2009年 11月 14日
第27号「Sole mio 冬の必需品、ペルージャの晩秋」
1.Sole mio 冬の必需品
Sono molto freddolosa.
日本語で言うと、「私はとても寒がりです。」
学生の頃は、ペルージャの中心街や付近のアパートに住んでいました。古いアパートでは、暖房効率が悪い上に、窓枠やドアの周囲からすきま風(spiffero)が入ってきます。4人の学生が一緒に住む共同アパートに暮らしていた期間が長く、たいていの場合、光熱費は住居人持ちでした。暖房としては、ガスで温めた熱湯が、家の各地の壁に設置してある暖房装置(termosifone)の中を循環して家を暖めるというのが一般的でした。
このガスを使った暖房は、寒いからといって1日中使っていたりすると、後でとんでもない金額のガス代を請求されることになります。というわけで、早朝に2時間と夜間の2時間だけ自動タイマーで暖房を入れ、それ以外の時間帯は各自で寒さをしのぐ対策を取ることが不可欠でした。
紅茶を何杯も飲んで体を温める人もいれば、日本では「氷枕」として使う製品に似た(同じかもしれません)厚いゴム製の袋に沸かし立ての熱湯を入れ、湯たんぽにしては体を温めている人もいました。同じ日本からの留学生で、「とうがらしを錠剤のように飲むと体が温まる」と言っていた友人もいましたが、私は半信半疑でした。
寒さに人一倍弱い私を見て、同居していたドイツ人の女学生が彼女のとっておきの冷え込み対策を教えてくれました。それが、sole mioです。
と言っても、あの有名なナポリ民謡’O sole mioのことではありません。でも、読者でがっかりされた方がいるかもしれないので、今は亡きルチャーノ・パヴァロッティ(Luciano Pavarotti)のすばらしい独唱とナポリの美しい風景を堪能できるYouTubeの映像のリンクを貼っておきます。
- Luciano Pavarotti – ‘O sole mio
ページの動画左下に歌の情報があり、ここの「もっと見る(more info)」という部分をクリックすると、歌われている歌詞すべてを読むことができます。歌を聞きながら読むこともできて便利ですので、一度ナポリの美しい映像を見た後で、2度目に聞くときは歌詞を目で確認しながら歌を聞いてみてもいいかと思います。1行目からイタリア語のgiornata がjurnataとなっていることでも分かるように、ナポリ方言で書かれています。以下のWikipediaの日本語のページに、ナポリ方言の原詩がイタリア語訳、日本語訳と並んで載っていますので、ぜひ参考にしてください。
- ウィキペディア フリー百科事典 - 「オー・ソレ・ミオ」
さて、話が横にそれましたが、冷え込み対策の絶品sole mioとは何なのでしょう。小さな丸型の暖房用具、家庭用電気器具(elettrodomestico男性名詞、複数形はelettrodomestici)なのですが、とても便利な代物です。下の写真をご覧ください。
大きさは、ほぼ湯たんぽと同じ、ただし完全な円の形をしています。付属の電気コード(filo elettrico)をコンセント(presa)に差し込むと、小さい赤い標示灯(spia)がつきます。3分近くで、この赤い光が消えるのですが、この時点からsole mioは使用可能で、コードを取り外してしまうことができます。
ごく短時間の充電で、だんだん温かさをまして、3分後にはかなり高い温度に達します。そして、このまま2、3時間、足のすぐ下に置いて、足元を温め続けることができます。
俗に「頭寒足熱」とも言い、日本の家庭には「こたつ」があって、寒い冬に脚から体を温めることができるのですが、イタリアには「こたつ」がありません。暖房も、termosifoneにせよストーブ(stufa)にせよ、あるいは暖炉(camino)にせよ、熱源の周囲は暖かいのですが、暖かい空気は上に行ってしまい、足元は冷たくなります。
というわけで、sole mioは、私にとっては、寒い季節の必需品です。夜寝るときだけでなく、今こうして原稿を執筆している間も足の下にあって、冷たい足(piedi freddi)を温めてくれています。
sole mio(私の太陽)というネーミングが秀逸だと思います。有名な’O sole mioの歌も示唆しているのでしょうが、太陽みたいに丸い形をしていて、太陽のように「私を温めてくれる」製品です。製造者はイタリアの家電メーカーArdesです。
