イタリア写真草子 ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

第23号「聖なる森林の山道~90kmの巡礼の旅(1)」

 私の夫やその友人の多くは歩く(camminare)のが大好きです。友人たちの中にはスペインの聖地、サンティアーゴ・デ・コンポステーラ(Santiago di Compostella)までの何百キロメートルもの道のりを歩いて巡礼の旅をした人が何人もいます。ある年はフランスから、別の年にはポルトガルからと出発地点を変えて、最低限の必需品を入れた大きなリュックサック(zaino)を背に、毎日約30キロメートル歩いたと聞いています。動機としては、宗教心よりも歩くこと自体や風景、人との出会いなどに興味があるからのようなのですが、中には、巡礼の旅を通して再び信仰心を取り戻したという人もいます。

 ペルージャはウンブリア州の州都で、ウンブリア州はil cuore verde d’Italiaと言われています。verdeはここでは「緑(色)の」という意味の形容詞ですが、「緑色」という意味の男性名詞としても使われます。cuoreという男性名詞には「心臓、心、中心」などの意味があります。なぜウンブリア州をこう呼ぶかについては、本や人によっていろいろな説があります。イタリア中部にある州の中で、唯一海(il mare)に面していない州であり、緑に囲まれているからと読んだこともあれば、ウンブリア州の形が心臓の形に似ているからと聞いたこともあります。

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Complesso Museale di San Francesco, Montefalco (PG) 2015/11/7

 そして、カトリック教の影響の強いイタリアの守護聖人(il santo patrono d’Italia)である聖フランチェスコ(San Francesco)、キリスト教が精神形成の基盤となっているヨーロッパの守護聖人である聖ベネデット(San Benedetto)は、共に全世界で敬愛される聖人なのですが、この二人はいずれもウンブリア州-それぞれアッシジ、ノルチャ―の出身です。うちの夫は「ウンブリア州出身の聖人はたくさんいる。聖人が生まれ育ちやすい風土なんだ。」なんて言っています。

 前置きが長くなりましたが、ウンブリア州には海がありません。そのため、ペルージャ郊外で生まれ育った夫の両親は、夫やその兄弟が幼少の頃から、家族全員でアドリア海の近くまで繰り出し、休暇を楽しんでいました。毎夏、小さなチンクエチェント(la Cinquecento)の上に、必要な衣類などを山のように積み上げ、アッペンニーニ山脈を越えて、リミニに近いイジェア・マリーナ(Igea Marina)という海辺の町まで赴いていたそうです。義父は時々昔を振り返って、こんな風に語ってくれます。3人の息子たちが旅の途中で言うことを聞かないため、何度も「言うことを聞かないと、山の中に置き去りにするぞ」と叱りつけなければならなかった、と。その思い出深いチンクエチェントは45年間愛用され続けて、今も健在で、時々家族の誰かが利用しています。
                  

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Monte Tezio, Perugia 2009/6/2

(我が家のチンクエチェント。写真は、今年の6月に夫と二人でペルージャ郊外の栗林まで、散歩に出かけたときのものです。)

 実は、最初に述べた「歩くのが好きな友人」は皆、イジェア・マリーナに住む夫の幼友達とその友人を通して知り合った友人たちです。海の近くなので特に夏に多い観光客を相手にする職業の人もいるため、今年は夏の仕事が一区切りした10月に、ちょっとした巡礼の旅をしないかという話が私たちの方にもありました。病院(ospedale)で働いていて土日に有給休暇を取るのが難しい友人が企画したこともあり、日程は10月5日月曜日から10月12日日曜日までの1週間と決まりました。

 私たちが歩いた道のりはil sentiero delle Foreste Sacre「聖なる森林の山道」。sentiero小学館の『伊和中辞典』を見ると「(主に山中や野原の)小道、細道」とありますが、イタリアでは登山やトレッキングのルートも一般にsentieroと呼びます。伊伊辞典『Lo Zingarelli』を見ると、次のような定義があります。

sentiero s.m.

1 Viottolo, generalmente stretto, che in luoghi campestri, montani e simile, si è formato in seguito al frequente passaggio di persone e animali”

 この定義を和訳すると、「農村や山中などで、人や動物などが頻繁に通過したあとに形成される、たいていの場合狭い小道」となります。

 このil sentiero delle Foreste Sacre「聖なる森林の山道」がどこにあるのか、何日かけて毎日何キロメートル、何時間くらいかけて歩く必要があるのかについては次のリンク先に説明があります。

Parco Foreste Casentinesi - Il percorso delle sette tappe del Sentiero delle Foreste Sacre

 この山道の魅力となぜ森林にsacro「聖なる」という言葉を冠するかについては、次の文章に説明があります。次号までに、この文章にざっと目を通しておいてください。

・Il sentiero delle Foreste Sacre
https://www.parcoforestecasentinesi.it/it/vivi-il-parco/sentieri-ed-escursioni/il-sentiero-delle-sacre-foreste.

