イタリア写真草子 ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

第125号「アッシジから伊首相と教皇の呼びかけ、聖フランチェスコの日に」

 昨日、10月4日は、アッシジの聖フランチェスコ(San Francesco d'Assisi)を記念する祝祭日でした。イタリアの守護聖人である聖フランチェスコの日に、コンテ首相がアッシジの聖フランチェスコ大聖堂を訪れて、国民の皆に呼びかけ、また、式典のあとには、空軍の飛行機が大聖堂上空に、飛行機雲でイタリア国旗の三色を描きました。以上の様子は、大聖堂公式アカウントが、写真と共に、次のツイートで紹介しています。


 今日はまず、次のANSA.itの記事が要約している、昨日コンテ首相(Presidente del Consiglio Conte)がアッシジの聖フランチェスコ大聖堂(Basilica di San Francesco)で語った言葉の冒頭を読んでみましょう。



"L'Italia che sta faticosamente uscendo dalla pandemia dovrà essere una comunità rigenerata: il nemico non è stato ancora sconfitto, siamo consci che non possiamo disperdere i sacrifici compiuti".

 この言葉は語彙も構文も、初級・中級の方には難しいのですが、1文目に使われている基本重要語句、動詞、uscire「出る、出かける」と、補助動詞dovere「…しなければいけない、…はずだ」、potere「…できる、…かもしれない」 を覚えておきましょう。そのために、uscireとdovereについては、辞書で第一義の例文と訳に目を通し(中級の人は、dovereの第二義についても)、できればノートに書き写して、声に出して読み上げてみましょう。補助動詞potereについては、第100号で使い方を詳しく解説していますので、参考にしてください。


 uscire「出る」の対義語はentrare「入る」なのですが、この二つの動詞の過去分詞から派生した動詞は、イタリア語学習者ではない人にも、覚えておくと便利な言葉です。uscitaは「入り口」、entrataは「出口」です。駅や空港でよく目にするばかりではなく、イタリアでは、万引きなど犯罪を防止するために、高速道路のサービスエリアや銀行、大きな店などで、入り口と出口が異なる場合が少なくありません。たいていの場合、すべて大文字で、ENTRATA、USCITAと書いてありますので、覚えておきましょう。


"L'Italia che che sta faticosamente uscendo dalla pandemia dovrà essere una comunità rigenerata: il nemico non è stato ancora sconfitto, siamo consci che non possiamo disperdere i sacrifici compiuti".

 中級の方は、sta uscendoが、stare+ジェルンディオで「…しているところである」と現在継続中の行為を表す表現であることに注意しましょう。

 上級の人は、二つの関係代名詞cheが導く従属節、特に一つ目のcheが導く従属節がどこまでかをよく考えて、文を訳してみましょう。以下に、キーワードとなる言葉とその語彙をまとめておきます。

faticosamente 【副詞】 苦労して
pandemia 【女性名詞】 パンデミック、世界的な大流行、汎流行病
comunità 【女性名詞】 共同体、地域社会、集団
rigenerare 【他動詞】 生まれ変わらせる、回復させる
nemico 【男性名詞】 敵
sconfiggere 【他動詞】打ち破る、勝つ、克服する。sconfittoは、この動詞の過去分詞。
conscio 【形容詞】 意識した、自覚した
disperdere 【他動詞】 浪費する、空費する
sacrificio 【男性名詞】 犠牲、苦難
compiere 【他動詞】 なし遂げる、果たす。compiutoは、この動詞の過去分詞。

 まずは自分で考えた方が着実に自分の力になり、記憶にも残るので、難しいと思っても、とりあえずこうかなあと思う訳を、ノートに書いてみましょう。

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アッシジの聖フランチェスコ大聖堂  2019/1/5

 よろしいですか。では、訳してみますね。

"L'Italia che sta faticosamente uscendo dalla pandemia dovrà essere una comunità rigenerata: il nemico non è stato ancora sconfitto, siamo consci che non possiamo disperdere i sacrifici compiuti".

「苦労して、汎流行病から抜け出しつつあるイタリアは、新たに生まれ変わった社会でなければいけません。まだ敵を完全に打ち負かしたわけではありません。(直訳は「敵はまだ克服されてはいません。」)これまでに払ってきた犠牲をむだにはできないということが、わたしたちには分かっています。」(「  」内は石井訳。意訳になっています。)

 なお、ANSA社が要約する前の首相のこの言葉は、次の映像の冒頭で聴くことができます。また、アッシジの大聖堂や風景、参加する人々の様子も見ることができますので、興味があれば、ぜひご覧ください。


 さて、この映像の後半で、首相は、今後は環境や人を大切にした経済や政治が大切になってくると語っているのですが、この言葉は聖フランチェスコの心を継ぐと同時に、 おそらく、この前日の10月3日に、フランチェスコ教皇(Papa Francesco)が、やはりアッシジの聖フランチェスコ大聖堂の、聖人の墓の前で署名をした回勅(enciclica)、ローマ教皇から世界の全教会の司教あてに書かれた書簡の精神を受け継ぐものでもあると思います。


