イタリア写真草子 ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

この人と会えてよかった ヒヤシンスと映画『アイネクライネナハトムジーク』

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 いつかどこかで出会いが待っていて、そうしてめぐり会えれば、すてきな恋が始まるはず。けれど、今はまだその出会いの機会がない。

 映画『アイネクライネナハトムジーク』では、冒頭でそう考えている二人の男女が、紹介をきっかけに、あるいは偶然から、いわゆる運命の相手に出会います。そして、そうした恋人たちの姿が、すでに結婚した友人夫婦や離婚の危機に瀕した男性、魅かれ合う高校生たちなど、様々な男女像と並行して、時の流れの中で、描かれていきます。





「どんなふうに出会ったか、出会うかよりも、大切なのは後から出会ったのがその人でよかったと思えることで、そのことがすばらしいんだ」

 どうもずっこけているように見える親友が主人公の一人に語る言葉が、主題歌と共に、映画に出てくる様々な恋模様や人間関係を、一つの糸で結びつけているように思います。

 この数日、イタリアで開催中だったオンライン日本映画祭のおかげで、映画の中で、懐かしい日本の学校や中学生、高校生たちの姿を見ることが多かったのですが、この映画もそういうかつて日本の高校で教えていた頃に出会った生徒たちや、自分が中学生、高校生だった頃を、登場人物たちに重ねて、懐かしく、楽しく鑑賞しました。

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 そうして、今そばにいる人を大切にする必要、そばにいてくれることのありがたさ、思いを伝えていくことの大切さ、自分では気づかぬうちに、恋や愛に限らず、人は様々な縁や絆で遠い誰かとも結ばれていて、つながっているのだということを、映画を見ながらつくづくと感じました。

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 今年のサンレモ音楽祭でわたしがいいなと思ったエルマル・メータの歌(記事はこちら)は、「ぼくは君といられて幸せなんだ。とても幸せなんだけれど、でも、それは言葉にしない。」という歌です。「何も言えない」ではなくて「何も言わない(non dico niente)」ときっぱり言いきっているのですが、きっと言葉では伝えないだけで、しぐさや表情や行動から、その思いは「君」にしっかり伝わっているのだと思います。

 うちの夫も無器用でどちらかと言うと、そういうことについては無口で、そう言えばいつだったか、「ぼくは甘いことは言わないけれど、いっしょに山へ行こうとか、湖に夕日を見に行こうって、そういう形で気持ちを表現しているんだよ」と言っていたことがあります。そういう気持ちをはっきり口にしないのは、日本人のわたしも同じなのですが、そういう無器用な夫のサイン、長く家にこもりがちになるとつい不機嫌になる夫の気持ちをしっかりと見て受け取って、出会えたのがこの人でよかったというその気持ち、その感謝を、日々の暮らしの中で、様々な形で伝えていけたらと考えています。

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 まずは最近、サンレモ音楽祭やオンライン日本映画祭で、そうして、夫の在宅勤務で、機会や時間や場所が見つけられずにたまってきたアイロンがけを、今日は少しずつ片づけていきましょう。

 日本の高校で教えていた頃、パン屋さんや先輩の先生などから、「いい人がいるんだけれど」という話があったとき、あの頃は相手は自分で見つけるのだ、出会えるはずだと思っていたので、そうですかと聞き流していたのですが、今の夫と出会ったのは、結局は、同じ共同アパートに暮らしていた友人が意識して取りはからってくれたおかげでした。

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 そうして、人の生き方にもそれぞれの形があって、そばに夫がいてくれて、そうしてそれが夫であってくれるのがありがたいと思う一方で、まだ夫と出会う前の、仕事や勉強に夢中になっていた自分も、それはそれで幸せで、友人といっしょに過ごす時間や自分の趣味や仕事にかける時間がもっとあって、その頃の日々も、そういう意味で充実していたと思うのです。だからあの頃のわたしには、「一人だからと言って、寂しいと思ったりせずに、もっと今というときを楽しんで」と言いたいように思います。

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 庭では今、ヒヤシンスが花盛りで、きれいに咲いています。一つだけ、茎が折れて地面に伸びてしまった花があり、夫が台所の花瓶代わりのティーカップに、そのヒヤシンスの花も加えたら、台所全体が、花のいい香りに包まれています。

 オンライン日本映画祭で公開された映画のうち、見られたのは3分の1ほどでしたが、すてきな映画がたくさんありました。映画祭は終わってしまいますが、今後も少しずつ、いいなと思った映画をご紹介していくつもりです。

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Ornata dai fiori, profumata dal giacinto ora la nostra cucina.
Fra poco finisce il JFF Plus Festival del Cinema Giapponese,
grazie al quale ho potuto vedere tanti bei film in questi giorni.
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関連記事へのリンク
- 残念サンレモ2021と昨春初めての山の花
- 出会いのきっかけ
- 災いに潜む幸せの兆し2、引越と始まり

Articolo scritto da Naoko Ishii

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Commented by mahoroba-diary at 2021-03-08 20:56
なおこさん、こんばんは。

