イタリア写真草子 ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

そんなこれがモンタルバーノの最終回?

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 モンタルバーノシリーズのドラマの最終話が放映されると、しばらく前から予告編などで知っていたので、昨晩見て驚きました。北伊のリグーリアとイタリアの南端のシチリアと遠く離れてはいても、大切なときに互いを支え合い、若い頃からずっといっしょだったリーヴィアを、裏切って同僚と激しい恋に落ちるということは、Raiのニュースで知っていました。

 けれどもまさか、あんな冷たい自分勝手で一方的な別れ方を、モンタルバーノ(Montalbano)が電話でするとは思わなかったからです。

 物語の内容や推理自体はおもしろかったのですが、ずっとドラマの縦軸となっていて、ドラマだけではなくモンタルバーノという人物やその人生にとっても大切だったはずのリーヴィア(Livia)とこんな形で別れるとはと、唖然としました。

 主人公のモンタルバーノを演じるルーカ・ジンガレッティ(Luca Zingaretti)は、インタビューに答えて、「人生の中で危機に陥った主人公が、恋に落ちて、長年の恋人も仕事もシチリアも何もかも捨てて恋の相手といっしょに過ごしたいと願うのだけれども、それは結局、人生で幸せを感じて長寿をまっとうしているのは、仕事よりも愛情を大切にした人たちなので、モンタルバーノ原作の著者であるカミッレーリはそういうことを知っていて、こういう物語を描いたのではないか」と言っています。

 けれども、長年築き上げ、紡ぎ上げてきたリーヴィアとの関係を、突然出会った同僚への恋のためにこんなにもあっさりとなげうつのは、愛情を大切にしているとはとても言えないのではないかと思いますし、テレビでは37回にわたった全シリーズが、こんなふうに、リーヴィアとは別れて、新たな恋の進展を予想させる形で終わるのは、何か違うように思います。

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Trani (BA), Puglia 19/9/2020

 若い女性との恋で自らの危機を乗り越える、心の平衡を保つという年配の男性の身勝手な行動は、ジュゼッペ・トルナトーレ監督の『ある天文学者への恋文』に通じるものがあるように思います。(記事はこちら

 作家、アンドレーア・カミッレーリ(Andrea Camilleri、1925-2019)の手になる推理小説を原作とするモンタルバーノシリーズは、テレビでは37話が放映され、今作品が最後となるとのことなのですが、下のコッリエーレ・デッラ・セーラ紙の記事を見ると、モンタルバーノを主人公とする小説としては、昨晩放映された『Il metodo Catalanotti』は、最後から三つ目の作品であるということです。



 イタリア語版ウィキペディアで、モンタルバーノシリーズについて調べた結果、この作品に続く2作、『Il cuoco dell'ALcyon』『Riccardino』のうち、前者にはリーヴィアが登場することと、後者は、著者であるアンドレーア・カミッレーリが、自らの死後発表されるべきシリーズ最終作として2005年に書き上げ、2016年に手を入れて、著者が亡くなった2019年の翌年、2020年7月に発行されたことが分かりました。

 そして、今朝、アマゾンイタリアの上記2冊の読者の書評をいくつか斜め読みして、前者ではモンタルバーノがジェノヴァにリーヴィアを訪ねて再び恋人として過ごしたらしきことと、最終作である後者には、リーヴィアがまったく登場しないことが分かりました。

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18/9/2020

 著者であるカミッレーリは、最初は、主人公であるモンタルバーノが作品中で年を重ねていって、天寿をまっとうするという形でシリーズを終えるつもりでいたのですが、そういう意図でシリーズ物を書いていた友人の作家二人が、主人公の死を描く前に逝去したことから、モンタルバーノが死を迎えず、その後も生き続ける最終作を書いて、自らの死後発行することにしたのだそうです。

 こんなふうにリーヴィアと別れた形で、ひょっとしたらシチリアさえ去るかもしれないという予兆のある終わり方で、テレビのモンタルバーノシリーズを締めくくってしまうと、これまで描かれてきたモンタルバーノの人間性や仕事に対する姿勢にも疑問が持たれてしまうこともあり、わたしとしては、せめてリーヴィアが再度登場する次作だけでも、ドラマとして放映してほしいという思いがあります。読みたい本ばかりがたまっていくのですが、今回放映された作品と次作だけでも、いつか原作を読んでみたいと考えています。

 昨晩ドラマを見ていて、シチリアの青い海と夜明かりに美しい町並みに、昨年訪ねたプーリアの海辺の町、トラーニの風景が重なりましたので、その旅の写真を添えています。

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Ieri sera, mentre guardavamo "Montalbano", le città siciliane di notte mi hanno ricordato la città di Trani.
Finire la serie televisiva in quel modo - a me sembra - mette in dubbio l'integrità di Montalbano nei confronti di Livia e del lavoro.Spero che almeno si trasmetta un altro episodio basato sul suo secondultimo romanzo in cui di nuovo Montalbano va a trovare Livia in Liguria (secondo le recensioni del libro).
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LINK
- News Rai - Il Commissario Montalbano "Il metodo Catalanotti" (Anno LXIII n.9 23 febbraio 2021)

