3月8日は国際女性デーでした。イタリア語では、Festa della Donna(女性の日)と言い、女性にミモザの花を贈り、女性の政治的・社会的平等への道を振り返り、また更なる平等を目指し、そして男性が日頃の女性の働きに感謝する日です。
Perugia, Umbria 8/3/2011 当日は、テレビ番組や新聞紙でも、この女性デーの特集を組んでいたのですが、女学生が有力紙に投書をして、「イタリアでは、まだ男女平等にはほど遠く、女性の日があること自体が他の364日が実際にまだ男性中心の日であることの裏返しではないか」と訴えてもおり、日本に限らずイタリアでも、まだ本当の意味での男女同権までの道のりが遠いことを改めて感じました。
2.春なお遠し-まだまだ続く悪天候(新聞記事の見出しを読む)
今、窓の外では雪が降り続けています。天気予報が見事に的中し、先週木曜日までは日中の気温が10度を超える比較的温かい日が続いていたのに、木曜の晩から寒くなり、ペルージャでも気温が零度に近く、時々氷点下まで下がるような日が続いています。週間天気予報では、こうした厳寒の日々が少なくとも1週間は続くとあり、まだ春は遠い先のようです。
まさに前号でご紹介したことわざが言うとおりMarzo è pazzo。「(3月は気が狂っている→)3月は天候が不順で変わりやすい」。
新聞にも、この悪天候についての記事が出ています。Corriera della Sera.itの該当記事へのリンクを貼っておきますので、興味のある方は読んでみてください。
見出しのイタリア語についてだけ、簡単に解説しておきます。
"Ancora maltempo sulla Penisola
"Neve al Centro-Nord, pioggia al Sud"
説明しやすいように、以下、私の方で各見出しの前に番号を振っています。見出しをじっくり読んで意味を考えてみてください。すでにご存じの言葉が多いので、大体の意味の見当はつくかと思います。
1. Temporali, vento e mareggiate in Sicilia. La situazione migliora da giovedì
2. Ancora maltempo sulla Penisola
Neve al Centro-Nord, pioggia al Sud
3. Imbiancate anche Piazza del Campo a Siena e la Torre di Pisa.
Prevista neve anche a bassa quota in Sardegna
中心となる見出しは2で、リンク先の記事を見ると、注意を喚起するために大きい文字で書かれています。ancoraは「まだ」という意味の副詞です。maltempoはmal(o)とtempoからできた複合語だと気づかれましたか。tempoは名詞で「天気、天候」、maloは文学作品などで使われる形容詞で「悪い、不運な、悪意のある」という意味で、この2語から形成されたmaltempoは「悪天候」を意味します。penisolaは名詞で「半島」を意味しますが、ここでは定冠詞を伴い、大文字で始まっていますから「イタリア半島」を指します。
訳すと「イタリア半島には、いまだに悪天候(が居座っている)。北部・中部には雪、南部には雨。」となります。こうした、名詞を中心とする述語のない構造は、新聞の見出しによく見られる特徴です。
天気の記事を読む人は、自分が訪れる地方の状況や今後の天気予報に興味があるので、1.の肩見出しにはそうした情報が書かれています。
1. Temporali, vento e mareggiate in Sicilia. La situazione migliora da giovedì
「シチリアには雷雨、強風と荒波。状況は木曜日から好転する。」(「 」内は石井訳。以下も同様。)
miglioraは動詞mgliorareの直説法現在で、主語が三人称単数のときの形ですから、この見出しの2文目は、きちんと述語動詞のある普通の文です。ここでは、migliorareは自動詞で、「好転する。改善される。」という意味で使われています。
3. Imbiancate anche Piazza del Campo a Siena e la Torre di Pisa.
Prevista neve anche a bassa quota in Sardegna
新聞の見出しでは、述語動詞を省略し,名詞が中心となる構文が多い上に、受動態も多用されます。この2文の見出しでは、この両方の特徴が見られます。
それぞれの文で省略されている言葉を補ってみてください。
( a ) imbiancate anche ( b ) Piazza del Campo a Siena e la Torre di Pisa.
( c ) prevista ( d ) neve anche a bassa quota in Sardegna.
