イタリア写真草子 ウンブリア在住、日本語教師のイタリア暮らし・旅・語学だより。

やさしい日本語とやさしいイタリア語 教え合い支え合えれば

 学校の仕事や日本語能力試験を受験する教え子などのために、インターネットに見つかる新聞記事などの文章を、授業用の学習プリントや、模擬試験を作るときに参考にすることがあります。ただし、そういうときや、例えば今年日本語を勉強し始めたばかりの少女に、七夕についての説明をしようというときなどに、たとえわたしが、イタリア語で説明を添えるにしても、日本語の説明を、できるだけ易しい言葉や表現を使って書き改めた方が、新しい言葉が身につきやすくなります。

 第二言語習得におけるクラッシェンの五つの仮説の一つにあるように、これまで知っていることよりも、少しだけ上の学習内容である方が、学習効率が最もいいからです。外国語学習・教育に限った話ではありませんが、あまりにレベルが高すぎると難しすぎて学習意欲もそがれ、理解が難しくなりますし、簡単すぎてもおもしろみがなく、たいして学ぶことができないわけです。

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Titignano, Orvieto (TR), Umbria 30/8/2022

 登山もトレッキングも、あまりにも登り道が急すぎると、登るのが大変で息が切れますし、逆に平坦な道ばかりでは変化がなく、高みからの風景を楽しむことや、体力をつけることはできないのですが、それと同じことです。

 さらに、試験対策をする場合には、インターネットに見つかる文章や、家にある日本語の観光ガイドに見つかる案内や広告を、ちょうどいいレベルの学習教材にするために、文章中の気になる漢字や語彙表現・文法などのレベルを確認する必要があります。けれども、うちに複数ある、初級や中級、上級のレベルの教科書や参考書でも、それぞれのレベルとして示している漢字や語彙表現、文法事項に違いがありますし、一つひとつの本をめくって確認していては、おそろしく時間がかかります。

 そこで、そういう時間がないときに、もちろんさらに手持ちの本で調べ直すことも多くはあるものの、さっと検索して、語彙や文法項目のレベルを知ることができるページは、とても便利です。というわけで、自分自身のために、あるいは、外国の方に日本語を教える際に、語彙や文法のレベルが参照できればという人のために、手っ取り早くて使いやすい参考になるページをご紹介します。

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https://words.marugotoweb.jp/top.php?lang=en#search

 日本語の教科書、『まるごと』のサイトのすぐ上のリンク先のページで、言葉を入れて検索すると、その言葉を含む言葉や表現と、それぞれの該当レベルを知ることができます。ただし、レベルとしては入門レベル、A1と初級レベル、A2にしか対応していません。

 日本で育ち、長く日本に暮らしたわたしたちと違って、外国で日本語を勉強するときには、毎日の中で接する日本語がどうしても少なくなります。というわけで、わたしたちが日本語で手紙を書いたり話をしたり、日本語を教えたりするときに、できるだけ基本重要語句を使うようにすると、学ぶ人も、繰り返し接する中で、日本語のそういう言葉を身につけやすくなります。


 そうして、同じ言葉や文法項目でも、教科書によって振り分けているレベルが違ったりはするのですが、次のページでは、単語を入力すると、初級前半から上級まで、どのレベルかをさっと示してくれる上に、

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https://jreadability.net/jev/

用例もあって、旧日本語能力試験における出題基準レベルも分かるので、ありがたいです。

 ただし、手元にある日本語の教科書や参考書の何冊かと照合すると、本によっては、もっと上、あるいはもっと下のレベルとして掲載しているものもあります。

 わたしは辞書でも読書でも紙媒体の愛好者ではあるのですが、こうやって手早く調べたいときには、インターネット上で簡単に検索して結果が分かるサイトやページが、とてもありがたく、重宝しています。

 文法項目についても、どのレベルで登場するかは入門書や参考書によって異なるのですが、『まるごと』のサイトでは、入門から中級2までの教科書に出てくる文型の一覧表をダウンロードできるようになっています。

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『まるごと』文法・文型リスト (入門~中級2)

 こちらの一覧表は上のリンク先から、あるいはこちらのページの下方にある『まるごと』文法・文型リスト(入門〜中級2)という言葉をクリックすれば、無料でダウンロードできます。ただし、教科書、『まるごと』での語彙のレベルを確認できるページ同様に、利用するためには、無料のユーザー登録を済ませる必要があると思います。

