
ヨーロッパ市民の家族は、非EU圏の出身であっても、ヨーロッパ市民同様に欧州内での移動・居住の権利を有するという考えから、EU法で2004年に規定され、イタリアでは2007年からヨーロッパ市民の家族に対して発行されるようになった
EU市民家族用滞在証(Carta di soggiorno per familiare di cittadino UE)は、イタリアではずっと紙製でした。
2014年には、フィンエアーやヘルシンキの入国審査が、このイタリアの紙製のEU市民用滞在証を、渡航を認めるに十分な証明書と認めなかったために、大勢の方が、ヘルシンキや日本の空港で搭乗拒否・入国拒否にあって大変な思いをされたと知り、関連各機関に問い合わせて、フィンランドの入国審査側が間違っていることを突き止め、国境警備に直接英語でメールを書いたこともあります。幸い、その後、「イタリア当局から情報を得て、紙製であっても出入国審査で承認します」という返事があり、当時ちょうど入国・搭乗拒否を回避しようと動かれて、わたしもコメントなどを通して連絡を取っていたお二人も、その後無事に、問題なくイタリアに戻ることができたとのことです。
その後はしばらく、イタリア人の配偶者で、紙製のEU市民家族用滞在証を持つ日本人の方も、フィンエアーで問題なく日本とイタリアを行き来できると聞いていたのですが、近年になってまた、フィンエアーやヘルシンキで問題が発生したと読む機会が増えて疑問に思っていました。
一方、無期限であるはずの滞在証が紙製であると、こんなふうにヨーロッパの他国で証明書として認められない問題があるばかりではなく、紙は傷んでいってしまうという問題もありました。そこで、多くの方が、紙製ではなくICカードにはできないものかと、特にフィンランドやフィンエアーがらみの入国拒否・搭乗拒否があった頃には、盛んに警察でも訴えられていたようですが、イタリアではどうも変更する様子がないのを、困ったものだと思っていました。
そういういきさつがあったために、今日、
ローマ在住のsanaeさんのブログ記事をきっかけに、この問題が多かったイタリアで発行されるEU市民家族用滞在証が、紙製からICカードになったと知って驚きました。そして、最初は、ローマ警察が何か勘違いしているのではないか、あるいはローマなど一部の警察署でだけICカードでの発行に切り替えたのかと思って調べてみて、
昨日、2021年8月2日からは、イタリア全国で、EU市民家族用滞在証が、紙製からICカードに変更になったと知って驚きました。上に引用した記事には、ICカード版の発行は、ローマとサレルノの警察署では7月13日から試験的に行われ、8月2日からイタリア全土の警察署でも行われるようになると書かれています。
近年ではテロの多発や新型コロナウイルス感染の拡大のために、欧州内やシェンゲン協定加盟国間の移動であっても、入国審査が厳重になっていたこともあり、イタリアが発行する紙製のEU市民用家族証がまた、欧州の他国やその空港で有効な証明書とみなされず、入国拒否や搭乗拒否に遭う可能性がないとは言えませんでした。また、ICカードの方が、年数を経ても、紙に比べてずっと傷みにくいように思います。ですから、この変更はありがたいです。
ただし、先に引用したStranieriinitalia.itの記事の最後にあるように、そして、そういうことになるのではないかと考えていたように、現在発行されている紙製のEU市民家族用滞在証は、有効期限内に、あるいはいずれにせよ2023年8月3日までにICカードに切り替えなければならない(comunqueとあるのですが、「無期限でも」ということだと思います)とのことですから、わたしの無期限の滞在証も、2年以内にこの新しいICカード版に切り替えなければいけません。申請の費用については、この記事には、収入印紙代、16ユーロとカード発行料金の30.46ユーロがかかり、さらに、郵便局から申請する場合には書留郵便の料金、30ユーロもかかるとのことです。
先に言及した上のsanaeさんの記事には、必要な書類をすべてそろえて、新しい滞在証を申請に行った際に、ローマ警察で「紙製からICカードに変更になったので、新たに30.46ユーロを郵便局に振り込むことが必要」と突然言われて、ご夫婦で驚き、郵便局に振り込みに行って、半日かかって申請をされたとあります。
