イタリア写真草子 ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

第67号「物語を読む、春の訪れ、イタリアの地震報道」

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1.物語を読む(朗読音声映像あり)


 まずは、ある物語の冒頭文をご紹介します。中級以上の方は、まず読んでみてください。一度さっと読んだ後、二度目は、物語の舞台がどこで、そして、どういう場面が描かれているかを理解するべく、鍵となりそうな言葉に注意しながら、読んでみてください。


"Succedeva sempre che a un certo punto uno alzava la testa...e la vedeva. È una cosa difficile da capire. Voglio dire... Ci stavamo in più di mille, su quella nave, tra ricconi in viaggio, e emigranti, e gente strana, e noi... Eppure c'era sempre uno, uno solo, uno che per primo... la vedeva. Magari era lì che stava mangiando, o passeggiando, semplicemente, sul ponte... magari era lì che si stava aggiustando i pantaloni... alzava la testa un attimo, buttava un occhio verso il mare... e la vedeva. Allora si inchiodava, lì dov'era, gli partiva il cuore a mille, e, sempre, tutte le maledettte volte, giuro, sempre, si girava verso di noi, verso la nave, verso tutti, e gridava (piano e lentamente): l'America. Poi rimaneva lì, immobile come se avesse dovuto entrare in una fotografia, con la faccia di uno che l'aveva fatta lui, l'America."


*上に引用した物語の冒頭部分の朗読を聴いてみましょう。



 耳からも聴いてみること、自分でも口に出して言って見ることで、学習効果も高まりますので、ぜひ本文を見ながら、または、音声だけ、聞いてみてください。冒頭部分の朗読は1分20秒ほどで終わりますが、リンク先の映像では、さらに朗読が続いています。


 よろしいですか。物語が繰り広げられる場所と状況を示唆する言葉は、次の3語です。

(1) (quella) nave/ la nave (2) il mare (3) viaggio (4) emigranti (5) l'America 


 それぞれどんな意味でしょう。初級の方でも、知っておきたい言葉や、すぐに想像のつく言葉も、この中にあります。(4) も、英語で酷似する単語をご存じの方には、ぴんと来ることでしょう。意味を考えて書いてみましょう。


 では、答え合わせをしてみましょう。それぞれ、

(1)(その)船、(2) 海、(3) 旅、旅行、 (4) 移民、 (5) アメリカ

です。

 この言葉の意味が分かっただけで、初級の方にも、どういう場所、どういう場面を描いてあるかがお分かりかと思います。中級以上の方は、単語の意味を頭に置きながら、もう1度、読み直してください。その際、物語の舞台がどこで、どんな状況が繰り広げられているのかを、理解するべく努めてください。

"Succedeva sempre che a un certo punto uno alzava la testa...e la vedeva. È una cosa difficile da capire. Voglio dire... Ci stavamo in più di mille, su quella nave, tra ricconi in viaggio, e emigranti, e gente strana, e noi... Eppure c'era sempre uno, uno solo, uno che per primo... la vedeva. Magari era lì che stava mangiando, o passeggiando, semplicemente, sul ponte... magari era lì che si stava aggiustando i pantaloni... alzava la testa un attimo, buttava un occhio verso il mare... e la vedeva. Allora si inchiodava, lì dov'era, gli partiva il cuore a mille, e, sempre, tutte le maledettte volte, giuro, sempre, si girava verso di noi, verso la nave, verso tutti, e gridava (piano e lentamente): l'America. Poi rimaneva lì, immobile come se avesse dovuto entrare in una fotografia, con la faccia di uno che l'aveva fatta lui, l'America."