Articolo scritto da Naoko Ishii

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Commented by BBpinevalley at 2021-03-09 18:04
いったい男性という生き物は、ある年齢に達すると、知らないうちに死への恐怖を感じるのだと思います。
本人が認めていないから厄介ですが、そういう恐怖心を、若く溌剌とした女性の活力で補おうという心理が働くのではないでしょうか?
いつも思いますが、男性の悲劇はお母さんが女性だという事実ですネ🤣 (これ、深い発言だと、実は自負しているのですが)
Commented by aamori at 2021-03-09 18:10
え~~!!
モンタルバーノは見ていたんです(全部ではないです)
海辺の言う絵が素敵だなとか、、
でも、、、、、リーヴィアと別れる!!
ショックですわ、、、
Commented by milletti_naoko at 2021-03-10 02:24
BBpinevalleyさん、いっときの激情という感じで描かれてはいたのですが、彼女に会うために仕事をおろそかにする場面がいくつもあり、実際に著者が書いた小説としては他に2冊あって、次の本でリーヴィアに会いにいくようですから、それなのに、こういう作品をテレビのシリーズの最終作にしようと考えて、しかも若い女性と将来関係が続いていくような終わり方をドラマでするというのはどうかなあと思います。そういう意味で、まずは小説の作者、そして監督の男性たちと、二重・三重の意味で、そういう男性の潜在意識というか潜在願望が現れているかもしれませんね。イタリア人にも、リーヴィアとのこの別れ方がどうかとツイートする人や、男性で、この作品をシリーズの最後に持ってくるべきではないとツイートをくれた人がいます。

イタリアで元恋人や元配偶者による女性に対する犯罪、傷害・殺人事件が残念ながら多いのも、母に対する依存が元にあるとは言いませんが、単なる女性差別や女性を所有しているという意識の他に、相手を殺して自分も自殺するという人も多いので、彼女なしには自分の人生は意味がないという他への依存が多すぎることもあるように、わたしもこれは深い発言だなあと思いながら、ずっと感じています。そういう根本の自我の問題を解決する方向で、社会で教育を行なっていかないと解決されないのではないか、と。マスメディアが報道する女性の姿や様々な番組における女性が担う役割や在り方はもちろんのこと。
Commented by milletti_naoko at 2021-03-10 02:35
aamoriさん、そうなんです。わたしも驚きました! そして「おいおいおい!」と思いました。

しかも長年つきあってきた女性の立場からすると、許せないような別れ方をしていて、こんな作品をドラマの最終作にするとは! 小説では次作で再びリーヴィアと恋の時を過ごすと知って、ほっとしていますが、小説の最終作品にはどうして登場しないのかが気になるところです。
Commented by coimbra2017 at 2021-03-10 13:24
なおこさん、モンタルバーノは以前マッテオ神父の事件簿と同時に放送されていました。数話しか観ていませんが、あの海辺の家が素敵で毎回見とれていました。
日本では人情刑事モンタルバーノでしたからね、私も好きでした。いつかこの推理小説の原作を読むことができる日が来るだろうか?と遠い目をして思いながら。。
今度イタリアへ行けた時は本やビデオを沢山買ってきたいなあと思っています。
Commented by milletti_naoko at 2021-03-13 01:16
coimbraさん、わたしはモンタルバーノは、テーマが重かったりひどく残酷な場面があったりする回も時々あり、また、わたしが夫と見始めたときにはすでに長く放映されていて、しばしばある再放送を見るという感じで、一貫した見方をしていないためもあって、本は読んだことがないんです。

人情と言えば確かに、モンタルバーノにせよ他の刑事ドラマにせよ、イタリアのドラマでは法はこうなんだけれど、刑事が融通を働かせて、人情や本当の正義を重んじて取り計らうということが少なくないように感じています。

