2009年 12月 25日
第32号「スビアーコの美しい修道院とクリスマス」

「皆さんがすてきなクリスマスと幸ある新年を迎えることができますように!」

クリスマスツリーの下のプレゼーぺ(presepe)の中に、イエス・キリストがいないのは、我が家では25日の真夜中になって初めて、幼子イエス・キリストもプレゼーぺに加えることにしているからです
1. スビアーコの美しい修道院
(1) 聖ベネデット修道院(Monastero di San Benedetto, Subiaco)
スビアーコ(Subiaco)の町はティーヴォリ(Tivoli)から30kmほど離れたところにあります。「名高い大きな修道院があり、敬虔な気持ちになれるすてきなところだ。」とパオラに聞いて、訪ねてみることにしました。

聖ベネディクト修道院(Monastero di San Benedetto)はスビアーコの町から少し離れた高い岩山の頂上近くに位置しています。
次の写真は、修道院入り口の廊下から撮影したものです。修道院が切り立った崖の上にあることがよくお分かりかと思います。

聖ベネディクト(San Benedetto、480頃~547)はウンブリア州ノルチャ出身で、ベネディクト修道会の創立者であり、イタリア及びヨーロッパの守護聖人なのですが、この修道院は聖ベネディクトが宗教の道を志した最初の3年間を岩間で祈りに捧げて過ごした聖地、サークロ・スペーコ(Sacro Speco「聖なる洞窟」)に築かれたものです。聖人が毎日祈りを上げていた頃は岩しかなかったその場所に、後世になってから壮大な修道院が築かれました。岩盤を削って作り上げられた修道院は、天井も壁も色鮮やかな絵画に満ちています。絵画は主に、聖人たちや聖母マリアの生涯などを物語るものでそれだけでも見ごたえがある上に、内部にかつての岩肌の見える場所があり、壁の上部に開けられた三角窓から他の部屋、廊下の壁画が見えたりして、建築も見る者の意表を突く、おもしろい見事な構造になっています。
(2) サンタ・スコラスティカ修道院(Monastero di Santa Scolastica)
岩山の頂上近くにある聖ベネディクト修道会から車で少し下ったところにも、大きな修道院があります。名前は、聖スコラスティカ修道院(Monastero di Santa Scolastica)。

聖ベネディクトが6世紀に創立したこの修道院には、美しい回廊(chiostro)と11世紀のロマネスク様式の鐘楼(campanile romanico)があります。ガイドつきで、決められた時間でないと修道院内の見学ができず、私たちが見学できたのは4時半で日が暮れかけていたのですが、それでも特色ある回廊の入り口の彫刻や廊下の壁画を見ることができました。この聖スコラスティカ修道院には客用宿泊施設(foresteria)があり、外部から訪れた観光客も、レストランで食事をしたり、客室に泊まったりすることができます。

