1.パンがはぐくむ友情
今回は、これまでとはちょっと形式を変えて、クイズから始めましょう。
amicizia pastore compagno mucca nonno amico
pascolo padre compagnia madre pecora figlio
この12の単語を、意味的に関連のある三つのグループに分けてみてください。どのグループにも、それぞれ四つの言葉が属しています。この言葉は知らないぞという場合は、辞書を引いてもかまいません。
1.( pastore )( )( )( )
2.( padre )( )( )( )
3.( compagno )( )( )( )
できましたか? 初級の方でも、2だけは、辞書なしで仕上げることができたのではないでしょうか。日常生活でよく使われる重要語句が多いので、2と3については、中級の方は、辞書なしで正解を出してほしいものです。
では、答え合わせです。
1.pastore pascolo pecora mucca (順不同)
2.padre madre figlio nonno (順不同)
3.compagno amico compagnia amicizia (順不同)
できましたか? 一番難しいのは1だと思うのですが、意味は左から順に、「羊飼い、牧者」、「牧場、牧草地」、「羊」、「乳牛、牝牛」です。上の写真は、
ラッツィオの平野を巡礼中に出会った羊たちの群れです。
2.は左から順に順に、「父」、「母」、「息子」、「祖父」という意味です。父と母はそれぞれ独立した別の単語ですが、「息子」に対する「娘」はfiglia、「祖父」に対する「祖母」はnonnnaで、男性では-oである語尾が、女性では -aとなります。ちなみに、カトリック教の司祭に呼びかけるとき、イタリア語では「父」を意味するpadreという言葉を使うことがよくあります。また、1.で出てきたpastoreも、羊や牛、ヤギなど動物の群れを率いることから、人々を精神的に導く司祭の別称として使われることがよくあります。
3.は左から順に、「仲間、連れ」、「友人」、「つきあい、連れ、一緒にいること」、「友情」の意味です。compagnia、amiciziaは、それぞれ、compagno「仲間」、amico 「友人」という人を表す名詞から派生した抽象名詞です。ちなみに、amico「友人」という言葉は、amare「愛する、好む」という動詞から派生しています。では、その類義語であるcompagnoは、どういう語源を持っているのか。それが、今回のテーマの一つです。
compagnoとamicoも、男性でかつ一人であれば、この形を取りますが、女性の場合は語尾が-aとなり、それぞれ、compagna、amicaとなります。compagno di classeは、「クラスメート」、compagno di lavoroは「仕事仲間」と、compagnoは「仲間、友人」あるいは「同志」という意味を表すことも多いのですが、一緒に暮らしてはいるけれども、結婚はしていないパートナーを差すこともあり、この場合も同様に、男性か女性かによって、語尾が変わります。イタリアでは、カトリック教会の影響が強いために、離婚が難しいからか、長い間共に暮らし、子供がいても籍を入れないというカップルも大勢います。一方、結婚をしている場合は、夫はmarito、妻はmoglieと、それぞれ独立した単語があります。
クイズにでてきた単語のうち、pastore、pascolo、padreの3単語は、いずれもpa-でという語根を含んでいて、それは、皆さんもよくご存じの単語、paneにも共通しています。単語、paneの意味は皆さん、ご存じですよね。
そうです。「パン」です。上の写真は、先週訪ねたセニッガリアのパン祭り(Festa del Pane)を写したものですが、右の写真に見える看板に書かれた、パンという言葉をめぐる文章がとてもすてきなので、今回は、この文をご紹介します。
"Nelle lingue indoeuropee la radice pa-, che e in pane, vuole dire nutrire. È nel greco pateomai che vuol dire mi nutro e nel latino pascere, nutrire. La stessa radice è in pastore, pascolo, pastura. Alcuni vedono in pa- anche la radice di proteggere e quindi ne derivano padre. Dal latino cum panis, con il pane vengono compagno e compagnia. Compagni sono quelli con i quali si mette in comune il pane; il gesto di mettere in comune il pane rende compagni, fa compagnia, costruisce la capacita di stare insieme. Il pane condiviso e sinonimo di amicizia e protezione, il segno della disponibilità a incontrarsi, anche tra sconosciuti. Dividere il pane e come aprire le braccia, e riconoscere il bisogno dell'altro."
