イタリア写真草子 ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

マスクで日本語授業「米の日本と小麦のイタリア」と夫の作るアンパンマンパン

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 3月上旬にイタリア全土における外出・移動規制が始まって以来、オンラインで行なっていた日本語の授業も、法的には6月半ばからは、個人授業であれば対面授業をすることが可能になっていました。けれども、用心のため、そして、雨や猛暑など、天候による問題からも、その後もオンライン授業を続けていました。そうして、今日土曜の朝に、3月以来久しぶりに、実際に顔を合わせての授業を、ようやくすることができました。生徒は、日本語能力試験(JLPT)の上級レベル、N1合格を目指す若者です。

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 双方の安全と新型コロナウイルス感染の回避のために、できれば外のテラスで、それが無理なら窓を開け放して授業をすることにしていました。ふだん授業に使っている台所も、授業ができる広さのあるテラスも、うちの東側にあります。朝10時頃までは、テラスは日が当たって暑いため、今朝の10時からの授業は、台所ですることにしました。できればマスクもした方が安全なのですが、暑がりの生徒がマスクをすることは嫌がるのではないだろうかという不安がありました。そこで、高齢の義父母と接触の可能性がないように、裏の小さな門を開けて、我が家の台所の窓から入ってもらい、居間の窓も開け放して風が吹き抜けになるようにして、マスクがなくても大丈夫なようにテーブルも風通しのいいところに移動したのですが、結局は、門をわたしが開ける時点で、すでに生徒自身がマスクを着けていたため、わたしもすぐにマスクを取りに行き、双方ともマスクを装着したまま、授業をしました。昨夜から今朝にかけて雨が降ったおかげで、ふだんよりは涼しかったので助かりました。

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 ウンブリア各地での道路工事のために、今朝は渋滞で、生徒の我が家への到着が20分ほど遅れました。遠方から来ることもあり、ふだんは一度に1時間半あるいは2時間の授業を希望するのに、今日は1時間だけ受講したいと言ったのは、長く滞在して感染の可能性が高まることのないようにという配慮からだったのかもしれません。

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Mulino Bravi, Cingoli (MC) 6/4/2019

 今日久しぶりに、過去の試験の読解問題をいっしょに見ていたら、問題文に「土を耕し、水を引き、苗を植える」(引用元はこちらの26ページ)という言葉があったので、「水を引く」とはどういうことか分かりますかと尋ねると、「水やりをすることですか」と答えが返ってきたので、「ここでは、川などの水の流れを田畑に取り込んで利用できるように移動することです。」と説明しました。せっかくなので、さらに紙に「我田引水」と書いて、この四字熟語を知っているかと尋ねると、知らないとのことです。そこで、意味と用法を説明すると、生徒がおもしろいですねえと目を輝かせました。

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 そして、イタリア語にも、tirare l’qcqua al proprio mulino(直訳は「自分の水車小屋に水を引く」)ということわざがあるんですよと、その理由を説明してくれました。調べてみると、このイタリア語のことわざも、日本の我田引水と同様に、「自分に有利なように取りはからうこと」という意味で使われるようです。

 米を主食とし、水田で稲を育てる日本では「自分の田んぼに」、主食の小麦は挽いた粉をパンやパスタとして食し、かつてはその小麦を水車小屋(mulino)で挽いていたイタリアでは「自分の水車小屋に」水を引くということわざがあり、同じような表現が同じ意味で使われていることが、文化的違いも反映していておもしろいと、わたしも思いました。

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 米文化と小麦文化、ごはん文化とパン文化の違いと言えば、日本では「同じ釜の飯を食った仲」と言いますが、イタリア語で「友人、仲間」を意味するcompagnoもまた、語源は「同じパン(pane)を食する人」です。

 食文化がこうして言語の中に、ことわざや言葉として反映されていることを、今日は改めておもしろいなあと思いました。

 来週はまた別の二人の生徒の個人授業も対面で行う予定になっています。今日の授業をきっかけに、風通しがよい環境であり、互いの間に十分な距離はあっても、やはり授業では互いに話す言葉も多いので、生徒にこちらからマスクを着用するように頼み、わたしもマスクを着けることにしようと、そう思いました。

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 パンと小麦が登場する話なので、夫が最近焼いたパンの写真を添えてみました。自分が焼いたパンだと分かるようにと、夫がパンの中央につけたメダルのような丸い形に、思わずアンパンマンとその鼻を連想してしまいました。

 今も水力を利用して粉を挽く水車小屋とその用水路の写真3枚は、昨年4月にマルケ州の小村、チンゴリ(Cingoli)の水車小屋、Mulino Bravi(サイトはこちら)をガイドつきで訪問し、小麦粉を購入したときに撮影したものです。

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Articolo scritto da Naoko Ishii

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Commented by zakkkan at 2020-07-05 13:56
我田引水
この言葉は、日本でも「死語」かな(笑)
いえいえ、ある意味、そうでも無さそうなことが
今、日本で起きてますね

