2009年 12月 21日
第31号(2)「ティヴォリへの小旅行、エステ荘・ハドリアヌス荘と町歩き」
2.ティーヴォリへの小旅行
今年の私の誕生日には、夫がローマ郊外にあるティーヴォリ(Tivoli)の町への小旅行を贈って祝ってくれました。誕生日が12月4日で、今年は5・6日が土日にあたっており、しかもイタリアでは12月8日が祝日です。ウンブリア州庁で働く夫の職場では、州庁が7日の月曜日に閉鎖されたため、職員全員が1日有給休暇を取ることとなり、12月5日から8日までが連休となったからでもあります。
12月4日金曜日の夕方に、土砂降りのペルージャを後にして、夫の車でティーヴォリへと向かいました。自然や庭園の大好きな夫と二人で、以前から一度ティーヴォリのエステ荘を訪ねてみたいと考えていました。
(1) エステ荘(Villa d’Este)
翌日5日の朝から訪れたエステ荘(Villa d’Este)は想像していた以上に美しい場所でした。緑に囲まれた広い庭園のあちこちに美しい噴水があるのですが、中でもオルガンの噴水(la Fontana dell’Organo)とネプトゥヌスの噴水(la Fontana di Nettuno)の見事さには息を飲みました。
上の写真で、後方にあるのがベルニーニ(Bernini)が1661年に完成させたオルガンの噴水です。壮麗な彫刻に囲まれたこの噴水の壁面の中央、アーチの下の扉の中にはオルガンがあり、2時間置きにこのオルガンを隠した扉が開いて、オルガンの演奏を4曲楽しむことができます。
オルガンの噴水のすぐ周囲には、さまざまな趣向を凝らした噴水がたくさん配置されているのですが、中でも直前にあるネプトゥヌスの噴水は規模も大きく、巧妙に配置された大小の噴水が空高く水を吹き上げる上に、その水があちこちから滝水のように美しく流れ落ちるように工夫されていて、圧巻でした。
オルガンの噴水前のテラスでは、下方のネプトゥヌスの噴水から吹き上げる巨大な噴水の間から、広い庭園を見晴らすことができます。私たちが訪れたときは絶好の好天気だったので、吹き上がる噴水の中ほどに虹がかかっているのを見ることができました。
百の噴水(Le Cento Fontane)は、広大な屋敷と並行に走る小道に沿って無数の小さな噴水をあしらったものです。この長い小道は両端を美しい巨大な噴水に囲まれています。写真では、小道の後方に楕円の噴水(la Fontana dell’Ovato)の一部を、ごく小さくですが垣間見ることができます。この小さな噴水も、孔雀の羽をかたどったものや細い水が吹き上げてアーチを作るもの、動物の口から水が流れ落ちるものなどがあり、さまざまな趣向が凝らされています。
広大な庭園内の噴水や見晴らしもすばらしいのですが、屋敷の中も壁・天井のすべてが多様な壁画で覆われていて興味深かったです。風景や聖人、神話上の人物などを題材にした美しい壁画が多いのですが、中には、時に「狩りの部屋」(la Stanza della Caccia)のように動物愛好家には残忍に思われる壁画で覆われた部屋もありました。
このエステ荘の公式サイトには、「ヴィッラ・デステは、イタリア式庭園の傑作で、ユネスコ世界遺産の目録にその名を連ね……」と、その概要が説明されています。16世紀に枢機卿イッポリート2世(Ippolito II d’Este)が構想し、改築にあたったこの見事な邸宅と庭園を訪れてみたいとお考えの方は、公式サイトの以下のページに訪問に必要な情報(料金、休館日、開館時間など)がイタリア語・英語で書かれていますので参考にしてください。
- Sito Ufficiale Villa d'Este - Tivoli - Info & Servizi
(2) ティーヴォリの町
エステ荘を訪れた帰り道は、ティーヴォリ(Tivoli)の中心街の散歩を楽しみました。ティーヴォリはローマよりも古くに築かれた歴史のある町で、様々な時代に建てられた教会や住宅、古代の遺跡を見ることができます。
独特の風景が印象に残ったのはカンピテッリ広場(Piazza Campitelli)です。この広場には4世紀に建築され、後に何度も改築された教会、Chiesa di San Pietro alla Caritàがあります。外観は中世の教会に見えるこの教会のわきにある小道を歩いて行くと、Via Campitelliという通りに行き当たります。この通りは、ティーヴォリの最も典型的な通りで、中世後期建築の住居が随所に見られます。
中でも、最も美しいとされているのはcasa gotica(ゴシック様式の家)と呼ばれている住居で、アーチの上にテラスがあり、外部からテラスに上れる階段があるのが特徴だとのことです。
ティーヴォリには、他にも自然に囲まれ壮大な滝の美しいVilla Gregorianaがあります。残念ながら、冬は予約をしてガイドに伴われてでなければ観光できないということだったのですが、その入り口にある紀元前の神殿の遺跡、Tempio di Vesta e Sibillaは訪れることができました。
