イタリア写真草子 ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

第22号(1)「マイク・ボンジョルノの人生と業績、使える便利な会話表現」

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 2009年10月2日発行のイタリア語学習メルマガ第22号「マイク・ボンジョルノの人生と業績〜 記事を読み、ニュースを聞く」を、このブログに移行しています。



1.マイク・ボンジョルノの人生と業績 〜 記事を読み、ニュースを聞く

 こんにちは。前号(第21号)では、イタリアのテレビ界の父とも言うべきマイク・ボンジョルノの逝去についてごく簡単にご説明しました。

 今号では、SKY.itの記事を読みながら、マイクの人生と業績を見ていきましょう。記事へのリンクは以下の通りです。

Addio al re della tv italiana. E’ morto Mike Bongiorno.
https://tg24.sky.it/cronaca/2009/09/08/mike_bongiorno_morto_montecarlo

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“Michael Nicholas Salvatore Bongiorno, in arte Mike, nacque negli Stati Uniti il 26 maggio 1924, figlio di madre torinese e nipote di un siciliano.”

 初心者の方でも、数字を手がかりにして意味を推測することが可能なのではないかと思います。シャーロック・ホームズになったつもりで意味を考えてみてください。知らない言葉がたくさんある文章でも、自分の中に既にある知識を活用すると、文意をうまくつかみとることが可能です。文法偏重主義の外国語学習の問題点は、細かいところにこだわる癖がついて、外国語で何か聞いたり読んだりしたときに、少しでも分からない単語や文法事項があると、そこで思考回路が止まってしまうことです。文を読んでいるなら読み返せばいいのですが、たとえばイタリアでイタリア語の授業を受けているときに、一語が分からず辞書を引き出したり困惑したりすると、先生やクラス仲間が続けて言っている言葉がすべて頭から抜けてしまいます。

母国語でも外国語でも、言葉を理解するには、語彙・文法から分析して文意をつかむと同時に、周囲の状況や文脈、自分が持っている既存の知識も利用しています。特に、自国語ではない外国語の学習では、語彙や文法の知識が不十分なため、言葉を理解するときに、全体や文脈・既存の知識を十分に活用する訓練をすると役に立つ場合が多くあります。前置きが長くなりましたが、入門者の方も、ぜひもう1度文を読み返して、意味を推測してみてください。

“Michael Nicholas Salvatore Bongiorno, in arte Mike, nacque negli Stati Uniti il 26 maggio 1924, figlio di madre torinese e nipote di un siciliano.”

 さて、ワトソンを感服させられるような推理ができましたか。

「最初の4語は名前みたいだから、マイクの本名ではないか。Stati Unitiは英語のUnited Statesに似ているからアメリカ合衆国のことではないか。1924はおそらく年を表し、ということはたぶんマイクの生まれた年。そうするとil 26 maggioは月日を表すのではないか。」

 といったようなことが推理できれば、内容はほぼ理解できたようなものです。訳してみましょう。
 
「マイケル・ニコラス・サルヴァトーレ・ボンジョルノ、芸名マイクは1924年5月26日にアメリカ合衆国で、トリノ出身の母親の息子、シチリア人男性の孫として生まれた。」(「 」内は石井訳。以下同様。)

 イタリアでは年月日を書くとき、日・月・年の順になります。日本とは順序が逆になることに注意してください。たとえば、上記の生年月日を書類に数字だけで記入するときは、26/05/1924 (26/5/1924)と書きます。ちなみに今日の日付は2/10/2009、2/10/09となります。‘nacque’は動詞nascere(生まれる)の直説法遠過去、主語が三人称単数のときの活用形です。

“Giunse piccolo in Italia, poi vi si stabilì dal 1953. Fu Bongiorno a presentare 'Arrivi e partenze', la prima trasmissione televisiva in onda della Rai. Da 'Rischiatutto' alla 'Ruota della fortuna' ha fatto la storia della Tv, conducendo alcuni dei più famosi e popolari quiz televisivi italiani.”

