イタリア写真草子 ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

公衆電話・フイルムありし日の恋物語、映画『ベニスで恋して』

 夫や息子たちと家族でバスツアーに出かけて、トイレにいる間に、自分を置いてバスが出発してしまう。トイレであふれ出る水が止まらず困る隣人を助けようとして、ずぶ濡れになってしまう。 一見、単なる災難なのですが、けれども結果的に、バスに置き去られたおかげで、映画、『ベニスで恋して』(Pani e tulipani)の主人公は、本当に自分が望む生き方、恋と自分を真に愛してくれる男性を、そして、ずぶ濡れになったおかげで、友人を見つけています。

 人間万事塞翁が馬。禍福は糾える縄のごとし。天の真意は奥深く、わたしたちには計り知れない。高校の漢文の授業で、「塞翁が馬」の故事を教えたことは多いのですが、本当にそうだなあと思うことが、日々を生きていてもありますし、今夜のように映画を見ていてもあります。


 2000年のこの映画、『ベニスで恋して』が、今夜イタリアでテレビ放映されるのを知って、久しぶりに見てみました。最初からではなく、始まって少ししてから、主人公のロザルバが、バスが出発してしまったことを知って、夫に電話する場面から見たのですが、とても懐かしかったです。

 そうして、21年前の映画だと言うのに、たとえばロザルバのカメラがフイルムを入れて使うものだったり、公衆電話がまだ街角のあちこちにあったりするのを見て、世の中がもうこんなに変わってきているのだなと思い、何だかタイムマシンで昔に戻ったような、そんな気分も味わいました。

公衆電話・フイルムありし日の恋物語、映画『ベニスで恋して』_f0234936_07552717.jpg
Venezia, Veneto 16/3/2014

 久しぶりに見て、この映画は、先に述べたように少し古くはありますが、現代の風変わりな、そして夢のあるおとぎ話ではないかと思いました。若い美男美女ではなく、年を重ねたけれど、苦労をしながらも優しさを忘れない、そういう大人の二人が出会って、やはりひどく個性的な登場人物たちに囲まれながら、ゆっくりと恋を紡いでいくところもいいなあと思います。

公衆電話・フイルムありし日の恋物語、映画『ベニスで恋して』_f0234936_08012213.jpg

 舞台はベネチアなのですが、主人公が若く華やかな男女ではないのと同じように、町も、観光名所として知られるようなところよりも、むしろそういうところからは離れた一角が、しばしば背景として登場します。そういう、ありきたりの視点から見えると「冴えない」登場人物たちや背景となるベネチアの街角を、あえて選んでいるところもまた、この映画の魅力でしょう。

 人はきっと、皆どこかずっこけていて、みんなどこか変わっている普通の人たちで、そういう人たちが、互いに関わり合って暮らしていて、そういう中で、出会いをきっかけに、恋や友情が生まれていく。この映画でも、いろんな意味で個性が強い主人公たち、そして登場人物たちが、そうやって幸せや大切な絆を見つけていく。そういうどこか等身大の、妙にきらきらしていない主人公、どこか寂しそうなところさえある主人公を思うようになる男性やベネチアの街角の風景に、わたしは不思議な魅力があるように思います。

 イタリア在住の方は、ひょっとしたら、今夜放映されたばかりなので、放映から1週間だけだけ可能かもしれないのですが、RaiPlayのサイトで、こちらのリンクから視聴することができます。



 残念ながら、今日本では、イタリア語・日本語の2音声でかつ日本語字幕つきで見られるDVD(リンクはこちら)は中古しか見つからず、新品で入手可能なのは、イタリア語音声でイタリア語と英語の字幕つきで見られるDVD(リンクはこちら)や、音声がドイツ語・フランス語・イタリア語の3言語で、字幕はドイツ語またはフランス語というDVD(リンクはこちら)だけであるようなのですが、

公衆電話・フイルムありし日の恋物語、映画『ベニスで恋して』_f0234936_08314323.jpg
引用元:http://www.asahi.com/italia/2018/works/

2018年のイタリア映画祭でアンコール上映されたとのことですから、レンタルで日本語字幕つきで鑑賞することも、可能なのではないかと思います。興味があれば、ぜひご覧ください。

 また、2009年2月発行のイタリア語学習メルマガ第4号では、この映画の内容を紹介する新聞記事をイタリア語の学習教材として、紹介しています。よろしかったら、お読みください。


 日々を人々が暮らす場所としてのベネチアが、映画の舞台となっていますので、2014年3月のベネチア旅行の写真の中から、そういう風景の写真を選んで、記事に添えています。

公衆電話・フイルムありし日の恋物語、映画『ベニスで恋して』_f0234936_08365555.jpg

関連記事へのリンク
- ベネチアを歩く (2014/3/16)

Articolo scritto da Naoko Ishii

↓ 記事がいいなと思ったら、ランキング応援のクリックをいただけると、うれしいです。
↓ Cliccate sulle icone dei 2 Blog Ranking, grazie :-)
にほんブログ村 海外生活ブログ イタリア情報へ  

Commented by tokotakikuh at 2021-07-14 14:12
この映画は見てないです
「ブーベの恋人」見ました
あれh・フランスかな((´∀`*))ヶラヶラ

