イタリア写真草子 ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

第38号「イタリアの3月、雪山の散歩」

 2010年3月2日発行のイタリア語学習メルマガ第38号「イタリアの3月、雪山の散歩」をこのブログに移行しています。



1.イタリアの3月 ~ Marzo è pazzo


 イタリアでは、3月の天候が不順で変わりやすいため、Marzo è pazzo (3月は気が狂っている)ということわざがあります。天候のpazzoぶりは、下の写真を見ていただけばお分かりかと思います。

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Monte Tezio, Perugia, Umbria 6/3/2019

 ペルージャ近辺では、例年、2月の末から3月にかけて、山ではスミレの花が咲き始め、

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Deruta (PG), Umbria 28/2/2010

里では黄色いミモザや桃色のアーモンドの花が満開になって、美しい春の景色を楽しませてくれるのですが、 昨年は3月20日に、ペルージャで気温が急降下して吹雪に見舞われたりしました。

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Perugia, Umbria 21/3/2009

 上の写真では、黄色い花が咲きほこっているミモザの木が、雪に覆われています。 



2.雪山の散歩


 2月20日土曜の晩に、夫が友人フランコと電話で打ち合わせ、翌日21日、日曜の朝にアッペンニーニ山脈で合流して一緒に山を歩くことになりました。

 朝7時に起きて、慌しく朝食を済ませ、2時間半のドライブのあと、アッペンニーニ山脈の中腹にあるパピアーノ(Papiano)の町に向かいました。歩く行程は約10キロメートル。標高1295mのカッラ峠(Passo della Calla)から、森林の間を歩いて、最初はゆるやかな山道を登り、それからTorrente Oiaという渓流(torrente 男性名詞に沿って、山道を下り、パピアーノに到着するというものです。

 フランコの車を到着地点のパピアーノに駐車し、3人全員が夫の車に乗って、出発地点のカッラ峠に向かいました。昨年10月に巡礼の旅で通過したとき美しい秋の風景を楽しんだ峠は、雪(neve 女性名詞に覆われて一面の銀世界。

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21/2/2010

 私と夫のルイージは、この日初めて、スノーシュー(ciaspole 女性名詞 複数形。単数形はciaspolaを履いて、雪の山道を歩くことになりました。 スノーシューは、私たちの散歩風景の写真にも小さく写っています。スキーのように靴の下に取りつけて使うのですが、スキーよりも縦の長さがずっと短く、横幅はやや大きめで、雪に沈まず、雪の上を滑らずに歩けるような構造になっています。 

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 慣れないために、時々足をスノーシューごと雪に踏み入れたりして苦労したのですが、美しい雪景色を楽しみながら、獣の足跡だけが残る処女雪の上を歩いて行きました。夫とフランコはときどき立ち止まっては、雪の上にあるオオカミ(lupo)の足跡らしきものを観察して、オオカミがどこから来てどこへ行ったのかを推測していました。昼食には、パピアーノの町のバールで作ってもらったパニーノ(panino)を食べ、水を飲みました。それ以外にも、道中ときどき持参した菓子類や果物を食べて、休憩する機会がありました。

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 1337mの高さまでたどり着いたあとは、到着地点のパピアーノ(標高約700m)まで、時々登り道もあるものの、基本的にはひたすら下っていくことになりました。山を下れば下るほど、雪の解けている部分が増え、あちこちから水が滝(cascata)のように流れ落ち、勢いよく流れる水の音が聞こえました。

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 途中、川の流れのように緑色に苔むした岩が並ぶ、日本庭園のように美しい自然の景色を眺めることもできました。標高1000mまで下ると、山の斜面や道の脇には雪が見られるものの、トレッキングコース(sentiero)の雪はすべて解け、足元の地面が泥(fango)のようになっていたり、道の上に水がたまったり流れていたりするようになりました。そこで、スノーシューを川の水で洗ってリュックサック(zaino)にくくりつけ、今度は登山靴(scarponi 男性名詞 複数形。単数形はscarponeで、散歩を続けました。途中何度か、雪解けで水が増した小川(ruscello)を渡らざるを得ないところもありました。

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 雪景色も、森林やほとばしる滝、川の水の流れも美しかったのですが、前半は雪、後半は水や泥のために歩きづらい山道を10km歩き続けるという行程はただでさえ容易なものではありません。しかも、連れの男性二人は山道に慣れていて、歩くのが速い上に疲れを知らないため、私は途中から、後について行くので精一杯になり、すっかり疲れきってしまいました。というわけで、到達地点が近づいて、人里が見え始めたときには、本当にほっとして心が躍りました。