「幼い頃にイタリアに来て、その後1953年からイタリアに定住した。イタリア国営放送Raiの初のテレビ放映番組、『Arrivi e partenze』の司会を務めたのはボンジョルノであった。『Rischiatutto』から『Ruota della fortuna』に至るまで、イタリアで最も有名で人気のあるテレビのクイズ番組のいくつかの司会を務め、テレビの歴史を築き上げた。」

 この後、記事を読み進めていくと、マイクがイタリア国営放送初のテレビ番組の司会を務め、また他のさまざまなテレビ番組の成功を通じて、テレビがイタリア国民の間に浸透し、親しまれるものとなるのに大いに貢献したことが分かります。まだ企業家であった現首相ベルルスコーニ(Berlusconi)がイタリア初のテレビの私営放送を始めたとき、マイクが番組の司会を務めて視聴者を集め、そのおかげで、現首相のチャンネルが成功を収めることができるようになったいきさつも書かれています。

 上記に引用した記事を何度か読み、訳を見なくても記事の内容が理解できるようになったら、サイト上の記事の見出しのすぐ下にあるニュース映像を再生し、視聴してみてください。言葉がまったく同じではないものの、マイクの人生や業績について言っている部分は内容がほぼ同じですから、聞き取りが比較的楽にできるのではないかと思います。(*追記:2020年4月現在は、残念ながらニュース映像が見当たりません。)


 前回、リンク先を記した記事のうち、以下のLa Repubblicaのものの方がかなり詳しく記載されています。

E' morto Mike Buongiorno
http://www.repubblica.it/2009/09/sezioni/persone/mike-bongiorno/mike-bongiorno/mike-bongiorno.html

 ニュースの音声をよりよく理解できるように、上記の記事とニュース映像にはあるのに、SKY.itでは触れられていないマイクの過去も少しだけまとめておきます。ちなみに以下の内容は、2のインタビューをよりよく理解するにも役に立ちます。

 幼い頃にイタリアに戻ったマイクは、後にトリノで文科高等学校に通いましたが、第二次世界大戦中に学業を放棄して、ファシスト政権やナチズムと戦うパルチザン部隊に加わりました。英語が堪能であったために連合軍と連絡を取り合う役目を果たしたものの、ナチの軍に捕らえられ、捕虜となります。長い歳月の後、米国とドイツの間の捕虜交換によって、ようやく自由の身となりました。その後ニューヨークに帰り、1946年からアメリカのイタリア系移民を対象にしたラジオ放送のために働いていましたが、1953年にイタリアでのテレビ放送誕生に際して仕事の要請を受け、1954年1月3日に番組「Arrivi e partenze」で、イタリアのテレビ放送の幕を切って落としました。以後は、今年9月に心筋梗塞のために突然の最期を迎えるまで、イタリアに定住することになります。



2.会話で使える表現 〜 マイクへのインタビュー映像から

 
Mike Bongiorno, la storia della Tv italiana tra trionfi e delusioni
(*追記:2020年4月現在は、残念ながらニュース映像が見当たりません。)

 前号でもご紹介しましたが、上のリンク先映像では、マイク・ボンジョルノが、RAI3の人気番組、Che tempo che faのゲストとして招かれ、司会者ファービオ・ファッツィオ(Fabio Fazio)のインタビューに答えています。司会者はマイクの親しい友人です。二人は、年齢がかなり離れているものの(番組をよく聞けば、二人の年齢が分かります)、仕事の上で互いに尊敬しあっている間柄で、その親しさや敬愛ぶりが、会話の端々からも伝わってきます。

 出だしから9秒あたりで、マイクが聴衆に何と言ってあいさつしているかお分かりですか。
 そうです。聴衆に向かって“Allegria!”と叫んでいます。


(*2023年12月追記: 見つからない該当映像の代わりに、マイク・ボンジョルノが出だしから19秒後に「Allegria!」と言っている上の映像を新たに埋め込みました。)