 さらに難しい文法項目については、手持ちの『どんなときどう使う日本語表現文型500』を参照すれば、こちらの記事でご紹介した他の本と違って、1冊調べただけで、日本語能力試験のN1からN3のどのレベルに該当するかが分かるので、助かります。

 外国から来た方に日本語を教えるときは、母語として幼い頃から脳の発達と共に身につけてきた言語と違って、すでに習得している母語が干渉する上に、母語と違って接する機会が格段に少ないために、相手がどういう理由で日本語を学びたいと考えていて、どういうことができるようになりたいのか(旅行で話がしたい、漫画やアニメを日本語で理解したい、日本で働きたいなど)をまずは確認して、そういう力が少しずつついていくように、教えることを積み重ねていく必要があります。

 特に入門時には、学ぶことがしっかりできているという達成感を味わってもらうためにも、ようやく離乳したばかりの赤ちゃんの前に、切りもしないステーキや熱々のうどんを出すようなことをしないのと同じで、日本語を学び始めたばかりの人や、これから学ぼうという人に、相手に分かりやすい言葉や文法表現を選ばずに、日本人どうしで話すときと同じように、話しかけるのは控えた方がいいわけです。



 同じことは、わたしたちがイタリア語を学ぼうとするときにも言えますし、イタリアの人がイタリア語を学び始めたばかりの日本の友人や、イタリアに暮らし始めたばかりでイタリア語を知らない日本人の家族に、イタリア語をこれから学んでいってもらおう、理解していってもらおうというときにも、当てはまります。

 「わたしは花子です。明日、マルコさんのうちに行きますね。」と言えば、初級の人にも分かる可能性が高いのに、「わたくしは花子と申します。明日、マルコさんのお宅におうかがいしようと考えているのですが、いかがでしょうか。」と言ってしまうと、理解に苦しむことは楽に想像できると思います。できるだけよく使われている基本的な言葉や文法表現を使って伝えることで、相手に伝わりやすくもなれば、学習中の言葉をより吸収しやすくもなり、「分かること」が楽しさや、学習意欲にもつながっていきます。

 ですから、イタリア人の家族や友人に、もう少し自分が理解できるように話してほしいというときは、上のリンク先にある「現代イタリア語で使われる語彙の86%を占める基本語彙2000語」をできるだけ使い、



最初のうちは、可能であればできるだけ、長くイタリアに暮らしている外国人でも習得が難しい条件法や接続法を使うことは避けてもらうようにすると、理解がしやすくなり、また学びやすくもなると思います。

 また、イタリア語を学習する日本の方も、「まったくイタリア語を勉強することなしにイタリアに暮らし始めた移民の多くが、最初のうちは、現在の話をする場合に、主語が誰であろうと動詞の語形変化はさせずに、同じ語形を使いがちである」という研究結果を知れば、もう少し肩の力を抜いて、勉強に臨むことができるのではないかと思います。上のリンク先の記事に詳細を記した、イタリア語の自然な習得順序を研究するための調査の対象となった移民の中には、イタリア語同様に、主語によって動詞の語形が変化するロマンス諸言語圏出身の人、つまりフランス語やスペイン語、ポルトガル語などを母語とする人も含まれているのです。

 それに引き換え、日本語では、話し相手や話す状況といった場によって用いる動詞や表現こそ違ってくるものの、主語が一人称単数の「わたし」であろうと、二人称複数の「あなたたち」であろうと、三人称単数の「彼」や「彼女」であろうと、「行きます」という同じ動詞形で済んでしまいます。さらに、日本語には、名詞に性も数もなく、つまり男性名詞・女性名詞の区別も、単数形・複数形もなく、冠詞が存在しないのですから、そういった名詞のカテゴリーも冠詞も存在するイタリア語を勉強するのが、日本語を母語とする人にとって難しいのは、当たり前です。

 というわけで、日本語とイタリア語に限ったわけではありませんが、お互いの言葉がより学びやすいように、ぜひ身につけてほしいという人がいる場合には、そして、自分が学びたい言語があるという場合には、まずはよく使われる重要な語彙や、習得が易しい文法表現・時制、そういうものも意識することが、大いに大切になります。