(3) ハドリアヌス荘(Villa Adriana)
2日目はティーヴォリの町の郊外にあるハドリアヌス帝の別荘(Villa Adriana)を訪れました。この別荘も、ユネスコ世界遺産に指定されています。ローマ帝国の皇帝、ハドリアヌス帝(Imperatore Adriano)が紀元2世紀に築き上げた別荘(villa)は、120ヘクタールにわたる広大な敷地のあちこちに、神殿や劇場、生活や休養に必要な大がかりな建築物があるという壮大なものです。
私が特に美しいと思ったのは島の別荘(Villa dell’Isola)とカノプス(Canopo)です。
この二つは、鏡のように周囲の景色を映し出す水の周囲をギリシャ風の円柱が取り囲んでいる点が共通しています。島の別荘では、円形の島の周囲に水をたたえた堀が円形に張り巡らされ、その周りをさらにやはり円形の外壁が取り囲んでいます。ハドリアヌス帝が一人になってゆっくり心を落ち着けたいときのための場所ということなのですが、見ているだけで平安な気持ちになれるような、それは美しい場所です。
巨大な建築物があちこちにあり、当時は美しいモザイク模様で飾られていたであろう床のそのモザイクの一部がところどころにまだ残っています。かつての皇帝の権力の強大さを思わせる建築物の多くは、今は廃墟と化しているのですが、中には保存状態のよいものもあり、歴史や遺跡の好きな方にはうってつけの場所だと思います。
数多い遺跡の中でも私の興味を引いたのは、大小の様々な浴場(terme)です。遺跡の前には、当時の浴場の構造や湯を温めるための技術なども詳しく説明されていました。
Villa Adriana
Largo Marguerite Yourcenar, 1
00010 Tivoli (RM)
Tel. +39 0774312070 - +39 0774768082
Email: va-ve@beniculturali.it
Pagina web : MiBACT - Villa Adriana
(4) ティーヴォリの宿と食
私たちが泊まったのはil Piccolo Boscoというティーヴォリの町外れにあるB&Bです。3連泊するからというので、一番大きい部屋に泊まることができました。
宿の世話一切をしてくれたパオラはとても気さくで親切な女性で、朝はイタリア式の甘い朝食(詳しくは第7号)ではありますが、ヨーグルト、シリアル、焼き立てのトーストや温めたクロワッサンを、客の好みの飲み物と共にパオラが次々と食卓に運んでくれ、ふんだんな朝食を楽しむことができました。到着した金曜の晩に、パオラが、おいしいレストランやピザ屋を教えてくれた上、無料の観光地図をくれたので、食事をするにも観光をするにもとても助かりました。宿の中にはティーヴォリの町やその近郊の観光名所を案内する様々な本やパンフレット(英語、あるいはイタリア語)が置かれ、あちこちにクリスマス用の飾りつけが施されていました。
到着した日は宿のすぐ近くにあるLaghi dei Realiというレストランで、夫が誕生日を祝う夕食をごちそうしてくれました。レストラン前の大きな池ではマス(trota)が養殖されていて、私たちは新鮮なマスを料理してルーコラとミニトマトを添えた前菜をおいしくいただきました。パオラからは特にマス料理と手作りのデザート(dolce男性名詞、複数形は dolci)がおいしいと聞いていたので、その後リゾットとデザートも頼んだのですが、どれもこれも美味で、すてきな祝宴になりました。
(*2020年5月追記: この部分に、宿のサイトへのリンクを添えていたのですが、現在ではリンクが無効になっていたので、削除しました。けれども、以下の文章は、一般にイタリアの宿の情報を調べる際に役立つと思われるため、残すことにしました。)
I prezzi(「値段」、単数形はprezzo)というリンク先には宿泊料金が、Dove siamo(「私たちがどこにいるか」)というリンク先には様々な交通機関で宿までたどり着くにはどうすればいいかが書かれています。ちなみに宿の名前は「小さい森」という意味で、これは郊外にあって自然に囲まれているからです。ティーヴォリの町から車で十分ほど離れたところなので、車で旅行される方にお勧めします。ティーヴォリはローマから地下鉄やバスを利用して1時間ほどの場所にあります。夏は日が長いので、ローマから日帰りで旅行を楽しむことも可能です。
ティーヴォリを発ったあと、スビアーコ(Subiaco)という町へ行って、美しい大きな修道院を二つ訪れました。この修道院もパオラが紹介してくれたのですが、今回は長くなりましたので、この続きはまた次回お知らせするつもりでいます。