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 2月で春の訪れにはまだ早いものの、雪解けのために山のあちこちで流れ落ちる滝水を見て、

  石走る垂水の上のさわらびの萌え出づる春になりにけるかも(志貴皇子)

という『万葉集』の歌を思い起こし、作者の感慨を初めて深く理解し、共感できたような気がしました。

 日頃、運動不足気味の私は、当日疲れ果てた上に、翌日から2日間全身の筋肉痛に苦しみました。夫の方は、当日もその後も体の痛みは一切感じなかったようです。「久しぶりに全身を使って運動したので、リフレッシュできた」とうれしそうです。



 おわりに


 イタリアの放送局、Raiの番組の中には、汚職や環境問題など国民の生活や政治に関わりの深い時事問題を扱って、その中で政治家が討論をするものがあります。時々お話しした『Ballarò』もそうした番組の一つなのですが、今回与党からの圧力がかかって、番組が選挙結果に影響を及ぼすのを避けるためにと、一連のこうした番組が今日から選挙までは放送を差し止められることとなりました。I programmi di approfondimento informativo「視聴者に、情報を深く掘り下げて知らせる番組」の放映を差し止めることは、国民から「知る権利」を奪い、汚職など各種のスキャンダルに蓋をするようなものだという当然の理由で、数週間前から多くのジャーナリストや知識人が反対していたのですが、今晩は『Ballarò』の放映がありません。汚職事件が多発し、マフィアの犯罪も後を絶たない中、汚職やマフィアの犯罪を防ぐにも裁くにも不可欠である盗聴(intercettazione)を制限しようとしたり、与党がベルルスコーニが裁きを受けずにすむための法律の考案に終始したり、イタリアの民主主義の基盤がどんどん崩れていっているような危機感を覚える今日この頃です。

 では、また。来週はもう少し明るいニュースがお伝えできるとよいのですが…… ペルージャでは、このところ日中の気温が10度を超える温かい日が続いていたのですが、予報では金曜日にまた気温が零度近くまで下がり、寒くなるということです。イタリアへの旅行を計画されている方は、天気予報に注意して、雨具や服装の準備をしてくださいね。


Articolo scritto da Naoko Ishii

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ブログテーマ:あなたの見つけた冬景色
Commented by 3841arischan at 2021-03-13 10:25
なおこさん、雪道をスノ―シュ―で歩く姿は、カッコイイ~(^_-)-☆と思ったのですが、途中からは、雪解けの水が増水した川を渡ったりと怖そうな道、川って一歩間違えば足をすくわれて、命取りにもなりかねません!
やはり全行程10kを歩くとなると、普段からの山歩きが大切ですね(^-^)
3月は、スミレの花やアーモンドのお花、楽しみもあって、10kは苦しいけど、自然の中での体験は素晴らしいものがありますね(^_-)-☆
Commented by meife-no-shiawase at 2021-03-13 12:52
イタリアの3月はそんなにも気候があっちこっちに変わるのですか?!
3月20日大雪っていうのもすごいですね。

スノーシュー。
私も今回の帰国の際に長野でやってきました。
スキーだと長過ぎて小回りが効かないですが
スノーシューはそんなこともなく、雪の中でも
どんどん入って行けてすごく面白いですね。
誰も足を踏み入れていない雪の上を歩くのは快感でした。

でも狼・・・ちょっと怖い。笑。
私も熊か?!と思う足跡を見つけて一瞬、恐怖で固まりました。
でも冬眠中でそれは無いということでしたが
ちょっとそのあとはビクビクしちゃいました。
Commented by mahoroba-diary at 2021-03-13 16:59
なおこさん、こんにちは。

ミモザに雪が積もる景色、初めて拝見しました。
どのお写真も清々しい空気が伝わってくるようで、ご主人様やご友人と一緒に歩かれた愉しい時間が伝わります。
スノーシュー、とても愉しそう!スキー板と違ってもっと気軽に雪道が楽しめますね。私もいつかトライしてみたいです。
最後の文章・・・イタリアでそのような状況があるのですね。このコロナ禍で、様々な制限がかけられる中、自由も制限され、なにか自由主義や民主主義が脅かされるように感じられますね。イタリアはもともと地下経済が発達しているという印象を持ってはいますが、それほどまでに汚職が多いのですね。また、いまだにマフィアの犯罪も多いのですね。
イタリアが再度ロックダウンするという記事を昨日新聞で読みましたが、本当に大変な時期ですね。心よりお察し申し上げます。このお写真のように自由に外を歩けた時が本当に恋しいですね。心身の健康を保つのに努力や工夫が必要な今・・・夏に向けて、できるだけ速やかに収束してくれることを願ってやみません。
Commented by milletti_naoko at 2021-03-13 23:42
アリスさん、雪解けした山の下方は、雪の代わりに泥の道になっていて、小川もあって、ちょっとした大冒険になりました。山では標高が高いほど涼しく、下の方が暖かい、暑いというのは経験的にも知っているのですが、このときはそれをはっきりと感じました。