Tratto dal libro FAME DI PANE edizione 2009 Slow Food Editore
まずはご自分でさっと目を通してください。パンという言葉の語根や、どういう言葉とつながりがあるかが説明されていますね。最初のクイズで登場した単語の知識が、文の理解を助けてくれるはずです。
次の単語の語源や語義の説明に必要な言葉を、中級・上級の人は抑えておきましょう。
・voler dire …を意味する (= significare)
・radice 語根
・derivare da... / venire da... …に由来する、…から派生する
では、まずは前半部分を見てみましょう。
"Nelle lingue indoeuropee la radice pa-, che e in pane, vuole dire nutrire. È nel greco pateomai che vuol dire mi nutro e nel latino pascere, nutrire. La stessa radice è in pastore, pascolo, pastura. Alcuni vedono in pa- anche la radice di proteggere e quindi ne derivano padre.
訳してみますね。
「インド・ヨーロッパ語族に属する言語では、paneという単語に含まれるpa-という語根は、「養う、育てる、栄養を与える」という意味を持つ。このpa-という語根は、 「(わたしは)食べる」を意味するギリシャ語、pateomai や、「食べ物を与える」を意味するラテン語、pascereに含まれている。同じ語根は、(イタリア語の)pastore(羊飼い), pascolo(牧草地), pastura.(放牧)にも見られる。中には、pa-はproteggere (守る)の語根と見て、そこからpadre(父)という単語が派生したと考える人もいる。」(「 」内は石井訳。以下同様。)
パン、paneという語に、「栄養を与える」という語根が含まれていて、意外な言葉とつながりがあることが分かって興味深いのですが、後半ではさらに新たな発見があります。
"Dal latino cum panis, con il pane vengono compagno e compagnia. Compagni sono quelli con i quali si mette in comune il pane; il gesto di mettere in comune il pane rende compagni, fa compagnia, costruisce la capacita di stare insieme. Il pane condiviso e sinonimo di amicizia e protezione, il segno della disponibilità a incontrarsi, anche tra sconosciuti. Dividere il pane e come aprire le braccia, e riconoscere il bisogno dell'altro."
最初の文は、主語が文の最初に来る、自然な文の形に直すと、
Compagno e compagnia vengono dal latino cum panis, con il pane.となります。
上でも説明しましたように、venire da...は「(ある単語が)…から派生する、…に由来する」という意味です。vengono daとなっているのは、文の主語が二つの単語、Compagno e compagniaと、複数だからです。
主語を後ろに退けてまで、文を Dal latino cum panis, con il pane という言葉で始めているのは、この「ラテン語の cum panis、(パンで)という言葉から」という部分を強調するためです。訳してみますね。
「(イタリア語の)compagno (仲間)、compagnia.(つきあい)という単語も、ラテン語のcum panis、(パンで)という言葉から、派生している。compagno (仲間)とは、同じパンを共有する人である。パンを分かち合うことで、仲間になって、つきあうことになり、一緒にいられるようになる。分かち合われたパンは、友情や保護、たとえ知らない者どうしでも知り合おうという気があることを意味する。パンを分け合うことは、相手を温かく出迎え、何を必要としているかに気づくことでもある。」(「 」内は石井訳。意訳です。)
この文を読んで、日本語でも、「同じ釜の飯を食った仲」と言いますが、イタリア語では、それが「パン」(pane)なのだなと改めて思いました。companatico「パンと一緒に食べるおかず」という単語には、pan(e)という単語が入っているのが、つづりからも意味の上からもわかりやすいのですが、compagno、compagniaでは、pan(e)がpagn(e)と姿が変わっているし、語彙も「パン」から離れているので、気がづきませんでした。
イタリア語の「パン」という言葉の中に「培う」という意味があり、さらにそのパンを分け合う人という言葉から、「仲間、同志、つきあい」という言葉が生まれていく。意外な言葉の語源やつながりから、パンが暮らしの中で、飢えを癒すだけではなく、家族や友人間の絆を深め、あるいは知らない人同士の間の思いやりや交流にも役立っていることを知って、あらためて感動しました。
2.セニガッリア、パン祭り
上のすてきな文に出会ったのは、アドリア海岸の町、セニガッリアのパン祭り(Festa del Pane)を訪ねたときです。
このパン祭りを訪ねたのは初めてですが、イタリア各地のパンや特産物を購入できる上に、パン作り教室があったり、農家の方の話も聞けたりして、とても充実した催しでした。セニガッリアの海や町並みがきれいな上、それはおいしい鮭のマリネのパニーノの店もあります。興味のある興味のある方は、次の記事をご覧ください。
Articolo scritto da Naoko Ishii
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