“I boschi furono i primi templi dell’umanità. Nell’ombra claustrale delle foreste gli uomini antichi veneravano il mistero della vita e della morte nell’allegoria della rinascita vegetativa molto prima che le religioni monoteiste trovassero nel deserto il luogo privilegiato della rivelazione divina. In ambito cristiano, l’eterno legame fra ricerca spirituale e foreste trova nelle montagne dell’Appennino toscoromagnolo una delle sue espressioni più alte e compiute. Il folto di questi boschi che per vastità e bellezza non hanno eguali in Italia ha infatti accolto da più di mille anni comunità di monaci vissute in strettissimo rapporto con l’ambiente circostante, da cui ricavavano prezioso legname ma dove trovavano anche le condizioni necessarie alla contemplazione, al raccoglimento interiore e alla preghiera.”

 次号では、この文章について説明したあとで、実際の巡礼の様子についてもお話ししたいと考えています。

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Sentiero delle Foreste Sacre, Foreste Casentinesi 2009/10/13

 ほぼ毎日15~20キロメートルもの距離を、重い荷物を背に歩くのは、慣れない身には大変でしたが、秋色に衣替えした山の美しさを楽しんだり、funghi porcini(「ポルチーニ」というおいしいきのこ、複数形)やcastagne(castagna「栗」の複数形)などの山の幸を見つけたり、そして、そういう喜びや苦労を友人たちと分かち合ったりすることができて、いい思い出になりました。

 ちなみに、この森林のホームページは以下のとおりです。森林の説明、さまざまな風景や散歩道の写真に加えて、宿泊施設などの紹介もありますので、興味のある方はぜひご覧ください。

Parco Nazionale delle Foreste Casentinesi, Monte Falterona e Campigna

 では、また。ペルージャの我が家では、室内の平均気温が現在約17度です。急に肌寒くなり、日が暮れるのもすっかり早くなりました。日本では紅葉が美しくなってくる時期ではないかと思います。皆さんもぜひ散歩に出かけて、秋の美しさを満喫してみてください。


イタリア語学習メールマガジン「もっと知りたい! イタリアの言葉と文化」関連号へのリンク
- 第24号(1)「90kmの巡礼の旅(2)〜聖なる森林の山道 Il Sentiero delle Foreste Sacre」
- 第24号(2)「アッシジの聖フランチェスコと歌・映画『Fratello sole, sorella luna』」


Articolo scritto da Naoko Ishii

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Commented by AU3OGR at 2020-04-30 20:13
なおこさん

チンクエチェント可愛い❤️
今、日本でもフィアット流行ってますよ♪
Commented by milletti_naoko at 2020-05-01 06:36
AU30GRさん、そうなんですね! チンクエチェント、55年経った今も現役で、まれにですがちゃんと走るんですよ。
Commented by zakkkan at 2020-05-01 13:18
歩く・・距離感が全く異なりますね

いえいえ、昔は日本人も「歩く」でしたよね
東海道、甲州街道、中山道。と歩道ですよね(笑)

いつから二本の足をつかわなくなったのかな?
便利な「車」が出回っていますからね
Commented by ciao66 at 2020-05-01 20:05
"il cuore verde d’Italia "なるほどそうだね、美しいウンブリアですから!と思いました。そして、聖人がいるからcuoreでもあるのでしょう。

フィアット500はかわいいデザインですね!
45年物の自動車が現役とはビックリです。
手入れも良さそうで立派なクラシックカーですね!
Commented by milletti_naoko at 2020-05-02 23:24
zakkanさん、歩くことが少なくなった現代だからこそ、中世以来、巡礼でヨーロッパ国間を多くの巡礼者が歩いていたことが文化的遺産として尊ばれて整備されるようになり、少しずつでも参加する人が増えてきたのではないかと思います。

四国八十八か所を歩いて回りたいんだけれどと言う人も、イタリアの巡礼仲間の中にはいるんですよ。
Commented by milletti_naoko at 2020-05-02 23:31
ciao66さん、ありがとうございます。おっしゃるとおり、聖人がいるから「心」ということもあるでしょうね。ウンブリアとマルケにまたがる、先の地震で被災地となったシビッリーニ山脈州域が、西欧キリスト教、イタリアの宗教的心の源泉だと書かれているのを、読んだことがあるようにも思います。

記事を書いてから11年経ちましたから、55年経ってもまだ現役です。途中で自動車修理工にお世話になり直してもらったとは言え、昔の物は長持ちするなと感心します。一生長く使えることを念頭に置いて作っていたのでしょうね。
by milletti_naoko | 2009-10-16 12:00 | Lingua Italiana | Comments(6)