学校で音楽の時間に、Allegro(アレグロ、急速に)という音楽用語を習った記憶がありませんか。イタリア語の形容詞allegroは、「陽気な、楽しい」という意味で、allegria(陽気さ、喜び)はその名詞形です。伊伊辞典『Lo Zingarelli』(Zanichelli)では、“Allegria!”という表現を「喜びに感極まって言う言葉、幸あれと祈って口にする言葉」と定義していますが、上記のLa Repubblicaの記事を読むと、マイクが司会を務めていた番組の最初に、いつも、この言葉で視聴者にあいさつをしていたことが分かります。

 親しい友人同士が、大衆を前に生番組の中で話をしているので、早口になったり、互いの言うことが重なったり、同じことを繰り返し言ったりしているのに気づかれたでしょうか。

 21-26秒目を視聴してみてください。司会者がマイクにどう質問をし、マイクがどう答えているかがお分かりですか?

Fabio: “Come stai? Tutto bene?”
Mike: “Io sto benissimo.”
(口の中で早口で言っているため聞き取りにくい部分は省略しました。)

英語と同じくイタリア語でも、誰かと出会ったときは、まずあいさつを交わし(tuで呼ぶ相手なら“Ciao!”、Lei で呼ぶ相手なら時間帯によって “Buongiorno”あるいは “Buonasera”)、その後、相手の調子や具合を尋ねます。

  “Come stai?”は「元気ですか。ご機嫌はどうですか。」という意味で、英語の “How are you?”にあたる表現です。これは相手がtuの場合で、相手がLeiで呼ぶ相手なら“Come sta?”と尋ねます。Comeはイタリア語で「どのように」という意味の疑問詞ですが、便利な言葉で、たとえば、誰かに何かを尋ねて、相手の返事がうまく聞き取れなかったときなどには、“Come scusi?/Come scusa?” (それぞれLei, tuに対する表現)、「すみません、何とおっしゃったんですか。」と聞き返すことができます。

 “Come stai?/Come sta?”は相手をtu, Leiのいずれで呼ぶかで形が変わってきます。staiとstaは動詞stare([調子・機嫌・具合が]~である)の現在形で、 それぞれ主語がtu、Leiのときの形です。

 マイクは“Io sto benissimo.”(私はとても元気だよ)と答えていますが、皆さんは誰かに “Come stai?/Come sta?”と聞かれたら、 “Sto bene, grazie.”(元気です。ありがとう。)と答えましょう。イタリア語の主語ioは、動詞の形から主語がio以外ではあり得ない場合には、よほど「私が」を強調したい場合や他の人と対比したりする場合を除いては、省略されます。「私は元気です。」は“Sto bene.”で、「私はとても元気です」は “Sto benissimo.”です。beneは副詞で、ここでは「元気で」という意味ですが、他にも「うまく、よく、十分に」などの意味があります。

 さて、“Come stai?/Come sta?”と違って、相手をtu・Leiのいずれで呼ぶかに関係なく使える便利な表現がいくつかあります。一つは“Come va?”(調子はどうですか)です。vaは動詞andareの三人称単数現在形。andareは主に「行く」という意味で使われる動詞で、行く先によって前置詞をどのように使い分けるかは、第5号第6号で述べました。ここでは「(調子や物事の進み具合などが)~である」という意味です。同じように相手の親疎に関わらず使える便利な表現に、インタビューでファービオ・ファッツィオも口にしている“Tutto bene?”(万事うまく行っている?)があります。こう聞かれたときも、“Bene, grazie.”「うまく行っています。ありがとう。」と答えましょう。

 いずれの質問にせよ、相手の質問のあとで、今度は自分から、相手について、“E tu, come stai?”(では、あなたは? お元気ですか。)などと相手方の調子を尋ねるのを忘れないようにしたいものです。

