イタリア写真草子 ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

第24号(1)「90kmの巡礼の旅〜聖なる森林の山道 Il Sentiero delle Foreste Sacre」

 2009年10月24日発行のイタリア語学習メルマガ第24号「聖なる森林の山道(2)、聖フランチェスコ」に、聖なる森の山道(Il Sentiero delle Foreste Sacre)を歩いた巡礼の旅の写真を添えて、このブログに掲載しています。今号は、第23号「聖なる森林の山道~90kmの巡礼の旅(1)」の続きです。



1.聖なる森林の山道~90kmの巡礼の旅(2) Il Sentiero delle Foreste Sacre

 
 まずは、『聖なる森林の山道』を説明する文章を見ていきましょう。なぜ、この山道が「聖なる」ものなのかが説明されています。文章のすぐ上に写真がある本、『Foreste Sacre』の冒頭から引用された文章です。

・Il sentiero delle Foreste Sacre
https://www.parcoforestecasentinesi.it/it/vivi-il-parco/sentieri-ed-escursioni/il-sentiero-delle-sacre-foreste.

“I boschi furono i primi templi dell’umanità. Nell’ombra claustrale delle foreste gli uomini antichi veneravano il mistero della vita e della morte nell’allegoria della rinascita vegetativa molto prima che le religioni monoteiste trovassero nel deserto il luogo privilegiato della rivelazione divina. In ambito cristiano, l’eterno legame fra ricerca spirituale e foreste trova nelle montagne dell’Appennino toscoromagnolo una delle sue espressioni più alte e compiute. Il folto di questi boschi che per vastità e bellezza non hanno eguali in Italia ha infatti accolto da più di mille anni comunità di monaci vissute in strettissimo rapporto con l’ambiente circostante, da cui ricavavano prezioso legname ma dove trovavano anche le condizioni necessarie alla contemplazione, al raccoglimento interiore e alla preghiera.”

「森林は人類の最初の神殿であった。一神教の宗教が神の啓示に最も好ましい場所を砂漠に見出すよりもはるか昔に、古代人は、森林という修道院の陰で、人生と死という神秘を植物の再生という寓喩の中に認め、崇拝の対象としていたのである。キリスト教では、宗教心の探求と森林の永遠の絆は、その最も優れた完成度の高い表現の一つを、トスカーナ・ロマーニャのアッペンニーニ山脈の山々に見出すことができる。実際、広大さと美しさではイタリアに他に比類を見ないこの森林は、その奥深くに千年以上もの間修道士たちの集団を受け入れてきた。修道士たちは周囲の環境と緊密な関係を保ちながら生活し、そうした環境から貴重な絆を得ると同時に、周囲の環境の中に、瞑想や精神の集中・祈りに必要な条件も見出していたのである。」(石井訳、以下の「 」内も同様。)

 多神教で、自然物の中に、たとえば、大木や大きな石、川の中などに「神性」を認め、敬ってきた、日本的な宗教観と共通する点が多い叙述だと思います。

 自然に関する言葉や宗教関係の語句が多いので、まとめて整理しておきましょう。

・自然に関する言葉

foresta(森林)、bosco(森、林)、deserto(砂漠)、montagna(山)、ambiente(環境)。

・宗教関係の語句

tempio(神殿、聖堂、寺、社, pl. templi)、venerare(崇拝する)、religone monoteista(一神教の宗教)、rivelazione divina(神の啓示)、cristiano (キリスト教の、キリスト教徒)、monaco(修道士、pl. monaci)、preghiera(祈り)。


 この巡礼(pellegrinaggio)、徒歩旅行の行程(percorso)は、次のリンク先にあるのですが、私たちはこの7日間の行程のうち、6日間の行程だけを、若干の変更を加えて、歩いて旅しました。

Parco Foreste Casentinesi - Il percorso delle sette tappe del Sentiero delle Foreste Sacre

