2020年 08月 20日
渓谷の岩窟に古い教会の跡、聖エウスターキオ修道院

かつて多くの巡礼者たちに宿を与え、多数の寄進や寄贈によって富を蓄えたという聖エウスターキオ修道院(Abbazia di Sant'Eustachio)も、今はその教会の壁が、緑の枝葉に包まれて、かろうじて立つばかりです。

教会跡の傍らには、巨大な岩窟、聖エウスターキオの洞窟(Grotta di Sant'Eustachio)があり、教会内部には、この写真左手に見える扉の中から入ることができます。

11世紀にベネディクト会の修道士たちが築いた、聖大天使ミカエルに捧げられた庵が、13世紀になって増築され、聖エウスターキオ修道院となったそうです。夫の後に続いて、入り口から中に入ると、冒頭の写真のように、今は装飾も色あせ、崩れた壁もあるものの、なお荘厳な雰囲気を感じる教会内部を見ることができました。

こちらは、かつては扉があったであろうこの出入り口を内部から撮影した写真です。上部にもフレスコ画の装飾があったものと思われます。

石で築かれた壁や天井にかつての様子が偲ばれるのですが、今は内部をさえ、緑のツタが覆い始めています。

教会には下の階もあり、その入り口は、先の扉の右斜め下にあります。夫が中をのぞいていたのですが、その入り口からは中をのぞくことができるだけで、入ることはできなかったそうです。

教会跡の傍らにある洞窟が、とても大きいので驚きました。

中に入って、洞窟の入り口と渓谷の向かいの岩壁を撮影したのが、この写真です。

この向かいの岩壁にも、大きな洞窟があり、その入り口に、人が築いた何かの壁がかろうじて一部残っています。

この修道院や教会の跡と洞窟へは、マルケ州マチェラータ県の町、サン・せヴェリーノ・マルケ(San Severino Marche)のはずれにあるグリッリ渓谷(Valle dei Grilli)の自然歩道を歩いていきます。「コオロギの渓谷」と言う名の渓谷ではありますが、わたしたちが訪ねた8月7日は猛暑が続いていたため、聞こえたのはセミの鳴き声でした。
洞窟までは、上の案内標示から歩いて約30分で、車は進入禁止と書いた標識が近くにあったので、その手前の路傍に駐車しました。車両進入禁止の標識の下には、実は「聖エウスターキオの洞窟への道は、歩行者もこの先700メートルの地点で進入禁止」と書かれていました。それで様子を見るために、700メートル先まで歩くことにしたら、途中で出会った人たちから、落石の恐れがあるので進入禁止と書いているだけで、洞窟や教会まで行って入ることができると聞いたので、せっかくだからと洞窟まで歩くことにしたのです。わたしたちが洞窟に向かう途中にも、そして戻る途中にも、洞窟や教会を訪ねようと歩く人たち数人に出会いました。以前にも、アブルッツォの渓谷で聞いたことがあるのですが、自治体が万一の事故の際に責任を取らずに済むように、落石の可能性がある場所を進入禁止とすることがあるのだそうです。

自然歩道の前半には、左右に生えている植物について名前や特徴などを説明する案内看板が時々あり、日当たりも良く、道幅も広かったのですが、そのうち左右から岩壁が迫る細道を、今は水がほとんどない小川沿いに進むことになりました。