- amazon.it - Sole Mio, Scaldino, Ardes+medicura
販売店によりますが、20ユーロ前後で売っています。現在イタリアで生活されていて寒さに困っている方がいたら、ぜひ使用してみてください。
寒い季節になってきましたので、寒さや暖房に関する言葉をまとめておきます。
形容詞で、「寒い」はfreddoです。「今日は寒い」は “Oggi fa freddo.”。 ただし、イタリア語のfreddoは、水や氷など手に触れられるものが「冷たい」ことを言うのにも使われます。名詞も同形freddoで、「寒さ、冷たさ」という意味です。
対義語はcaldo。この言葉も形容詞・名詞のいずれとしても使われますし、大気や気候だけでなく、スープやストーブなどが熱い場合にも使われます。ですから、日本語で言う「暑い、暑さ」だけではなく「熱い、熱さ」も、イタリア語では、共にcaldoです。「今日は暑い」は“Oggi fa caldo.”。ただし、日本語や英語では、「あつい・あたたかい」、“hot, warm”といった具合に「あつさ」の程度によって、使う言葉が違ってきますが、イタリア語では「あたたかい」、つまりその温度が心地よい場合にもcaldoという言葉を使います。
というわけで、余談ですが、大学の日本語の授業で使っている教科書(“Corso di lingua giapponese. Volume 1”, Hoepli)に「せんとうのおゆはすこしあつかったから」とあって、説明に困ってしまったことがあります。というのは、以前にも申し上げたように、イタリア語では「水」は冷たかろうと熱かろうとacquaなので、日本語のお湯はacqua caldaとなり、caldo(熱い)という形容詞が「お湯」を説明する時点ですでに含まれてしまっているからです。
ホテルの客室の蛇口で、出てくるのが水かお湯かは「青・赤」という万国共通の色を使って区別してある場合が多いのですが、ごくまれに言葉でfreddo・ caldo 、あるいは頭文字を取ってF・Cと表示されている場合もあります。特に英語圏からの旅行客でcaldo(イタリア語で「熱い・温かい」)を英語の cold(冷たい)と勘違いし、冷たい水のシャワーを浴びる羽目になって困る人もたまにいるようですから、気をつけてくださいね。
ちなみに「暖房・暖房装置」はイタリア語でriscaldamentoと言います。動詞の「温める・暖める」はscaldare、 riscaldare。すべて先のcaldoから派生した言葉ですから、中にcald(o)という言葉が入っています。
「寒さ」に関連する語句として、raffreddoreという言葉を覚えておきましょう。意味は「風邪」。「(私は)風邪を引いています。」は、イタリア語では “Ho il raffreddore.”、あるいは形容詞(過去分詞)を用いて “Sono raffreddato/raffreddata.”(それぞれ男性/女性の場合)と言います。ただし、イタリアでは、日本なら「単なる風邪だろう」とみなされるような、あまり熱が高くない場合でも、インフルエンザ(influenza)と言う人がたくさんいます。
鋭い方は、この二つの単語、raffreddoreとraffreddato/aの中に、freddoという単語の語根(fredd-)が隠れているのに気づかれたことかと思います(raf-fredd-ore, raf-fredd-at-o/a)。これは、この二つの単語が、freddoから派生した動詞raffreddare(raf-fredd-are)「冷やす、冷たくする、寒くする」から派生しているからです。
2.ペルージャの晩秋
夫に言わせると、「12月21日が冬(inverno)の始まりだから、今は秋の盛り(pieno autunno)」ということなのですが、朝晩の冷え込みや葉を落とす木々を見ていると「晩秋」という印象を受けます。
我が家では、菜園(orto)を彩っていた夏野菜はとうに姿を消し、今あるのは冬用のサラダ菜(insalata)・フダンソウ(bietla)やキャベツ(cavolo)です。トマト(pomodoro)も、今は辛うじてミニトマトがいくつか残っているくらいです。