 『Fratelli Tutti』、「皆が兄弟」という回勅の題名が、国境や宗教などの違いを乗り越えて、苦しむ人に手を差し伸べ、互いを慈しみ合う同胞愛(fraternità)友情、友好関係(amicizia)が今こそ必要されていることを説くこの新しい回勅についても、全国ニュース、ウンブリアの地方ニュースで放映されていました。

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 アッシジの聖フランチェスコを敬愛する義父母は、その記念日である10月4日に結婚式を挙げました。そこで昨日は、義家族と友人と共に、その結婚記念日を祝いました。また帰宅してからは、テレビの各局で放映されていた聖フランチェスコについて語る番組を二つ見ました。当時恐れられ、忌み嫌われていた癩病の人々や狼などの動物をも愛し、弱者やすべての生き物に優しく、けれども己には厳しく清貧に生きたフランチェスコ、当時十字軍と戦争をしていたイスラム教徒の王スルタンに会おうとエジプトまで歩いて行き、スルタンからも敬われた聖人の生き方を、アニメーションで描いた短編映画と、歴史的検証と共に語るドキュメンタリーだったのですが、どちらの番組もよくできていて、改めて、聖フランチェスコの説く隣人愛と、本当に大切なものを見きわめて生きていくことの大切さを思いました。

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 最後にアッシジの聖フランチェスコ大聖堂を訪れたのが2019年1月5日のようなので、そのときに撮影した写真を、今号に添えてあります。イタリアでは1月6日の主顕節(Epifania)までがクリスマスを祝う期間であるため、大聖堂前広場には、クリスマスツリーと、幼子イエス生誕場面を再現するプレゼーぺ(presepe)が、まだ飾られています。少々季節はずれではあるのですが、プレゼーぺを考案して、世界で初めて幼子イエスの生誕場面を再現したのは、聖フランチェスコですから、そういう意味では、この写真はまた、プレゼーぺを通じても、聖人の心を伝えていると言えるかと思います。

関連号へのリンク
- 第24号(2)「アッシジの聖フランチェスコと歌・映画『Fratello sole, sorella luna』」
- 第91号  「初プレゼーペと聖フランチェスコ、フィレンツェ ブロガー招待」


 今日のニュースによると、どうやら教皇がローマ以外の場所で回勅に署名をしたのは今回が初めてとのことですが、10月4日にイタリア首相がアッシジに来て、国民への言葉を語ることは慣例となっているようです。アッシジの聖フランチェスコとノルチャの聖ベネデットが生まれたウンブリアは、様々な意味で、「イタリアの心のふるさと」と呼べるのではないかと、今年8月から始まったニューズウィーク日本版姉妹サイト、World Voiceでのわたしの連載、「イタリアの緑のこころ」第1回に書いています。興味があれば、ぜひお読みください。
 World Voice原稿には字数の制限があり、また写真も少ないため、連載第3回については、以下に、ブログの紹介記事へのリンクを添えておきます。

「イタリア 旅先での感染対策と危惧、各州の感染状況」、World Voice連載第3回

 9月の南イタリア旅行でマテーラやアルベロベッロを訪ね、ブログの記事でご紹介しています。興味があれば、ぜひお読みください。

- マテーラを朝はガイドと夕べは崖下り吊り橋へ
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- トゥルッリの町 アルベロベッロ、プーリア
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Commented by cometsan1966 at 2020-10-06 11:14
聖フランチェスコを記念する祝祭日というのがあるのですね。
イタリアの守護聖人をお祝いする式典に一国の首相が演説を
して国民に呼びかけるなんて・・素晴らしいですね(*^^*)

キリスト教が国全体に根を下ろして国民の心のよりどころ~
信仰の対象になっているのが羨ましい感じがします☆彡

日本は宗教的にバラバラで統一されていませんね。。
国の宗教観は必要な部分だけ天皇制に基づいた神道
みたいな感じがして・・明確なものがありません。
尚更こういう姿を拝見するとそう思います。。。

難しい言語を教えられるのはご苦労も多いかと思います。
読ませて頂くと順序立てて説明されておりまして、その
中でしっかりこうしましょうと指示も出されとても分かり
やすくて身につくのではと思いました。。。さすがですね(*^^*)
Commented by tokotakikuh at 2020-10-06 14:37
こんにちは
難しいことは、よくわからない( ´艸`)
殆ど、無宗教に近いので、カトリックのお教えも
それなりに・m(__)m
ただ、人を大切にした経済・政治には共感を覚えます

