イタリア写真草子 ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

秋色テッツィオ山と漢字むずかし試験対策、JLPT N1

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 先週末は土曜の夕方、ミジャーナから友人と、プロコーピオ城(Castello di Procopio)の前まで、テッツィオ山(Monte Tezio)を登りました。


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Monte Tezio, Perugia, Umbria 3/10/2020

 城を覆うツタが赤く色づき始めています。

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 秋の装いをした草木が、そこかしこにあります。この写真の奥には、野バラの赤い実が写っています。

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 プロコーピオ城まで歩いてから山を下り、それから車道を教会まで歩いたのですが、その道沿いでも、秋らしい風景に出会いました。上の写真の中央付近、奥に霞んで見えるのは、アッシジを中腹に抱くスバージオ山です。雨の予報にも関わらず、散歩中は幸い雨は降らなかったのですが、テベレ川の流れる平野を、どんよりとした灰色の雲が覆っていました。

 さて、日本語能力試験(JLPT、Japanese-Language Proficiency Test)上級レベル、N1の合格を目指す若者の個人授業では、主に、試験の読解問題を、いっしょに見ていっています。大学生だった頃も、就職して働く今も、忙しいであろう中、こつこつ日本語の学習を続けている若者は、N4の合格を目指していた頃から、自分で数冊の漢字の問題集を購入して、漢字練習帳に何度も書いて勉強するような熱心な生徒です。

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 けれども、悲しいかな、日本語能力試験は、選択式の試験であるがために、「だいたい覚えていて、何となく読んで書ける」程度でも、漢字の問題で正解を当てたり、読解問題も理解できたりしてしまうことがあるため、結果として、こういう根はまじめな教え子でも、漢字の読みや書き、意味の理解の定着が、おおざっぱになりがちで、歯がゆいことが多々あります。日本人であれば、高校生でも当たり前に見聞きしている言葉や漢字を、目にしたり耳にしたりしたことがない、あるいは少ないという、インプットの量と質の絶対的違いがあるために、N1レベルまでに学ぶべき、あまりにも多い漢字や語彙を、自分の既存の知識の中に、有機的、体系的に組み込んでいくことが難しいことはもちろんであり、わたしもそれを十分に承知してはいるのですけれども。

 できるだけ多くの感覚を動員して、いろいろな形で日本語に触れてもらおうということで、答え合わせの際には、必ず文を声を出して読んでもらいます。赤線を引いているのが、若者が読みを間違えてしまった、あるいは読みが分からなかった言葉です。最初から、「きよもり」を「あおもり」と読んでしまったのですが、「青森市という市が存在する」という自らの既存の知識を活用して読もうとすることは、言語の学習において大切なことです。「清い」という言葉は、外国人の日本語学習者には、それほど耳慣れた言葉ではありません。



 けれども、クリスマスの頃に、授業で「きよしこの夜」を教えて、いっしょに歌ったことがあるので、2度目に読めなかったときは、漢字の知識を歌の記憶と結びつけて、しっかり身につけてもらおうと、「この言葉は何と読みますか」と、「清しこの夜 星は光り」と書いて、問いかけました。

 この授業は9月の初め、若者が旅行から帰った直後の授業で、「ぼくが感染を媒介してはいけませんから」との申し出があったので、オンライン授業をしたのですが、スカイプで授業をしていたら、ごく短い間ではありましたが、インターネット接続が何度か切断したため、若者の意向で、途中からスカイプからWhatsAppに切り替えて授業をしました。スカイプの場合は、互いに紙に書いて画面で見せ合うのですが、ワッツアップだと、こんなふうにさっとメッセージという形で、漢字を示すことができるので、便利です。

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 ワッツアップ画面の最初に「指定 してい」とあるのは、若者が「応募規定」の「規定」を「してい」と読んでしまったからです。おそらくは「定」に見覚えがあり、「この漢字が使われている熟語は確かシテイ」という記憶のたぐりかたをして、「してい」と読んでしまったのでしょう。間違ってもいいから、自分がすでに知っている知識を使って答えたり読んだりするのは大切なことです。読みは「きてい」ですよと、メッセージを送って確認したあとで、記憶がより定着するように、「regolaは日本語で何と言いましたか」と尋ね、「きそくです」という答えを若者から引き出してから、ほら漢字ではこう書くんですよ、同じ「規」の漢字を使いますよねと、やはりメッセージで、「規則 きそく」と書いて送りました。

 試験の読解問題の文章中に出てくる漢字や語彙は、すでに文脈の中に位置づけられて出てくるのではありますが、たとえば先週土曜の対面授業では、「登」と「発」の漢字を混同していることが分かったので、「今日は山を登るために、朝うちを出発しました。登山リュックを背負って、9時発の電車に乗りました。」と、紙に書かせて、きちんと書けるように、語彙や使い方と共に、漢字の違いが身につくように、工夫しました。