修道院跡が近づくと、岩壁の上方に洞窟があり、その中に建造物の跡が残っているのが見えました。

そのすぐ先に、聖エウスターキオ教会跡や洞窟への自然歩道の案内と落石注意の警告が書かれた看板があり、

そこから細い脇道を登っていくと、教会跡と洞窟が目の前に現れました。

自然歩道よりもかなり高い位置にあり、緑の木々に覆われているために、行く途中には気がつかなかったのですが、帰り道には、夫が教えてくれたこともあって、先ほど内部を訪ねた教会の正面の壁を見ることができました。
町から遠い渓谷の細道を進んだところにある岩壁の間に、かつて修道院や教会が建てられ、多くの巡礼者を迎えていたのは、この道がロレートとローマを結ぶ巡礼路であったためだそうです。マルケ州アンコーナ県のロレート(Loreto)は、聖母が受胎告知を受け、イエスと夫と共にナザレで暮らしていた聖なる家(la Santa Casa)が保存されているため、主要な巡礼地となっています。
トレッキング用の詳しい地図が手元になく、午後5時を過ぎていたので、この日はこのまま引き返しましたが、グリッリ渓谷にはこの先にも、自然洞窟や採石によってできた人口洞窟が多数あるようです。わたしたちが歩いたのは、夫が調べて見つけたトレッキングコースのその一部だったこともあり、いつかまた、もう少し涼しくなってから、詳細な地図と共に、この先の道も歩いてみたいと考えています。
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Suggestiva la Chiesa Abbaziale di Sant'Eustachio in Domora
San Severino Marche (MC)
"La chiesa è in parte realizzata in muratura e in parte scavata nella roccia"
costruita sul"l'antico percorso della via Lauretana che portava i pellegrini
da Roma a aLoreto."
Citazioni dal sito, i Racconti Dello Stomaco
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参照リンク / Riferimenti web
- I luoghi del silenzio - Eremo di S. Eustachio in Dimora - San Severino Marche (MC)
- I Racconti Dello Stomaco - Luoghi dimenticati: l'Abbazia di Sant'Eustachio e la valle dei Grilli
関連記事へのリンク
- 聖エウティッツィオ修道院・聖ベネデット教会、精神文化の源郷の崩壊 (31/10/2016)
- 戦火より守りし洞窟います聖母、マルケ (19/8/2019)


なかなかワイルドな探索でしたね!
洞窟の中から、その外側を見る光景は圧巻で、
アーチで切り取られた森の光景が面白いです。
色々と有りきし日の名残が残っているところが
色々な想像をかきたてます。
ご主人さまが立っていらっしゃる教会の入り口のお写真。
これはちょっと鳥肌がたちました。
ちょっと畏怖の念といいますか・・・
もともと建物とか岩とかそういう巨大なものにものすごく
恐怖心があるので(前世でなにかあったのか?!笑)
お写真だけでも心臓がドキドキ。
イタリアのあちこちにこのような洞窟などもあるのでしょうか。
驚く場所がたくさんで・・・怖いながらも興味津々です。
日本の天草地方に残る「隠れキリシタン」の
教場のようですね。秘教の臭いがします。
キリスト教のなかにも、分派のようなものが
あってその拠点になっていたとか。ベネディクト会
とういう名称は聞いたことがあるので、それはなさそう
ですか。山岳信仰という面もあるのでしょうか。
いすれにしてもこういう教会は見たことがないので
非常に興味深いですね。
どきどきさせてしまってすみません。わたしは高所恐怖症で、地面が見える階段や通路は苦手で、とても恐ろしい思いをするのですが、お互いおっしゃるように前世で何かあったのかもしれませんね。
この渓谷には、採石が行われたための人口の洞窟も多いようなのですが、他にも洞窟はあちこちにあるんですよ。戦時中に多くの方の命を守ったという大きな洞窟もあるので、ひょっとしたら他に興味のある方もおられるかと、その記事へのリンクを記事末に追加してみますね。
山岳信仰と言えば、日本でも中国でも賢者や僧が隠遁したりしていますが、聖ベネデットが生まれたノルチャは、ウンブリア州の高い山がそびえる渓谷にあり、5世紀にはその渓谷の洞窟で、シリアから来た修道士や隠者たちが祈りを捧げていたそうです。そして、聖ベネデットが西洋の修道会制度の基礎を築いたのも、こうした東から来た修道士や隠者たちの影響を受けてのことだと言われています。よろしかったら、こちらの記事もご覧ください↓
https://cuoreverde.exblog.jp/26675165/
聖ベネデットもアッシジの聖フランチェスコも、険しい岩や木が生い茂る森、洞窟を、祈りを捧げる場として好んだようで、洋の東西を問わず、俗世から離れるために、心と共に体もそうした場所に身を置くことを古来好んだ、あるいは必要としたということがあるのかもしれませんね。