 では、具合が悪い場合にはどうすればいいのか……。「私は調子が(あまり)よくありません。」はイタリア語で“Non sto (molto) bene.”、「私は具合が悪いです。」なら“Sto male.”です。細かい病状を説明するのに、たとえば「頭痛がする」ときにどういうかは第10号でもご説明しました。ただし、ペルージャ外国人大学の外国人へのイタリア語教育の大御所カテリーノフ先生が、一度授業中に冗談めかしておっしゃっていました。

 「『元気ですか。』と聞かれて、自分がなぜどんなふうに具合が悪いかをくどくどと説明しないように。イタリア人は社交辞令で『元気ですか』と聞くけれども、実際に皆さんの体調にそこまで興味があるわけではありません。」

 よっぽど親しい友人や家族が相手でなければ、そして、それほど皆さんの体調が悪くなければ、少々体調が悪くても、そのことばかりをあまり長く話されないほうがいいと思います。

 映像の終わりの方、19分50秒目あたりで、司会者ファービオがマイクに “In bocca al lupo per la nuova avventura!”と言っています。

 “In bocca al lupo!”は、何か難しいことや危険なことに取り組まなければいけない人に対して、「うまく行くように祈っています。」という意味の決まり文句です。学生時代、試験を受けなければいけないときに、友人や夫がよくこう言って励ましてくれました。“In bocca al lupo!”と言われたら、“Crepi!” あるいは“Crepi il lupo!”と答えましょう。“Grazie.”(ありがとう)と答えると不運を招くと言う人もいます。“In bocca al lupo!”の直訳は「オオカミの口の中へ!」ですから、危険や困難に打ち勝つように祈るのに、反対のことを口にしているわけです。lupoは男性名詞で「オオカミ」、boccaは女性名詞で「口」という意味です。返事の言葉の中にあるcrepareは「死ぬ」という意味ですが、これは俗語で、しばしば侮蔑を込めて使われます。日本語の「くたばる」に当たると言えるでしょうか。“Crepi (il lupo)!”の直訳は、「くたばれ(、オオカミ)!」です。

 ついでに、このcrepareという動詞が出てくる早口言葉(scioglielingua)をご紹介します。

“Sopra la panca la capra campa, sotto la panca la capra crepa.”
 「長椅子の上ではヤギが生き抜き、長椅子の下ではヤギがくたばる。」

 ファービオの言葉は “In bocca al lupo per la nuova avventura!”ですから、「新しい冒険での幸運を祈っています。」という意味です。“la nuova avventura!”「新しい冒険」は、マイクが衛星放送のSKYの番組で司会を務め始める予定であった、その司会の仕事を指しています。

 きりがないので、この辺で切り上げますが、中・上級の方は、リンク先の新聞記事も参考にしながら、インタビューを何度も聞いてみてください。繰り返し聞いているうちに理解できるようになることが少しずつ増えてくるはずです。中級の方は「ファービオとマイクがそれぞれスポーツについてどう考え、何をしているか」に注目して前半部を、上級の方は「マイクがベルルスコーニと共に礎を築き上げたMediasetからどのように退くことになり、その件やベルルスコーニに対して、どんな気持ちを抱いているか」に注意して後半部を、繰り返し聞いてみてください。


イタリア語学習メールマガジン「もっと知りたい! イタリアの言葉と文化」関連号へのリンク
マイク・ボンジョルノ
- 第22号(2)「マイク・ボンジョルノとイタリア語、ラジオ・テレビ イタリア語普及に大貢献」
↑この第22号の続きです。
- 第21号「イタリアのニュースから:テロにより兵士6人死亡、マイク・ボンジョルノ逝去」
動詞 andare
- 第5号(1)「動詞 Andare」
- 第6号 「春〜木と果実の名前、映画『Ex』(2)」
「頭痛」、「頭が痛い」をイタリア語で
- 第10号「詩を読む〜生きる、モンターレの詩とマザー・テレサの言葉」


Articolo scritto da Naoko Ishii

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by milletti_naoko | 2009-10-02 12:00 | Lingua Italiana | Comments(0)