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 若者は、わたしといっしょに学習を始めてからだけでも、もう5年の間日本語の学習を継続し、初級だった5年前から、上級レベルのN1合格を目指せるだけの現在の語学力へと、着実に日本語の力をつけていっています。学問の秋、フランス語学習を再開しなければいけないと思いつつ、日本・イタリア間の移動が難しい今は、むしろ日本語やイタリア語学習の教材や学び方を、もっと何らかの形で支援できるように情報を発信していきたいという思いもあり、あれこれと考えてばかりいたことを、いよいよ実施に移していくときではないかとも、考えています。

 先に引用した読解問題の文章が、秋の美術コンクールの作品募集なので、テッツィオ山の秋の写真も、いっしょにご紹介することにしたのでありました。

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Colori di autunno anche sul Monte Tezio.
Ho saputo solo oggi la controversia circa il soggiorno del primo ministro britannico a Perugia nel mese di settembre o meno. Voi lo sapevate? Chissà se sia veramente venuto oppure no. Comunque, mio marito e i nostri amici una volta hanno visto Hugh Grant mentre passeggiava verso il Castello di Procopio dove soggiornava ma non sapevo che anche Boris Johnson avesse soggiornato più volte nel castello.
A settembre per la lezione on line di giapponese abbiamo utilizzato WhatsApp al posto di Skype, perché l'accesso ad Internet si era interrotto troppo spesso. E' comodo per lezioni agli allievi di livello intermedio-superiore perché posso indicare loro diversi vocaboli e kanji, caratteri cinesi in modo svelto via messaggi.
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Articolo scritto da Naoko Ishii

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Commented by nonkonogoro at 2020-10-12 10:04
本当に漢字は難しいですね。
私は この課題は もちろん読めますが
漢字に直す問題だと 満点は取れないかも。。。

Commented by 3841arischan at 2020-10-12 16:15
なおこさん、蔦が紅葉する時期になりましたね~
こちらのお城は、毎年拝見するので、まるで行ったことがある場所のように見てしまい嬉しいです♡
漢字の学習、難しいですね!
日本人は、読みは大丈夫でも、書くとなると、今は、PCやスマホに頼るので、書けない漢字が増えてしまいましたm(__)m
わずか5年でここまで上達されるとは、なおこさんの指導のたまものですね(*^_^*)
Commented by tokotakikuh at 2020-10-12 16:19
中々・・日本語は難しいです
日本人でさえ、しっかり日本語が話せない、書けない

そうですか・クリスマスソングを日本語で
聴いてみたいですね

ただ、歌って、不思議ですよね
あれほど、アクセントがうまくできないのに
歌うと、結構、そのムードになっていますから

学生の頃
英語は大の苦手なくせに
詩は、英語で歌うのがステータスでした(笑)
Commented by ciao66 at 2020-10-12 16:31
白いもじゃもじゃは何だろうと思ったのです。野バラの赤い実と一緒に映っている写真です。綺麗だし面白いですね♪ひょっとしてクレマチス・シードかな??グーグルレンズで調べて、そのあと次のサイトでみたのですが。https://www.hana300.com/kurema4.html 間違ったらごめんなさいです。
ウンブリアにも秋が来ましたね!
Commented by milletti_naoko at 2020-10-12 17:55
のんさん、漢字は難しいですよね。パソコンでさっと検索候補が出てくるのは便利ですが、それで書けなくなってしまう問題は、漢字がある日本ばかりではなく、イタリアでも指摘され、問題になっています。

わたしも、もっと手書きの時間を取らなければいけないなと反省しています。
Commented by milletti_naoko at 2020-10-12 18:43
アリスさん、長い間読んでくださっているからこそのことですよね。ありがとうございます♪

今朝ツイートでもこの記事を紹介しようと、調べていて知って驚いたのですが、9月に英国首相のボリス・ジョンソンが、息子の洗礼を祝いにペルージャに来ていたという記事があり、その可能性が場所のある一つとして、このプロコーピオ城にも言及がありました。しかもその後、英国側はそれを否定して誤報だと言い、けれどペルージャ空港では確かに首相が来た記録があるとのことで、もめているようです。ツイッターには、真偽のほどは別にして、ボリス・ジョンソンも何度も所有者のロシア富豪に招待されてプロコーピオ城に滞在し、それでLordの称号を富豪が手に入れたとほのめかしているようなツイートさえありました!
https://twitter.com/nandosigona/status/1308000456485089281

そうなんですね。実は彼も、ペルージャで日本からの留学生と交流していると、学生たちに読めない漢字や書けない漢字が多くて驚いたと言っています。ありがとうございます。勉強熱心な彼に、倣らわなければいけません。
Commented by milletti_naoko at 2020-10-12 18:56
zakkkanさん、日本でもイタリアでも、少しずつきちんと書いたり話したりするのが、難しい時代になってきているようですね。かつて年末年始の出し物で、イタリアの子供たちに「きよしこのよる」を日本語で歌うように教えたことがあるんです。原語はドイツ語ですが、この歌はイタリア語版もあるため、イタリアでもメロディーが知られているので、近年は生徒にとって初めてのクリスマスの頃の授業では、この歌を教えて、いっしょに歌うようにしています。教材としてわたしが歌って録音した映像はあるのですが、生徒といっしょに歌った歌は録音していないんです。