ローマ警察と言えば、本来は必要がないはずの5年ごとの更新を、法解釈の勘違いで市民に要求しているのではないかという記事を以前に書いたことがあります。
けれども、ローマ警察のこの程度の勘違いや手続きの煩雑化はまだましな方です。2007年4月からイタリアでは、非EU圏出身であっても、配偶者がイタリア人あるいは他のヨーロッパ連合加盟国の市民である場合には、結婚時には5年間有効、5年後にまだ結婚し同居していれば無期限のEU市民家族用滞在証を得られるようになっています。にも関わらず、警察の担当者が、間違って有効期間が2年のみの非EU圏出身市民の家族用の滞在許可証を発行し、さらにそのために本来は必要でない書類や多額の発行料金を要求するという事例も、後を絶たないようです。また、警察に申請するための書類を準備するのを手伝ってくれる機関が、いまだに勘違いをしていて、非EU圏市民家族用滞在許可証取得に必要な書類をそろえるようにと言う場合も少なくないようです。
というわけで、今後も、EU市民の家族用滞在証の申請や更新、切り替えをする際には、わたしたち一人一人が、申請などの前に情報を十分に調べたり、問い合わせたりして、準備をしておくことが欠かせないと思います。
ちなみに、わたし自身のEU市民家族用滞在証は、無期限ではあるのですが、2019年にパスポートを更新した際に、本来は、パスポート情報を書き換えるために警察に行かなければいけなかったであろうところを、いまだに行かずにいるので、2023年8月3日までにICカードに切り替えておくことができるように、余裕を持って切り替えを申請しようと考えています。まだパスポート情報を更新していないのは、他のEU国にさえ飛行機で行かなければ、パスポート情報をいちいち書き換える必要もなかろうと思い、以前はテロ事件の多発、また最近は新型コロナウイルス感染拡大のために、他の欧州内への旅行は控えていたので、今は更新が必要ないと考えていたからです。さらに、山の家の税の関係で、戸籍上は夫はミジャーナの山の家に、わたしはペルージャの家に暮らしていることになっているため、そのことが更新やパスポート情報更新の申請の際に、問題となるのではないかと心配していたからです。無期限のEU市民家族用滞在証を、紙製からICカードに切り替える際に必要な書類などについては、もう少し月日が経てば、イタリアの地方の警察でも、ICカードの滞在証の申請や発行が順調に行えるようになるだろうと思うので、とりあえずはそれまで少し待ってみるつもりでいます。
*追記:先に引用したStranieiriinitalia.itの記事は、簡潔で要点を押さえているので引用することに決めたものの、非EU圏の市民の家族に発行される家族用滞在許可証(Permesso di soggiorno)とEU市民家族用滞在証(Carta di soggiorno)の混同を招きやすいような書き方をしてしまっています。
Regolamento (UE) 2019/1157の今回のICカードへの切り替え関連の条文を見てみると、第7条には、ICカードに記載するべき名称は、Carta di soggiornoまたはCarta di soggiorno permanenteでなければならないとあります。
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/IT/TXT/?uri=CELEX:32019R1157
また、第8条第2項には、ICAO(国際民間航空機関)が発行する文書、Doc9303に規定された機械読み取り部分のない文書は、文書そのものの有効期限を過ぎると無効となり、また、有効期限よりも2023年8月3日の方が先に来る場合には、2023年8月3日を過ぎると無効となるとあるため、やはり無期限の家族用滞在証であっても、紙製のものは2年以内にICカードに切り替えないと無効になってしまうようです。
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Articolo scritto da Naoko Ishii
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