我が家の庭には、メンドリ(gallina)がたくさんいて、柵に囲まれた広い庭の中を元気に歩き回り、走り回っています。新鮮で安全な卵が食べられるのでありがたく、日曜日には義母が調理してロースト・チキン(pollo arrosto)にすることもよくあります。「卵」を意味するイタリア語uovoは男性名詞ですが、複数形はuovaで女性名詞になりますから注意が必要です。春から夏にかけては、鶏が毎日たくさん卵を産むので、食べ切れなくて困るくらいなのですが、秋・冬になって寒くなると、産む卵の数が激減するため、時々スーパーで買わなければならなくなったりします。最近は卵の数がめっきり減り、こんなことにも冬の訪れが近いことを感じます。
庭の柿の実もだんだん色づいてきました。ちなみに、柿はイタリア語でcachiと言い、単数名詞で単複同形です。伊伊辞典によると、このcachiという単語は、日本語から1836年に入ったとのことで、Wikipediaの「柿」のページには「(柿は)日本から1789年にヨーロッパへ、1870年に北アメリカへ伝わったことから学名にも kaki の名が使われる。」とあります。
日本語では「桃・梅・りんご」などのように、木と果実を同じ言葉で表現する場合がほとんどであるのに対して、イタリア語では、木と果実を表す名詞の語尾と性が異なる場合が多いことは、第6号で既にお話ししました。
たとえば、イタリア語では「りんごの木」はmeloで男性名詞、「りんごの実」はmelaで女性名詞なのですが、「柿」の場合は例外で、木と果実のいずれも同形のcachiです。
我が家にあるのは渋柿です。イタリア人であるうちの夫や義父母は、柿をどんな風に食べるのでしょうか。実が塾し切ってゼリー状に柔らかくなるまで待ってから、柿のへたを取り除き、実を小さいスプーンですくって食べています。ここまで待って食べると、柿が本当に甘くなっていておいしいのですが、私は日本風の適度なかたさの柿も好きなので、そこまで熟し切る前に切って食べることもよくあります。
ただイタリアでは、少なくとも我が家の近所では、柿の木を単なる装飾用に植えている家もたくさんあります。深いオレンジ色で庭を彩る柿の実は美しいのですが、落ち始めた柿がすべて地面に転がったまま放置されているような庭も近所にあり、義父はもったいないと嘆いています。柿に限らず、オリーブ(olivo)や桜の木(ciliegio)も単なる庭木として植えられている場合もまれではなく、熟したオリーブの実(oliva)が地面に散らばっていたり、誰も摘まないのでサクランボの実(ciliegia)がすべて鳥に食べられたり、地面に落ちたりしているような庭もよく見かけます。
義父母は、今日も朝早くから、我が家から少し離れたミジャーナ(Migiana)という場所にあるオリーブ園(oliveto)にオリーブを収穫に出かけました。
「収穫の秋」、「食欲の秋」ということで、秋にはペルージャ近辺で催される関連する祭りがいろいろあります。前回ご紹介したペルージャのFiera dei Morti(死者の市)の他にも、10・11月には、トリュフ(tartufo男性名詞、 複数形はtartufi)などのキノコや栗(castagna女性名詞、複数形は castagne)、そして絞り立てで辛口なオリーブオイルや今年の各地のヌーボーワイン(vino novello/novello)を味わえるような祭り(festa, sagra)があちこちで開催されています。ペルージャに限ったことではないと思いますので、この時期に旅行・留学などを計画されている方は、事前にインターネットで、あるいは旅行中に観光案内所でパンフレットをもらって情報を収集し、行ける祭りがあればぜひ参加してみてください。土日は日中も行われている場合が多く、様々な特産物を味わったり購入したりできます。
では、また。この時期にイタリアに旅行される方で、イタリア語の入門者の方がいたら、来年用のカレンダーや手帳を自分へのお土産として購入されてはいかがかと思います。大きさも写真・デザインも様々なものがあります。gennaio, febbraio(1月、2月)、lunedì, martedì(月曜日、火曜日)などと、当然ながら、月や曜日がイタリア語で書かれています。祝日が日本とは異なるのが難点ですが、イタリア語の学習計画や実際の学習時間をメモするために、普段使いのものの他に、小さい手帳を一つ買うなどの工夫もできると思います。
私もイタリアで、来年用の手帳をいろいろ物色しています。本当は家計簿も買いたいのですが、イタリアでは販売していないようです。学習時間の管理にせよ、金銭の管理にせよ、毎日しっかり記録したり、予定を立てたりすることで、反省したり、意識づけになったりすると思うので、普通のノートに線を引いて出納を記録するのですが、面倒くさいのでつい途中で挫折してしまいます。