 変更を余儀なくされたのは、10月に入って、休業している宿泊施設が多く、宿泊予定地に開いている施設がまったくないため、3km近く離れた場所まで余分に歩かなければならない日が2日あったからです。たとえば、1日目の宿泊先も、「利用者が10人以上いるなら営業する」と言っていたそうです。


  1日目-10月6日(火) San Benedetto in AlpeからCastagno d’Andreaまで。約20km。

  前夜にOstello Il Vignaleという宿に、全行程を歩く予定の10名が合流。

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Ostello Il Vignale, San Benedetto in Alpe 2009/10/6

 2段ベッドが並び、バス・トイレが二つ付属したアパートで男女混交で泊まりました。一人1泊朝食・夕食込みで27ユーロ。

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Cascata dell'Acquacheta

 当日は、早朝Acquachetaというダンテもたたえた美しい小川に沿って出発し、長く登り坂の多い道のりを歩いて目的地に到着しました。

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Passo del Muraglione

 この日の宿はPunto Tappa GEA。1泊素泊まり12ユーロの大部屋でベッドの上に寝袋(sacco a pelo)を広げて就寝しました。安いのは確かですが、シャワー(doccia)を浴びるのに、カーテンがなく、排水口が詰まっていて、床が水浸しになるなど、大変でした。夕食は、宿の所有者が経営しているOsteria Il Rifugioで食べました。夕食は決まったメニューで一人20ユーロと聞いていたのが、私たちが小食だったり菜食主義者の人が多かったりしたため、最終的に払ったのは飲み物代もすべて込みで一人15ユーロでした。特に一つ目のprimo piattoは、ニョッキ(gnocchi)においしいポルチーニがふんだんに添えられていて絶品でした。夕食後、皆でCastagno d’Andreaの町を散策しました。
       

  2日目-10月7日(水)  Castagno d’Andrea からBurraiaを経てCampignaまで。約17、5km。

 前日の疲れが残っている上に、最初から急な登り道が続き、皆に遅れながら歩きました。

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Capo d'Arno 2009/10/7

途中、アルノ川の源であるCapo d’Arnoも訪れましたが、残念ながら水が涸れていてまったくありませんでした。

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Lago degli Idoli

 特に、Monte Falterona(1654m)の山頂からの眺めはすばらしく、印象に残っています。

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Monte Falterona

 残念ながらBurraiaの宿が休業していたため、CampignaのLo Scoiattoloというホテルまで歩き、そこで宿泊。普通のホテルなので、一人分の宿泊代金が朝食・夕食込みで51ユーロと高くはありましたが、歩き疲れた体をゆっくりと広いベッドで休めることができて助かりました。


  3日目-10月8日(木) Passo della Calla からCamaldoliを経てSerravalleまで。約16~7km。

 背が高くすくっと伸びたブナの木(faggio)が美しい森林を歩きました。

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Riserva Naturale Integrale 2009/10/8

 地面も至るところがブナの枯れ葉に覆われていて、日の光によってはオレンジ色の絨毯のように見えました。

 途中、休憩をとったSacro eremo di Camaldoliはとても美しい場所で、ベネデット派の修道士たち一人一人専用のごく小さな赤屋根の家が並んでいます。ここから坂を下ってたどりつくCamaldoliには、同じ修道会に属する修道士たちの修道院(abbazia)があり、実はこの修道士たちは遠い昔から薬草などを使ってさまざまな薬を作ってきており、山中のSacro eremoでも町の中心にある修道院でも、昔どおりの製法で作られたというさまざまな薬やクリーム、蒸留酒(liquore)が売られています。両脚が痛み始めた私のために、夫がこのAntica Farmacia dei Monaci Camaldolesiの手になるCrema gambe e piedi(足用のクリーム)を購入してくれました。ひざ下から足全体まで、たっぷりクリームをつけながらマッサージ(massaggio)をすると、足の疲れやむくみ・重さが取れるというクリームです。サロンパスみたいな匂いがするのですが、確かにこれを塗り始めてから後は、足の痛みが軽減され、疲れの回復が早くなったような気がします。

