イタリア写真草子 ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

うっかり日本語・イタリア語とフィレンツェ ドゥオーモ付属博物館

うっかり日本語・イタリア語とフィレンツェ ドゥオーモ付属博物館_f0234936_614173.jpg
 今晩、イタリアのテレビでは、映画、『指輪物語』(英語原題、『The Lord of the Rings』)が放映されているのですが、そのイタリア語の題名は『Il Signore degli Anelli』です。


 夕食時に、今夜テレビで何があるかと夫に聞かれて、あらかじめ番組表に目を通していたわたしは、この映画があると答えたつもりだったのですが、ああ、なんということでしょう。

うっかり日本語・イタリア語とフィレンツェ ドゥオーモ付属博物館_f0234936_559443.jpg

 やはり今でも、ほぼ毎日チョコレートとココナツの子羊(agnello)のケーキを、夫と食後にうれしそうに食べているためでしょうか、

うっかり日本語・イタリア語とフィレンツェ ドゥオーモ付属博物館_f0234936_614173.jpg
Agnello di Dio, lo stemma dell'Arte della Lana
Nuovo Museo dell’Opera del Duomo di Firenze 28/1/2016


 Il Signore degli Agnelli、

そうです。anelliと言うべきところを、agnelliと言ってしまったのです。ちなみに、この2単語はいずれも複数形で、辞書の見出しに書かれている単数形は、それぞれanello「指輪」agnello「子羊」です。

 指輪と子羊をそれぞれイタリア語でどう言うかは、ちゃんと知っていて、普段は間違えたりしません。人間の脳における語彙は、音声の近いものどうしが、近い場所に記憶されていることが研究の結果分かっていて、うっかりして発音がよく似た意味のまったく異なる言葉を言ってしまうということは、時にあるのです。

うっかり日本語・イタリア語とフィレンツェ ドゥオーモ付属博物館_f0234936_6332077.jpg

 さらに、どうして間違えたかというと、他にも思い当たることがあります。映画のイタリア語名にあるSignoreという言葉は、イタリア語では英語のMr.に当たる言葉で、「…氏、…さん」と男性に呼びかける際に、名字の前につける敬称であるほか、「男性、紳士、貴族、主人、殿様」など、様々な意味で用いられるのですが、カトリック教会では、「主、神」という意味で、ミサの説教にも祈りや賛美歌にも、しばしば登場する言葉です。

 そうして、教会では、「主よ、神よ」と呼びかけるためにSignoreという言葉がしばしば使われる上に、イエス・キリストをagnello di Dio「神の子羊」と呼び、いずれの言葉も、ミサでの祈りや賛美歌に、登場するのです。



anelloのnの発音は日本語の「姉、あね」の「ね」の子音と同じです。一方、agnelloのgnの発音については、気になる方は上の賛美歌をお聞きください。イタリア語におけるgnの発音については、イタリア語学習メルマガ第19号に絵入りの解説がありますので、興味のある方は、こちらをご覧ください。

 また疲れているときや、慌てているときなど、集中力が低下しているときには、脳から発される指令があいまいになるそうで、こちらの本には、ジョギングから帰ってきた女性が、汗に濡れた上着を脱いで洗濯機に入れるつもりがトイレの便器に入れてしまったという例が書かれていて、これは、脳が疲れのために「白くて丸い穴が開いているもの」という大ざっぱな指令を発したためであるという説明があります。

 と言うわけで、わたしの「指輪」と「子羊」の言い間違いは、この2語は発音が似ているために記憶の引き出しが近いこと、Signoreという言葉はわたしの中で指輪よりもむしろagnello「子羊」と共に耳にし口にする機会が圧倒的に多いこと、さらに、食事のしたくで慌ただしいときに聞かれて注意が散漫だったことから、起こったのではないかと思います。

