人なつこいフィリクーディ島の宿の猫

　フィリクーディ島の宿の部屋のベランダには、時々かわいらしい黒猫がやって来ました。

　海が見える見晴らしのいいベランダで、わたしたちがくつろいでいたら、どこからともなく猫がやって来て、こんなふうに床の隅、

あるいはベンチの上にちょこんと座って、しばらくの間いっしょに過ごしてくれました。

　写真を見返してみると、フィリクーディ島滞在中、この猫の写真を初めて撮ったのは、宿の部屋に初めて通してもらって、ベランダからのこのすばらしい眺めに感嘆したときではなく、

ベランダの隅でくつろいでいた猫が、わたしたちが昼食から帰って来たのを見て、慌てて動き始めたのを見たときです。
　ただし、初めてこの猫を見たとき、夫が撮影しようとしたら猫が気づいて逃げ去ってしまったのを覚えているので、このとき以前にもすでに猫を目にしていたかもしれません。

　わたしたちが椅子に座って、テーブルの上で何か書いたりしているときも、こんなふうにそばに来て、ちょこんと陣取り、すっかりくつろいでいました。
　わたしたちが部屋に入ると、入り口のすぐ近くまではついて来るのですが、

中には入らずに、こうして入り口でちゃんと待っている様子を見て、賢いなあと感心しました。

　わたしたちが宿で迎えた初めての朝、朝日が雲の間から出てくるのを待っていたら、この猫もこうしていっしょに東の方を見つめていたことはすでにこちらの記事でお話ししたのですが、

その翌朝、つまりフィリクーディ島を去って出発する日の朝も、やはり、雲の多い空の間から朝日が現れるのをベランダで待っていたら、

その間、猫がお供をしてくれました。

　わたしたちの部屋は最上階、３階にあったので、２階のテラスも下方に見えました。夫によると、この猫が他の客にもなついて、なでてもらっているのが見えたそうです。
　宿にいて人の気配がすればそちらの方に行って、しばらくいっしょに過ごし、猫なりに客をもてなしているのでしょうか、それとも、人といっしょに過ごすのが好きなのでしょうか。

　そんなふうに、滞在中よく見かけたかわいらしいこの黒猫なのですが、滞在２日目に、午後７時過ぎに散歩から戻り、たそがれ始めた空に昇る月がきれいだなあと眺めていたら、

廊下の隅の方に猫がいたのですが、

実は猫は１匹ではなく２匹だったのを見て、驚きました。

　このときは、２匹が仲よくじゃれあったり、追いかけあったりして遊んでいたのですが、けれども、夕食にピザを食べに出かけて帰ると、宿で見かけたのは黒猫１匹だけで（記事はこちら）、その後はずっとわたしたちの元には１匹の猫だけが遊びに来ていました。
　というわけで、宿の人なつこいもてなし猫はおそらく２匹いたのでしょうが、月夜に分身したのではないか、そんなふうにさえ感じられました。ふだんは階ごとに、それぞれの猫が客のもてなしを分担していたのでしょうか。

Articolo scritto da Naoko Ishii

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