さすがイタリアの日本映画祭はいい映画を沢山ピックアップしていますね。この映画、私はまだ観ていないので見たいと思いました。三浦春馬さんは昨年とても悲しい旅立ちをして、ショックだったのですが、いい俳優さんでした。私は大好きですよ。
なおこさんの仰ることに100%同感です。
当たり前の日常、当たり前のようにいる夫、家族、友人たち、環境、ひとそれそれ様々な人生があると思いますが、全てが奇跡で実は当たり前ではないと思っています。
Commented by sunandshadows2020 at 2021-03-09 00:29
数本の新しい日本の映画を見られて良かったですね。
日本人ですから、そして異国に住んでいらっしゃるから尚更懐かしく思ったり同感したりと気持ちが交錯したのでは無いでしょうか?
我が家も同じ、愛情表現が下手ですが、それは私も同じでして。
なるべく相手が気持ちよく生活できるように、そして良いと思ったら成る可く褒めるようにしています。
お庭の花が綺麗に咲いていますね。
ヒヤシンス、今年は水耕栽培してテーブルの上に置きました。
香りが良いですね。
Commented at 2021-03-09 07:02
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by meife-no-shiawase at 2021-03-09 13:32
なおこさんのまっすぐな詞がとっても心に入ってきます。
映画を観たり本を読むって、こういうところが素晴らしいな~って思うのです。
作られた世界かもしれないけれど、いろんなことを体験して
何か考えさせられたり、感じられたり・・・

言葉に出さないとわからないこともありますが
直接でもなくても一緒の時間を過ごそうと伝えてくださる
ご主人さまの愛情を文章を通して私も感じました~♡
素敵なご夫婦です♡
Commented by coimbra2017 at 2021-03-09 14:14
なおこさん、こんにちは。
先日記事にあった「コーヒーが冷めないうちに」をアマゾン
プライムで観てみました。以前から話題にはなっていましたが
なおこさんの記事がきっかけで観ることができて良かったです。先月同じくアマゾンでイタリア映画「VIVA公務員」と
「マフィアは夏にしか殺らない」を観ました。イタリアの
側面でしょうけど興味深かったです。
ヒアシンスが綺麗ですね、それに再登場のクマさんも
可愛いです。。。
Commented by tokotakikuh at 2021-03-09 16:20
機会
出遭い・それを異国の地で見る
その思いが・映画を通して、思慕されてるのですね

当たり前の・昨日の・つづきを
あたり前に感謝してみる
必要ですね

今日は、なんだか、ぐっと、和風にみえました
Commented by milletti_naoko at 2021-03-10 00:30
まほろばさん、こんにちは。わたしも、幅広いジャンルやテーマの、いい映画がたくさん選ばれているなと思い、無料でたくさん見られて、ありがたかったです。この映画祭は、国際交流基金(The Japan Foundation)が運営していて、界各国で上映されるのですが、各地の日本文化会館が上映や案内などに協力しているようです。

三浦春馬さん、さわやかな青年役を演じられていていい味を出されていますね。皆さんの記事でかつて関連ニュースを知りはしたのですが、この映画で主人公をされた方だったのですね。

ありがとうございます。まほろばさんも同じように感じて日々を暮らされていると知って、うれしいです♪
Commented by milletti_naoko at 2021-03-10 00:40
お転婆シニアさん、本当にいい機会を与えてもらいました。
懐かしい風景や情景もあれば、今はこういう状況なのかなあと思ったりする町や家庭の映像もあり、また昔の日本を描いた映画もあって、興味深かったです。

そうですね。ほめてくれないで文句ばかり言ってとすねるより、こちらから積極的にほめる、そういう心がけ、確かに大切ですよね。テーブルの上のヒヤシンス、香りがいっぱいに漂っていることでしょうね!
Commented by milletti_naoko at 2021-03-10 00:47
鍵コメントの方へ

こんにちは。そして、ありがとうございます。
調べがやさしく、すてきですね。

早く花を見に、ペルージャ市を出られる日が来ますように。
Commented by milletti_naoko at 2021-03-10 00:57
メイフェさん、ありがとうございます。
映画を見たり本を読んだりすると、ただ生きているだけでは知ることのできない世界を垣間見たり、体験したりすることができて、心の底から感動したり、何かを学ぶことができたりして、いいですよね。最近は映画館に行くことができず、長い間劇場で映画を見ていないのですが、やっぱり映画はいいなあと思いました。ドラマと違って、わずか2時間の間にすっかり別の世界へと見る人を引き込んでくれるのですもの。

お互いに愛情を素直に伝えにくく受け取りにくい年頃というか性格なので、こんなふうに映画や本を通して感じたことを、言葉にして、自分に言い聞かせております♪
Commented by milletti_naoko at 2021-03-10 01:03
coimbraさん、こんにちは。見てくださったんですね!
すてきな映画が、日本にもたくさんあって、見る機会を与えてもらえて、本当によかったです。イタリア語に吹き替えて劇場で公開して、いつかもっと多くの人に見てもらえたらと思う映画がたくさんありました。

『マフィアは夏にしか殺らない』はマフィアが浸透しているシチリアなどの地域でことさらにということだと思いますが、今はイタリア全国に、北部やウンブリアにさえ浸透しつつあるようで、全国でこんなことになってしまわぬよう、ある芽を摘み取っていくことの大切さを思います。感染による経済危機や苦境も、国が支援の手を差し伸べないと、そこにマフィアが入っていくとも言われています。

ありがとうございます。クマさん、ひな祭り風に取ろうと考えて、花といっしょに撮影してみました♪
Commented by milletti_naoko at 2021-03-10 01:10
zakkkanさん、日本の大都会の街並みや学校の中や店に咲き始めた桜と、懐かしい風景や慣習も、映画を楽しみながら、見ることができました。

妹が贈ってくれた京都のクマちゃんが、やはり和風に見える一番の理由かもしれませんね。花瓶代わりのとっくりは、和風ですがイタリアで購入したイタリアの人が作ったものです。
by milletti_naoko | 2021-03-08 19:45 | Film, Libri & Musica | Comments(12)