3月はいろいろな花が咲き始めるので、最近も車で出かけて、窓から見える花たちを見て、うれしくなりました♪
Commented by milletti_naoko at 2021-03-14 04:19
メイフェさん、もう20年近く前の話ですが、義弟夫婦の新婚旅行のときには、4月に雪が降ったりもしたそうで、3月にこんなに雪が降るのは珍しいのですが、そういうおかしな天気は時々昔からあるようです。

雪が深くて歩きにくいところを、スノーシューだと楽に歩けて便利ですよね! 長野でお友達とすてきな時を楽しまれたようで、本当に何よりです♪

日中明るいところであれば大丈夫で、おそらく狼のほうが怖がって人間を避けるだろうとは言うのですが、やはりたそがれの頃に一人で山を歩くと不安になります。熊が出る可能性のある場所、日本ではどうも多いようで、やはり恐ろしいですよね。

Commented by milletti_naoko at 2021-03-14 05:55
まほろばさん、こんにちは。ミモザが咲く頃にはもう雪の時期は過ぎて暖かくなっている頃なので、ふつうはもうこんなに雪は降らないのですが、この年は寒さが帰ってきた上に雪さえ降ったようです。義父は、こんなふうに植物の花が咲いたり、芽が出始めてから雪が降ったり凍るような寒さになったりすると、農業に被害が出ると心配しています。珍しい風景ですよね。

いつかまほろばさんもスノーシューで雪の上を歩くことを楽しめる日が早く来ますように。スノーシューがないと、ひざあたりまで雪に埋もれてしまって歩きにくいので、これは便利だなと思いました。

今回文章に若干手直しは加えたものの、この文を書いたのは2010年3月なんです。あれ以来、ベルルスコーニが首相ではなくなり、ジャーナリストや司法に関するこうした政治的圧力はかつてほどはかけられなくなったと思うのですが、残念ながらマフィアの犯罪が近年はイタリアの北部や中部にまで伸びていると言われていて、大きな問題になっています。

日本の新聞でもイタリアのロックダウンが取り上げられたのですね。今のところは全土封鎖となるのは復活祭前日から復活祭翌日までの3日間なのですが、今日は新規感染者数がかなり多く、今後ひょっとしたらその前にも全土封鎖になりはしないかと心配しています。幸い今のところ、先にレッドゾーンとなっていたウンブリア州は、来週からもオレンジゾーンなので、市外にでることはできませんが、市内であれば散歩をすることが可能で、いつまでのことか分かりませんが、とりあえずほっとしています。

来週には義父母がまずは第一回目のワクチン接種を受けることになっています。本当に少しずつ収束に向かっていくこと、日々を無事に過ごしていけることを願っています。

まほろばさんもどうかお体を大切にお過ごしくださいね。
Commented by みーは at 2021-04-04 21:18 x
直子さま こんばんは☆
昨年のある日、私のゼラニウムの植木鉢に小さな紫色の野花が一輪咲いているのを見つけました。これはもしやスミレと呼ばれている花では?と思ったのですが、こちらの写真を見てやはりそうだったのだと確信しました。ただしそのスミレが咲いていたのは秋だったのです。去年は大雨が続いたり猛暑だったりしたので咲きそびれてしまったのかな、それともこの辺りの秋が野山の春に近いのかなぁなどと考えたりしました。ひょっとして今年も咲くかな?と少し期待してしまいます😌
渡伊19周年おめでとうございます🇮🇹 出会いのような物事はどういうわけか期待していない時ほどやってくるものですね。かと言ってただおうちでぼーっとしているだけでは訪れないものでもありますけれど笑。
Commented by milletti_naoko at 2021-04-05 01:41
みーはさん、ひっそりとスミレも咲き始めただなんて、何だか春の贈り物のようですね。桜などが季節を間違えて秋に咲くことがあるのですが、まさかスミレが秋に咲くとは!

ありがとうございます。人生って本当に不思議ですね。いえいえ、案外ぼうっとしていることが必要なときがきっとあって、そういうときの出会いというのもあるように思います。
by milletti_naoko | 2021-03-13 07:45 | Viaggi | Comments(8)