ベニス・ゴンドラ乗りました
結構スリリングです
船頭の濃いサングラスがハンサムに見えてね
イタリア人
それも南イタリアの陽気な人間像を観ましたよ
Commented by django32002 at 2021-07-14 15:42
すみません、今日のブログの内容とあまり関係ないのですが、ユーロ2020でイタリアが優勝しましたね!
そちらでもニュースになっているでしょうか?
でもあのマスクなし大観衆の影響がこれから出るのではと心配もしています・・・。
Commented by ciao66 at 2021-07-14 19:17
変わらないように見えるヴェネツィアでも20年前は公衆電話が減ってしまうし、フィルムカメラも見かけなくなる、という世界共通の変化の中にあるのですね。でもあの運河沿いの町並みは変わらずに今もそのままなのでしょう。
 映画の方は見ていなくて残念ですが、階段の有る橋から見る運河沿いの道の写真を見て、車が全くいないあの美しい街を懐かしく思い出しました。
Commented by sunandshadows2020 at 2021-07-14 23:49
その映画だいぶ前に見ました。
詳細は忘れましたが主人公の女性がごく普通の主婦らしく、地味な映画ながら鑑賞後ほのぼのとした気持ちになったのを覚えています。
ベニス、訪ねた時の印象と重ねながら懐かしく思います。
Commented by meife-no-shiawase at 2021-07-15 15:33
ベネチア。
いつか一度行ってみたいなと思っているところです。
なおこさんのお写真を拝見して、ますます行きたい~。

本当に何がきっかけで自分の人生が変わるかっていうのは
わからないものですね。
あの時ああすれば・・・していたら・・・の
「たら、れば」は意味がないとは言いますが
私は結構それを想像するのも好きです。笑。

なおこさんは子供の頃に50代を海外で暮らしていると想像していましたか?
もちろん子供の頃に自分の50代のことなんて考えないかな・・・笑。

あ・・・でも私は、中学2年生のときにアメリカにホームステイして、
その頃から国際結婚したいと思っていました。笑。
国際結婚はしていないですが、海外に住んでいるのは
深層心理に海外在住希望があったのかな。笑。
Commented by milletti_naoko at 2021-07-15 16:14
おお、zakkkanさんは、ゴンドラにも乗られたんですね! 確かにカヌーやカヤックに比べると、船が近くを通るので波もあるでしょうし、漕ぎ方からもかなり船体が揺れそうですね。乗りながら人間やハンサムさん観察も楽しまれたようですね♪
Commented by milletti_naoko at 2021-07-15 16:20
django32002さん、こちらでは大ニュースになっていて、当日も翌日も、喜びのニュースでもちきりでした。感染が拡大していながら大人数を収容しての英国の競技場での開催には、欧州諸国から皆懸念や反対の声が上がっていた中での強行でした。イタリアの町での大勢が密集しての観戦や祝勝の集まりから、こちらでも感染が心配されています。
Commented by milletti_naoko at 2021-07-15 16:26
ciao66さん、おっしゃるように、車がなく水路が町に張り巡らされた街並みは今も変わらないのですが、確かに、そういう点では、少しずつベネチアも世界の他の街同様の変化を続けているのですね。公衆電話自体も、昔むかしはありませんでしたから、現れては消えてというところでしょうか。
Commented by milletti_naoko at 2021-07-15 16:31
お転婆シニアさんもご覧になったんですね! アメリカではやはり、様々な外国映画が上映されやすいところもあるのでしょうね。数か月前に、イタリアでは無料で見られたオンライン日本映画祭の作品を見て思ったのですが、日本の作品のいくつかにしても、そうしてフランスやイタリアの映画にしても、たくさんの予算をかけて大がかりな構想や派手な場面のある映画を作るのではなく、日常の中に起こるできごとに焦点を当てて描いた映画が少なくないのが、いいなあと思います。
Commented by milletti_naoko at 2021-07-15 16:45
メイフェさん、いつかきっとベネチアを旅できる日が来ますように♪

わたしは小学校の頃の作文には、作家になりたいとか、学校の先生になりたいとか書いていたようで、学校の先生にはなることができました。

なんとメイフェさんは、中学生の頃から国際結婚をしたいと思われていたんですね! わたしが留学のために海外に暮らしたいと思い始めたのは、30代になってからですが、まさかずっと暮らすことになるとは思いもしませんでした。それも、持ち上がれると思っていた担任だったクラスを持ち上がれなくて辛かったり、校長が法的には認められていた、海外留学のための1年の休職を認めてくれなかったこともはずみになって退職とイタリア留学を決意して、留学中に暮らしていたアパートにひどく迷惑な男子学生がいて、夜中に大勢を呼んでパーティーをしたり、煙草を廊下で吸ったりしたことが、わたしが宿を変えるきっかけになり、そのアパートで知り合ったイタリア人女性を通じて夫を知ってつきあうことになったわけですから、本当に「人生万事塞翁が馬」で、「禍福は糾える縄のごとし」だなとつくづく思います。
by milletti_naoko | 2021-07-14 08:39 | Film, Libri & Musica | Comments(10)