 この数日は仕事で突貫作業をすることが多いのですが、その間はしばしば、特に記事前半の三つのリンク先のページを、手持ちの本と共に参照しています。けれども、パソコン画面にたくさん窓を開きすぎて、画面上のどこかにあるはずの参照すべきページが見つからず、困ることもよくあります。そこで、こうして記事にしておけば、どなたかのお役に立つかもしれないし、自分が今後必要な参照ページを見つけるのも楽になるだろうと考えて、この記事を書いてみました。

Articolo scritto da Naoko Ishii

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ブログテーマ:9月3日は口コミの日
Commented by cut-grass93 at 2022-09-14 09:07
今日は高度な内容のブログで難解でした。
日本語を教えていらっしゃるご苦労がにじみ出ていますね。
ホント日本語って難しいようですが
可なりいい加減な言葉だと思います。
主語が省略されることが多くて
「いちいち説明しなくてもわかるだろう」
という前提で話しかけますからね。
付着語という観念がないヨーロッパではかなりいい加減な言語なのでしょうね。
Commented by koito_hari616 at 2022-09-14 19:59
こんばんは

言葉って難しいですね
同じ国に住んでいる者同士でも理解に苦しむような言葉が
近頃は変化してきていますから。。
ましてや異国の言語は基礎をちゃんとわかってお勉強しないと変になってしまいます
イタリア好きの息子が中学生時代に言われたことが有ります
ガブリエーラとガブリエルは同じ意味やねん
女の子か男の子かの違いやねん。。
その程度ですが(笑)日本にはそのような事はないですものね
違ったかもですね。。
naokoさん、良い先生ですね♪
私もnaokoさんから学びたいです~!

Commented by katananke05 at 2022-09-15 14:06 x
わたしも アメリカにいたときに
ご主人はアメリカ人だけど
京都出身の奥様
10年アメリカに住んでるのに
「I go to supermarket yesterday] なる英語を喋る方がいて
でも 意味はわかるから
それでもいいのだなあ〜  と
変な合点はしましたが、、

まあ わたしはそれでも できるだけ 正しい英語
その上で 美しい英語 意味がしっかり伝わる英語をはなしたくて
いまにいたり 英語をまなんでるのですが、、
日常によく使う会話を 単語個別の習い方でなく 状況に応じた
センテンスで覚えると 使いやすいですよね〜
Commented by milletti_naoko at 2022-09-15 18:43
草刈真っ青さん、読みづらいにも関わらず、目を通してくださって、ありがとうございます♪

文脈に依存することが多い、独特の性質を持つ言葉ですよね、日本語は。それぞれの言語にそれぞれの特質があって、おもしろいです。

それがこちらでは、そう言えばかつて、日本語で「てにをは」を名詞の後につけるのは、ラテン語の格に似ていると言う言語学の先生にお会いしたこともあるんですよ。
Commented by milletti_naoko at 2022-09-15 20:12
結うさんの息子さんは、中学の頃イタリアがお好きだった、あるいは中学の頃からイタリアがお好きなんですね!

男性か女性かという話ではありませんが、そう言えば、イタリアでは新英国王の名前が皇太子の頃から、テレビでも新聞でもカルロと言っているのも、おもしろいなあと思います。カルラは女の子、カルロは男の子です。

温かいお言葉をありがとうございます♪
Commented by milletti_naoko at 2022-09-15 20:13
katananke05さん、そう言えば、私立のイタリア語学校に通っていた頃、まだ現在形だけを習っていたアメリカからの留学生が、過去の話をするときは指先で前を、未来の話なら指先で後ろを指しながら話すねと言っていましたっけ。「この言語は、今習得できているこのレベルまでで十分だ」と、自分で表層では意識しなくても、どこかで心が思ってしまうと、いくら長くその土地に住んで、どんなにその言語に接してもその言葉の力が伸びていかなくなることは、残念ながらありがちで、外国語教育・学習の分野では、それを「化石化」と呼びます。
・イタリア語の化石化 https://cuoreverde.exblog.jp/17419377/

今もずっと英語を学ばれているとは、すばらしいですね。
by milletti_naoko | 2022-09-14 02:27 | Insegnare Giapponese | Comments(6)