歌を歌うと、言葉や語彙、イントネーションが歌の内容や心とともに学べるので、それぞれのレベルや関心に合った歌を選ぶことが大切なのですが、外国語学習・教育に大いに役立ちます。

まあ、zakkkanさんも英語の詩を歌われたんですね!
Commented by milletti_naoko at 2020-10-12 22:18
ciao66さん、ありがとうございます。わざわざ調べてくださったんですね。よく似ているのですが、この辺りで、クレマチスのような花が咲いているのは見た記憶がないんです。花が咲いている時期に見過ごしただけかもしれないのですが、また名前が分かったら、お知らせしますね。

ウンブリアの平地にも秋が来たのかと驚きました! 過去記事を見ると、もう山でもそろそろ紅葉が始まっている時期のようです。
Commented by cometsan1966 at 2020-10-12 23:00
日本語を覚えるのは本当に難しいでしょうね(+_+)
変化球的なものが沢山あり・・こういう時だけこういう・・
とかその逆であったり・・覚える生徒さんもたいへんですが
それを教えていらっしゃるなおこさんも本当に大変でしょうね

先ずイタリア語の発想で引っかかりそうな問題になりそうな
部分を考えないといけませんもんね・・(@_@)
他国の言語のイタリア語を教える側がしっかり分からないと
いけませんよね・・大学の頃の英語の先生がアメリカ人でしたが
日本語が全然ダメで一方通行・・片言の日本語レベルで
いつも言う言葉が出席すれば単位あげます。。でした
これじゃ覚える気持ちも失せますよね(爆)

きよしこのよる・・お歌のお上手ですね・・優しい良いお声をされてますね(^^)
聴きたくなる良いお声・・凄くそう思いました☆
Commented by meife-no-shiawase at 2020-10-12 23:19
漢字を使う国ではない国の方が日本語を勉強すると
この漢字の難しさ、多さはかなりのハードルをあげてしまうでしょうね。
それでもきちんと漢字もお勉強しているのって本当に素晴らしい!!!

台湾は中国語の繁体字を使っているので私が驚くほど難しい漢字を
小さい子でも書いていてそっちのほうがびっくりしますが・・・
読み書きは入りやすいです。
ただ中国語読みで漢字を読んでしまうことも多いです。
その生徒さんの母国語によって得意不得意はわかれますね・・・。

きよしこの夜の以前のブログも拝見しました。
子どもたちがみんな生き生きしていて、なおこさんもその中で
楽しそう♪
子どもはやはり褒めてもらって伸びるところも大きいですから
発表の場などを作って、日本語を学ぶ楽しさを感じてもらえたら
もっと日本語が好きになってもらえますね。
なおこ先生、さすがです♡
Commented by milletti_naoko at 2020-10-13 01:59
お馬さん、ありがとうございます。文字や語彙はもちろん、例えば日本語の動詞や形容詞は、イタリア語とは活用のしくみや体系がまったく違うなど、日本語学習はイタリアの人にとって決して楽ではないのですが、日本文化に興味を持って、勉強したいという人が多く、ありがたいことです。

暮らす国の言葉、生徒の言語が分かってはじめて理解できる英語学習上の難しさもあるので、それは残念な経験をされましたね。言語や文化をより興味深く楽しいものとして、また効果的に教えていくには、特に、生徒の皆が同じ言語を母語とする場合には、生徒の文化や言語をよく知ることが不可欠であるというのに。

zakkkanさんのコメントを機に、歌の映像もある記事へのリンクは、今日になって後から添えたのですが、記事を見てさらに歌を聴いてくださったんですね! ありがとうございます。
Commented by milletti_naoko at 2020-10-13 02:18
メイフェさん、漢字は意外と、楽しんで頑張って勉強してくれる生徒が多いです。自分たちの言語にないので、一つひとつを覚えていくのが、なかなか大変なので、えらいなあと思います。

台湾ではそんなに小さい子供でも難しい漢字が書けるんですね。さすがです。中国語読みで漢字を読んでしまうんですね。イタリアの人も、きちんとひらがなを覚えようとしないで、いつまでもローマ字読みに頼ってしまう生徒は、ローマ字をイタリア語読みしてしまいがちで、haiが「あい」になったり、genjiが「じぇんじ」になったりしてしまうんですよ。

お忙しい中、リンク先の記事を読んで、歌も聴いてくださったんですね。ありがとうございます! このときは実は、子供たちは日本語を学ぼうという気持ちがあったわけではまったくなくて、ローマ字書きした日本語の歌詞を、皆が知っているメロディーに乗せて歌って、親たちを驚かせましょうねというノリで、楽しんでいたんですよ。子供たちがうれしそうに、熱心に歌うのを見て、その後、クリスマスの頃に、日本語の授業でも教えて歌うようにしたら、皆が喜んでくれるので、わたしも驚いています。
by milletti_naoko | 2020-10-12 06:43 | Insegnare Giapponese | Comments(12)