業の準備もしなければ……
皆さんも、体調にはくれぐれもお気をつけてくださいね。
*追記(2020年4月26日)
ヤフージオシティーズのサービス終了のため、現在、このイタリア語学習メルマガのバックナンバーを、ブログに移行中です。すでにブログに収録済みのメルマガ一覧は、タグ、「イタリア語学習メルマガ バックナンバー」(リンクはこちら)からご覧になれます。
わたしもillyとビアレッティをセットで購入して持ってます。
口ひげを生やした小さな紳士が右手を高々と掲げているから、わたしのも本物ね!
まがいものでなくて良かったです(笑)
ジョージ・クルーニー♡素敵ですよね!
ER懐かしい!
ジョージ.クルーニーをはじめて知ったのがERでした♡
途中から一切登場しなくなってしまったのが、とても残念な記憶が今でも残っております。
ER、わたしも懐かしいです。ダグとキャサリンの恋の行方も気になりましたが。個人的にはスーザンに恋するマークを応援していました。俳優たちに人気が出て引き抜かれるためか、主な登場人物が次々去っていったのが残念だったこと、わたしもよく覚えています。特に、マークのためにスーザンには残ってほしかったな、と。