私たちが宿泊した翌日の12月8日が、カトリック教では聖母マリアの無原罪の宿り(Immacolata Concezione)を祝う祝祭日であったため、前日であった7日の晩には、修道士が夜の祈り(vespro)を唱える前に、地元の人ともに聖母マリアを讃える歌を合唱したのですが、私たちは祈りの会と合唱のいずれにも参加しました。翌日8日は、セルフサービスの朝食のあと、修道院内で行われるミサに参列してから、修道院とスビアーコの町を後にしました。
最初に書いたように、どちらの修道院も内部を写真で撮影することができなかったのですが、以下の修道院の公式サイトには、修道院の訪問や宿泊情報に加えて、歴史や内部の様子も写真と共に説明されています。興味のある方はぜひご覧ください。
- Monasteri Benedettini di Subiaco
余談ですが、一昔前にイタリア人の作家、ウンベルト・エーコ(Umberto Eco)が中世のベネディクト会修道院を舞台に描いた推理小説『薔薇の名前』(原題、Il nome della rosa)が映画化もされて人気を呼び、話題となりました。残念ながら映画はイタリア語ではないのですが、イタリアの文化や歴史を知るのにもいい作品だと思います。興味があれば、本でも映画でも、お好きな方をぜひご覧ください。
2. クリスマス(Natale)
カトリック教会では、クリスマスに先立つ約4週間が待降節(Avvento)と呼ばれ、イエス・キリストの誕生を象徴するクリスマスを待ち望み、生まれ来る救世主に祈りを捧げる期間となります。町がイルミネーションなどで飾られ始めるのは、伝統的には、この待降節の始まる11月末から12月8日にかけてですが、最近はかなり早めにクリスマスを演出する町や商店街が増えてきているようです。
小旅行から帰った12月8日晩のテレビニュースでは、聖母マリアを讃えるこの祝日に家の中にクリスマスの飾りつけをする家庭が多いという報道がありました。イタリアの家庭では、今では日本の家庭でも飾るようになったクリスマス・ツリー(albero di Natale)に加えて、presepio あるいはpresepeと呼ばれる幼子イエス・キリストの誕生の場面を再現する模型も飾ります。プレゼーぺ(presepe)を初めて飾ったのはアッシジの聖フランチェスコですが、現在でもイタリアでは家庭やさまざまな教会に美しいプレゼーぺが飾られています。
プレゼーぺには様々あって、「イエス・キリストと両親、幼子を吐く息で温めるロバ(asino)と牛(bue)」といった簡素なものから、ベツレヘムの町全体の模型があって、町の中では人々がさまざまな仕事や活動に従事し、羊の群れと共にいる羊飼いや遠くの砂漠で旅を続ける東方の三博士(tre Re Magi)まで含む大規模なものもあります。色つきの照明で、朝から夜、夜から朝へと移り変わる様子を見せて、町を包む空の色が変わり、夜空には星がきらめいたり流れたり、燃え盛る薪の火を赤いセロハンと隠した豆球で表したりという光を使った工夫が凝らしてある場合もあります。水を用いていて、場面の中を流れる川や滝があり、水車が動いたりするものもあります。
家庭内だけでなく多くの教会でも、プレゼーぺがクリスマスの数日前から1月6日の主顕節(Epifania)まで飾られています。教会によっては大がかりなもの、様々な趣向を凝らしたものがあり、町によっては世界中、イタリア中あるいは町中のプレゼーぺの展示会をしていることもあります。今の時期にイタリアを旅行される方や現在イタリアに滞在している方は、美しいプレゼーぺのある教会や展覧会のニュースがあれば、ぜひ訪れてみてください。町によってはpresepe viventeといって、実際に生きた人々がキリスト誕生の場面を衣装をまとって再現するところもあります。
カトリック教会では12月25日の真夜中からミサを行うのが本来の在り方のようですが、深夜で不便でもあるので、25日の午前中に行われるミサに行く人も大勢います。家族での会食も24日の夕食である場合や25日の昼食である場合など、地域や家庭によって様々のようです。ちなみにペルージャの我が家では、義父母宅で25日に昼食を皆で食べるのですが、その際にペルージャのクリスマス料理の定番なのがパスタのカッペッレッティ(cappelletti)です。肉を中に包んだこのパスタの名前は、小さい帽子に似ているところから来ています。イタリア語で、帽子はcappello、その縮小形はcappellettoで、この複数形がcappellettiです。ペルージャでクリスマスに食べるカッペッレッティは鶏の肉と骨をじっくり煮込んだスープ(brodo)と共に皿によそっていただきます。
食事がすべて済み、最後にコーヒーを飲んだあとで、プレゼントの交換。姪っ子たちは、まだ、自分たちの贈り物はサンタクロース(Babbo Natale)が運んでくれるのだと信じています。両親は子供たちに「サンタクロースへの手紙」を書かせて、それを読んで、贈り物を何にするかを考えたり、他の親戚に頼んだりしています。
それでは、また。すてきなクリスマスの1日をお過ごしくださいね。
ブログ関連記事へのリンク
- モンテカッシーノ修道院と聖ベネデット (2019/2/16)
- 薔薇の名前に探る中世後期、イタリア明日土曜21:15 Rai 3 『ULISSE』 (2017/4/21)
- クリスマスの1日 (2010/12/25)
イタリア語学習メールマガジン「もっと知りたい! イタリアの言葉と文化」関連号へのリンク
- 第91号「初プレゼーペと聖フランチェスコ、フィレンツェ ブロガー招待」 (2013/12/24)