うっかり日本語・イタリア語とフィレンツェ ドゥオーモ付属博物館_f0234936_6501662.jpg

 ちなみに、この3枚の写真はすべて、2016年1月にブロガー招待で、フィレンツェドゥオーモ付属博物館をガイドつきで訪問したときに撮影したものです。(詳しくはこちら

 わたしは日本では高校で国語を教えていたため、学校ではよく先輩の先生方と共に、校内新聞や雑誌などの編集や校正を担当しました。そのため、誤字や文の不整合などがないようにと気をつけて書いているつもりでも、夜中に書いて書き上げるのが遅くなり、見直しをすることなく記事を送信してしまうと、翌朝読み返して、恥ずかしい間違いに気づくことがよくあります。すぐに気づいて、投稿直後に訂正することもあるのですが、自らの間違いというものはそもそも見逃しやすい上に、寝不足だったり疲れていたりすると、さらに間違いに気づきにくくなります。

 それにしても、今朝になって、昨日の記事の題名のとんでもない間違いに気づいたときは、恥ずかしかったです。


 「ぼやいてないで」と書くつもり、書いたつもりで、なんと「ぼやけてないで」と書いてしまっているではありませんか。パソコンが勝手に変換してしまい、あとで気づいて慌てることは少なくないのですが、これはひらがなですから、わたしがうっかりしていたのだと思います。「ぼやけて」ではなくて、「ぼけて」いたのだと思います。

 これからはさらに気をつけなければいけない、そもそもこういう間違いのないように、もっと早めに就寝をするように心がけなければいけないと思いつつ、このちょっとしたイタリア語と日本語のうっかり間違いについて書くためにも、あれこれと動画や写真を探していたら、時間が経って遅くなってしまっているのでありました。

関連記事へのリンク
- イタリア語学習メルマガ第19号(2)「ベニーニ被災地訪問 後編、カプリ 青の洞窟の汚染疑惑解消」
- フィレンツェドゥオーモびっくり顔なし300年、ブロガー再招集2

*追記(4月28日21:08)
 脳のあいまい機能作動によるうっかり間違いについてコメントをくださった方が多く、例を紹介した本は、約15年前に読んだのですが、とてもおもしろく興味深い内容だったことを今も覚えています。そこで、日本語版と原書である英語版、わたしが読んだイタリア語版についてリンクを添えておきます。興味があれば、ぜひお読みください。

- amazon.co.jp - ドナルド・A. ノーマン著、『誰のためのデザイン? 認知科学者のデザイン原論』
- amazon.it - Donald A. Norman, "The Design of Everyday Things: Revised and Expanded Edition (English Edition)", Formato Kindle
- amazon.it - Donald Norman, "La caffettiera del masochista. Il design degli oggetti quotidiani"

*******************************************************************************************************************************
Stasera intendevo "Il Signore degli Anelli", invece ho detto erroneamente "Il Signore degli Agnelli."
Forse perché mangiamo ancora l'agnello di cioccolato e cocco e anche perché le parole 'Signore' e 'Agnello' vengono pronunciate spesso nella liturgia cattolica.
Poi secondo gi studi nella memoria le parole che hanno pronuncia simile vengono immagazzinate vicine.
Foto: Agnello di Dio, lo stemma dell'Arte della Lana
*******************************************************************************************************************************

Articolo scritto da Naoko Ishii

↓ 記事がいいなと思ったら、ランキング応援のクリックをいただけると、うれしいです。
↓ Cliccate sulle icone dei 2 Blog Ranking, grazie :-)
にほんブログ村 海外生活ブログ イタリア情報へ  

Commented by nonkonogoro at 2020-04-28 08:08
>脳から発される指令があいまい

この年になると~
ミルクを入れようとして 別の容器に注いでしまったり
あれこれ 色々 間違いだらけに
なってきます。

メールや ブログの記事は
一応 読み返すようにしていますが
それでも あるのでしょうね。
ブログは気づけば 訂正できますが
送ったメールは 無理ですね~

言おうとしている単語と
口から出た単語が 違うこともあります。
まだ 文字にしている方が
再確認しやすいですよね。

Commented by sunandshadows2020 at 2020-04-28 09:05
どのように覚えたかでも発音が違ってきますね。
夫は活字から覚えるタイプでいつでもイタリア語の単語のgもはっきり発音してしまいます。何回直しても一向に、、、

緑茶を入れたのに、紅茶のようにミルクを加えてしまうという事があって唖然としました。そしてブログも読み直さないでアップしてしまうと大変なことに!
Commented by meife-no-shiawase at 2020-04-28 18:20
今日はたくさんツボに入るところがあって笑わせていただきました。
集中力がかけてお洗濯物を便器にいれてしまった・・・
でもありえなそうで、ありえますね・・・。
頭のどこかは動いているけれどどこかが少し停止している状態。
白くて丸い穴が開いているもの・・・笑!笑!笑!