(*2020年5月追記:この旅の続き、スビアーコの二つの修道院については第32号でご紹介しています。)
ティーヴォリはとても興味深い町で、特にエステ荘の美しさには圧倒され、思い出深いすばらしい休暇を過ごすことができ、夫には心から感謝しています。実は、この町や別荘を訪れることに決めたのは、日本から持参した『地球の歩き方 イタリア』のおかげです。私が持っているのは2002‐2003年版と版が古いのですが、イタリアに住んでいても、どこかに行こうというとき、まずは行ってみたいところを選ぶのに、写真や説明がふんだんにあり、けれども簡潔に書かれてあって大変便利です。行きたい場所の目星がついたら、ガイドブックだけでなく、インターネットでその場所に関連する情報も調べるのですが、ツアーでイタリアを旅行するという方にも、イタリア留学をしてみたいという方にも、旅行・留学先の情報だけでなく、イタリアというのがどんな国かがページをめくっているうちに見えてくるいい本だと思いますので、おすすめします。観光地の名所の案内のほかに、歴史や風土、各地独特の料理や美術・文化に関する情報も豊富ですから、たとえツアーで旅行に行くとしても、一冊買って出発前に少し読んでおくだけでも、旅をより一層楽しむことができると思うからです。巻末には旅行中に知っておくと便利なイタリア語の表現や単語もまとめてあるので、旅行中も重宝すると思います。
- 『地球の歩き方 イタリア』 (ダイヤモンド・ビッグ社)
おわりに
ベルルスコーニ首相が傷害を負った際には、与野党や共和国大統領など、すべての人が心配し、早期の回復を願い、犯人の暴力行為を憤っていました。最近の議会での与野党の衝突の在り方を見直そうという動きもあるのですが、このまま山積する問題が二次的なものとならないことを心配する声も聞かれます。
21日の夜は番組Che tempo che faのゲストとしてアンドレーア・ボチェッリ(Andrea Bocelli)が招かれ、世界中でヒットを続ける新しいアルバム、『My Christmas』(第29号の後半を参照)から何曲かを披露しました。世界中の人々が彼の歌を聞きたいと望む中、インタビューに答えて、「自宅では家族から『歌ってほしい』ではなく『歌わないでほしい』と頼まれるんだ。でも家族は基本的に優しいので、直接そう言うのではなくて、たとえば息子も『外でたくさん歌って大変なんだから、家の中でくらい少し休んだら』という言い方をするんだ。」と語っていたのが、ほほえましかったです。
では、また。創刊号の発行が昨年の12月29日だったので、このメルマガももうすぐ創刊1周年を迎えます。ご愛読、ありがとうございます。
「継続は力なり」
メルマガを書くためにと、頭・心・耳にアンテナを立てているので、以前よりは注意深く、いろいろなニュースや情報に耳を傾けるようになりました。分かったつもりでいた歌や文章も、記事に書こうとすると、実はあいまいにしか理解していなかったことが分かったりするので、私自身も勉強しながら執筆しています。
「念ずれば花開く」という坂村真民さんの詩もありますが、新しい年を迎える前に、自分が咲かせたい花は本当はどんな花なのか、もじっくり考えてみたい今日この頃です。
ブログ関連記事へのリンク
- 古のティヴォリの遺跡に夕日の光、ハドリアヌス荘
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- 第 7 号 「イタリア式朝食、ラウラ・パウジーニの歌 『Fidati di me 』」
- 第29号「Tu scendi dalle stelle イタリア語のクリスマス・ソング」
昔、一度だけイタリアに旅行した時に、「ああ、アルプスより北は、文化果つる蛮国だったんだなあ・・・」としみじみ思いました。素晴らしい。
日本の大学では第二外国語でドイツ語を専攻したので、いつかライン川を船で下りたい、ノイシュヴァーンシュタイン城やメルヘン街道を訪ねたいと憧れていました。いつか行ける日が来ますように♪
皇帝の別荘あとが今も残っているというのも、美しい噴水の庭園というのも魅力ですね。イタリアは何処もが美しい気がします!
特にハドリアヌス荘は、かなり長い期間にわたっていろいろなものが持ち去られたようなのですが、場所と規模から、そして石でできているために、今でもその跡を眺めることができるのだと思います。エステ荘もおすすめです♪ わたしもまた近いうちに再訪できればと思っています。
野山で小川や滝、湖や池など、水に出会うとうれしいのですが、そういう水の流れや美しさを庭園に取り込んでいるという点では、平安時代の寝殿造の庭の池や水の流れの配置に、形は違っても、心や姿に相通ずるものがあるように感じています。コペンハーゲンに町の名を取った遊園地があるとは知りませんでした!
観光客を対象にしている多くの施設が、方たちが、どうかこの困難を乗り越えてくれますようにと、わたしも心から願っています。