イタリア写真草子 ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

第30号(2)「政権の私物化を許すな、マスコミと司法を敵視 ベルルスコーニ」

 2009年12月11日発行のイタリア語学習メルマガ第30号「おお、ベルルスコーニ!」後半に、無効となったリンクを張り替えて文章に訂正を加え、このブログに移行しています。この記事は、第30号(1)「政権の私物化を許すな、ゴモラ作者呼びかけに署名50万人」 の続きです。



 さて、合間に掃除をしたり料理をして食事をとったりしながら執筆している間に、夜になりました。午後8時半から、RAI2のテレビニュースの前半部を見たのですが、冒頭に記したドイツ、ボンでのベルルスコーニ(Berlusconi)の爆弾発言に対する非難が、ベルルスコーニに外国で屈辱的な批判をされた司法側からだけでなく、ナポリターニ共和国大統領からもフィーニ下院議長からも、野党の政党を代表するベルサーニ 、カジーニからも寄せられていました。普段から、マフィアとの癒着が問題になろうと、司法やジャーナリストに対して暴言を吐こうと、つまり、ベルルスコーニが何をしようと、彼を擁護し、彼の言動を正当化し、彼を非難する者を激しく批判する与党のメンバーは、ボッシも含めて相変わらず「首相は正しい」と繰り返していました。

 以前にフィーニがテレビ番組Che tempo che faの中で、ファービオ・ファッツィオの意地悪な質問に答えて、「本当の友人なら、間違っていることは間違っていると言うべきであって、相手の言うことすべてを肯定して従うのは、友人ではなくsuccube(他人の言いなりになる人)だ。」と言っていたのを思い出します。

 以下のSKY TG24のページで、見出しの下にある映像をクリックすると、ボンでのベルルスコーニの問題発言を4分14秒にわたって視聴することができます。記事には、主要な部分が書き写されていますので、ヒアリング・読解に役立ててください。記事の下部のリンクから、当日のベルルスコーニのその他の発言を視聴することもできます。(*追記:残念ながら2020年現在ではこのリンク先の記事はあるものの、映像が削除されています。)

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tg24.sky.it - Berlusconi: in Italia comanda il partito dei giudici (10/12/2009)


 ベルルスコーニは、自分がスーパー首相(premier super)であると語り、「支持率が選挙時には60%、政府が仕事を始めてからは68.8%」と、国民の絶大な支持があることを主張していますが、実際には、最近の世論調査の結果によると、調査機関や方法による違いはありますが、右派・左派ともに中心的な政党の支持率の合計が30%台ないしは40%台にとどまり、両者の差はわずか5%前後であり、首相や与党への国民の支持はかなり下がってきています。首相はこの現実を偽っています、というより「無視して、見ないふりをしている」と言った方が正しいでしょうか。

 「我々は、左派の政府が残したナポリのゴミ問題という課題を早急に解決した」なんて言っていますが、このナポリのゴミ問題は、実は左派が政治の舵をとる以前から、つまりベルルスコーニ率いるCasa della Libertàが政治を担当していた頃から存在してしていました。現に、RAI3のReportという時事問題を扱うテレビ番組では、この問題をベルルスコーニが首相であった頃から何度も取り上げており、他のテレビ番組やテレビニュースが左派のプローディ政権の末期になって、突然この問題を一斉に取り上げ始めたことには、「国民の不満を煽り、ゴミ問題などの社会的問題を左派政府の責任にでっち上げて、国民の票が自分たち右派に流れるように仕組もう」という政治的意図が感じられます。

 ベルルスコーニは続けて、「ジャーナリズムの80%が左派の手にあり、自分を政治的に攻撃する道具に使っている」などと言っていますが、これもでたらめです。国営放送のRAIでは与党・野党が意見を発表する機会を均等に得られる決まりになっています。その上、実際にテレビのニュースや番組を見ていると、RAI3を除いては、与党に好意的な番組構成になっているような印象を受けます。ベルルスコーニや与党の政治的思想を反映する新聞紙も存在し、二大有力紙の一つであるCorriere della Sera紙も、財政的にベルルスコーニの関与が大きいため、報道が制約を受けかねないという危惧が識者から表明されています。ベルルスコーニのメディア、Mediasetのテレビ番組が彼に有利な報道・放映内容に傾きがちだということは言うまでもないとして。数年前に、ベルルスコーニが指名して、テレビ界から追放した著名なジャーナリストも何人かいます。現在でも、自分を非難する番組があるたびに、首相や側近が明らかな非難の声を上げており、「報道の自由、表現の自由、国民の知る権利」の危機が懸念されています。

 12月5日には、ローマに「反ベルルスコーニ」を掲げ、売春婦との関わりや汚職事件など、さまざまな動機で、ベルルスコーニの退陣を迫る人々がイタリア各地から多数押しかけました。このNo-Berlusconi Dayの参加者の人数は、企画者たちによると百万人、警察によると9万人ということで、かなり差がありますが、いずれにしても膨大な人数です。

