2009年 11月 20日
第28号(2)「現実からの逃避―映画『向かいの窓 / La finestra di fronte』」
2.現実からの逃避―映画『La finestra di fronte』
さて、小説『Il fu Mattia Pascal』では、何もかもうまく行かず追い詰められた主人公が、それまでの人生を捨て去って、新しい人生を始めようと試みるのですが、一方、この映画『La finestra di fronte』では、現実の生活に疲れたヒロインが、毎日の密かな楽しみとして、向かいの窓(finestra di fronte)の向こうに住む美しい男性をのぞき見していました。そんな、ある日……
印象に残るすてきな場面やセリフはたくさんあるのですが、映画の筋が分かってしまうものは避けて、中からYouTubeにある次の場面を取り上げて、説明します。
まずは理解しようと、繰り返し聴いてみてください。それから、紙に自分が聞き取れたことを書き写してみましょう。
よろしいですか。それでは、答えあわせをしてみましょう。
“Io non posso fare più niente ormai,
Lei invece può ancora scegliere.
Lei può ancora cambiare, Giovanna.
Non sia accontenta di sopravvivere,
Lei deve pretendere di vivere in un mondo migliore,
non soltanto sognarlo.
Io non ce l’ho fatta.”
解答を見ながら、聞き取れなかった言葉をチェックしてみましょう。聞き取れなかったのは、あるいはきちんと書けなかったのは、知らない言葉だったからでしょうか、それとも音がきちんと聞き取れなかったからでしょうか。イタリア語の文字と発音の対応を復習することが必要でしょうか。
“Io non posso fare più niente ormai,
Lei invece può ancora scegliere.
Lei può ancora cambiare, Giovanna.
Non sia accontenta di sopravvivere,
Lei deve pretendere di vivere in un mondo migliore,
non soltanto sognarlo.
Io non ce l’ho fatta.”
このセリフでは、普通は省略される主語代名詞Io(私は)とLei (あなたは、敬称)が執拗に繰り返されています。これは、話し手が自分と聞き手(Giovanna)を対照して、「自分は~だけれど、あなたは~」と、その違いを強く訴えかけているからです。
キーワードはpotereとancora。potereという補助動詞は「~できる」を意味し、後に動詞の不定詞が来ます。英語のcanと違って、主語によって形が変わります。上のセリフの中にあるposso、puòはいずれもpotereの直説法現在で、それぞれ主語が io、Lei (あなた、敬称)のときの活用形です。
訳してみましょう。
「今となっては、もう私には何もできません。
しかし、あなたは、まだ選ぶことができます。
まだ変えることができるんですよ、ジョヴァンナ。
ただ生き延びていくことに満足しないでください。
よりよい世界に生きることを毅然として求めなければいけません。
ただ夢見ているだけでは駄目なのです。
私にはできませんでしたが。」
最終行のce l’ho fattaは、farcela「うまくやり遂げる」の直説法近過去で主語がioのときの形です。
この映画では、推理事件のように、謎が一つ一つ明らかになっていくので目が離せないところがあり、またヒロインの感情の機微をジョヴァンナ・メッザノッテ(Giovanna Mezzanotte)がすばらしい演技で巧みに表現している上に、上記の映像でも分かるように、見るからにおいしそうなケーキがたくさん目白押しの場面があったりもします。
イタリア・アカデミー賞の主要4部門で受賞している傑作であるため、映画として見ごたえがあるものがあります。参考までに受賞したのは、イタリア・アカデミー賞最優秀作品賞、最優秀主演男優賞、最優秀主演女優賞および最優秀音楽賞です。
また、イタリア語を聞いたり、イタリア文化を理解したりするのにも大変役立つ作品です。というのは、家庭・職場など日常生活のさまざまな場面での会話が多いからです。また、イタリア映画には、「セリフの口調が妙にくだけていたり、地方色が濃かったり、若者言葉が多かったりする」ために、聞き取りが難しく、初級・中級の方の学習にはあまり適していないものが多いのですが、この映画のイタリア語には方言の度合いや若者言葉が少なく、見知らぬ大人同士の会話やヒロインのモノローグなど、ゆっくり、しかもはっきりと言葉が語られている部分が多いからです。
それに、家族の間、友人同士、あるいは見知らぬ同士で、どんなふうにあいさつを交わすのか、またどういう対人距離をとるのか、どんなジェスチャーが使われているかなども、学ぶことができます。
以下に、映画のDVDの紹介ページへのリンクを貼っておきます。日本向けのDVDでは、イタリア語の映画を日本語の字幕つきで鑑賞することができます。中級・上級の方で特にリスニングや会話の力をつけたい方、まもなく留学を控えている方には、耳慣らしのためにも、特にお勧めです。アマゾンイタリアで販売するDVDはイタリア語音声ですが、英語字幕つきで見ることも可能です。
amazon.co.jp - 向かいの窓 [DVD]
amazon.it - La Finestra DI Fronte [DVD]
映画の最後に流れるフォルジア(Giorgia)の歌も、歌がすばらしい上に、映画の内容をうまく表現していて大好きなので、歌の音声映像へのリンクを貼っておきます。よかったら視聴してみてください。
*この記事の続きで、ジョルジアの歌2曲「Un amore da favola」、「Un'ora sola ti vorrei」をイタリア語学習記事として取り上げ、アルバムをご紹介しています。歌の音声映像も添えてありますので、ぜひリンク先の記事をお読みください。
- 第28号(3)「Giorgia恋の歌 アルバム『Mangio troppa cioccolata』」
イタリア語学習メールマガジン「もっと知りたい! イタリアの言葉と文化」関連号へのリンク
- 第10号 「詩を読む〜生きる、モンターレの詩とマザー・テレサの言葉」
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