ブログのタイトルについても・・・笑!
なおこさんの「ぼやけて」ではなく「ぼけて」・・・もツボに。笑。
私はブログはゆっくり書ける夜に書くのですが
日によってはもう睡魔も来ていたりして、
見直して送信を押しますが、やはり次の日の朝に読むと
ミスがいっぱいあって・・・。
もう少しエネルギーのあるうちに書こうと思っています。

楽しいお話をたくさん、ありがとうございました♡
Commented by milletti_naoko at 2020-04-29 22:55
nonさん、現代では脳も、かなり細かい情報を、時に複数並行して探したり、指令を出したりしなければいけないので、大変ですよね。わたしも今日の昼食のしたく中に、塩をオリーブオイルなどを入れる棚にうっかり置いてしまっていました。

間違いはどうしてもありますよね。かつて日本の高校で教えていた頃、1学年10クラスある大きな高校では、その学年を担当する国語教師が定期考査の試験問題を分担して作って、試験問題の検討会を行っていたのですが、皆それぞれ何度も見直したつもりでいても、お互いにつき合わせて確認し合うと、やはり何かしら間違いが見つかっていたように覚えています。「ミス一つあたりいくらと罰金を設けましょうか」と笑いながら半分冗談で言う先輩の先生もいました。

余裕を持って読み返せるように、そして、冴えた頭で書けるように、もっと早くから記事を書かなければいけないと、反省だけはしているわたしです。
Commented by milletti_naoko at 2020-04-29 23:09
お転婆シニアさん、イタリア語母語話者が英語を発音すると、発音しない文字まで発音する人が時々います。日本語で「ジュース」を教えたら、どうして英語ではjuiceで「i」の音があるのにと言うので、「i」は無音だと言うのに、辞書で発音を確認するまで信じなかった生徒さんもいました。英語圏の人がイタリア語を話す場合でも、同じような間違いがあるんですね。イタリア語は子音をすべて読むという思い込み、最初にそうと覚えてしまった覚え違いのためでしょうか。古代ローマ時代には、ラテン語のgは/g/と発音されていたのではありますが。

うっかり間違いってありますよね。"To err is human." だからこそ見直しや、間違いが起こらないように集中したり、時間に余裕を持ってしたりすることが大切だと思いはするのですけれども。
Commented by milletti_naoko at 2020-04-29 23:27
メイフェさん、こういうご時世でもありますし、読んで楽しんでくださったと知って、わたしもうれしいです。パソコンがたくさん窓を開きすぎると処理が遅くなるように、人の脳も疲れすぎたり、複数のことを同時にしようとはりきりすぎたりすると、司令や任務の遂行がおおざっぱになってしまうようです。コメントでこの件について書いてくださった方が多いので、便器放り込みの逸話を読んだ本の日本語訳についても、記事末に情報を追加しました。日々の道具の使いやすさやデザインについて書いた本なのですが、こんなふうに、消費者のわたしたちが読んでも興味深い脳のしくみや、おもしろい具体例がたくさん書かれていて、なるほどと楽しみながら読んだように覚えています。

「ぼやいてないで」のつもりで「ぼやけてないで」と書いてしまったのは、ぼけていたと同時に、思考がぼやけてしまっていたとも言えます。わたしも夜の方が集中して書けるように思うのですが、宵っ張りになりすぎないように気をつけたいと、改めて感じました。

こちらこそ温かいうれしいコメントをありがとうございます♪
by milletti_naoko | 2020-04-28 07:06 | Lingua Italiana | Comments(6)