 この文章で、焦点が当てられている人物は、「uno」です。「uno」は数字の「1」だとご存じの場合も多いことでしょう。ここでは代名詞で、「一人(の人)、誰か、ある人」という意味で使われています。

 では、この人物は一体何をしているのでしょう。今回は、この人物の行動に注意して、読み返してみましょう。

 laという女性単数名詞を指す指示代名詞の指す言葉も考えてみましょう。"la vedeva"という言葉が繰り返しでてきますね。vedevaは基本重要動詞、vedere「見る」の半過去です。この文章では、普通は遠過去や近過去で表されるような動詞でさえ、半過去を使って語られています。これは、冒頭にあるように、"Succedeva sempre che"「いつも〜ということが起こった」と、習慣的に繰り返される事柄を語っているからとも考えられますが、過去に起こったできごとの一つ一つの場面を、瞬間ごとに止めて、そのときの状況を叙述するかのような表現をして、臨場感を表すためとも考えられます。

 では、訳してみますね。初級の人でも分かる表現や語彙もあると思いますので、自分がすでに知っている単語がイタリア語の文の中にあれば、その意味はしっかり押さえておきましょう。


 「いつも必ず、とある瞬間に、誰か一人が頭を上げて…、そして、(それを)目にしたものだ。どうにも理解しがたいことだ。何が言いたいかと言うと… 船上には、千人以上の人が、旅行中の大金持ち、移民、一風変わった人々、それに、私たちがいたというのに…にも関わらず、決まって誰か一人が、一人だけが、最初に、それを目にしたのです… おそらくは甲板で単に食事をしていたか、散歩をしていただけ… ひょっとしたら、ズボンをはき直していたときに… 一瞬頭を上げて、視線を海に投げかけ… そうして、(それを)目にしたのかもしれない。そうやって目にしたとたんに、自分がいたその場所にく釘づけになり、動悸が激しくなり、そうして、いやと言っていいほど毎回、誓ってもいい、必ず、私たちの方に、船の方に、皆に向かって、「アメリカだ(アメリカが見える)。」と、(静かにゆっくりと)告げたものだ。それから、そいつはまるで写真の中に入り込まなければならなかったかのように、そこに、身動きだにせずに立ちつくすのだ。自分がアメリカをつくり上げた人物であるかのような顔をして。」(「  」内は石井訳)


 実は、この物語は、皆さんもよくご存じの映画の原作の冒頭部分です。作者はアレッサンドロ・バリッコ(Alessandro Baricco)。題は、『Novecento. Un monologo』。イタリア語のNovecentoは英語でnine hundredだと分かれば、何の映画のことを話しているかお分かりでしょうか。そうです。映画、『海の上のピアニスト』の原作で、作者が、独演劇(monologo)用にと書き下ろした物語です。


 語り手が物語っていくという形を取っているので、書き言葉でありながら、口語的な要素も多く、語彙もあまり難しくないので、一度イタリア語の本を読んでみたいという中級以上の方にはおすすめです。その際、本を読んだだけで、行き詰ってしまった場合には、まず映画を見て、物語の内容を大体知ったうえで、本を読んでみると、理解がしやすくなるかと思います。

*追記(2021年5月)
 皆さんにいただいたコメントを機に調べてみて、現在では、この本のイタリア語の原作および日本語の翻訳書が、アマゾン日本でも入手可能だと分かりました。リンクは以下のとおりです。

              



↑ 左の2冊は、いずれも白水社から刊行され、訳者は草皆信子さんです。左の古い版は、口コミや感想が多いので、購入や図書館での貸し出しの際に参考になるかと考えて、掲載しています。(以上、追記終わり)



 音楽も映像も美しく、すばらしい映画なので、もしまだご覧になったことのない方がいらしたら、ぜひ見てみてください。ただし、監督はイタリア人ですが、映画で使われている言語は英語です。






2.春の訪れ、イタリアの地震報道 


 最近は、ペルージャもすっかり暖かくなり、春らしい季候になってきました。高い山を歩いても、スミレやプリムラ、クロッカスなどの花が、美しく野山を彩っています。イタリアの友人のためにも、また、日本の春や桜の美しさをイタリアの人に知ってもらいたいという意図からも、この頃、短い文ではありますが、イタリア語と日本語の2か国語で、写真に言葉を添えている記事も多くあります。



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 春の野山を散歩したときの様子を、詩に書いてみました。和歌の修辞技法、折り句を使って、詩の各行の最初の一文字を読んでいくと、CROCOPRIMULAという花の名前になるように、してあります。


 そして、このイタリア語の詩1行ごとに、和訳と写真を添えてあります。たとえば、クロッカスについての詩は、 

 "Camminando verso l’alto,
  Rumore dell’acqua, dolce nel cuore.
  Ora qui rimane la neve,
  Crea cascate lungo i sentieri,
  Ove spuntano i fiori sui prati."

