イタリア写真草子 ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

第132号「大海原へ恐れ・希望を胸に 歌『Lettera di là dal mare』と映画『海と大陸』、ロシアのウクライナ侵攻」

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 今年2月初めに催されたサンレモ音楽祭は、いい歌が多かったのですが、夫とわたしが特に魅かれたのは、イタリア歌謡界の大御所の二人、ジャンニ・モランディとマッシモ・ラニエーリの歌です。今回はそのうち、批評家賞を受賞したマッシモ・ラニエーリ(Massimo Ranieri)の歌、「Lettera di là dal mare」をご紹介します。



 歌詞へのリンクは次のとおりです。


 マッシモ・ラニエーリの歌がすばらしく、歌詞が美しい詩であるのに加えて、この歌には、聴いていると、大海原や暗い空、揺れる波の間を進む船や不安や希望を胸に抱く乗客たちの姿が見えてくるような、不思議な力があるように思います。劇場で俳優としても長く活躍している歌い手ならではのことでしょう。


"La notte non finisce mai
L'America... lontana
di là dal mare.
Dove piove fortuna, dov'è libertà
l'acqua è più pura di un canto."

「夜は決して終わらない
 アメリカは…遠く
 海の向こうだ。
 幸運が降り注ぎ、自由があり
 水が歌曲の調べよりも澄みわたるところだ。」(「 」内は石井訳。以下同様。)


 歌詞が語るのは、かつて大勢の貧しい人々がイタリアから移民として、希望を抱いてアメリカを目指して乗った大洋航路船で、海(mare)を渡る旅の様子です。マッシモ・ラニエーリは13歳のときに、大多数の移民と共に、ナポリからニューヨークにへと、船で2週間の旅をした経験があるそうです。それは、歌手から請われての仕事の旅だったようですが、どこまでも続く大海原と嵐や波の恐ろしさは、少年だった彼も感じたそうで、また、近年、かつての移民よりももっと命がけで、ゴムボートなど命の安全が危ぶまれる船に乗り、戦禍や迫害、拷問を逃れて、望みをかけて地中海を渡る人々の姿や、その思いも重なります。


"Amore vedi così buio è
questo mare
è ferita che
non scompare.
Dove va il tempo chissà
e gli occhi tacciono
ma a notte sognano il motore che va."

「愛しい君よ、ごらん。こんなにも暗いんだ
 この海は
 消えることのない
 傷だ。
 いったい時はどこへ行くのだろう
 そして、瞳は黙っているけれど、
 夜には夢を見る、エンジンが動く」


 果てしなく広がる海の美しさ、壮大さと恐ろしさ。人間の運命の危うさと不安。かつてイタリアから遠くへ旅立たなければならなかった大勢の貧しい移民たちと、今も命を賭してよりよい未来を求めて、安全に生きられる土地を目指して海を越える人々。マッシモ・ラニエーリが歌い上げる美しい歌に、そうした過去と現在の海を越えてのいくつもの旅が重なります。

 「傷」(ferita)、地中海では今なお大勢の移民が命を落とし、移民の墓場(tombe di migranti)とさえ呼ばれています。

  "gli occhi tacciono
  ma a notte sognano"

 occhiは男性名詞、occhio「目」の複数形、tacciono、sognanoはそれぞれ、動詞 tacere「黙る、物を言わない」sognare「夢を見る」の直接法現在で、主語が三人称複数形である場合の活用形です。

 「瞳は何も語らない。けれど、夜には夢を見る」という表現の美しさと、波に揺られ眠りに誘われるような曲の調べと歌いぶりに感嘆しました。


"qualcuno grida terra, terra, terra!"

「誰かが叫ぶ。大地だ、大地だ、大地だ!」


 歌の最後の方にある言葉が、『海の上のピアニスト』、そしてその原作『Novecento』の冒頭で、長旅の末にアメリカの大地(terra)を目にした移民が「アメリカ!」と叫び、皆が歓喜に湧く場面と重なります。メルマガ第67号では、まさにその場面をイタリア語の読解教材として取り上げ、朗読音声動画へのリンクも添えてあります。よろしかったら、ぜひお読みください。


 今回引用した部分だけ見ても、短い関係節こそわずかながら使われているものの、文の構造が平易で、言葉もすべて、現代イタリア語で使われる語彙の86%を占める基本語彙2000語(解説中、見出し語と同じ形の語は赤で記しています)だけを用いています。