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Camaldoli

 残念ながら、カマルドリ(Camaldoli)に開いている宿がないため、友人が見つけた最も近い宿であるSerravalleのアグリトゥリズモまで、疲れた足で歩き続けました。「カマルドリから3km」と聞いていたのに、車道を1時間以上歩き続けて、あきらめかけたころになって、ようやく宿、Agriturismo Podere Pian de’ Cortiniにたどり着くことができました。ただし、宿泊先はとても素敵なところでした。交通の便は悪いのですが、自然に囲まれ、アパートも部屋も居心地がよく快適でした。


  4日目-10月9日(金)  Serravalle からBadia Pratagliaまで。約13km。

 宿の娘さんが親切に希望者のリュックサックを途中経過地点のTramiglioneという場所まで車で運び届けてくれました。

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2009/10/9

 Tramiglioneには黒く熟したmore(クロイチゴの実、単数形はmora)がたくさんあり、私たち一行は先を争って、このクロイチゴを摘んで食べました。昼食もここで食べてから出発。途中時々雨が降って、大変だったのですが、湿気があるとキノコ(funghi、単数形はfungo)も顔を出してきます。赤やオレンジに色が変わった木の葉の美しい森を通って、私たちにはなじみの宿であるLocanda Carbonileに到着しました。

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Monte Penna visto da Cavalla Pazza - ancora lontano! 

 この日の一大ニュースは、途中で出会ったオランダ人のグスターヴォ(Gustavo)(ただし、これは彼の名前のイタリア版です)。2か月前にオランダから出発し、徒歩でローマを目指して歩き続けているということです。オランダからローマまで約2千kmのうちすでに1300kmを歩いたのことでした。62歳だというのに、1日約25kmと私たちよりもかなり速いペースで徒歩旅行を続けているGustavoは、定年退職までは有名なブランドの香水(profumo)を開発する仕事をしていたとのことで、ローマで教皇に会える許可証まで持参していました。10月に入って長距離のトレッキング旅行はオフ・シーズンになったためもあり、私たちが彼がイタリアで出会った最初の徒歩旅行者だと言って感激していました。

 宿は1泊朝食・夕食込みで一人27ユーロと安いのですが、2段ベッドがたくさんある大部屋に集団で眠りました。二つしかないらしいシャワーのうち、一つはシャワーの出口の穴が石灰で覆われていてシャワーを浴びるのが不可能に近い代物で、もう一つも、シャワーは浴びられるものの、トイレ・シャワー室は天井や床の隅が蜘蛛の巣に覆われ、その主の大きい蜘蛛(ragno)が狭い部屋の中をあちこちへと移動していました。この日、金曜日の晩に、ペルージャの友人が一人新たに一行に合流しました。


  5日目-10月10日(土) Badia PratagliaからBiforcoまで。約15km。

 霧(nebbia)に覆われ、時折小雨が降る中、本によると「最も荘厳な」森林の中を歩き続けました。

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Bivio 2009/10/10

 前夜ペルージャから合流した友人は、夫から「ワイン(vino)でも持って来るように」と言われていたらしく、ただでさえ荷物が重いのに、ワインの瓶(bottiglia、複数形はbottiglie)を二本も運んでいて、昼食時にワインを振舞ってくれました。その後は、夫がワイン運びをバトンタッチ。ちょっとおなかがすいた頃に、誰かチョコレート(cioccolato)を分けてくれる人がいたりして、旅行中は、皆で苦労や喜びだけでなく、甘いものも分かち合いながら歩きました。

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 当日の目的地に近いSerraの町に近づき始めた頃から空も晴れ始め、野ばら(rosa selvatica)の赤い実や秋で模様を変えた色とりどりの美しい景色を楽しむことができました。