日本から皆さんが安心してイタリアに来られる日が早く戻ってきますように。
Commented by みーは at 2021-03-29 00:37 x
なおこ様 今晩は☆
モンタルバーノの恋人というのはあの遠距離恋愛のですよね?素敵な大人のカップルという感じだったのに、若い女性のためにですか。。。なんでしょう、いち女性としてはすごくガッカリさせられますが、男性たちはイイね!という反応なのでしょうか?😞
私もドンマッテーオ好きです。あのチャンネルが始まってから珍しくイタリアの番組が見られるということでしばらく契約していました。警察犬の物語やヤングモンタルバーノなんてのも放送されていましたね。
今日お隣のチャンネルでもうすぐ始まるパラディーゾというドラマのオンライン試写会を見たのですが、なかなか面白かったので契約してみようかなと思っています。Raiのミラノにあるデパートが舞台のドラマなのですが、なおこさんもご覧になったことありますか?
以前ドンマッテーオなどを見ていた頃はまだまだイタリア語の独学を始めたばかりだったので、イタリア語が理解出来なくても仕方がないと思っていたのですが、今日はどうだったかというと、なんと大して変化が感じられなかったのですよ。なんという遅い進歩でしょう?がっかりしましたよ笑。でもやっぱりイタリア語が好きなのでこれからも細々と勉強を続けていきます。ではまた🐈
Commented by milletti_naoko at 2021-03-29 06:05
みーはさん、こんばんは。

男性もやはり、それはないだろうと思った人が多いようで、テレビでも新聞記事でもSNSでも、男女を問わず非難が殺到していた模様です。わたしが見たイタリアの主要紙の記事にはリーヴィアを「永遠の恋人」と評するものも多く、そうやって長く彼女を大切にしてきたことも、モンタルバーノの人間、男性としてのすばらしさの一つだと皆が考えていたので、皆が当惑したのではないかと思います。

ドン・マッテーオ、ご覧になっていて、お好きなんですね。うれしいです♪ イタリアのテレビドラマは、確かに日本で見るのは難しいし、しかもイタリア語音声の日本語字幕で見られるというのはいいですよね。

パラディーゾというのは、わたしは再放送を一、2度だけ見たのですが、きっとよい作品ではないかと思います。テレビはやはり、話す速度も早く、モンタルバーノなどは方言がきついので、わたしはもちろん夫も聞き取りに苦労する場合もあります。それほど難しく内容で、音声を聴けると同時に、文字も確認できる音声教材を利用するのがいいのではないかと思います。

もし『星の王子さま』がお好きであれば、イタリア語版の本と音声入りCDを購入されると、ラジオ劇みたいにそれぞれ違う人が担当して、感情表現たっぷりに読み上げているので、楽しみながら聴けると思います。ラジオやテレビの講座を利用されて、音声を耳に馴らしつつ、語彙や文法の復習をするなど、日本ではイタリア語に接する機会がなかなかないので難しいと思うのですが、ぜひ継続して頑張ってくださいませ。
Commented by みーは at 2021-04-08 13:29 x
なおこ様

星の王子さまを早速検索してみたのですが、CD以外の音源の販売はないようでした。実は私のコンピューターにはディスク用のスロットがついていなくて、他のデバイスも持っていないのです😞 せっかくご紹介くださったのに申し訳ありません。いつかダウンロード版が販売されるかもしれないので期待したいと思います。
けれどもアドバイスいただいた語彙と文法の復習というのはそう言えばやったことがないなと思い、そちらに取り組んでみることにしました。するとやはり抜けがありました😅
もっと伊語を話せるようになるまでもうイタリアには行くまいぞと思っているので、頑張ります。
(おまけ:アスパラのペペロンチーノは、二回目はだいぶマシに出来ました!私もお肉をあまり食べないのでこの調理法はもってこいでした😊 ありがとうございました)
Commented by milletti_naoko at 2021-04-08 18:51
みーは様、代が変わりましたね。わたしもそう言えば、今持っているパソコンは2台ともCD用のスロットがついていません。イタリア語学習メルマガ第25号で、『星の王子さま』を学習教材としていて、上のコメントでおすすめしたCDの音声を使った9分弱のYouTubeの朗読映像へのリンクを張ってありますので、よろしかったらご覧ください。

・第25号『Il Piccolo Principe』
 https://cuoreverde.exblog.jp/31169513/

本として通して朗読した無料の音声映像もYouTubeに見つかりましたので、よろしければ参考にしてください。

・IL PICCOLO PRINCIPE di Antoine de Saint-Exupéry lettura integrale
 https://www.youtube.com/watch?v=INpfaKihoFw

聞き取りが難しいのは、生のイタリア語に触れることが少ないので、耳が慣れていないからであると同時に、知らない言葉や言い回しが多いためではないかと思います。そういう意味で、NHKの講座でもイタリア語字幕が見られる映画などのDVDでも、文字情報を確認できる教材は、リスニングの強化にうってつけで、そうやって分からない言葉を確認しながら、出てきた言い回しをきっかけに文法の復習もしていけばきっと少しずつ力がついていくのではないでしょうか。

現代イタリアが舞台で、利用する語彙を抑えたNHKの講座などをぜひ有効に活用してみてください。

アスパラガスのペペロンチーノ、おいしく食べてくださったと知って、わたしもうれしいです♪
Commented by みーは at 2021-04-09 15:13 x
ありがとうございます!頑張ります💪😊
by milletti_naoko | 2021-03-09 17:41 | Film, Libri & Musica | Comments(11)