1. 父親泣かせのイタズラ坊主 − 歌、『Carletto』(Corrado)
今回は、41号でご紹介した歌、『Carletto』を聞いて、イタリア語を楽しく学習しましょう。やんちゃなイタズラ坊主のカルレット(Carletto)と困り果てた父親のやりとりがとても楽しい歌です。
まずこちらから歌を聞いてみてください。
歌詞全文と歌手、コッラード(Corrado)が演じるように歌う様子は、次のリンクからご覧になれます。
まずは、冒頭で困り果てた父親が何と言っているか、歌詞を見ていきましょう。
“Carletto, Carletto e sii buono,
ma è mai possibile che ti debba dire
sempre le stesse cose? Eh? Ooh!”
題の『Carletto』は、男性名 Carlo に縮小の接尾辞-etto がついたもので、「小さい愛しいカルロ」と、(相手が子供ですから)対象が小さいことを踏まえ、愛情を込めて呼ぶ表現です。
buonoは「おいしい」という意味でご存じの方が多いと思いますが、第一義は「(道徳的にみて)よい、りっぱな、おとなしく従順な」という意味です。“sii buono”の sii は動詞 essere の命令法で、相手が tu のときの形です。ですから、息子に向かって、「いい子にしなさい!」と言い聞かせているわけです。
訳してみましょう。
「カルレット、カルレット、いい子にしなさい。
おまえにいつも同じことばかり言わなきゃいけないなんて
どういうことだ。パパの言うことが分かるか? おい!」(「 」内は石井訳。以下も同様。)
2、3行目の1文は、かなりの意訳になっています。直訳すると、「しかし(ma)おまえにいつも同じことばかり言わなければいけないなんてことがあるだろうか(è mai possibile che)」。
“è possibile che ...”「...ことがありうる、可能である」のような非人称構文では、文の主語は、che に導かれる主語節 になります。そして、可能性や義務を表す非人称構文では、主語節内の動詞が接続法となります。だから、“che ti debba dire...”と、che 以下の主語節内で、補助動詞 dovere「...しなければならない」が、直説法現在の devo ではなく接続法現在 の debba となっているわけです。
上の「非人称構文」や「接続法」の説明は、上級者の方向けです。初級・中級の方は軽く読み流してくださいね。
続きを見ていきましょう。
“Carletto non tirare la coda al gatto.
Carletto non giocare col mio ritratto.
Carletto di qua, Carletto di là,
questo non si dice, questo no si fa.”
2、3行目では、息子に対する呼びかけ、“Carletto” の後に、non+動詞の不定詞現在...という形が繰り返されてい ますが、これは「...してはいけない、...するな、...しないでください」と tu で呼ぶ相手に対して命令・依頼するときに使う構文です。
要するに、「こんなことはしていけない、あれもだめ。」と父親の説教が続くわけですが、では、「何をするな」と言っているのか、お分かりですか。
訳してみますね。
「カルレット、猫のしっぽをひっぱるな。
カルレット、パパの肖像画にイタズラをしてはだめだ。
カルレット、こっちに来なさい。カルレット、あっちに行きなさい。
こんなことは言っちゃいけない。こんなことはしてはいけない。」
まだまだ、父親の説教は続くわけですが、今度は、カルレットがどう答えているかを読んでみましょう。
“Ed io che sono Carletto
l’ho fatta nel letto l’ho fatta nel letto,
l’ho fatta per fare un dispetto
che bello scherzetto per mamma e papà”
訳してみますね。
「そうして、カルレットであるぼくは、
ベッドの中でやらかした、ベッドの中でやらかした。
困らせるために、やらかしたんだ。
ママとパパに対する、なんてみごとなイタズラだろう。」
scherzetto は、名詞 scherzo「いたずら、冗談、悪ふざけ」に縮小辞-ettoがついたものです。「ちょっとしたイタズ ラ」という意味になるのですが、この-etto はCarletto の-etto と同じだと気がついた初級者の方は勘の鋭い方です。
では、このイタズラは、具体的には何なのでしょうか。本文には、“l’ho fatta nel letto”とあります。「ぼくがやら かした」(ho fattoは動詞 fare「する」の直説法近過去で、主語が io のときの活用形)内容は、l’とある部分で、この l’は語尾の母音が省略されていますが、省略されている語尾の母音がお分かりですか。
省略されているのは、母音の a です。これは、 “l’ho fatta”と、動詞 fare「する」の過去分詞 fatto の語尾が-a と変わっていることから分かります。la ho fatta ⇒ l’ho fatta」と、発音しやすいように語尾の母音が省略されています。la はもちろん、女性名詞の単数形を受ける指示代名詞です。