それよりも、素晴らしい風景に
ただただ・・見惚れました・・
Commented by ciao66 at 2020-10-06 15:31
かの聖フランチェスコがあのプレゼーぺを考案したとは知りませんでした!
イタリア中どこの教会も見事な楽しめるものを工夫していますね。
今年は見に行けませんので、発祥の地の屋外の素晴らしいものを拝見できてうれしいです。
コロナ禍のentrataが見つかるといいのですが!
Commented by kazu at 2020-10-06 19:44 x
なおこさん、今号のメルマガをありがとうございます。現在リモートワークになっているので、配信して下さったメルマガは、今朝、早々に読むことが出来ました。一か所文字化けかなと思うのですが、"L'Italia che sta faticosamente uscendo dalla pandemia dovra' essere una comunita? と、この構文に疑問符が付いていたので、『パンデミックから苦労して脱しようとしているイタリアは、共同体である必要があるか?』と訳して、ハテ?何か哲学的な…と思ってしまいました。なおこさんの本文を読んで、ようやく文字化けしていたことに気づいた次第です。それにしても関係代名詞が出てくると、特に、cheは、接続法かと身構えてしまい苦笑しています。初心者の私には文法はやはり難しいです。

アッシジの風景、懐かしいなぁと見入っています。ここでこうした演説がなされたこと、イタリアの方たちにとっては、とても意義深いでしょうね。私がこの場所を訪れたのはもう8年も前になるのだと時間の経つ速さにも驚いているところです。
Commented by milletti_naoko at 2020-10-07 04:13
お馬さん、カトリック教の聖人は多いので、カレンダーを見ると、複数の聖人を記念する日になっていることが多いです。今もうちで使っているカレンダーについて書いたこちらの記事、https://cuoreverde.exblog.jp/15412650/の6枚目の写真には、カレンダーの写真があるのですが、日にちを表す数字の右横に大きく、あるいは小さく、SあるいはSSに続いて書かれているのは、どれもその日が記念日の聖人の名前で、Bで始まるのは聖人に次ぐ地位の福者の名前です。

アッシジの聖フランチェスコは、シエナの聖カテリーナと並んで、国家としてのイタリアの守護聖人なので、首相もその生地アッシジで、記念式典に国民への言葉を述べることになったのでしょう。

イタリアでは今は宗教離れが進み、イスラム教はもちろん、イタリア生まれイタリア育ちで仏教を選ぶ人もいる上、無神論者という人もいます。日本は、神道や仏教と宗教はいろいろ存在していても、人と自然を敬うという考えや風習が古来浸透しているように思います。わたしは、宗教によって敬い方や崇める相手、慣習などは違っても、行きつくところは、何か特に極端な宗教を除いては、皆、何か人や宇宙をすべる大きな力、それを神と呼ぶにせよ、天の摂理と呼ぶにせよ、同じ対象に向かっているような、そんな印象を持っています。カトリック教会の神父や修道士の中にさえ、そういう人もまれにいて、教会やテレビで、そういう考えを聞くこともあります。

いわゆるブログ記事ではありませんのに、ていねいに読んでコメントをくださって、いつもありがとうございます♪
Commented by milletti_naoko at 2020-10-07 17:50
zakkkanさん、聖フランチェスコは、宗教を超えて、自然や人、弱い人を愛し、どこまでも優しく温かい、そういうところが慕われるのだと思いますし、わたしも敬愛しています。同じ国や宗教や肌の色の人だけ、人間だけ、そういう分け隔てがないからです。

人を大切にした経済・政治、わたしも今こそ、全世界で大切だと思います。

この日は空が晴れわたり、青空も教会も緑も、日の光に美しい色をしていました♪
Commented by milletti_naoko at 2020-10-07 17:57
ciao66さん、幼子イエスが、寒く凍えるような冬、貧しさの中に生まれて来られたのだということを感じ、祝うためにと、聖フランチェスコが、ラッツィオ州リエーティ県のグレッチョで、実物大の人と動物を使って生誕場面を再現したのが、プレゼーぺの始まりと言われています。

詳しくは、メルマガの次の号で紹介していますので、よろしかったらお読みください。
・第91号「初プレゼーペと聖フランチェスコ、フィレンツェ ブロガー招待」
 https://cuoreverde.exblog.jp/30980595/
Commented by milletti_naoko at 2020-10-07 18:15
kazuさん、こちらこそ長年のご愛読を、そしてさっそくお読みくださってありがとうございます。

すみません。肝心なところが文字化けになっていましたね。今回は文が短いので、強勢アクセントもわずかと思ったら、comunitàの最後がàで、強勢アクセントがついているのを、うっかり見逃してしまっていました。接続法も、少しずつ取り上げていかないといけませんね。

アッシジはやはりイタリアの人にとって大切な土地だと思うのです。写真を通して旅行を懐かしんでくださったと知ってうれしいです。聖フランチェスコの日には、かずさんも行かれたオルタのサークロ・モンテの聖人の人生を描く像の写真をと考えていたのですが、当日が近づき、教皇も首相もアッシジにというニュースを見て、メルマガの内容としてうってつけだと思い、急遽アッシジの写真を探しました。
by milletti_naoko | 2020-10-05 22:49 | Umbria | Comments(8)