といった具合です。



 花や自然が好きな方も、イタリア語の学習に役立てようという方も、ぜひ記事をご覧ください。


 今日(イタリア時間で)も日本では大きな地震があったようで、まだ被災に苦しまれる方も多いのですが、最近は日本でも、風評被害が問題になっているようです。ブログの方では、イタリアでの地震報道の状況を説明しています。日本人のわたしたちがイタリアのマスメディアに、「扇情的な報道を控え、もっと義援金情報を提供するように」と要請した記事も、いくつか取り上げられましたので、そうした記事へのリンクも貼ってあります。ぜひ参考にしてください。 



 今週から、新しい学校で日本語を教えることになりました。詳しくは、次の記事をご覧ください。

 
 ではまた、再来週、お会いしましょう。被災地の方々が、日本の皆さんが、穏やかな心と平穏な生活を取り戻せる日が、1日も早く訪れますように。


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Articolo scritto da Naoko Ishii

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Commented by yuki0901671 at 2021-05-05 08:19
おはようございます!

物語性が強いので、映像そのもの
より設定に惹かれるものがありますね。
機会があれば見てみようと思います。
原作も翻訳されていれば読みたいですね。
Commented by meife-no-shiawase at 2021-05-05 13:00
『海の上のピアニスト』
曲が美しくて、この映画のサントラ盤のCDを買ったほどです。
映像も美しかったですね。

監督はイタリアの方だったとはお恥ずかしながら今知りました。

どんな災害にも最近はなにか風評被害という、人的な被害も加わってしまうのはすごく残酷なことだと思います。
デマやそういった被害をもっと取り締まらないといけないと思います。
Commented by tokotakikuh at 2021-05-05 14:28
イタリアと日本
どかで繋がりがあるのですね

私の視点、イタリアは
あくまでも、憧れの街並です
そして、陽気な人種、おしゃれな感覚

日本には全くない、良さを秘めてます
イタリアの映画と言えば??
ソフィアローレン
古いね・・(* ´艸`)クスクス
Commented by milletti_naoko at 2021-05-06 04:13
yuki0901671さん、こんばんは! 関心を持ってくださったと知って、うれしいです。

映像や音楽もすばらしく、物語にも引き込まれました。昔映画館で見たときの感動を今も覚えています。わたしも今記事を移行するにあたって予告編を見て、ぜひまた見てみたいなと思いました。

いただいたコメントを機に調べてみたら、原作の翻訳も随分前から出版・販売されているようです。記事中大きく載せた本の写真の下に、翻訳書についても情報を追加していますので、よろしかったらご覧ください。1999年版の書評を見ると、訳も良さそうですし、内容にも感動したという方が多いように思います。
Commented by milletti_naoko at 2021-05-06 04:26
メイフェさん、わたしも音楽のすばらしさに感嘆しました。映像も美しいですよね。数か月前にイタリアではテレビ放映があって、いいなあと思いながら見ていたら、途中で画面がまともに映らなくなって悲しかったです。

いえいえ、音声が英語でしたもの。原作も監督も音楽を手がけたエンニオ・モリコーネもイタリアの人ですが、日本では英語音声、日本語字幕で放映されていますから、監督がイタリア人だと気づくのが難しいと思います。

事実を歪めて報道することがないように、けれど問題を隠すことのないように、報道の在り方は大切ですよね。
Commented by milletti_naoko at 2021-05-06 04:33
zakkkanさん、日本とイタリアは離れているようで、共通点もあって、それで互いに相惹かれるものがあるのでしょうね。

ソフィアローレン、こちらでは昔の映画も時々放映されるので、つい数か月前にも、昔懐かしい映画で見たように思います。去年だったか発表された映画をぜひ見たいなと考えつつ、まだ見られていません。
by milletti_naoko | 2011-04-07 12:00 | Lingua Italiana | Comments(6)