今年の9月1日に、20年ぶりに日記を書き始めました。書店でとてもかわいいデザインのものを見つけて、気に入って購入したのがそのきっかけです。皆さんも、イタリアに旅行した際に、気に入ったデザイン・装丁の日記があれば、ぜひ購入してみてください。毎日の月日や曜日に加えて、誕生日(compleanno)や住所(indirizzo)などの記入欄もイタリア語で書かれているので、毎日日記を書くたびに、イタリア語学習を続ける気力がよみがえってくるのではないかと思います。勉強仲間へのお土産にもいいかもしれません。
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そうなんですね・・
イタリアも地方によってはアルプスと接していますから
寒いでしょうね
暖房器具が、ガスですか・・
それは、それは、日本でも、高額な暖房費ですよ
もっぱら、あの日本式「炬燵」なんて訳にはいかないのね
笑っちゃダメですが
楽しく、苦労、足跡を拝読しました(笑)
言語だけでも教わったり、復習になりますが、それに加えて文化、風習も一緒に知る事になり尚興味深く拝見しています。
柿の発音が日本語に似ているのは本来ヨーロッパの木ではなくアジアから輸入されたのかしらと思ったり。
今も昔ほどではないものの、暖房のガス代はとんでもなく高いので、室温を18-19度に設定していると、寒がりのわたしは足元にこのsole mioが欠かせないんです。今はかなり暖かくなりましたが、暖房を入れないため朝晩は足元が冷たいので、やはりsole mioが大活躍しています。
ていねいに、楽しみながら読んでくださったと知って、うれしいです♪
イタリア語やイタリア文化に特に興味のない方にはおもしろくないのではないかと、最初のうちは発行当時の年月日で投稿して、タイムラインには反映されないようにしていたのですが、それでも、写真愛好家でフォローしてくださっているブログ仲間の方たちがいいねを押してくださるので、興味を持つ方には目に留まるようにしようと、投稿時の日時でいったん送信しておいて、しばらく経ってから本来の発行年月日を投稿日として再投稿することに決めたんです。
それだけに、語学カテゴリやイタリア情報以外からおつきあいの始まったお転婆シニアさんからの、楽しみにされているというコメント、とてもとてもうれしいです♪
伊伊辞典によると、このcachiという単語は、日本語から1836年に入ったとのことで、Wikipediaの「柿」のページには「(柿は)日本から1789年にヨーロッパへ、1870年に北アメリカへ伝わったことから学名にも kaki の名が使われる。」とあります。
Sono molto calorosa!
俵万智さんの短歌を授業で使われたのですね!素敵です。
おや、扉のページにバラが咲いたようですね。
デュファイ「バラの花がさきごろ」(フィレンツェ大聖堂献堂式に演奏されたモテトゥス)をFMで聴きながら♪
ありがとうございます。本当は
「寒いね」と話しかければ「寒いね」と答える人のいるあたたかさ
なのですよね。イタリア語では「暑い」も「熱い」も「あたたかい」もcaldo、「寒い」も「冷たい」もfreddoなので、「寒い」と「あたたかい」がしっかり頭と心に残るようにと俵万智さんの短歌の力を借りました。ちなみに、このときの生徒さんがピエモンテ出身の人で、ピエモンテでも共感を表すのに-neを文末に添えるんですよと言っていて、おもしろいなあと思いました。
あらまあ、何という偶然! ラジオの音楽と…イタリア語で言うとsintonizzato、わたしの記事がそんなふうに。
オリジナリティあふれる授業がメルマガ→ブログという形で保存されて、世界中に発信されるのは喜ばしいことです。
私も一生徒として勉強させてもらえて有難いです!
なるほど、「熱い」も「温かい」もcaldoなのですか。
ドイツで「ホットミルクください」というつもりで
”Heisse Milch, bitte."と言ったら、いつもぎょっとされるので、
ドイツ語のできる友人の助言にしたがって
”Warme Milch, bitte.”に変えたことを思い出しました。
heisse だと熱々のニュアンスになるのかしら、と…
今朝は少しひんやりしていて、ホットミルクが美味しいです。
英語にもwarmがありますから、ゲルマン語派には該当表現がある言語が多いのかもしれませんね。こちらも今日は曇り空の下風が吹き荒れて、温かいものがおいしく感じられます。