 Biforcoの宿は、3階建ての大きな家の中に寝室が八つあり、それぞれがベッドの上に寝袋を用意して、バス・トイレを共用。食事はないのですが、台所は自由に使えるため、この日、土曜の晩に新たに合流したメンバーが中心になり、自分たちで夕食の準備をして食べました。新しいメンバーの中には子供を連れて来たカップルや友人がいて、合計5人の子供たちが、アパートの部屋や階段で楽しそうに遊んでいました。宿は、素泊まり一人10ユーロ。希望する場合はベッド用のシーツも頼めるのですが、宿泊料金が高くなるとのことでした。


6日目-10月11日(土)  BiforcoからLa Vernaまで。約8km。

 旅の初めはとても遠くに見えていた巡礼の目的地La Vernaが今は間近に見えます。車道を長く歩いたあと、細い山道を進み、Casalinoというとても見晴らしのいい場所で休憩。ガイドブック通り、vomere arruginito(錆に覆われたスキの刃)がLa Vernaへと向かう急な登り道を指し示していました。あまりにも坂が急なのと、この数日痛んでいた右ひざの痛みのため、私は一行に少し遅れながら、自分のペースでゆっくりと歩きました。夫とFerrara出身の友人と、山の中腹の眺めのいい場所を選んで、昼食休憩。

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2009/10/11

 その後、私を待ってゆっくり進んでくれる夫と二人で、美しい森林の中を歩きました。地面には落ち葉が敷きつめられ、森林のあちこちに緑色の鮮やかな苔に覆われた石と岩があり、場所によっては、岩の並び方がまるで計算しつくされた日本庭園のもののようにさえ見えました。

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 午後1時ごろ、最終目的地ラヴェルナ(La Verna)に到着。ここは、イタリアで、世界で敬愛される聖人、聖フランチェスコが瞑想や祈りに没頭できる場所として好み、聖痕(stimmate)を受けたことで知られています。

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 Il Santuario della Vernaは切り立った岩の上にあり、美しいブナの森林に囲まれていて、聖フランチェスコを慕う人々が世界中から訪れてやまないところです。La Vernaは私たちが最も好きな場所の一つで、今回の旅行で3日目に訪れたSacro eremo di Camaldoliと共にしばしば訪れて、教会に足を運んだり、周囲の森林を散策したり、聖フランチェスコの足跡を訪ね歩いたりしていますので、またいつか詳しくお話しするつもりでいます。

 今号の続きへのリンクは、以下のとおりです。
- 第24号(2)「アッシジの聖フランチェスコと歌・映画『Fratello sole, sorella luna』」


  Articolo scritto da Naoko Ishii

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Commented by sunandshadows2020 at 2020-05-03 11:46
スペインの巡礼の道を歩きたいと長い間思っていましたがもう無理です。でもその距離でしたら可能かもと希望が持てました。
6日間の苦行、素晴らしい経験でしたね。
一緒に歩く仲間がいるのでおしゃべりなどで気持ちを紛らせたりすることもできて良いですよね。
また美味しいワイン、チョコレートなどもシェアできればそれも嬉しいこと!
そんなに歩けるなおこさんは健脚ですね!
Commented by milletti_naoko at 2020-05-04 03:44
お転婆シニアさんたちは、いつもかなりの距離を歩かれているので、巡礼になると重いリュックを背負わなければいけないものの、巡礼道にもよりますが、どんどん歩かれるんではないかという気がします。山で登り下りが多かったり、アスファルトの車道を長く歩くので足が痛んだりと、それぞれの道にそれぞれの難しさがあります。一度試しに、わたしたちも歩いたことがあるのですが、巡礼の1日分の一区間だけを、スペッロからアッシジまでスバージオ山を越えて24km歩くのも、眺めがすばらしく、聖フランチェスコゆかりの庵あり、蘭やスイセン、シクラメンなど野の花も咲いていて、よかったですよ。

よろしかったら記事はこちらです。
アッシジへと歩く旅1 https://cuoreverde.exblog.jp/15843957/
アッシジへと歩く旅2 https://cuoreverde.exblog.jp/15851248/
by milletti_naoko | 2009-10-24 12:00 | Toscana | Comments(2)