経済を優先?コロナ感染を食い止める
二者択一ですが

どうも?通じないことだらけです
困った事例が多いです

イタリアでは、ずいぶんと感染者が落ち着きましたね
出来るだけ、終わったのではないことを知りましょうね
Commented by milletti_naoko at 2020-07-05 17:11
zakkkanさん、日本の風景からは水田が、イタリアからは川の流れを利用して粉を挽く水車小屋が少しずつ姿を消していってはいるものの、幸いまだあちこちに見つかるのですが、一方こうした四字熟語やことわざが表するような自らの利益ばかり考えるふるまいは洋の東西を問わず後を絶たないので困ったものです。

残念ながらイタリアでも自分勝手なふるまいによって、一人が多くの人を感染させてしまう事例が出てきています。経済よりも命と市民の幸せを政治が、一人ひとりが自らの都合よりも他の人を感染させずその健康や幸せを守ることを優先していかなければ。
Commented by meife-no-shiawase at 2020-07-05 18:21
なおこさんが色々と気を使って準備をされて
生徒さんもきちんとマスクをして授業にいらっしゃってなにか気持ちがいいです。

N1レベルとは素晴らしいです。
N1レベルになると日本人の私でも「ん?これわからない」
なんていう問題も少なく有りません(-_-;)。

水を引く・・・から我田引水につなげてみるなんてすごくわかりやすいです。
「我田引水」の意味は学生さんは絶対にもう忘れないと思います。
単語や意味だけでなく、日常に近いものなどを盛り込んで・・・素晴らしい授業ですね。
それに応えるように生徒さんのイタリア語の例がもう、たまらなく面白いです!
学生さんの反応もとってもいいです。楽しい授業になりましたね!

中国語では我田引水と同じ意味を表す成語(4文字で構成される慣用句です)がありますが
「自私自利」。字そのもので意味を表していて水田や水車小屋は出てこないです。笑。

同じ釜の飯がパン!!!面白いですね~ほんとに!
Commented by milletti_naoko at 2020-07-05 20:06
メイフェさん、イタリアではバールにスーパー、職場でも屋内ではマスクの着用が義務づけられ、少なくとも公の場では屋内では守られていることが多いおかげでしょう。生徒の方からつけてくれていて、自分からは言いにくいので、ありがたかったです。

N1とN2では語彙も漢字も文法も、そして読解も音声問題も、必要とされる語学力に格段の差があるので、大変そうですが、外出規制中も仕事で忙しい中、継続して日本語学校の無料で利用できるオンライン授業の映像を視聴しているようで、こつこつと頑張っていて、えらいなあと感心しています。

温かいおほめのお言葉をありがとうございます。イタリア語と日本語で、そのまま「田」にあたる部分だけが水車小屋になっている以外は、表現がそっくり同じであることにも驚きました! 洋の東西を問わず、やはり生活に身近なものがこうして諺として使われ、自分に都合のいいようにばかり水を引く人がいたのでしょうね。こうやって新しい知識を自分が持っている知識とさっと結びつけられることも大切だと思うので、そういう意味でも、反応がいいですよね。

日本の大学では、学んだのが教育学部中学校教員養成課程で、国語専攻だったため、漢文講読の授業があり、中国から来られた先生が授業を担当したら、なんと内容が現代中国語会話だったので、第二外国語では中国語を受講していた人には有利でも、ドイツ語を受講していたわたしは困ったのですが、その授業の教科書に、確か粒粒辛苦の故事を説明する文章もあったように覚えています。それでは我田引水は日本で生まれた諺なんですね! 自私自利、まさにそのものですね。そう言えば漢文の授業で、孟子が皆が自らの利益ばかり考えていては国が滅びえてしまうという文章も教えたことがあります。古来自己中心的な傾向は誰にでもあるものですが、為政者は仕事としてまずは国民のためを考えてほしいものです。

同じ釜の飯がパン、おもしろいですよね。北欧ではひょっとしてこの部分が「ジャガイモ」になる諺があったりするのだろうかと、ふと思いました。
Commented by sunandshadows2020 at 2020-07-06 09:52
気を使ってくださった生徒さん、良かったですね。
規制が緩くなってもマスク必須とは良いことだと思いました。
こちらでは、、、、、、
どの言語にも同じような言い回しがあることは英語と日本語でもありますし、そんな面に遭遇した時はどこでも人間は似たような考えをするものだと思います。
ただ場所により、田が水車小屋になったりするところも面白いし、そこが文化の違いかと。
ある時フランスのGiteに泊まりそこのご主人と(イタリア人)田植えの話をしたことがありました。その方も同じような体験をしたと知りとても面白かった事を思い出しました。
Commented by milletti_naoko at 2020-07-06 22:34
お転婆シニアさん、幸いウンブリアでわたしの知る範囲では、店の人自体は接客時には、あるいは店内ではマスクをしていることの方が多く、またそうでないバールには行かないようにしているので(というかわたしが希望しているのです)安心できるのですが、今日の昼のニュースを見たら、各地で週末に人がマスクなしに群がる様子と、外ではあれマスクなしで給仕するバールの店員が映っていて、心配になりました。

イタリアでも北部には米作が盛んな地域がありますものね。そうした地域で働く女性たちを主人公にした古い名画もあるほどです。日本のお転婆シニアさんが旅行者として、イタリアからの移民が宿の主人として、そうしてフランスで出会われて田植えの話に興じられるというのもまたおもしろいですね!
by milletti_naoko | 2020-07-04 23:13 | Insegnare Giapponese | Comments(6)