(a)と(c) には動詞を適当な形に活用させ、また (b)と (d)には正しい定冠詞を考えて入れてください。
まずは定冠詞から。Piazza del Campoは中世の町並みが美しいシエナの町の中心にある広場で、毎夏町の地区が対抗して行う競馬レース(palio)の会場となることで有名です。piazza「広場」は女性名詞の単数形ですから、(b)に入るべき省略されている定冠詞はlaです。
冠詞はそれ自体が意味の骨子を持たないために、新聞や雑誌の見出しでは、こんなふうに省略されることがあります。外国からイタリアに移民としてやって来て、働きながら現地でイタリア語を学ぶ人のイタリア語の発達を追った研究結果を見ると、移民たちが、イタリア語を自然に習得していく最初の段階では「冠詞」を全く用いず、また動詞を活用させずに常に同じ形で用いていることが分かります。
学び始めた最初は、意味の骨格に関わる「名詞」や「動詞」などの使用や理解が中心になり、付属的な意味を持つ冠詞や活用語尾は、使用法や活用の仕組みの理解が難しく、まずはそこまで頭と力が及ばないということなのですが、逆に言うと、日本で学習している皆さんが、母国語である日本語に存在しない冠詞や名詞の性(女性形・男性形)や数(単数形・複数形)をイタリア語で多少間違えて言われても、相手のイタリア人には言わんとすることが大体伝わることが多いということです。いくら文法の問題集では完璧に正解を出せても、実際の会話では、とにかく場数を踏まないと、きちんと判断して冠詞を使い、動詞や形容詞の適切な活用形を使うのは難しいのです。ですから、むやみに文法項目ひとつひとつにこだわって先に進めずにいるより、一通り学習した後は、できるだけ多くのイタリア語を読み,聞き、書き、話すことが大切だと思います。
話がそれましたが、(d)でも、neve「雪」は女性名詞の単数形ですから、入る定冠詞はlaとなります。
(a)と(c)は共に受動態の文章を完成させるのに必要な動詞が入ります。主な受動態の構文には「venire +受動態」と「essere +受動態」の二つがありますが、この両者には前者が「動作を表す」のに対して、後者が「状態を表す」という違いがあります。
たとえば、“La porta viene aperta.” は「ドアが開かれる」という動作を表し、“La porta è aperta”は「ドアが開いている(開かれている)」という状態を表します。
1文目のimbiancateはimbiancareの過去分詞です。動詞mbiancareは、bianco(白、白い)という単語に接頭辞in-と接尾辞-areが加わってできたものですから、「白くする、白くなる」を意味します。ここでは、記事が、広場と塔がすでに雪で白くなっている状態であることを伝えているのですから、essereの現在形が入ります。主語は複数ですから(具体的には、女性名詞のla Piazza ... とla Torre ...)、正解はsonoです。
2文目のprevistaは動詞prevedereの過去分詞previstoの女性名詞の単数形に呼応する形です。prevedereは、動詞vedere「見る」に、接尾辞 pre-「前に」がついてできた動詞ですから、意味は「予想する、予測する」。予測はすでに出ているのですから、(c)にも動詞essereを活用させたものが入ります。現在形で、主語は女性名詞のneve「雪」の単数形ですから、正解はèとなります。
3.を意訳すると、以下のとおり。
「シエナのカンポ広場とピサの斜塔も一面の銀世界。
サルデーニャでは低地でも雪の予想。」
記事の本文を読むと、ボローニャやピアチェンツァなどの町があるエミリア・ロマーニャ州では、平地でも40センチから50センチまで積雪の可能性があるとあります。交通機関が麻痺する可能性もありますから、現在イタリアを旅行中、あるいはこれから出発する予定があるという方は天気予報や交通情報に十分にご注意ください。
中・上級の方は、記事の本文の読解にも挑戦してみてください。見出しにあるキー・ワードが分かっているおかげで、内容も推測でき、理解がしやすいはずです。
最後に、関連のバックナンバーをご紹介しますので、まだ読まれていない方は、興味があれば目を通してみてください。
まだイタリア語を勉強し始めたばかりの方に。今回出てきたbiancoやimbiancareをはじめ、日常生活でよく使われる色に関する表現を説明しています。
天気に関するイタリア語のさまざまな表現や、イタリア各地の詳しい天気予報が分かるサイトの利用方法などを紹介しています。
3.歌『La Prima Cosa Bella』
今回は、歌『La Prima Cosa Bella』をご紹介します。まずは、下のリンク先にある歌を聞いてみてください。言葉を飾らず、率直な思いをゆっくりと歌い上げているので、初級の方でも分かる部分が多いことに驚かれるはずです。
Nicola Di Bari - LA PRIMA COSA BELLA (1970)
1970年にサンレモ音楽祭で大賞を受賞したこの歌は大成功を収め、メロディーと歌詞の美しさから、現在でもイタリア歌謡曲の「古典」の一つとされています。今年1月に上映された歌と同名の映画で、この歌が主人公たちに繰り返し歌われ、かつサウンド・トラック(colonna sonora)としても使われたことから、再び人気を誇るようになりました。上のYouTubeのページに寄せられたコメントからもそれがお分かりかと思います。
では、歌詞を見ていきましょう。まずは冒頭部から。
“Ho preso la chitarra
e suono per te
il tempo di imparare
non l'ho e non so suonare
ma suono per te.