文法的なことを言わなくとも、イタズラが何かは皆さん、ご想像がおつきかと思います。
小さい子供がふとんの中でやらかして、親を困らせることと言えば……
そう、おねしょです。代名詞の la は、pipì(幼児語)あるいは piscia(俗語)を指しています。どちらも「おしっこ」という意味で、女性名詞 です。
父親から説教攻撃を受けても平気へっちゃらで、開き直って返事をするカルレット、そして、父親が並べ立てるカルレットのイタズラの数々が楽しい歌です。
特に最後に引用した部分では、各行末が Carletto, letto「ベッド」, dispetto「いやがらせ」と、すべて-etto となって 脚韻(-etto)を踏んでおり、最終行も、行末こそ-etto で終わっていないものの、行中の scherzetto はやはり-etto で終わ っているために、軽やかな明るいリズムを作り出しています。
子供の名前を Carletto としたのも、letto という言葉自体が Carletto の中に含まれているため、リズムや言葉遊びの楽しさが倍増するためだと思います。
すべてはご説明しませんでしたが、辞書を片手に、カルレットが他にはどんな愉快なイタズラをしでかしたかも突き止めてみてください。
そして、歌詞を見ながら歌を繰り返し聴いたあとで、ご自分でも一緒に歌ってみてください。
この歌が収録されている CD は、日本ではまだ販売されていないようです。ただ、子供の楽しく明るい歌声を聴きながら、イタリア語を学習されたいとか、小さいお子さんがいて、お子さんもご自身も楽しく聞けるメロディーの歌を何度も聞いてイタリア語を勉強したいという方には、次のアルバムがおすすめです。リンク先ページに歌の一覧があり、気になる歌を視聴することも可能です。
メロディーが日本にも伝わって、親しまれているものも中にいくつかあります。
たとえば、6曲目 の「Torero Camomillo」と7曲目の「Volevo un Gatto Nero」。
それぞれ、「黒ねこのタンゴ」、「トレロ・カモミロ」として、日本でも、子供の歌の定番となっ ています。
次のリンク先から、ぜひこの2曲を聴いてみてください。
懐かしい歌を原曲のイタリア語で聞かれて、驚かれた方もいることかと思います。今回ご紹介した『Carletto』もそうです が、子供のための歌というのは、子供が聞いて理解できる必要があるため、語彙も文の構造も複雑なものは避けており、初級の方が聞いても分かる部分が多いのではないでしょうか。さらに、リズムも軽快で、はっきり発音して歌っています。
上のアルバムの題名は、『Zecchino d’Oroのベストアルバム』です。この Zecchino d’Oro とは何かについて は、Wikipedia 日本語版「ゼッキーノ・ドーロ」に詳しい説明がありますので、参考にしてください。
2. ペルージャの学生が語る「イタリア」と「ペルージャ」
ペルージャ外国人大学で、今年度は PLIM2年生の「日本語・日本文化」の授業を担当しているのですが、今回ブログに、この学生たちが昨年「イタリア」や「ペルージャ」について日本語で書いた作文の中から、いくつかを紹介しています。
昨日、4月23日(金)の授業中に、学生たちに許可を取って、授業風景を撮影し、その写真もブログの同じ記事に載せています。興味があれば、ぜひご覧ください。
おわりに
春になって暖かくなったものの、最近は雨がちの日が続いています。政治では、与党が崩壊の危機を迎えていて、毎日ニュースや新聞から目が離せない状況です。アイスランド火山の噴火のために、閉鎖されていたヨーロッパの空港も徐々に便の運行を始めています。
アイスランド火山の噴火については、イタリア語のニュースの内容を、ブログで紹介しています。ニュースは三つあり、それぞれ、噴火がもたらしうる危害、欧州空港の閉鎖状況、噴火直前の火山の様子を伝えています。イタリアでの報道像に興味がおありの方はこちらもご覧ください。
では、また。本や参考書だけではなく、歌や映画、メールの交換など、さまざまな方法で、イタリア語の学習を続けてください。最近、「時間がない」と言い訳をして、ノルマを決めていた英語の学習や運動がすっかりおざなりになっているので、「何とかしなければ」とは思っているわたしです。
わたしもがんばります。
*追記:今号をブログに移行するにあたって、次の号で紹介している新しいデ・マウロのイタリア語基本語彙辞典に基づいて、
記事の説明中の単語を、次のように色分けしてあります。
・基本語彙2000語(現代イタリア語で使われる語彙の86%を占める)
・次いで使用頻度の高い3000語
・上のいずれにも該当しないものの、イタリア人話者がよく使うと知覚している約2500語
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Articolo scritto da Naoko Ishii
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