 ベルルスコーニは「国民の主権を尊重するべく、憲法を改正する」と言っていますが、結局は司法府・共和国大統領などの政府への干渉の力を弱め、自分が好き放題に振る舞えるようにしたいだけだ、というのが目に見えています。

 このままベルルスコーニの暴走を放っておいたら、チャンピ前共和国大統領やサヴィアーノも心配しているように、イタリアが「民主主義国家」ではなくなってしまう恐れがあります。

 昨日のベルルスコーニの発言を機に、政府と司法府・共和国大統領との間の関係はますますこじれ、与党内にも軋轢が増加した様子です。現在は、ベルルスコーニのマフィアとの癒着や収賄事件に関する裁判が同時に進行しており、少しでも早く、より多くのイタリア国民が、国が政治的方向の重大な分岐点にあることに気づき、正しい判断・選択によって、国をより正しい方向へと導き直せるように祈らずにはいられません。遅くなってしまう前に。

 最後に、先のフィーニ下院議長のfuorionda発言について。英語では「放送中で」というのにon the airといい、放送する電波の媒体としての「大気」であるairという単語を使うのに対し、イタリア語では「放送中で」がin ondaであり、onda(波)という単語を使うことに注意してください。「放送されていない」はイタリア語ではfuori onda、英語ではoff the airとなります。

 以下にこの「放送枠外」発言をめぐる風刺から始まるマウリッツィオ・クロッツァ(Maurizio Crozza)の政治風刺へのリンクを張っておきます。

- YouTube - Crozza a Ballarò 1 dicembre 09 - Bondi sclera
(*追記:2020年5月現在、残念ながら映像が削除されてしまっているのでハイパーリンクは削除しましたが、URLと映像について述べた文章はそのまま残しておきます。Ballaròにおけるクロッツァの政治風刺に興味がおありの方は、言及する時事問題は古いのですが、視聴可能な映像一覧へのリンクはこちらです。)

 BallaròはRAI3の政治討論番組で、毎週火曜日の夜9時10分から放映されています。最初の10分ほどのクロッツァの風刺が大変おもしろいので、私たちは普段この最初の10分間だけ見ています。

 はっきりと分かりやすい話し方をしている上、話す速度も適度で、間を置いたり、肝心なところはゆっくり話したりしているので、中級の方でも、聞き取るのはあまり難しくないと思います。ただし、話題がイタリアのごく最近の政治事情の詳細に関するものですから、上級者の方でもイタリアの時事問題を逐一追っていないと理解に難しいところがあるかもしれません。

 上級の方は、まず一度映像を視聴してから、以下の説明を読み、その後でもう一度、聴き直してみてください。初級の方で内容に興味のある方と中級の方は、まず次の説明を読んでから、映像を視聴してみてください。

 最初の方では、イタリアの主要な新聞が「ベルルスコーニは、マフィア関係の捜査の対象外だ」という記事を扱ったことに対して、「捜査されていないこと」がニュースになるなんておかしなことだと聴衆を笑わせています。そして、ベルルスコーニが最近、ヨーロッパ諸国の首相としては初めてベラルーシ(Bielorussia)を訪問し、冷酷非常な独裁者ルカシェンコと会見して賛辞まで与えたことが問題になっているのですが、それについても「どうしてベルルスコーニはまともな国のリーダーと会見しないで、問題のあるリーダーばかりに好意を寄せているのだろう。」と揶揄しています。最後の方では、ベルルスコーニの離婚訴訟で、妻が年4300万ユーロの支払いを請求していることをネタにして、「トレモンティ蔵相が予算問題の解決策を見出した。ベルルスコーニと離婚するヴェローニカを妻に迎えることだ。」と言っていますが、お分かりになったでしょうか。

 では、また。日本でも寒い日が続いているようです。風邪やインフルエンザにはご用心。

 今回の執筆にあたっては、記事中で記述・引用をしているテレビ番組や新聞記事のほかに、他の多数の新聞記事も参考にしています。


Articolo scritto da Naoko Ishii

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Commented by minoru2703 at 2020-05-13 23:09
日本の現在の首相に似てますなあ
Commented by milletti_naoko at 2020-05-14 01:22
みのるさん、まったく同感です。10年前の記事なのですが、不思議に今の時代の日本と同じような状況だったのだなあと考え、ブログに移行しました。

第30号(1)では、検事がベルルスコーニを評して「生まれるのが数千年遅かったんだな。ローマ帝国の皇帝になりたかったんだろうに。」 と言う言葉を引用しているのですが、こんなふうに、「政権を任されたから何をしてもいい」という政治家が現れたときに、国民が毅然として、何としても主権を守ることの大切さを痛切に感じています。
by milletti_naoko | 2009-12-11 13:00 | Notizie & Curiosita | Comments(2)