La senti questa voce
chi canta è il mio cuore
amore amore amore
è quello che so dire
ma tu mi capirai”
「(ぼくは)ギターを手に取った。
そして君のために演奏する。
(ギターの演奏を)習う時間は
ないし、ギターは弾けない
けれど、君のために演奏する。
この声が聞こえるかい。
歌っているのは、ぼくの心だ。
愛しい君よ、
ぼくに言えるのはこれだけだ。
でも、君にはぼくの言いたいことが分かるだろう。」
2行目と5行目にあるsuonoは、動詞suonare「(楽器を)演奏する、弾く。」の直説法現在で、主語が一人称単数(つまりio「私」)のときの形です。動詞suonareは、名詞suono「音」に動詞を派生させるための接尾辞-areがついて、できた言葉です。こうやってイタリア語での単語の派生のしくみを知っておくと、知らない単語に出会ったときでも意味が推測しやすくなります。
4行目について、“non so suonare”のso は、動詞sapere「知っている、…できる」の直説法現在で、主語がioのときの形です。この場合のように、動詞の不定詞(ここではsuonare)が後にくるときは、「…できる」という意味になり、sapereは不定詞の動詞で示される能力や技能があることを表現します。
8行目にあるamoreは、ここでは愛しく思う相手に対する呼びかけです。恋人どうしや夫婦だけでなく、親や我が子に、あるいは他人でも大人が幼い子供に愛情をこめて呼びかけるのに使ったりもします。
最終行のcapirai は、動詞capire「理解する、分かる」の直説法未来で、主語がtuのときの形です。未来形とは言っても、ここでは「~だろう」という推測の意味で使われています。直説法未来は、特に会話では、未来よりもむしろ推量を表すのに用います。近い未来や確実な予定を表すには、未来形ではなく現在形を使うことの方が多いからです。
次に、歌のサビの部分を読んでみましょう。
“La prima cosa bella
che ho avuto dalla vita
è il tuo sorriso giovane, sei tu.
Tra gli alberi una stella
la notte si è schiarita
il cuore innamorato sempre più”
「ぼくが人生から受け取った
最初のすばらしいものは
君の若々しいほほえみだ、君なんだ。
木々の間に、星が一つ
夜の闇は去り、明るくなった。
ぼくの心はますます(君への)恋心を
募らせていく。」
この歌の歌詞は、以下のページでご覧になれます。歌詞を見ながら、歌を何度か聞いて味わってみてください。
歌や歌声が気に入った方は、ぜひ次のアルバムを購入して、すべての歌を繰り返し聞いてみてください。
『La prima cosa bella』はもちろん、他の歌も、昔の歌の特徴ですが、ゆったりした音楽に載せて心に響く歌を聞かせてくれます。率直に思いを歌い上げているため、歌詞に難しい言葉や言い回しが少なく、初級の人でも理解できる部分が多いはずです。そういうわけで、イタリア語学習にもおすすめです。
『I Miei Successi』には、ヒット曲(successo、successiは複数形)が収録されていて、MP3で購入可能です。CDであれば、ベスト盤の『Il Meglio Di Nicola Di Bari』の方がお手頃価格です。最初の二つのアルバムでは、歌を試聴可能です。
私自身は、歌と同名の映画『La Prima Cosa Bella』を見たときに、初めてこの歌を意識して聞きました。この映画には、60年代・70年代の名歌が数多く使われていたため、夫は映画よりもむしろ懐かしい思い出の歌をたくさん聞けたことを喜んでいました。映画のサントラでは、Malika Ayaneが歌ったものが使われています。下記のリンクでは、Malikaの歌を、映画の場面とMalikaが歌う様子を見ながら、聴くことができます。
Malika Ayane - La prima cosa bella
イタリアとモロッコという二つの祖国を持つMalikaのような歌手が昨年・今年とサンレモ音楽祭に連続出場を果たし、人気を博していることは、外国人や移民に対する偏見や差別の風潮が高まっている昨今、希望を垣間見せてくれます。
今のところ日本で入手しやすいMalikaのアルバムは以下の2枚のようです。
『La prima cosa bella』は『Grovigli』の3曲目に収録されています。
このアルバムは、アマゾンイタリアでは、こちらのページから購入できます。
終わりに
土日に、トスカーナ州ルッカに近いSant’Andrea e Pieve di Compitoで催された椿まつりに参加しました。懐かしい日本風の椿を見て、うれしくなって購入して帰り、我が家の付近は非常に風が強いため、椿を強風・突風から守るために、月曜日は支えの棒を立てたり、枝やまだ細い幹を棒にひもでくくりつけたりして補強しました。クリスマス・ツリー用に3年前に購入したかなり大きいモミの木を鉢ごと倒すような強風が吹くこともあるので心配なのすが、雪が積もった中庭を背景に少しずつ花を咲かせている椿を見ると、思い出の日本の冬や早春の風景と重なって、なんだか幸せな気分になります。
では、また。次号では椿まつりとSant’Andreaの町について書いてみたいと思っています。