 感動を誘う美しい歌ですので、どうか辞書を片手に、意味の分かりにくいところを確認しながら、何度も聴いてみてください。

 次のリンク先の動画では、歌詞が画像に表示されているので、歌詞(testo)の言葉を確認しながら歌を聴くことが可能です。ただし、最初に少し広告が入っています。


 2011年公開のイタリア映画、『海と大陸』(Terraferma)は、法で禁じられていると知りつつ難民を救うイタリアの海の男たちやその家族の葛藤を描いています。8年前のブログの記事、『イタリアとブラジル、移民と海と祖国』では、この映画の予告編も紹介しているのですが、つい最近調べていて、現在では、邦題が『海と大陸』であるこの映画を、現在は、アマゾン日本のプライム・ビデオで、イタリア語音声・日本語字幕で見られるようになっていることが分かりました。


 よろしかったら、上の画像の下に添えてあるリンクから、ご覧ください。日本語字幕つきのこの映像は、イタリアからは視聴不可なので、視聴料金などは残念ながら分かりません。

 一方、この映画、『Terraferma』は、今ならイタリア在住の方は、アマゾンイタリアのプライム・ビデオで、イタリア語版を鑑賞することができますし、プライム会員であれば、無料で見られます。

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https://bit.ly/3tx8135

 言語はイタリア語のみで、字幕(sottotitoli)はないのですが、興味のある方は、上の画像の下に付したリンクから、ご覧ください。映画の題名のterrafermaは、「1(海に対して)陸地、2(島に対して)大陸、本土」という意味です。(小学館『伊和中辞典』の語義から引用)この映画でどちらの意味で使われているかは、映画を見直さないと分からないのですが、今書いていて、わたしにとって初めてのイタリア人の友人となったサルデーニャ島の女性たちが、イタリア半島のことをcontinente「大陸」と呼んでいたことを、懐かしく思い出しました。


 故郷を離れて、遠い異国へ向かわなければならないという歌詞に、今真っ先に思い浮かぶのは、ロシア軍の攻撃のために、寒さの中、遠国への旅を強いられるウクライナの人々です。ロシアのウクライナ侵攻について、イタリアの対応を書いた関連記事をご紹介しますので、よろしかったら、ぜひお読みください。



 イタリアの観光情報と春が近づきある風景をと、最近のブログ記事の中から、オルヴィエートの地中ツアー、Orvieto Undergroundについて書いた記事と、花が咲き始めて美しいトラジメーノ湖周辺の様子を語る記事を、最後にご紹介します。よろしかったら、ご覧ください。



 では、皆さん、どうかお体を大切にお過ごしくださいませ。

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*ヤフージオシティーズのサービス終了のため、現在ブログに、イタリア語学習メルマガ「もっと知りたい! イタリアの言葉と文化」のバックナンバーを少しずつ移動中で、新しい号も、発行する際に、ブログの記事として投稿しています。バックナンバー一覧はこちら、メルマガ登録(無料)ページへのリンクはこちらです。

Articolo scritto da Naoko Ishii

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Commented by meife-no-shiawase at 2022-03-05 09:06
イタリアの対応の記事も拝見しました。
本当に他人事ではないというのが怖いところです。

争いは何も生まれないのに・・・
本当に愚かだと思います。
一日も早く終わって欲しいです。
Commented by Penta at 2022-03-05 11:09 x
今年も2月にサンレモ音楽祭、していましたね。
開催日よりも1ヶ月位後に日本でも決勝日だけ放送されていた頃と違い、今ではネットでその日に曲毎に観られるのですごい進歩です。

ベテランのジャンニ・モランディとかマッシモ・ラニエリらが出て来ましたね。
流石に歳を取りました。

今の若い歌手たちが歌うメロディは自分には合わなくて、ベテランが歌う、日本で言えば演歌、カンツォーネ演歌歌手の方が聴きやすいです。(笑)

RAIの映像は8Kで撮ったようにシャープで鮮やかなですね。
いつも感心します。

mareでは、Edoardo De CrescendoのL'odore del mareと言う1987年のサンレモの曲が好きです。

マッシモ・ラニエリは少年の頃にアメリカまで船旅をしていたんですね。

先日、日本でヒットした「ラ・ノビア」を歌ったトニー・ダララが健在か調べた事あったんですが、まだ存命でした。
クラウディオ・ビルラはもう亡くなっていますが。
Commented by milletti_naoko at 2022-03-06 05:26
メイフェさん、もう人道もまともな論理も通じる相手ではなさそうで、ウクライナだけではなく欧州、引いては世界の存続が危機にさらされているようで、本当に心配です。

どうかこれ以上の被害や犠牲者が出る前に、一刻も早く終結しますように。
Commented by milletti_naoko at 2022-03-06 05:29
Pentaさん、イタリア人の夫もやはり、特に若い人の歌は聞き取りにくく、内容が分かりにくいと言っていました。近年はどこの国でも、日本でもそういう傾向があるように感じています。

Claudio Villa、クラウディオ・ヴィッラのことでしたら、1987年に亡くなっているようです。
by milletti_naoko | 2022-03-04 23:05 | Film, Libri & Musica | Trackback | Comments(4)