イタリア写真草子 ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

悼みを愛に花においしいラーメンに 映画『ラーメンより大切なもの』

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 映画の冒頭に現れた、雲間から現れる太陽に光や山、ユリなどの風景や自然の美しさに感嘆し、さらに興味を持って見始めた映画、『ラーメンより大切なもの』(The God of Ramen)を、わたしはドキュメンタリー映画だということも、日本で伝説の店だったという東池袋大勝軒のことも、そして、ラーメンの神様と呼ばれたという山岸一雄さんのこともいっさい知らずに見ました。


 けれども、美しい自然に始まり、ラーメン店や山岸さんの日々の暮らし、毎日店の前に行列を作って並ぶ大勢の人々の姿などをていねいにつづる映画とその語り口に、つい引き込まれ、昨晩、最後まで見て感動しました。見ているうちに少しずつ、心の奥に深い感銘が湧き上がっていきました。



 題名にある「ラーメンよりも大切なもの」とは何だろうと思いながら映画を見て、この言葉とその答えは最後の最後に現れるのですが、映画で切り取られ、語られる山岸さんの日々の暮らしや生き方、山岸さんを知る人々の言葉から、他にも「ラーメンよりも大切に」、山岸さんがされていたであろうものが、いくつも見えてきました。

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Valle del Fargno, Monti Sibillini 9/7/2021

 いつか競争相手となるかもしれない弟子たちに、自分の知るすべてを惜しみなくくまなく伝えようとする姿、いつかは去っていく弟子が大多数である中、その一人ひとりの事情も知り、大切にする姿。たとえ言葉を交わさなくても、ラーメンを食べると店主の愛や励ましが心に伝わって元気が出ると言う常連客の人々。

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 幼なじみでもあり、いとこでもあり、結婚してからは店もいっしょに切り盛りしていた愛する奥さんを亡くしたその深い、癒すことのできない悲しみに、そして、奥さんとの思い出が残る部屋には足を運べず、故郷にも懐かしい愛しい思い出だけを胸に抱きたいと帰ることなく生きるほどの切ない思いに、

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自らを閉じてしまうことなく、その愛を、かつて奥さんと働き過ごしやって来た店で、客がおいしいと喜んでくれるラーメンを作り続けることへの情熱や、お客さんや弟子たちへの、はっきりと声には出さなくても、ラーメンや行動を通じて確かに伝わっていく大きな愛情に昇華させた、その姿がすばらしいと思いました。

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 山岸さんが、これはぼくの故郷を語った歌なんだと言いながら、「ふるさと」の歌をハーモニカで奏でるとき、その心には、愛する奥さんと育ち、新婚旅行で訪ねた故郷のかけがえのない数々の美しい思い出や風景があったことでしょう。

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 山岸さんの人柄と人生に感嘆すると共に、この映画を撮るために、何度も足を運び、山岸さんをはじめ様々な人の声に耳を傾け、美しい故郷の風景と自然をこの映画の冒頭に置き、そして締めくくりにも使った印南貴士監督もすばらしいと思いました。

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https://jff.jpf.go.jp/ja/read/column/1623/

 今朝になって、この映画を紹介をする日本語の文章を探していたら、「最高のダシはニッポンの心? 映画にみる日本人のラーメン愛」という日本映画祭サイトの記事が見つかったのですが、上のリンク先のページでは、ラーメンとラーメンを取り巻く人々の情熱を語る映画4本が紹介され、


その中に、わたしが今回、オンライン日本映画祭で無料で見られる数々の映画の中で、真っ先にこの『ラーメンより大切なもの』を見るきっかけとなったアメリカ映画、『ラーメンガール』もあったので驚きました。『ラーメンガール』を見たことで、「では日本の映画では、ラーメン作りはどんなふうに描かれているのだろう」と気になったためでもあり、また、ラーメンとラーメンガールについて書いた記事の反響が、イタリアの友人・知人の間でも、日本の読者の間でも、わたしの予想をはるかに上回るほど多かったので、ラーメンに対する関心の高さに、ただただ驚いていました。

 閑話休題。映画で映像が美しかった山岸さんの故郷である長野の風景や自然の中で、山やユリの花が印象に残ったので、昨年7月に歩いてユリがきれいだったシビッリーニ山脈のファルニョ渓谷の写真を、記事に添えています。

LINK
- オンライン日本映画祭開催中、世界25か国で約20作品を無料で視聴可能 2月14日〜27日 (2022/2/16)
- 美しい岩・花の間のぼれば青い山並み、シビッリーニ山脈 (2021/7/9)
- amazon.co.jp - prime video - ラーメンより大切なもの~東池袋大勝軒 50年の秘密~

Articolo scritto da Naoko Ishii

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ブログテーマ:12月1日は映画の日
Commented by nonkonogoro at 2022-02-18 14:21
先日ご主人様が見られた映画「ラーメンガール」は
アメリカの映画だったのですね。
でも ほとんど日本での撮影で 日本の大物俳優さんが
出演されているようですね。

イタリアには
ラーメン屋さんがあるのでしょうか?
日本食のレストランで提供されているだけかな。

私もラーメンは大好きです。
外食より 家で簡単に作れる市販品を食べることが多いです。
私の若い頃二比べて
ラーメン屋さんは 本当にたくさんできました。
おうどんもラーメンも
上に色々な具を載せられて楽しく美味しいですよね。
Commented by Bolognamica2 at 2022-02-19 02:40
なおこさん、こんばんは。
私もこの映画昨日観ました!とっても良かったです。。。
奥様への深い愛情やラーメンへの思い、仕事に対する姿勢なり...とにかく心が温かくなって涙が出ました。
お客さんの、ラーメン食べにくるたび幸せをもらいに来てる..的な発言も、料理人としては最高な言葉ですよね。。

その前に観た宮沢りえさんの銭湯の映画も号泣ものでした。素晴らしい映画でしたよ!!
Commented by milletti_naoko at 2022-02-19 20:11
のんさん、夫などイタリアの人が見ていいというラーメンの映画はどういう映画だろう、アメリカ人から見て、日本がどんなふうに描かれているのだろうと、好奇心から見たのですが、とてもよかったです。

イタリアにも最近ではラーメン屋さんもあちこちにできてきているようです。ペルージャにはまだないように思うのですけれども。

わたしもラーメンというと、家で即席ラーメンを作って食べた回数の方がずっと多いように思うのですが、それもまたおいしいですよね。おっしゃるように好きな具を載せて楽しむことができますもの。
Commented by milletti_naoko at 2022-02-19 20:16
こんにちは。みかさんもご覧になったんですね!

後になって監督の言葉をリンク先から読んだら、そのおいしさ、山岸さんの秘密を、監督は撮影中に気づかれたそうで、それを掘り下げて一本の糸として語り、こうして伝えてくれるのも、すばらしいなと思いました。そんなふうに仕事ができたら、すてきですよね。

昨晩、みかさんのコメントを拝見する前に、たまたま宮沢りえさんの映画も見ました。本当にすばらしい映画ですね! すばらしい映画がたくさん見られて、ありがたいことです。
by milletti_naoko | 2022-02-17 18:19 | Film, Libri & Musica | Comments(4)